3-2 二人の【雑用士】
「カイト、フェリア、ちょっといいかしら?」
声をかけてきたのはカトレアだった。
カトレアもフェリアのことを呼び捨てするようになった。
お世話になっているのだから、とフェリアから頼んだ形だ。
「はい、マザー。ちょうど訓練も終えたところなので大丈夫です。」
「大丈夫です。何かご用ですか?」
二人が答える。
「じゃあちょっと付いてきてくれる?」
そうして3人は院長室へと向かった。
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院長室にいたのは薄い青い髪を持った無表情の小柄な少女たちだった。
「ルナにレナ?どうしたんだ?」
カイトの知り合いのようだ。
「誰?知り合い?」
フェリアがカイトに尋ねる。
「俺の2ヶ月くらい前に15歳になって攻略者として孤児院を卒業した双子の幼馴染だよ。」
ルナとレナは一卵性の双子である。ルナが姉でレナが妹。
二人ともカイトが【遊び人】を得る2ヶ月前に【見習い戦士】を得て孤児院を卒業している。
現在卒業後9ヶ月と言ったところか。順調であれば2次職になっているだろう。
「ルナ、レナ、カイトは知っているだろうけどフェリアは初めてでしょう?ご挨拶しなさい。」
「ルナ」
「レナ」
自己紹介と言えないような自己紹介である。
「私はフェリアよ。よろしくね?」
「ごめんなさいね。この子達自己表現が苦手なの。」
「いえ、大丈夫です。」
「それでマザー。ルナとレナがマザーの用事ですか?」
「ええ、カイト。ちょっと事情が出来ちゃってね。少し手助けしてもらえると有り難いと思って。」
「俺に出来ることであればやりますけど、そう言うってことはやっぱり?」
「ええ、こんなに頻繁なのは初めてだけど。」
カイトには何かしら想像が付いているようだ。
「カイト?」
フェリアはまだ分かっていない。
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ルナとレナは10歳の時孤児院に連れてこられた。
二人は望まれない子供だった。
両親にお金の余裕は無く、愛情すら受けられずに10歳まで育てられた。育てられたと言うより放置された。所謂ネグレクトである。
見かねた近所の大人達が二人を孤児院に連れてきたのだ。
ただ、それも遅かった。
二人は二人の世界に閉じこもってしまったのだ。
もちろん孤児院に来てから改善したのは間違いない。
少しずつ、ほとんど単語ではあるが孤児院の者たちとは話すようになっていたし、学習や訓練も真面目にやった。能力も低くはない。
それでも彼女らの世界はそこまで広がらなかった。
二人が15歳になった時、二人ともが【見習い戦士】を得た。
ホッとした。
そして二人とも同じクランに所属した。
二人同じがいいと主張した。
クランはそれを認めなかった。
二人を別のパーティに入れ、違う役割を押し付けた。
二人は受け入れられなかった。
なので双子であることを活かし、隔日で入れ替わり、お互いの仕事をお互いがやった。
当然成長は遅れた。
昨日出来た事が出来ないのだ。
逆に言えば出来る事が増えた。
お互いがそれぞれの役割を行うからだ。
そうして二人はレベル20になった。
転職準備状態になった。
二人は二人が同じが良かったから・・・。
願ってしまった。
同じジョブになりますようにと。
そうして得たジョブは・・・【雑用士】だった。
二人とも【雑用士】である。
【雑用士】は希少職だ。
【平民】のように成長して転職できたりはしない。
当然クランは追い出された。
二人はそれでも良かった。
二人で生きていければそれで良かったから。
生きていくだけなら何とかなった。
例え最低限でも戦えたから。
管理局の一員だったから。
それでも管理局から見れば問題だった。
日に日に汚れていく髪や服装。
そして、孤児院から知らされていた二人の過去。
このままではいけない。
そう思われてしまった。
そうして二人のことは孤児院に知らされた。
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「とまぁこんな話ですね。」
カトレアが事情を説明する。
二人から聞いた話も加味されているのだろう。
「一応カイトと同じで、まだ一年経っていませんから問題なく保護はできます。」
「そう・・・ですね。良かった・・・。」
フェリアは心底ホッとした様子を見せた。
「それで二人は・・・これからどうするんです?」
「それも含めてカイトとフェリアに相談したかったの。」
「カイト?」
「カイト?」
なぜカイトなんだ?と双子は首を傾げる。
「カイト?どうします?」
カトレアがそんなことを尋ねてくる。
カイトはフェリアと目を合わせ、二人がお互いに頷いた。
「もちろん、俺に出来ることはやります。」
「ありがとう。カイトならそう言ってくれると信じていたわ。」
カトレアが嬉しそうにそう言った。
まぁ本当にそう思っていたのだろう。
カイトは意を決して双子に話しかける。
「ルナ、レナ、俺も・・・、いや俺たちも希少職なんだ。」
双子は目を見開いて驚いた様子を見せる。
「カイトも?」
「フェリアも?」
「ああ。【遊び人】だ。」
「私は【感応士】よ。」
「それは大変。」
「大丈夫?」
他人事のような物言いをする二人。
「今は成長して3次職だよ。フェリアもな。」
「カイトのおかげで成長できたの。きっと二人も助けてくれるわ。」
「それはびっくり。」
「驚天動地。」
先程驚いたせいかほとんど表情を変えずにそう言う双子。
「それで二人はどうしたい?」
二人にそう尋ねる。
「レナと一緒がいい。」
「ルナと一緒がいい。」
質問の答えにはなっていないが、二人にはそれで十分だった。
双子の二人を助ける。
カイトとフェリアの意思は決まっていた。
まずしたのが【職業情報】の確認。
【雑用士】を指定して起動する。
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【雑用士】
特殊【雑用士】系統2次職
転職条件
①基本2次職の条件をひとつも満たさない
②基本2次職の条件を複数満たした上で転職先を希望しない。
③ジョブの転職条件を20種類満たす
成長条件
過去10回と違う方法でモンスターを討伐する
レベル上限:30
習得スキル
【雑草魂】(1)
【アイテムボックス】(20)
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二人が【雑用士】になったのは条件②を満たしたからだろう。
カイトはその場にいる人間に【雑用士】のことを説明しながら考える。
厄介なのは成長条件だ。
この条件は偶然満たせるはずがない。
過去10回と違う方法と言うことは、戦い方を11種類用意しなければならない。
武器種が違う攻撃と判断されるかどうかが重要だった。
恐らく大丈夫だろうが。
2次職でスキルを11種類も持っているはずがないからだ。3次職でもいないだろう。
恐らく【遊び人】や【感応士】にあった『経験値5倍』は存在するだろう。そうでなければこの条件は厳しすぎる。2次職であることを鑑みれば、もっと倍率があってもおかしくはない。
レベルを上げる方法を確立すれば早ければ1週間、長くても1ヶ月で【雑用士】をマスター出来るのではないか。
カイトはそう考え、今後の予定を組み上げる。
「ルナ、レナ、とりあえず俺とフェリアは今レベル1だから3日ほど待ってくれ。出来るだけレベルを上げる。それで二人は準備を整えて欲しい。」
そう言ってカイトは指示を出す。
準備するのは剣、短剣、斧、槍、弓、杖、ハンマー、鞭。これだけでは足りないので、できれば銃。なければ爆弾。あとの2種類のうち1種類は素手として、最後は盾。
これで11種類である。
素手と爆弾を除いた10種類は専門職の存在が確認されている武器種だ。盾も十分攻撃できると判定されるだろう。
素手に関しては【格闘士】が存在している。
「質は壊れなければ銅でも青銅でもいい。刃がある必要があるかも知れないから、木はやめておこう。ああ、もちろんハンマーと鞭はダメージさえ出せれば何でもいいかな。銃は・・・多分手に入れるのは難しいかな。」
「銃ならありますよ。私のが。」
カトレアが助け舟を出す。
まさか一番手に入りにくいものがあるとは。
「これは魔法銃です。貸し出すのは構いませんが、魔石類は用意してくださいね?」
魔法銃とは魔石などをエネルギー源として、実弾でなく魔法弾を打ち出す銃である。
実弾銃も魔法銃もコストがかかる割には攻撃力が武器に依存するためあまり人気がない。
「それはすごい助かります。武器種も減らせるかも知れませんね。」
魔法銃は属性弾も打ち出す事が出来る。違う属性であれば違う攻撃方法と認定される可能性は高い。
そしてカイト達にはひたすら貯めたスライムストーンがある。魔石よりも威力は出ないが、双子の討伐対象は当然ベビースライムだ。十分だろう。
そんなわけで双子を助けるべく、カイトとフェリアは卒業したはずのスライムダンジョンに再び赴くことが決まったのだった。




