閑話2-1 フォレストリア家の【従者】
その女性の名前はアルマリア。
身長は160cm程度。髪の色はピンクゴールド。胸部はやや豊かで、すらっとした体型だ。年齢は18歳。
アルマリアはフォレストリア家に仕える【従者】である。
【従者】は希少職で、高位貴族が秘匿している、唯一確認されている成長する希少職だ。
【奴隷】というジョブから【奉仕者】を経て【従者】へと至る。
【奴隷】はダンジョンでたまに産出される『魔法契約書』を用いた『奴隷契約』を行うことでしか就くことは出来ないと言われている。
【奴隷】となると、それまでのジョブはそのままで、【スレイブジョブ】という職業枠が追加され、そこに【奴隷】が入るという形で転職する。メインジョブがそれまでに就いていたジョブで、【スレイブジョブ】が【奴隷】という形だ。
【奴隷】がある条件を達成して転職すると【奉仕者】というジョブに変化する。
【奴隷】の育成に失敗していると、この時点で【奉仕者】のジョブは失われ、【スレイブジョブ】そのものが失われる。
そうなるとただの一般人となるため、【奴隷】系統の秘匿のため幽閉されるのが一般的である。
【奉仕者】はその後もある条件を満たしてしまうとジョブとして失われる。ある条件というのは分かっていない。
【奉仕者】が無事成長し転職に至ると【従者】となる。【従者】も【奉仕者】と同様にジョブを失う条件が存在する。主人に尽くしている間は失うことは少ないことは分かっているが、それでもジョブを失うものは存在する。
アルマリアは5歳で【奴隷】となり、その後無事に成長。
5歳の時点ではメインジョブは持てないため、形式としては【無職】と【奴隷】という形になる。
5歳より前には【奴隷】すら持てない。
アルマリアは15歳になった時、【無職】を【見習い戦士】へ転職し、それぞれのジョブを成長させ、現在では【軽戦士】と【従者】を所持している。
そんなアルマリアが今回受けた任務の1つは『フォレストリア家3女フェリア・フォレストリアを宵闇の森まで護送し、そこに置いてくること』だった。
ほとんど処刑と言っていい内容に驚きながらも、【従者】としてやるべきことをやるために行動した。
まず他に同様の任務を受けた者が、フェリアの飲み物の中に眠り薬を混入させ、眠らせる。そうして眠ったフェリアを馬車に取り付けられた檻の中に収容したら、護衛となる攻略者とともに出発する。
任務に就く攻略者は、主にフォレストリア家の仕事を受け持つクランの人員で、正直なところそこらにいるチンピラと変わらないような輩ばかりだ。
アルマリアの実際の仕事はこういう連中から、フェリアが乱暴されたりしないように守る仕事だった。
死地へ置いてくるというのに守るとは・・・、とアルマリアは思う。
ただ貴族にとって、モンスターや魔物と戦って果てるのは最高の名誉、希少職を得てしまい、それでものうのうと生きているのは不名誉とされている。
フェリアはその希少職を得てしまったのだ。
せめて凌辱を受けないように守ってやってほしい、というのは親の最後の施しだろうか。
そのため、フェリアと姉妹のように接していたアルマリアが任務に選ばれた。
実際アルマリアは【従者】と【軽戦士】の2つ分の能力補正を受けている。レベルはどちらも20だが、それでも1つしかない若い攻略者よりは強い。
「こんないい女なんだから少しは味見させてもらいてぇのになぁ。」
「怖ーい女戦士さんがいるから無理だな。それにこの姿だ。どこぞの敵対貴族の娘なんだろうよ。下手に手を出したら地の果てまで追われるぞ?」
「それは勘弁だな。送り届けることだけ考えますか。」
そんなことばかり言う輩である。
ちなみにこの連中はフェリアがフォレストリアの娘であることは知らない。
もし知ってしまえば消されることになるだろう。
フェリアの髪の色は鮮緑色で、フォレストリアの家系には珍しい色だ。緑系統はそれなりにいるものの、ここまで鮮やかではない。
先祖返りなのだが、それはそれほど知られている話ではないのだ。
そうして馬車は進む。
街に寄るわけには行かないので道なき道を進み、夜は野営を行う。
フェリアは檻の中で、今後に絶望し泣き続けていた。
檻は覆われ、常に暗い。外を確認できないようにされているのだ。
覆いが開けられるのは食事の時のみ。
清潔にするための布なども差し入れられるが、外に出されることはない。
そうしてフェリアにとっては気が狂いそうな。
アルマリアにとっては、罪悪感に圧し潰されそうな。
護衛の連中にとっては退屈な時間が過ぎていった。
宵闇の森に到着したのはフォレストリアを発って1週間後のこと。
フェリアは再び眠らされ、アルマリアに担がれて森の奥に入っていく。
ここからは魔物の領域である。
まだ浅い場所であるため、遭遇する危険性はほとんどないが、フェリアを置いてくるにしても浅すぎては意味がない。
そうして1時間ほど過ぎた。
目の前に現れたのは宵闇の森には珍しい、やや開けた、太陽の光が差し込む場所だった。
アルマリアはそこにフェリアを寝かせ、気付け薬をかがせる。
これで少し経てば目を覚ますだろう、と。
この任務を受けてからアルマリアの心中は穏やかではいられなかった。
【従者】として任務に逆らうわけには行かない。
ただそれでも・・・。
そうしてアルマリアはフェリアの元に心ばかりの食料と水を置き、護衛とともにその場を去った。
護衛が離れないように目を光らせながら。
武器は置いていけなかった。禁止されていたから。
願わくば・・・、生きて森を出てほしい。
そうして誰にも知られずに過ごしてほしい。
そんなことを願いながら森を後にしたのだった。
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「よーし、あとは1ヶ月の確認任務だ!ほとんど休暇みたいなもんだからゆっくりするぜ!」
「おいおい、遊び惚けて見落とすなんてことはやめてくれよ?」
「ガハハ!宵闇の森から出てこれるわけねーじゃねーか!」
そう、万が一フェリアが森を抜け出した場合に備えて、1ヶ月ほど付近にある街に留まるのがもう1つの任務だった。
アルマリアには他にも任務があるのでどれくらいの期間留まることになるのかは分からないが。
近くの街と言っても複数ある。
どちらからも遠い場所に連れていったので、まずあり得ないと言っても二手に分かれる必要がある。
そうしてクランの攻略者はノースアクアリムに、アルマリアはその東にあるノースビーストリムに留まることとなった。
当然クランの攻略者たちは遊びに夢中で目を光らせず、フェリアを見逃すことになったのだが。まぁ例え遊んでいなくても、慎重に立ち回っているフェリア達を、この連中が見つけることはない。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
次話から3章に入ります。
カイトがより活躍を始めますので楽しみにしていてください。




