第十三話 炊き出し
朝目が覚める。
いつもの朝。
いつものベル。
俺に抱きついて眠るベルは愛おしい。
さて、今日は炊き出しの日。
どんな1日になるか。
貧民街に行くので、
少なくともベルに負担がかかるだろう。
少し心配だ。
おっと、実は昨日、商店街で食材を揃えてる時に、ベルにプレゼントを用意した。鞄に入れてあるのだ。
気に入ってもらえると良いな。
「ふんふふんふふん♪」
ベルが喜んでるところを想像して自然に鼻歌がでる。
「ご主人さまぁ、ごきげんだねぇ、ふふふ」
あ、起こしちゃったか。
「おはようベル」
「おはよう」
二人してのそのそとベッドから出て身支度を始める。
「なぁベル、今日はその、なんだ、貧民街にさ、いくだろ」
「うん、大丈夫だよ、ご主人さまが居れば平気」
俺が言わんとする事を察して先に言われてしまった。
なんて良い子なんだ。
ちょっと泣きそうになった。
「解った、辛かったら言ってね」
「うん!」
ベルは元気に返事を返すと、寝間着から外出着に着替えようとする。
「ベル、鞄開けてみて」
いつもの外出着を手に取ろうとしてたベルに声をかける。
「なんで?」
「良いから、開けて」
ベルは言われるがままに鞄を開ける。中には新しい外出着が入っている。
昨日買ったのは新しい外出着なのだ。
ベルはそれを出すと満面の笑顔を俺に向けて抱きついて来た。
「ありがとう!嬉しい!」
俺はベルを見ないように自分の着替えをする。
着替えが済んで振り向くと、
ベルが恥ずかしそうに立っていた。
おお、新しい外出着がベルにとても似合っている。
最初に選ばせた服は、少し地味目な薄茶のワンピースで、特に飾り気もなかった。
新しく俺が選んだのは、水色のワンピース。派手にならないようにワンポイントに胸の所に白い花の刺繍がある物を選んだ。腰には白のロープのように編み込まれた腰ベルト。シンプルだけど、逆にそれがベルの可愛さを引き立てている。
青にしたのは俺の魔力カラーだ。
我ながらグッジョブ。
可愛いは正義だ。
「すげー似合ってるよ!可愛い!」
「ほんと?ありがとう」
パッと明るい顔になって俺に抱きついて来る。
娘って良いなぁ。
「あと、あの、ご主人さま、これは?」
ベルが手にしてるのは、フリフリの付いたエプロンだった。
「うん、炊き出しの時に服が汚れるのを防ぐエプロンだよ。作業する時にしてみて」
「うん、ありがとう、嬉しい」
再度抱きついてくるベルの頭を撫でる。
ずっとこうしていたいが今日は忙しい。
朝食を取って早めにマミ婆さんの所に行かねばならぬ。
「さ、そろそろ行こうか」
「うん」
笑顔を向けて返事をしてくる。
多分、
あと数回それをされたら俺は萌え死ぬ。
食堂に行き、ベルは朝食、俺は朝コーヒーを済ませて雑貨屋に向かった。
雑貨屋に行くと、店の前には数人集まっていた。
「おはようございます」
俺が挨拶するとみんなが注目して来た。
「おはようございます、あんたがサクラさんかい?」
先に声を掛けてくれたのは、
恰幅の良いおばちゃんだ。
歳は20代後半くらいかな。
おばちゃんというにはちょいと早い気もするけど。
「はい、みなさんは今日の助っ人さんですか?」
「おうっそうだ!俺はアガンだ、よろしくな!」
横からアガンと名乗る青年が声を掛けてする。茶髪の短髪で笑った時の白い歯が印象的だ。
「はい、よろしくお願いします。」
「私はメーデンよ、よろしくね」
こちらは最初に声を掛けてくれたおばねぇさん。
「俺たちゃ夫婦なんだ、今日はかわいそうな子供達の為に頑張るぜ」
アガンがそう言って右腕を上げて力こぶを作るようなポーズをとる。
「俺はフラード」
「私はティノよ」
それぞれが名乗ってくれた。
男女二人ずつの計4人だ。
フラードと名乗った男性は、
身長170くらい、20歳前後で体格は普通。
黒に近い茶髪で、イケメンでは無いが、人の良さそうな顔立ちをしている。
ティノと名乗った女性は、
身長160くらい、20代後半くらい、体型は女性らしく、こちらも美人とは言えないが、可愛い部類の顔立ちをしている。
改めて俺は自己紹介をする
「初めまして、私は大工の佐倉と申します。」
「初めまして、ベルと申します。」
俺に続いてベルも挨拶する。
「きゃぁ可愛いいいー」
「おぉこりゃべっぴんさんだ」
「まるで天使ねぇ」
「こんな娘が欲しいぞ」
うんうん、そうだろうそうだろう、
うちの子超〜可愛いいもんなぁ。
「ねぇねぇ、ベルちゃんいくつなの?」
「きゅ、9歳です」
「9歳かぁ、可愛いー!柔らか〜い」
ティノと言う女性が思わずと言った感じで、
ベルを抱きしめる。
ちやほやされるベルは、
困った顔で俺を見上げて言った。
「あ、あの、ご主人さまぁ」
「「「「えっ!?」」」」
4人が同時に驚き、
俺に視線が集中する。
「「「「ご主人様?!」」」」
「まだ9歳だよねぇ」
「こんな可愛い娘を…」
「き、きき、君は、まだ9歳の、しかもこんな可愛い娘を、よ、夜の…!!」
「………」
あ、誤解されてる。
「あのそれはですね、」
「貧しい人に炊き出しして振る舞おうって凄い人がいるって聞いて、どんな良い奴かと思えば、変態かよ」
「いや、それは」
「女の子の敵、いや幼女の敵」
「いやそうじゃなくて」
「何が違うんだ、モテない奴に限って子供に手を出すんだ!」
俺がベルをおもちゃにしてると思い込んで一方的に責め立ててくる4人に向かって、ベルが叫んだ。
「違います!!ご主人さまは、凄く優しいです!」
ベルは泣きそうになってた。
怒りと悲しみが混じった顔で、
4人を睨んでいる。
こんな顔もするんだな。
「ベルちゃん、こんな奴庇わなくても良いんだよ」
「かわいそうに、そう言えって命令されてるのか」
俺はそんな声は無視して、
しゃがんでベルに視線を合わせた。
「ベル、ありがとう」
ベルは俺に抱きついて泣いてしまった
「わーん、だって、ご主人さまは、わーん、みんな大嫌い〜、わーん」
「「「「…」」」」
その様子を見てた四人は沈黙してしまった。
「やれやれ、馬鹿かお前達」
そこへマミ婆さんが声をかけてきた。
いつから見てたんだ?
「この子に名前を付けたのはこのサクラじゃ。」
「「「「えっ!」」」」
「それに見てみぃ!そのかわいらしい服を」
「「「「あ」」」」
「ただの買われっ子にこんな待遇する奴見た事あるかい?!いつも言っとるじゃろうが、良く観察して正しい判断をしろとな、そもそもわしが鬼畜野郎を気に入ると思うのかい!ベルちゃん泣かしゃーがって、この馬鹿者どもがぁ!」
マミ婆さんキャラ変わってねーか?
すげー迫力だ。
「あ、あんた、」
「す、」
「「「「すいませんした!!」」」」
全員が一斉に頭を下げてきた。
体育会系かよ!!
「べ、ベルちゃんごめんねあたし達ベルちゃん守ろうとして」
「言い訳すんのかい!!」
マミ婆さんがピシャリと言う。
そして俺に向かって
「すまないねサクラ、これでも気の良い連中なんだ、許してやっておくれ。ベルちゃん、ごめんね。良く叱っておくから、許しておくれ」
「家家、優しい人達なのは解りました。ベルの素性が解っても、ベルを守ろうとしてくれた。それだけで伝わりました。良い人達を呼んでくれてありがとうマミ婆さん。ベルも解ったかい?みんなベルの事が大好きなんだよ。ベルを心配してくれたんだ。ベルも俺の事心配してくれてありがとな」
「すん、ひっく、…うん」
ベルはほんとに物分かりの良い、良い娘だ。
よしよし、ぎゅっとしてやる。
「ベルちゃん、あんたって娘は…」
「サクラ様、あんたも良い人だ…」
「うん…」
「…すいませんでした」
今度は四人が泣いてるよ。
やれやれだぜ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
そんなこんなで俺達は貧民街へと移動する。
移動しながらこれまで度々疑問に思う事を尋ねてみる。
それはベルの名前だ。
俺は普通に意味のある名前を付けたつもりだが、その名前を付けたのは俺だと知るとみな態度が良くなる。と言うか褒めてくれたり、ベルに良かったねぇと言ってくる。
何か特別な意味でもあるのだろうか。
そんな疑問を口にすると、雰囲気が暗くなった。
あれ?変な事聞いたか?
「サクラさん、知らないのかい?」
口を開いたのはアガンだった。
「言いずらい事なんだが、買われっ子を大事にする人は珍しいんだ。大体がこき使われるか、その、なんだ、夜のさ、分かるだろ?。買われっ子ってのはほとんどがそんな風に奴隷にされちまう。だから付けられる名前もまともじゃない事が多いんだ。その、犬とか虫けらとか。」
「そんなのまだマシな方よ。言いたくないから言わないけど、それだけ貧民街の扱いは酷いのさ」
続いて話したのはメーデンだ。
苦々しい表情をしている。
俺は絶句した。なんて事だ。世界に一つしかない名前なのに、酷い話しだ。みなの雰囲気が暗くなる訳だ。
しかし同時に納得もした。
そういう背景があるから、ベルの名前を聞くとみんなが俺を良い目で見てくるんだな。
「でもさ、その貧民街の人に救いの手を差し伸べるって、俺サクラさん尊敬するよ。さっきは勘違いしちゃったけどさ」
そう言うのはアガンだ。
うんうんと四人が頷いている。
いちいちシンクロするんだよなこの四人。
「家、俺じゃなくて、ベルが貧民街を変えたいって願ってるんですよ」
俺は自分への高評価がこそばゆくて手柄をベルに振った。
「「「「!」」」」
四人が同時に俺を見て、次にベルに視線を向ける。
「「「「良いご主人様だねぇ」」」」
どんだけシンクロ率高ぇんだよ!
「はい!」
ベルは凄く嬉しそうだ。
てか手柄をベルに振ったのに、
また俺の評価が上がったみたいだ。
解せぬ。
「ひゃひゃひゃひゃ、普通は買った子の願いなんざ聞かないもんじゃよ」
マミ婆さんが楽しそうに言う。
あぁそう言う事か。
しかし買ったとか買われたとか、
どうしてもこの言葉には忌避感を覚える。
「あの、綺麗事かも知れませんが、俺はベルを買ったとか思いたくないんです。結局は金銭を払う事にはなるんですけど、できたら引き取ったとか、そう言う表現をしてもらえたら幸いです。」
「あんたはほんとに善人だねぇ」
「家、偽善者なだけですよ」
「偽善者、良いじゃないか、それでも救われる人がいるんじゃからの、ひゃひゃひゃひゃ」
「あと、それと、ベルを両親となるべく会わせたくないので、あまりベルを表に立たせないようにお願いしますね。会うのは気まずいみたいなので。」
「「「「了解しました!」」」」
綺麗に揃った。
「あはは!みんな面白い!」
ベルが無邪気に笑った。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
俺達一行は貧民街の広場へと着いた。
いや、正確には広場に貧民層があつまってるだけなんだが、細かい事は無しにしよう。
マミ婆さんは収納魔法から次々に器具と食材を出していく、
それを手際よく並べて、女性陣は調理、男性陣は火おこしからお湯の用意をしていく。
ベルは俺が贈ったエプロンをして嬉しそうに女性陣に混じって野菜を用意している。
可愛いは正義だ。
写メ撮りてー
ちなみにスマホは車に置いきている。
充電切れだけど。
着々と準備をする俺達を、
貧民街の人達が不思議そうに、遠巻きに見ている。
だんだんと人が増えているようだ。
そんな中、一人の女性が近づいてきた。
「あの、皆様方は何をされているのでしょう?」
恐る恐る話しかけてきた。
「これから炊き出しをして、ここのみなさんに美味しい物を食べて頂こうと思ってます。昼頃には出来上がるので、それまで待っていてくださいね」
そう答えると、女性は驚いていたが、そそくさと人垣に消えていった。
俺は焚き木に火を付けて火の番だ。
みな忙しそうに動いてる。
4人の助っ人じゃ忙しいな。
大量の食材を女性陣が次々に切っては入れ切って入れしているが、なかなか食材が減っていかない。
薪も思ったより減りが早い。
近くの森にいって調達するしかないか。
何せ初めての炊き出しなので、
どれくらいの時間と材料で丁度良いのか、手探りだ。
俺は薪を探しに行こうとして立ち上がると、
そこへ声がかけられてきた。
「あの、私達もお手伝いします!」
振り向くと、先程声を掛けて来た女性を先頭に、5・6人、男も混じって集まって来ている。
女性が声を掛けて集めて来てくれたらしい。
ありがたい、俺は快く受け入れようと思う。
他の四人に確認を取ろうと振り向こうとしたら、
「こっちよ!これ切ってくれる〜!」
「男はこっちに来てくれ!」
と声がかかる。
貧民層に偏見を持つ者も多いと聞いていたから、一緒に作業をする事に抵抗があるかもしれないと思ったが杞憂だったようだ。
マミ婆さんの連れてきた連中はほんとに気の良い連中だ。
俺は自分の役割をこなそうと、薪を探しに行こうとした。
すると、もう半分腐ったような木材に、使い道の無さそうな切れっ端の木材が集められてくる。
運んでるのは貧民街の子供達だ。
「これ、燃える〜?」
5歳くらいの小さな男の子に聞かれた。
「ああ、燃えるよ、ありがとう!」
「やったぁ!」
男の子は嬉しそうに、また薪になりそうな木を探しに走って行く。
あの子にも名前は無いのだろうか。
そう思うと何か込み上げてくる。
あーいかんいかん。
今は考えないようにしよう。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
作業もひと段落。
だいぶ煮えてきた。
俺は大量のミソモドキを入れて味を整えている。
そろそろ昼になるな。
いつのまにか、手伝ってくれる人達も増えてて、
遠巻きだった者達も近くに来ていた。
たくさんの人が集まって来ている。
ふとそこで何か足りない気がして辺りを見回す。
皆ひと段落して談笑している者達や、
遊んでいる子供達が目に入る。
ベルはマミ婆さんのところにいる。
なんだ?何が足りない?
あ!!
パンだ!
パン屋のアルトスが来ていない!
と思ったら、遠くから雄叫びが聞こえる。
「うおーー!間にあえーーーー!」
見ると大男が荷車を猛スピードで引っ張って来ている。
うお!
アルトスだ!すげー迫力。
ガラガラと音を立てて俺の前に止まった。
「はぁはぁ、おいっサクラ様!遅くなっちまった!間に合ったかよ?!」
様付けで呼ぶのはおかしくねーか?
まぁそれは置いておこう。
「間に合ったなんてもんじゃないですよ。素晴らしいグッドタイミングです!」
「そうか!良かった!がはははは!」
荷車を見ると、白い布がかけられているが、山のようになっている。
まさかこれ全部パンじゃないよな?
「これで足りるか?!見てくれ!」
そう言うとアルトスは白い布をバサッと剥がす。
まさかとは思ったが、
パンが山盛りだった。
まじですか。
アルトスぱねー
貧民街の子供達はそれを見て歓声をあげる。
焼きたてのパンの香りが辺りに広がり、
それを嗅いで腹の虫があちこちで鳴りはじめる。
トン汁も出来上がりだ。
「よし!出来たよ!みんな並んでくれ!」
わぁっと歓声があがり、拍手が起きた。
まだ終わってないよ。
「さぁ並んで!腹一杯食ってくれ!」
一人一人がパンを受取り、思い思いの器で豚汁を注いでもらう。
しばらくすると声が聞こえてくる。
「うめーなにこれ!?」
「あちっ美味しい」
「焼きたてパン美味しい」
などなど感想は様々だけど、
みなに笑顔が溢れていた。
泣き出す者もいたが、
嬉しそうな泣き顔だった。
普段どんな物を口にしているのだろう。
明日からまた大変かも知れないが、
今はどうか腹一杯食ってくれ。
俺はそんな想いで胸がいっぱいになった。
ふと視線を感じた。
視線の主は、ベルの父親だった。
横にいるのは母親か?
どことなくベルの面影がある気がするが、
痩せ細り頬の痩けた顔なので、判断が付かない。
ただ、改まった佇まいで、父親と目が合った時に、二人に深々とお辞儀された。
この世界にもお辞儀の習慣がある。
ただし滅多にしない。
深い意味のある行為のようだ。
俺はベルの所に行く。
「ベル、両親が来てるけどどうする?まだ豚汁も食べてないみたいだよ」
「あ、うん…」
座っていたベルは黙って立ち上がり、
予備で用意していた器を2つ、匙を2つ手に持った。
俺はもう一つずつ器と匙を持った。
豚汁を注いで、ベルと一緒に両親の元へ向かう。
ベルは俯いたままだったが、豚汁を両親に渡した。
「ベルって名前になったの?」
母親が話しかける。
「うん」
「それにその服…とても似合って…良かった…、ほんとに良かった、ありがとうございます…」
母親は涙を流した。
なんだよなんだよ、
子供を売るような親だから、
もっと冷たいのかと思ったら、
ベルに対する愛情をヒシヒシ感じるじゃないか。俺まで泣きそうになる。
よほどの事情があるのだろう。
「すいません、ほんとは、買って頂く方には会わない事にしてるんですが…」
父親が俺に謝ってくる。
「謝らないで下さい。俺はご両親に会えて良かったと思ってますから。」
両親は俺を見て驚いている。
こんな答えが返ってくるとは思わなかったのだろう。
「あなた、この方は本当に良い方なのですね。」
「だから言ったろ、この子の言う通りだったって」
ベルがなんと言って出て来たかは知らないが、なんか想像できてしまった。
後できちんと聞かなければね。
「さ、ベル、3人で食べといで。パンも貰うんだぞ」
俺は手にしてた三つ目の豚汁をベルに渡してその場を離れた。
俺は両親にお金だけ渡して、
ベルを返しても良いかな?なんて考えも過った。
でも、俺の中の何かがそれを拒否する。
『嫌だ』と。
たった数日だけど、ベルと過ごした事は、思ったより深く俺の中に刻まれていたようだ。
そもそも返す事はできないだろう。
名前付けの儀式の時に、一生一緒に付き従うとベルは誓ってしまっている。
『帰れ』と命令すれば良いんじゃないか?
と考えがよぎるが、儀式を理由に自分を正当化している自分がいる。
嫌なやつだな俺は。
悶々と考え込んでいるとマミ婆さんが来た。
「どしたんじゃ?ベルを返そうか悩んどるのか?ひゃひゃひゃひゃ」
げ、見透かされてる。
とんでもねー婆さんだな。
心でも読める魔法があんのかよ。
驚く俺にマミ婆さんは
「見とったよ。なかなか良い両親じゃないか。じゃがな、お前さんと会うまではベルちゃんに名前が無かったのは事実じゃ。どんな事情か知らんが、あの子を辛い目に合わせていた事に変わりはないんじゃよ。名前を付けなかったんだから、相応の覚悟もしてるじゃろ。けども、お前さんのような善人に我が子が引き取られるって解ったんなら、それだけで救われてる筈じゃ。ベルちゃんもあの両親も、お前さんに引き取られて幸せじゃよ。」
「婆さん、さすが年の功だな。あと、俺は善人じゃない偽善者だ」
俺はマミ婆さんにそう答えた。
涙が止まらなかった。
「減らず口言いおって、ベルちゃんが戻る前にその顔なんとかしときな。ひゃひゃひゃひゃ」
マミ婆さん、ありがとう。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
しばらくするとベル達が戻って来た。
表情はどこか寂しそうだったが、スッキリしたのだろう。
吹っ切れたような顔にも見える。
ベルだけが俺の元に来る。
両親は少し距離を置いている。
俺は顔を綺麗に洗って何事も無かったように振る舞う。
「お別れは済んだかい?」
「んーん、まだ」
まだ?!
ベルはそう言うと、
両親に向き直り、
「お父さんお母さん、ベルは幸せになります!」
そう言って深々とお辞儀をした。
そう言う事か。
しかしなんだか嫁に行くようだな。
「まぁいつでも会えるからな」
「サクラ様、ありがとうございました、不束者ですが、よろしくお願いします。」
両親もそう言って深々とお辞儀して来た。
やっぱり嫁に出すみたいだな。
俺もあえて無言でお辞儀して応えた。
何を言っても嫁に貰うようにしか答えられない気がする。
ベルの両親は名残惜しそうに帰って行った。
ベルは軽く手を振って両親を見送っていた。
次会うのはベルが10歳になってからかな。
結納金を納めよう。
だから、嫁じゃないんだって。
と自分に突っ込む。
でも他に良い表現が思いつかなかった。
買うだの売るだの、買われっ子だの、そんな言葉は使いたくないのだ。
さて、そうこうしてるうちに豚汁ももうなくなりそうだ。
何人いたのか分からないが、全員に渡ったらしい。
おかわりをしに来る子供達がいる。
食べ終わった者達は立ち去るでもなく、豚汁の感想や、お腹いっぱいだぁなどと言っている。
明日からの不安を言う者はいなかった。
さて、そろそろお開きか。
「あー、皆さん、今日の炊き出しはいかがでしたか?また来月もやりますので、楽しみに待っててください」
俺が大声でそう言うと、
また歓声があがり、拍手が巻き起こった。
感謝の言葉がこそばゆい。
貧民街の人達だけじゃなく、
シンクロ四人組もマミ婆さん、そしてベルが、みんな俺に拍手を送ってくれた。
パン屋のアルトスに至っては号泣していた。
隠れたい気分だ。
でも、悪くない。
また来月、偽善者やってやるぜ。
【読者の皆さま】
いつも読んでいただきありがとうございます。
小心者の私に、
↓ の★★★★★を押して勇気を下さい。
よろしくお願いします!
白村
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