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まさかの婚約破棄バッティング!? 私の計画を邪魔しないで下さい!

作者: タマゴドウフ



「「今この時をもって貴様とは婚約破棄させてもらう!」」


 怒気を含んだ二人の声に卒業パーティーの会場となった大ホールは静まり返った。

 普段驚くことの少ない私、ソフィア・グレイも眼前で起きている出来事に動揺を抑えきれていなかった。


 私の視線は、つい先ほど叫んだ私の婚約者、マルコ……

 ではなく、もう一方の声の主、この国の第一王子ライアン殿下へ向いていた。


「ちょっと、どういうこと? ライアン殿下まで婚約破棄を宣言するなんて計画にないわよ!」


 私は誰にも聞こえない程小さな声で独り文句を垂れる。

 というのも私の計画ではマルコの婚約破棄イベントを大勢の前で披露する必要があるのだ。それこそ巷でバカ売れしている恋愛小説のような展開になってもらわなければ面白くない。


「ふぅ……、まあいいわ。困難は大きければ大きい程萌えるというもの。いつものように誘導すればいいスパイスよ」


 私の信条は『ないなら作る』だ。

 王子がいようと関係ない。

 さあ、物語の時間よ!



 ◇



 一年前、私は婚約者のマルコが男爵令嬢のリアに恋をしていると知り、歓喜した。

 これ、まるで小説のようだわ! 身分差の恋!

 なんて素晴らしいの!

 

 私は何を隠そう恋愛小説好きなのだ。そんな私は現実に物語のような展開が起こらないかと願っていたし、そうなるように行動してきた。全部他人の恋路だけど。

 当事者からしてみれば厄介な野次馬だ。


 ただ、今回は自分が婚約を破棄される立場なのが困りものだ。破棄されたという事実だけが残れば、私は欠陥品扱いになってしまう。私だって恋はしたいのだ。そういう感情が湧く相手がいないだけで。

 

 そんなわけで何とかどちらも痛手を負わないように出来ないかと考えていた。そんな時に読んだのが悪役令嬢物の小説だ。

 パーティーでの婚約破棄。いいじゃない!


 私の瑕疵ではないことを証明し、尚且つその場で和解する。多少マルコの評価は落ちるものの、世間の話題を別方向に逸らせばいいだけだ。丁度いいネタもあることだし、いい考えだわ!


 そう思って行動に移したのだが……。

 まさか、第一王子の婚約破棄宣言とバッティングするとは。このままでは伯爵令息であるマルコの婚約破棄宣言は印象が薄くなってしまう。

 だって王子と伯爵令息、誰がどう考えても王子の方が話題性があるもの。

 私が持って行きたい方向に話題を進められないのは非常に困る。


 その為にはこちらが先手を打つしかない。多少はしたないが、私はしんと静まり返ったホールに響くようあえて大きな声を出す。


「マルコ! それはどういうことですか! 理由を説明してください!」


 惚けていた会場の人間の意識が私に向く。


「…………っは。ソフィア! 貴様、よくもリアを虐めてくれたな! 貴様のような女と結婚なぞ出来るか!」


 マルコ、てめぇライアン殿下の方に気を取られてんじゃねーよ! 完全に惚けてたわね!

 あなたにはきちんと進行してもらわないと私の計画が狂うのよ。まあ、困惑をするのは理解できるけど。


 私も未だ動揺が残っている為、王子の様子が気になり、ちらちらと見てしまってはいるが、どうやらあちらも想定外の事に思考が停止しているようだ。こちらを凝視して固まっている。

 今の内だわ!


「貴方の横にいるのがリアさん? たしか男爵令嬢だったと記憶しております。私はその方と面識がないのですが、何かの誤解では?」


 リアさんのことはばっちり調べているが本当に面識がない為、嘘ではない。

 私は演技っぽくならないように細心の注意を払って笑みを浮かべる。


「そんなわけないだろ! リアを池に突き落としたり、リアの教科書を破いたりしたと聞いている!」

「その虐めですけど、いつどこで行われたものかわかりますか? 証拠がなければ、ただの言いがかりですよ」


 私の問いに勝ち誇った笑みを浮かべるマルコは辞書ほどのファイルを私に突きつけてくる。

 さすが、マルコ! 小説のかませ役と同じ行動だわ!

 正直リア嬢の恋物語のヒーロー役としてどうかと思うけど、悪役令嬢物の流れでいくならよくやったと褒めざるを得ない。


「これを見るがいい! リアが虐められていた日付と状況を記載したものだ。これで言い逃れは出来んぞ」

「拝見しますね。何々。八月七日池に突き落とされ、通りがかったハリス令息に助けてもらう……その他も実際にあった出来事のようですね」


 私は既に見たことがある資料を広げわざとらしく読み上げていく。

 最後にファイルの内容が事実であることを告げれば、マルコは得意げに胸を張る。


「ふんっ! その通りだ。漸く罪を認める気になったか」

「いえ、これ私がやったことではありませんね。証拠もありますよ」


 そう言って私は用意していた詳細な調査報告書をマルコに手渡す。

 中身を見たマルコは驚きの余り絶句し、隣にいたリア嬢は心なしか顔色が多少良くなっている。

 まあ、リア嬢はこの茶番が始まってからずっとおろおろとしてたし、気が気ではなかったのだろう。

 冤罪だと分かっているのにこんな騒動が起きているのだから。

 いくら彼女が気の弱い令嬢とはいえ、知っていれば止めていただろう。彼女が良識ある人でなのは身辺調査で十分確認している。


「こ、これ。俺が持ってたファイルと同じ……」

「ええ、私が業者に依頼した物ですよ。貴方の素行調査の為の、ね。貴方と仲良くしているリア嬢の事も調べてもらっていたのですが、虐められているようだったので、匿名で貴方に送らせてもらってました。まあ、送っていたのは犯人や証拠の記載のない調査過程のものですが」


 マルコは調査報告書が真実なのか確かめる為にリア嬢へ視線を向け、少し迷った末小さく頷いている彼女を見て顔を青くしている。

 これで彼も自分の愚行に気付いたであろう。

 もう少し彼の思慮が深ければ、リア嬢だって卒業まで我慢することはなかったかもしれないのだけど。

 彼の短慮さからして相談すれば間違いなく大事にした挙句、未解決で終わるのが目に見えていた。


「待て、これを見る限りソフィアは犯人を知っていたんだろう? どうして助けなかった」


 されると思ったわ。この質問。

 犯人の名前がそのファイルに載ってるんだから気付きなさいよ。


「私が子爵家であることはご存じですよね。さすがに伯爵家上位のブラウン家を敵に回してリア嬢を守り切れるとは思えなかったのでこうして証拠集めに専念しておりました。犯罪まがいのものもあって慎重にならざるを得なかったというのもあります。もちろん近くにいた方に頼んでフォローしてもらってましたよ」

「そうだったのか……すまなかった。婚約破棄は……」

「婚約破棄を取り消すなんて言わないでよね。ここまでしたのよ? 貴方にはリア嬢のヒーローになってもらわなければ困ります。ま、詳しいことは後で話し合いましょ」


 マルコの様子を見るにこれ以上、争う気はなさそうだ。

 ふぅ、後はリア嬢を虐めていたブラウン家令嬢のアリシア・ブラウンをとっちめればハッピーエンドね。

 今日の為に証拠も司法庁に提出済みだし、そろそろ役人が来るはず。

 これぞ、マルコも悪いけど、アリシアもっと悪いよね作戦!


 アリシア様の話題でリア嬢を悲劇のヒロインに仕立て上げ、マルコとの関係を美談じみたものにするという流れだ。

 我ながら完璧である。アリシア様には悪いが、これもリア嬢を虐めていた報いだと思って諦めて欲しい。

 ええっと、アリシア様はどーこだ。

 私が行動に移そうとしたところで男女のペアが私の進路を塞いでくる。


「貴様、これはどういうことだ」


 ライアン殿下……。それはこちらのセリフです。

 いったいどういう……。

 そう思い、問い返そうとしたところでふと気づく。


「アリシア様?」

「そうだ! 貴様が未来の王妃を貶めていたのをしかと聞いたぞ!」

「そうよ! 私はそんなことしていないわ!」


 私の目の前でうるうると涙目になっているアリシア様とそれを抱き寄せるライアン殿下を見て心の中で突っ込んだ。


『王子の浮気相手お前かぁああああ!!!』



 ◇



 厄介なことになった。

 王子を相手にするとか聞いてない!


 私はアリシア様の悪行を裁判で明らかにする為、多くの証人を確保していた。

 しかし、王子を敵に回してまでアリシアに不利な証言をするという奇特な人間は間違いなくいない。

 物的証拠もあるが、それだけでは王族の介入でひっくり返される可能性がある。

 ぐぬぬ、アリシア様を断罪するのはリア嬢の恋物語には欠かせないファクターだというのに……。

 何とかして突破口を開かなくては。


「ライアン殿下、私は事実しか申し上げておりません。そもそも私に嘘をつく理由がありません」

「はっ、それこそイザベラの奴がお前に依頼したのだろう! 僕と婚約していたからと調子に乗りやがって」


 ライアン殿下って薄々分かってましたがこういう手合いなんですね。なんか幻滅。

 事あるごとに現実を小説に見立て盛り上がる私ですが、この愚かな王子については例外のようです。

 ですが、この先の展開は読めました。悪役令嬢ことイザベラ様が颯爽と現れて王子を撃退してくれるのですね。この前読んだ『言いがかりは止してくださいます?』のヒロイン、ビアンカ嬢のごとく!


 私は期待に満ちた目で件のイザベラ様を探すが、会場中のどこにも見当たらない。

 ライアン殿下はきょろきょろと視線を彷徨わせている私を確認すると、まるで親でも殺されたのかと言うほど憎々しげな声音で言葉を吐き捨てる。


「やはりな。イザベラを探しても無駄だ。奴は先ほど逃げたからな。お前の味方はもういないぞ。残念だったな」

「えー、イザベラ様がいないとかどんな三流小説ですか。婚約破棄された令嬢の逆転劇は? 隣国の皇子との恋物語は?」

「お、お前は何を言ってるんだ?」


 先ほどまで高圧的だったライアン殿下が私の発言に顔を引きつらせるのが見えた。

 まあ、それよりひどい顔をされた方がこちらに向かってきているけど。


「ソフィア嬢! 今の発言はどいうことだ! 何故、隣国の皇子などという話が出てくる!? 私には自国に愛する婚約者がいるんだぞ!」


 そう捲し立てるのは隣国の第一皇子、アーサー殿下。視野を広げたいとのことで我が国に留学をされている立派な方だ。今は焦って言葉遣いが荒くなっているようだが、普段は非常に好感が持てる紳士的な方だ。

 そんな彼が自国にいるという愛する婚約者に対してどのような態度をとっているか想像するだけで力が湧いてくる。

 まあ、その想い、今回は利用させてもらいますが。


「ごきげんよう、アーサー殿下。他意はございませんよ。物語にありがちでしたから話に上がっただけで。あったらいいなと思っただけです」

「貴方が関わると碌なことにならないから止めて頂きたい! 破談になったらどうしてくれる!」


 よしよし、アーサー殿下も私の噂を知っていらっしゃるのね。

 私の異名『夢物語製造機(ロマンスメーカー)』を。


 ある時は誘拐事件、ある時は不治の病。私が関わってきた男女は等しく劇的な物語に直面する。

 そんな噂が流れ出したのはいつからだったか。一年前くらいに被害者の会とか出来てたから多分その時だろう。

 ちょっと呟いたことが現実になっただけで私のせいにされても困るのだけど。


「私が関わった方々の件については全て物語でいう所のハッピーエンドですよ。一時の破談もスパイスでしょう」

「恐ろしいことを言うな。そんなスパイスはいらん!」


 私の発言にアーサー殿下が青筋を立てるのを見て、私は『青筋を立てるって比喩表現かと思ってたけど、そんな風になるのね』とのんきなことを考えていた。

 まあ、『これだけ婚約者を愛してらっしゃるのだから、婚約者様が勘違いして破談……誤解を解いて再度婚約しなおすという流れも良いわね』と破談のストーリーも考えてたりしたが。

 そんな私に向けてアーサー殿下は捲し立てるように話を続ける。


「大体、『不治の病をキスで直すなんて素敵!』と君が呟いた翌日に君の隣の席の令嬢が不治の病にかかるとか出来すぎだろ! それで本当に婚約者のキスで回復するし……。それを考えると君の言動を警戒するのは当然だろ!」


 そんなことを言われてもな……全部偶然ですし、アーサー殿下が言うキスで回復というのも私が作った薬を服用した結果なのだけど。

 まあ、口移しで飲ませるよう言及したので周りから見ればキスで治ったように見えたのでしょう。私の望むところなので訂正しませんが。


 おっと、話が逸れてますわね。

 そろそろライアン殿下に効果が出る頃合いかしら?

ありとあらゆる妄言を鵜吞みにするライアン殿下ならば、私の噂も信じ多少なりと行動に影響が出てくれることだろう。とりあえず、怯んで言葉数が少なくなってくれれば御の字だ。

 私はアーサー殿下の後ろに隠れる形となったライアン殿下を期待するような目で覗き込む。

 私の視線にライアン殿下はビクッと体を強張らせ、私から離れるように一歩後ずさる。

 これは信じちゃってますね。

 王族が揃って噂に振り回されている事実にそれはそれで頭が痛くなるが、都合がいいので使わせてもらおう。


「アーサー殿下がそこまで言うのならば、仕方ありません。自国の王子の恋物語で我慢しましょう。アリシア様が浮気をするのですが、ライアン殿下はそんな彼女だったとしても……と苦悩し、最終的によりを戻すのです」

「どろどろとしすぎだろう……」

「そういう物語も一定の需要があるのです」


 私の発言に殿下二人がドン引きしていたが、今まで静かにしていたアリシア様が顔を真っ赤にして声を荒げ始めた。


「あ、あなたねぇ! 私がそんなことをするわけないでしょ!」

「えっ、男爵令息や子爵令息、果ては侯爵令息ともそういう関係だったじゃないですか!?」


 私は『顔を真っ赤にするて比喩表現かと思ってたけど、そんな風になるのね』とどうでも良いことを考えていた為、脊髄反射でつい返答してしまった。

 案の定、アリシア様は見たこともない顔になっている。しいて言うなら般若のような形相?


「しょ、証拠もないのにこの発言! ひどい侮辱だわ! 即刻しけ……」

「あっ、その件なら証拠は司法庁に提出済みです」

「え?」


 惚けた顔をしているアリシア様の後方に同様の顔をした令息が数名見て取れた。彼女と関係を持っていた令息達ね。

 私がそんなものを司法庁に提出していたことに驚きを隠せていないようだ。

 通常、男女関係の案件なんて司法庁に持ち込まれない。あるとしたら犯罪行為に関係がある時くらいだ。


「関係がある令息の家と結託してブラウン家が人身売買を行っていたようなので、人間関係根こそぎ証拠として提出しております」


 惚けていた令息たちは真っ青な顔になって会場から出ていこうとしていたが時すでに遅し。役人のご到着です。


「アリシア・ブラウン! 貴方には人身売買罪の容疑がかかっている。大人しくついてきてもらおう」

「いや、放しなさいよ! ライアン様! 助けて下さい!」


 なりふり構わず喚き散らすアリシア様に困惑するライアン殿下だったが、未だ恋心は健在のようだ。数瞬で我に返り、アリシア様を連行しようとする役人に命令を下す。


「お前達何をしている! アリシアを放せ!」

「ですが、殿下。この者の容疑は……」

「そんなもの、あそこの女が捏造したに決まっているだろう! まさか、王族に逆らうわけじゃないだろうな!」


 ほら、来た。王権を行使されると司法庁とはいえ、逆らえないのが今の王国事情である。役人の方々も王子の言葉に逆らえず、アリシア様を掴んでいた手を放す。解放されたアリシア様は口の端を吊り上げた顔を私へ向けている。

 ライアン殿下、あの顔見ても恋が冷めないって凄すぎない? その点だけは尊敬だわ。


 そんなどうでもいい感想を抱いていると、思わぬ所から私を擁護する声が上がってくる。

 リア嬢だ。気の弱い彼女の声とは思えないほど大きな声に、私含め会場全体の視線が彼女へと向かう。


「お待ちください、ライアン殿下! ソフィア様がそんなことをされるはずありません!」

「しかし、お前はそこの女とは面識がないはずだ。どうしてそう言い切れる?」

「確かに面識はございませんが、いつも裏で私の事を気遣って頂いていたことは知っています。皆が教えてくれてたから」


 皆? 私が彼女のフォローを頼んだ人達の事?

 でも、ちゃんと口止料も払ったし、業者の報告ではそんなことは書かれていなかったわよ。


「ふん、皆とはどこのどいつだ? この場にいるなら名乗り出ろ」


 ライアン殿下が会場を見回し問いかけるが、誰も進み出ようとはしない。

 当然だ。そんな人間はいない。私も断言できる。

 ということはリア嬢が嘘をついて私を庇った?

 何故彼女が私を庇っているのか意味が分からないが、リア嬢を止めなければ。彼女まで標的にされてしまう。

 声を上げようと私は一歩進み出るが、私よりリア嬢の方が早かった。


「ごめん、皆。出て来てくれる?」


 その瞬間、リア嬢を中心に直視できない程の光が発せられる。

 目がぁぁぁぁぁぁぁぁ!

 リア嬢を凝視していた為、思いっきり光が私の網膜を焼いてきた。心の中の私は目を押さえて転げ回っているが、そこは淑女、現実の私は優雅に立っている。全然前が見えないけれど。


「ふむ、リアよ。こやつの無罪を証明してやればよいのか?」

「はい! お願いします!」


 なんか頭をぽんぽん叩かれているのだけど、誰よ!?

 復活しない目をこすり、その存在を確認しようとするがまだ視界がぼやけている。

 背格好だけ見えるが、そのがっしりとした体つきは明らかにうちの生徒ではない。


「ほれ、小僧。我が証言してやろう。そこな娘、ソフィアはリアの言う通り捏造なぞしておらん」

「なっ、小僧だと!? 不敬だぞ! 大体、貴様みたいなどこの誰とも知れぬ不審者が証言したところで意味などないわ!」

「ははっ、無知が過ぎるとここまで滑稽とはな。長い年月生きておるが、新たな発見だ。王族が知らぬはずはないのだが……、よもや王族ではなかったりするのか?」


 会場を覆った光、突如現れた謎の人物、王族ならば知っている存在。

 何となく想像はつくけど、リア嬢を調べていた身としては正直混乱の極みである。そんな報告は聞いてない!


「……精霊」


 会場のどこかで呟かれたそれはまさしく私が考えていたものと同じであった。

 王国では古来より精霊を召喚できる者は聖女と呼ばれ、時に王族と同等の権力を与えられることもあった。

 一説では精霊がいるのといないのでは数世紀分の文明の差を生み出すとも言われている。

 なんなら王族だけでなく城下の子供でも知っているお話だ。……そのはずなのだけど、目の前のライアン殿下は訳が分からないといった体で話を続ける。


「精霊が何なのだ。もういい! そこのお前、ソフィアとかいう女をさっさと連行しろ!」


 ライアン殿下は役人に指示を出すが、役人は精霊の重要性を知っているが為に動けない。あの人、ちょっと涙目じゃん。

 その気持ち分かるよ。私も精霊が出てくるとかキャパオーバーだわ!

 私がどうこうしなくてもリア嬢が聖女であることを明かしてれば、一発解決だわ。私の苦労返して!

 最早大義を無くしかけている私は早々に決着をつけることとする。


「予定と少し異なるけれど、私の無実も証明できたことですしまあいいでしょう。後はアーサー殿下にでもお任せします」

「何故そこで私の名前が出てくる! この国の問題だろう!」


 確かにそうなのだが、ブラウン家の皆さんが隣国の令嬢から依頼を受けているのよね。

 邪魔な女を消して欲しいって。

 この件で間違いなく彼を引き込めるので私は躊躇いなく事実だけを告げる。


「件の組織についてですが、次の標的は貴方の婚約者様ですよ」

「よし、任せてもらおう。ライアン殿下を押さえておけばいいのだな?」


 私の発言に即答したアーサー殿下はライアン殿下を物理的に拘束する。恋人が絡むとどいつもこいつも阿保になるのか……誰が物理的に拘束しろなんて言ったよ。

 後で国同士の問題にならないか不安である。

 一方で私とアーサー殿下の話と並行して精霊様が役人と話をつけてくれていたようだ。

 アリシア様がぎゃーぎゃー喚きながら連行されていく。

 ああ、これがざまぁというやつね。感動だわ。


 私は一通りこの状況を満喫し終え、リア嬢の元へ向かう。

 庇ってくれていたしお礼を言わないとね。後、聖女であるのを隠していたことについて文句も言おう。


「リア嬢、さっきはありがとう。それと精霊様も……」


 リア嬢にお礼を告げた後、精霊様にもと思い顔を上げると筆舌に尽くし難いイケメンが視界に入る。

 いるじゃないいい男。

 その瞬間、私は精霊様を落とす計画に目途をつける。ちょっと難しいけど、努力すればいけるでしょう。

 幾度も似たような経験を繰り返したが、初めての感覚に胸が高鳴る。

 

 さあ、物語の時間よ!


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[一言] ソフィアは…魔女?(笑) 言霊発生させるとか…ハンパないね〜
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