第二十三話 襲撃
今日は10月30日、
俺はいつものようにマルコス様邸の打ち合わせと、商人アルバの所で日雇い計画の打ち合わせ。
そしていよいよ貧民街からの日雇い募集に動いている。
1週間後にはとうとうマルコス様邸の解体が始まる。
ここまで来たかと言う思いと、
姿を表さないウラに不気味さを感じていた。
「では、1週間後から解体に入ります。何かありましたら、お知らせください」
「はい、サクラ殿、よろしくお願いします。」
俺はいつものようにマルコス子爵に挨拶をして屋敷を出た。
「いよいよ来週からだなぁ」
「どんな家ができるか楽しみなの」
『なぜ人は寝床に拘るのか、良く理解できん。何度も何度もころころ変更しおって』
「まぁそんなもんだよ、高いお金払って建てるんだから、後悔したくないだろ」
「ベルは大ちゃんと住めるならどんな所でもいーの」
「ベルたん可愛いねぇ。ルースだって、藁の上で寝るよりふかふかベッドで寝た方が良いだろ?」
「へへへ」
『それとこれとは別だ。注文がいちいちめんどくさい』
「お前はどうせ見てるだけで、造るのは俺なんだから良いだろ」
「ベルは手伝うの」
『いや、聞いててめんどくさいぞ』
「そう言わないの」
俺達はいつものように会話しながら宿屋に向かった。
「ベル、今何時くらい?」
「んーと、4時40分くらいかな」
ベルはなんとなく感覚で時刻がわかる。
1〜5分程度の誤差はあるが、
問題ないレベルだ。
まだ俺と出会う前、
よく時計塔の辺りに行って時計を眺めてたらしい。
ある時、時計塔のメンテナンスか何かで、時計塔の中が見える時があって、
その時に中の機械などを見たんだそうだ。
そしたら、それからなんとなく時刻が分かるようになってたそうだ。
マミちゃんにそれを話したら、
恐らくベルの『見える』能力の働きがあるのでは?と言っていた。
まぁそれしか考えられないよな。
ベルにはとても助けられている。
「そうか、ありがとうベル。帰ったら中庭に直行ね」
「うん、また組手するの?」
「そうだな」
この間ルースと組手をしてから、
ベルとも組手をするようになった。
最初は軽く始めたのが、
ベルはどんどん吸収して覚えていった。
『見る』事で覚えるのもあったが、
もともとのセンスもあったと思う。
みるみる成長していくベルを見るのが楽しくて、俺もついロリロリ、いや、ノリノリで教えてしまった。
そのおかげか、通常は半年以上かかる過程を、
なんとベルは1週間ほどで覚えてしまったのだ。
たぶん、もう一般の大人が襲いかかって来ても、ベルに投げ飛ばされるだけだろう。
末恐ろしいやら、嬉しいやら。
俺は俺で、
猫髭娘ルースとの組手やスパーリングもしていた。
試しに、『魔筋増強マジックドーピング』を発動させてもみたが、
ルースには通用しなかった。
ルースったら、底が知れない。
ルースからしてみれば、
俺の体内魔力操作も侮れないらしい。
元々魔力量の多い俺は、
強化したい部位にふんだんに魔力を使える事の他に、
その操作も他に見た事ないぐらいに長けているそうだ。
『お主は器用だにゃ』
と言うルース。
そりゃぁ大工だしな、器用じゃなければ務まらない。
しかし『魔視力マジカルアイ』を発動しながら、『魔筋増強マジックドーピング』を駆使し続けるというのは並大抵ではないらしい。
へぇ〜って感じ。
たぶんまだ同時進行で何かできる余裕あるんだがね。
それに『地獄耳ヘルイヤー』が使えるベルだって、かなり体内魔力操作はできる筈だ。
何せ俺と一緒に魔石修行を終わらせているし、こないだ預かった大きな魔石もあっという間に充填していたしな。
もしかしたら俺より体内魔力操作は上手く出来てるかもしれないほどだ。
最近じゃ『魔視力マジカルアイ』を『見せた』からそれも習得してるはず。
実年齢53歳の俺よりも、10歳のベルの方が可能性を秘めてるだろう。
『魔法戦士格闘美少女ベル』とか、
将来が楽しみで仕方ない。
魔法少女剣士ってのもアリだな。
この世界に日本刀ってあるのかな?
今度アルバにでも聞いてみよう。
と、いろいろ妄想してた俺に念話が来る。
『ダイサク、敵意が近付いてくるぞ』
なぬ?!
敵意だと?!
ルースと契約をしてから初めてだ。
これが守護というものなのだな。
と、感心してる場合じゃないな。
とうとう来たか、
というより、やっと来たかって感じか。
『怖い人来るの?』
ベルは不安気だ。
『ベル、俺とルースがいるから、なんにも怖がる事ないよ。それに今はベルだって、男の大人より強くなってるんだよ、だから平気さ。』
俺は出来るだけ不安を取り除くように言った。
うん、と少し微笑んで頷いたベルだが、やっぱり不安気だ。
そりゃぁそうだ。まだ10歳の女の子なんだから。
『ルース、人数とかどの辺に居るとか分かるか?』
『前方に2人、後方に3人だ』
ふむ、流石はルースだ。
さて、問題は前と後ろ、どちらにウラがいるかだな。
たぶん前方だよな。
俺なら目の前に突然現れて驚き怯える顔を見たいからな。
『ルース、後ろを頼む』
『分かった』
ルースはベルの肩から俺の頭に乗ると、
俺の魔力を吸収した。
もちろん猫髭娘に変わる為だ。
最初に変身した時と違って、
今ではどれくらいの魔力量を吸えば、
どれほどの時間猫髭娘でいられるか、
大体分かるようになっている。
適量を吸い取り終わったルースは、
後方の敵に向かって走って行った。
俺とベルは普段通り、
いつもの道を歩いてく。
横道の無い一本道を進んでいくと、
前方に現れる人影。
見覚えのある下品な顔の奴と、
もう1人、落ち着いた佇まいだが、
目つきの鋭い男が俺達の前に立ち塞がった。
「久しぶりだなぁにぃちゃん。こないだの借りを返しに来たぜぇ」
「人違いしてませんか?どちらさまですか?」
俺はベルを庇いつつ、わざとらしく答える。
「とぼけてんじゃねぇよ。今日はこないだみたいにはいかねぇぞ」
「なぁなんか臭くないか?」
「ああ?!」
「なんか急にドブ川みたいな匂いがするんだが、あんた分からないか?」
俺はわざとウラを無視して隣りに立つ男に話しかける。
男は無言だ。
「あぁそうだよなぁ、臭くて口もききたくないよなぁ、誰かが喋ると途端にドブくせぇんだ。」
「てめぇ何を言ってやがる」
「うっわ、くっせー」
俺はわざとらしく、
ウラが喋った後に、
鼻を摘んで、汚い物を見る目で奴を見てやった。
ざまぁ
ウラの顔はみるみる怒りで赤くなっていく。
『ベル、練習した通りで大丈夫だからね。俺も付いてるよ』
俺は念話で出来るだけベルを安心させるように伝える。
『うん…分かった』
良い子だ。
「て、てめぇ、今日こそぶっ殺してやるぅ!!やっちまって下せぇ!!」
ウラがそう言うと同時にウラの隣りに居た男は無言で俺に突進してくる。
そしてベルも動く。
ベルは俺と距離を取ってこちらを『見る』。
『魔視力マジカルアイ』を発動させてるようだ。
それを踏まえて俺はバックステップで男の動きに合わせて間合いをはかる。
男の動きはそれなりに速かったが、
ルースに比べたら鈍亀もいい所だ。
なんだ警戒する必要も無かった。
男は無言のまま、俺に左拳で突きを放って来た。
俺は相手の左側に半歩ずれて、
手首を掴みそのまま引っ張ってやった。
ついでに軽く足払い。
いとも簡単に男は前に転ぶ。
何が起こったのか分からないと言う顔で俺を見上げている。
無言でクールに決めてたぶん滑稽で笑える。
ウラと言えば、ベルに向かって行ったが、
無口男と同じ運命を辿っていた。
むしろ受け身が取れずに、
顔面から地面に転んだので、
無口男より酷い。
あまりにも呆気なく技が決まって、
技をかけたベルの方がびっくりしている。
「えっと、あの、大丈夫ですか?」
あー、ベルちゃんや、
それ火に油。
「お、俺様がこんなガキに、な、何しやがったこのガキ!ぶっ殺してやる!」
「何したと言われても、仕掛けてきたのはそっちでしょ」
俺は呆れたように言いながらベルとウラの間に割って入る。
「な?!え??」
ウラは俺が目の前に現れたのが意外だったのか、驚いてクール気取りの無口男を見る。
俺は既に当身で倒していた。
そしてウラは俺達が歩いて来た方向に振り返る。
「あいつら、何で来ねぇんだ」
ウラは少し焦ってるようだ。
「あいつらがどうしたって?あ?」
「くっ、てめぇー覚えてろ!!」
そういうとウラは走って逃げて行った。
いつも思うんだが、
いったい何を覚えてれば良いんだろうか。
あ、向こうから猫髭娘のルースが来た。
ウラがルースに「どけー!」っと怒鳴ってる。
あ、ルースに引っ掻かれてる。
馬鹿な奴。
クール男だけでも確保しとくか。
クール男は間抜け顔で絶賛気絶中だ。
「ベル良く出来たな!偉いぞ、もう怖くないだろ?」
俺は、ベルと組手をしてる時は、
ベルが捕まえられる事を想定した組み手をしていた。
攫うのが目的ならば、まずは掴みかかってくるだろう。
ましてや10歳の女の子相手に、
自分が投げ飛ばされる事はまず考えない。
少なからず実力がある者ならば尚更だ。
しかし、そこが盲点であり、相手の油断だ。
ベルには掴みかかってくる相手を軽く投げられる技術を教え込んだという訳だ。
「うん、なんか簡単過ぎてベルがびっくりしちゃった」
相手が愚かであればある程、
簡単に罠に引っかかるものだ。
その為の挑発でもあるしね。
「まぁ今回は簡単だったけど、次は相手も警戒するだろうから、こんなに簡単にはいかなくなると思った方が良い。でも、ベルなら大丈夫だからね。ベルは強くなったよ」
「うん、ありがとう」
うん、ほんとにベルは可愛くて良い娘だなぁ。
俺はベルの頭を撫でてやる。
ベルは少し頬を染めて、嬉しそうにしていた。
と、そこへ猫髭娘のルースが合流してくる。
「おい、あいつは見逃して良かったんだよにゃ?」
「あぁ、それがマミちゃんの指示だからね。とりあえずこいつはマミちゃんの所に連れてこう。3人組だっけか、どうなった?」
「向こうでにょびてるぞ。まったく手応えにょ無い、つまらん連中だったぞ」
「まぁそうだろうな、さて、運んで行くか」
俺は収納魔法から荷車とロープを出して、
気絶している4人を縛って荷車に乗せ、
人目に付かないように布を被せ、
マミちゃんの所に運んだ。
これもマミちゃんの指示だ。
直接 衛兵詰所に運んだ方が良いのでは?
と聞いたら、いろいろと聞きたい事もあるからまずは連れてこいと言われた。
聞いた後に衛兵に突き出すそうだ。
流石情報屋だ、聞ける時に聞ける所から聞くと言う事らしい。
マミちゃんの所に着くと、
シンクロ4人組もいて、
あれよあれよという間に、
縛った4人を雑貨屋の奥に連れて行ってしまった。
俺、そういえば店の奥には行った事ないなぁ。
何があるんだろうか。
「ベルちゃんお手柄だったねぇ、偉い偉い」
マミちゃんにベルの活躍を報告したらベルを褒めちぎっていた。
「しかしダイサクよ、あまりベルちゃんを危険に晒すでないぞ」
「あぁ、そのつもりだよ。今回はベルに自信を付けさせるのが目的と、怯える事はないって分かってもらう為だったんだ。」
「ふん、それでもあたしゃ反対だよ。ベルちゃんに何かあってからじゃ遅いからの」
「うん、肝に命じとくよ、俺も後悔はしたくないしね」
「分かってるならいい。じゃぁ後の事はやっとくから、お前達はもぅ行きな」
「分かった、よろしくお願いします。」
「じゃぁねお婆ちゃん」
俺とベルはマミちゃんに挨拶して、
仔猫姿に戻ったルースを肩に乗せて帰路に付いた。
初めて襲撃された訳だけど、
実に呆気なく終わった。
もっと強い手練れが来ると思ってたけど、
肩透かしだったしな。
まぁ今回はマミちゃんの言う通り、
ウラが独断で動いていたようだ。
そのうち黒幕のバンジス子爵が動くかもしれない。
そう思うと一抹の不安はあるが、
今は考えないようにしよう。
ここはマミちゃんを信じていくしかない。
【読者の皆さま】
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白村
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