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トンネルを抜けたら異世界だった  作者: 白村
第一部 ギオールの街編
22/87

第二十二話 組み手

10月20日


マミちゃんと話をしてから1週間経った。


敵さんに動きは無い。

いや、動いてるのかもしれないげど、

まだこちらに接触は無い。


俺はと言えば、マルコス邸の準備を進行している。

何度となく打ち合わせをして、

やっと間取りが決まり、

マルコス子爵一家の仮住まいへの引越しの日程も決まった。


来月からいよいよ着工だ。


日雇いの計画も進んでいる。

貧民街のみなさんにも毎月恒例の炊き出しで、来月からよろしくと伝えてある。


全て順調だ。


バンジス子爵とウラの邪魔が入らなければもっと良かったが、トラブってしまったし、

遅かれ早かれバンジス子爵とは事を構えているだろう。

なにせ貧民街の人達に仕事を与えて、彼等が豊かになれば、子売りする事はなくなる。

子売りが無くなるという事は、

奴らの収入源が減るし、

変態欲求の捌け口も無くなる。


そうなると貧民街を豊かにした原因の俺に、バンジスの矛先が向くのは間違いないだろう。


1週間前のマミちゃんの話で、

バンジスが貧民街を食い物にしていると知った俺は、日雇いの計画をマミちゃんに話した。いずれにせよ、バンジスが敵になるだろうと思ったからだ。


俺のこの話を聞いた時のマミちゃん、何故か嬉しそうだった。


とりあえずマミちゃんの話では、

ウラは間違いなく報復してくるだろうとの事だ。でもすぐにバンジスが自ら動いて俺達をどうこうする事は無いとの事。

理由を聞くと、

ウラ程の悪党なら、変にプライドが高いから、

まずは自分の手で俺をやっつけようとするだろう。

更に子供を買い付けに行って返り討ちに会いましたなどと、ボスに報告はできないだろうとの事だ。


確かに、言われてみるとそうだと納得した。


とりあえずウラを相手にするなら、

圧倒的な力は示さずに、

ギリギリで追い払うように演技しろと言われた。

そうすればウラは自分でなんとかしようと躍起になるはずだと、マミちゃんから指示された。


ボスが出るまでもねー、俺にやらせてくれ!

って感じかね。


当面はそれで、ボスが動くまで時間稼ぎして、こちらは準備を進めるとマミちゃんは言ってくれた。


とりあえずマミちゃんの指示に従って行動する事にした。

俺自身、マルコス様邸の事や日雇い計画で忙しいのと、実際にどうやって行動すれば良いのか判断ができないからだ。

それに、マミちゃんの言う通りに行動するのが一番正しい気がする。


俺は、空いた時間を利用して、

できる事はやっている。


まずは俺が名付けた、『マジックドーピング』だ。


体内の魔力操作で耳にちょいと魔力を注ぐと、地獄耳になる。俺は名付けて『ヘルイヤー』と呼んでいるが、

こんな風に身体能力が上げられるなら、

力も強くできるんじゃね?


と思ったのがキッカケ。


最初は、力が増して重い物が運べれば良いと思っていた。

一応、俺大工だし、肉体労働者だし、材木運びとか、力が要る時に重宝するだろうと思ったのだ。

イメージと魔力操作を組み合わせて試した結果、


力が増した。


そして何度も反復練習していくうちにかなりの力が出せるようになった。

ただし、その後の筋肉痛がヤバかった。

笑えるくらい痛くて動けなかった。

ベルにツンツンされて遊ばれたりしたもんだ。

その時のベルの悪戯な顔がちょー可愛いかった。

ずっと遊んでいたかったが、


まぁ、それは置いといて。


それを後日マミちゃんに話したら、

実際に身体強化魔法と言う物があると教えてもらった。

でもそれは筋肉痛を起こす事はないらしい。

不思議がるマミちゃんに実践して見せたところ、身体強化魔法とはちょっと違うようだと言われた。

普通は詠唱して魔法を発動して強化するけど、俺はイメージと魔力操作だけで直接自分の肉体に効果を与えている。

その結果、通常の強化魔法ではあり得ないくらい強化されているらしい。


良いのか悪いのか判らんけど、

強化し過ぎなければ問題ないので、

このまま練習する事にした。


そして、ふと思った、

これって武術に応用できないか?と。


早速、俺は空手の型で試してみた。


効果は抜群だった。


これは魔力を使った筋肉増強だな。

名付けて『魔力の増強剤マジックドーピング』だ。


と言う訳で、俺はマジックドーピングを更に強化しようと訓練している。


ベルはそんな俺をいつも黙って見ている。

たまにルースと戯れてたりするが、

基本的にルースはいつもベルの横で寝ている。


「なぁベル、退屈じゃないか?」


「んーん、大ちゃん見てると楽しいの。なんか変な踊りなの」


「踊り…」


俺は苦笑するが、ふと思い付く。


「ベル、よく『見て』て」


「あ、うん」


「これは合気道と言って、ベルにもできる武術だ」


俺はそう言いながら、

合気道の型をベルに見せた。


「どうだ?」


「うん、覚えた」


さすが『見習い』だ。

一回『見た』だけで覚えるとは恐れ入る。


『武術とは何だ?』


不意に念話が届く。

寝てたと思っていたルースが、

いつのまにか起きてこちらを見ていた。


『体術のようなものか?』


「あぁそうだ、体術だな。」


『お主がいつもやっているのは、体術に似た踊りかと思っていた。何か意味があるのか?』


「ベル、今覚えたのやってみて」


「うん」


ベルは合気道の型を始めた。


「これは合気道と言う体術の型だよ。この動きを身体に覚え込ませて、実践に活用するんだ」


ベルの動きを目で追いながら説明した。

ベルの動きは間違ってはいないが、まだまだキレが足りない。

まぁ武術の為の筋肉も無いし、初めてだから仕方ない。これからだ。


『型か、面白いな。これはお主のいつもの型とは違うようだな』


へぇ空手と合気道の違いがわかったのか。

いつも寝てるクセによくみてるなぁ。


「俺がいつもやってるのは空手と言う体術だからさ」


『何か違うのか?』


「んー、簡単に言うと、空手は攻撃に特化してるけど、合気道は攻撃を受け流すのに特化してる。合気道には先手での攻撃手段は無いんだよ」


『ぬるい体術だな』


「そうでもないよ。受け流す武術では、俺は合気道が最強だと思ってる。」


よくテレビの番組で合気道の達人が弟子達を投げ飛ばす様子を流してたりするが、

最初はあれを見て合気道とは随分胡散臭い武術だと思った。

だって弟子達はどう見ても自分から投げられてるようにしか見えないからだ。


実際ほんとに自分から飛んで投げられている。


でも、それには理由がある。

自ら投げられないと、怪我をするからだ。

飛んで投げられると言う表現より、

最初から受け身をしていると言った方が正しいだろうか。


実際素人があんな風に投げられたら、

腕を折るに違いない。


投げられる側もある程度のレベルが無いと怪我をする危険な武術なのだ。


しかし、合気道には、先手必勝の攻撃技が無い。


そう、合気道とは襲ってくる相手を無力化する武術だ。

相手を殺す事はできない。


ふと、昨日のマミちゃんの言葉を思い出す。


『人を殺す覚悟はあるか?』


日本ではもちろん、元いた世界では人殺しは罪だ。

人は殺してはいけないと言われ育つ。

それどころか命を大切にしろと教わる。

殴るのだって罪だし、

殴られたからといって、

相手をぶちのめしたりするのも、

過剰防衛となり罪となる。


殺しはどうだ?

相手にだって家族がある。

小さな子供だっているかも知れない。


ウラみたいな悪党は死ねば良いと思う。

でも俺が自分で手を下す事を、俺は考えただろうか?

いや、考えてない。

自ら手を下す事を考えずに、

死ねば良いと思っていた。

ズルくないか?


では、俺がウラを殺そうとしたとしよう。


ウラに家族がいたらどうだ?

ウラの家族は普通に善人で、

小さな子供もいたとしたら?


俺は間違いなく殺す事に躊躇するだろう。


でも、もし俺が躊躇したせいでベルが攫われたら、やはり俺は間違いなく後悔するだろう。『殺さなかった』事に、『死ぬほど』後悔するだろう。


そんな後悔はしたくない。

ベルに被害が及ぶくらいなら、

敵は殺す。

殺してやる。


『おい!』


「あ、あぁ何だ?!」


『何だでは無い、何度も話しかけてるのに、ぼうっとしおって』


「大ちゃん大丈夫?」


「あぁすまない、ちょっと考え事してた、で?何だっけ?」


『合気道とやらの話だ。最強と言ったな?』


「なんか大ちゃん凄い難しい顔してたよ」


人殺しが出来るかどうか考えてたなんて言えない。


「うん、大丈夫だ、ごめんな。合気道はちょっと他の武術とは違っててな、受けて初めて威力を発揮するんだ。ベルはまだ子供で非力だけど、そんなベルでも強い相手を倒す事が出来るぞ。柔よく剛を制すと言うんだ」


まぁそれは柔道の言葉だけどね。


「へぇ」


ベルの顔がちょっとキラキラしてる。


『そんな物があるものか、強い者が弱い者を制すのだ』


「そう思ってるルースはカモだな、ははは」


『ならば試してみるか?』


「どうやって試すんだよ?武術で仔猫の相手は出来ないぞ」


『ふん、こうするんだ、ちょっと魔力を貰うぞ』


そう言うとルースは俺の肩に乗った。


『魔力吸収マジカルドレイン』


おわっ、魔力が持ってかれる。


『こんなところか』


そう言うとルースは肩から降りた。

魔力を持ってかれて驚いたが、

ほんの少し吸われただけのようだ。


「それで?魔力吸収してどうするんだ?」


『まぁまて、オー ター トラン ヴァン 人族へ』


詠唱か?ルースも魔法が使えるのか。

まぁ魔力持ちだ、使えて不思議ではない。

というか念話で詠唱も有効なのか?!


と、思ってるうちにルースの身体が光り出した。身体全体が光り、その光りはどんどん大きくなった。


驚いて見ていると、光りは人の形になり、光りが収まっていく。


そこには黒髪、黒装束の美少女が立っていた。

やや釣り上がった目、

金色の瞳、瞳孔は縦長で猫の瞳だ。

長いまつ毛に小さな鼻。


全体的にしなやかな印象を与えるその姿は、

実に美しかった。


人と違うのは、黒い尻尾に獣の耳が頭にあった。

獣族か?確か詠唱では、『人族へ』と言ってたと思うのだが。


しかし、猫耳までは良い。

可愛いと思う。

美少女だとも思う。

普通なら萌える。


でも、そのドラえもんみたいな髭はどうかと思うんだけど。


「ルース凄い!ベルよりおっきくなった!ルース女の子だったんだね!」


『ふん、どうだ』


猫髭美少女はドヤ顔してるが、

正直微妙だわ。


「あー、聞こえるか?こにょ姿にゃら普通に喋れるにょを忘れてたわ」


「おお、声が可愛くなったけど、それ普通に喋ってると言えるのか?。」


「にゃにか変か?」


気付いてないのか?

なにぬねのって言わせてみようかな。


「とりあえず、『にゃぁ』って言ってみてくれ」


「にゃあ、ってにゃにを言わせるにょだ!」


「あははは!ルース可愛いよ」


「ふんっダイサク、始めるぞ」


「あ、そうか、これで組手ができるのか、それはありがたいな、ちゃんと修行出来るってもんだ、ベル、離れた所からちゃんと見ててね」


「あ、うん、わかった!」


てててて、と小走りに離れるベル。

何しても可愛いな。


「では行くぞ、ダイサク、最強とやらを見せてみろ」


「ちょーーーーっと待て、お前もの凄く強い幻獣なんだろ?ちゃんと俺のレベルに合わせてくれよな」


「ふん、お前たちは貧弱にゃ人族だ。心得ているにゃ。行くぞ!」


ルースはそう言うと、

一気に俺との距離を詰めてきて、右ストレートを放ってくる。


速い!


しかし、俺もそれは想定していた。

既に目に魔力を流して動体視力を強化していた。

名付けて、『魔視力マジカルアイ』


俺はスイっと半身ずれて、

ルースの腕を掴み、

そのままルースの勢いを使って投げ飛ばす。


ルースはそのまま地面に激突、するかと思ったが、身を翻して四つん這いで地面に着地する。

さすが猫。

あれでちゃんと着地するとは器用なもんだ。


更にルースはそのままの低い姿勢で突っ込んで来る。

間合いの手間で地面に両手を付いて右脚の蹴りが俺の脛を狙ってくる。

突進してきた勢いがそのまま右脚に乗った重い蹴りだ。

俺はそれを軽く飛んで躱す。

ルースの蹴りは空振りになるが、

地面に付いた両手で身体をジャンプさせ、

空振りの勢いをそのまま利用して回し蹴りに転じてきた。


どんだけ柔軟な身体だよ!


俺は間合いを開けずにハイキックを潜り抜け、ルースが一瞬見せた背中を見逃さなかった。

首に右腕を回し、右手で左肘のやや先を掴み、テコの原理でルースの首を締め上げる。


「ぐっ がばっ」


しかしルースはここで終わらない。


両手で俺の右腕を首から引き剥がそうとする。俺は剥がされまいと更に腕に力を入れた。

それがミスだった。

力を入れた為にルースの頭より少し俺の頭が高い位置に来た。

それがルースの狙いだったようだ。


ルースは身体を丸めて自分の肩越しに膝蹴りを放つ。


いや、まじでアンタどんだけ柔らかいの?!


とっさに首を離して距離を取り、俺とルースは対峙する形になった。


「ふふふ、にゃかにゃかやるではにゃいか、面白くにゃってきた」


「ちょちょ、ちょいと待った!」


「にゃんだ?もぅ終わりか?つまらんぞ」


ぶーたれて抗議してくるルースに言う。


「あのなぁルース、お前のその体術は合気道と相性悪いんだよ。」


「なんだ、その合気道は最強にゃんだろ?」


「つーか、お前の軟体は反則だっつーの。普通の人族はそんなに柔らかくない、さっきの首締めで終わってたよ。いや、まて、最初に投げた時点で終わってたね。お前が強すぎるんだよ」


「ふむ、確かにそうかもにゃ。最初に投げられた時はまるで手応えもにゃく、いつにょまにか飛ばされていたにゃ、そうかこれが合気道という物か」


「ちなみにどんだけ手加減した?」


「ん?久しぶりにこにょ姿ににゃったからにゃ。準備運動にもにゃってにゃいぞ。」


とんでも無い奴だ。

正直ルースの戦力を舐めてた。

だって、普段仔猫だぜ?

今だって見た目は獣族だが、

ドラえもんの髭生えてる残念美少女だ。

そんなのがこんなに強いとは驚きだ。


あの髭切ったらバランス感覚鈍るのかな?

試してみたい。


おっと、ベルに見てろと言ったんだが、

お手本になってるのか?


「ベル、見えてたか?」


「見えてたけど、あっとゆうまだったよ」


ベルにも『魔視力マジカルアイ』を教えておこう。

『見える』能力に『魔視力マジカルアイ』は相性良さそうだ。


「む、時間切れか?早いにゃ。ちょっと魔力が少にゃかったか。また遊ぼう」


ん?とルースを見ると、

黒いもやもやが身体から湧き出して、

いつもの仔猫に戻ってしまった。


「にゃん」


あとで聞いたら、

俺から吸い出した魔力で変身してたそうだ。

もっと魔力がたくさんあれば長い間あの姿でいられるらしい。

自分の魔力は使えないのか聞くと、

腹が減るから自分のは使いたくないんだと。


あらそ。


いつも魔力を食わしてるじゃねぇか。


ベルには型をいくつか『見て』貰って、今日の稽古は終わりだ。

【読者の皆さま】


いつも読んでいただきありがとうございます。



小心者の私に、


↓ の★★★★★を押して勇気を下さい。


よろしくお願いします!




白村しらむら


↓ 作品一覧はこちら ↓

https://mypage.syosetu.com/1555046/


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