2-15 スライムダンジョン卒業
2/3 2章最終話です。
あれから20日余り。
カイトとフェリアはひたすらスライムダンジョンの9階層と10階層を周回していた。
この世界で周回なんてものは本来考えられることではないが、前世の記憶があるカイトと、それに付き合うフェリアにとっては、効率のいいレベル上げ、マナゴールド稼ぎでしかなかった。
カイトが考え出したゴールドスライムシルバースライム狩りは一部を除いて非常にうまくいった。
うまく行かなかった部分というのは、生命力の管理だ。
できれば【ものまね】に【ヒール】を指定して管理したかったのだが、【気配隠蔽】を使用しなければ気づかれてしまい、【不意打ち】が発動しないのだ。
この世界では生命力は自然回復しないので、ダメージを受けてしまえば、【回復魔法士】の【ヒール】か【リジェネレーション】、もしくは【バイタルポーション】を使用するしかなく、クールタイムが1時間ある【ものまね】や【職業体験】では対応できなかったのだ。
それまではダメージを受けることなく戦っていたため、ある意味初めて遭遇したクールタイムの壁だっただろう。
ポーションを使うのはよいのだが、使うタイミングが難しく、また安いものでもないため出来れば避けたかった。
そんな問題を解決したのはフェリアだった。
というかフェリアの契約精霊、フェルムだった。
契約してから同化を進めてきたおかげで、新たな力を得ていたようだ。
と言っても【ヒール】が使えるようになったわけではなく、【リジェネレーション】のように生命力を時間経過で回復していくようなもので、【リジェネレーション】ほど強力でもない。その代わりに効果時間は長く、大きなダメージには対応できないが、たまに受ける小さなダメージには効果的だった。
当然カイトに対しても使用できるようで、フェルムのおかげでカイト達のスライムダンジョン攻略法は完成したのだった。
ちなみに、リルムとアルムは現状何か新しい能力を身に付けている様子はない。
何かあるかも知れないが・・・。
そんなわけでカイトとフェリアは無事【フリーター】と【精霊の友】をマスターし、スライムダンジョンを卒業するに至ったのである。
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スライムダンジョンを卒業した翌日、二人の姿はノースアクアリムにある、ある武器屋にあった。
現在の二人の所持金はおよそ70,000マナゴールド。
装備を整えるには十分な金額だ。
孤児院に全く入れないのも心苦しいのだが、カトレアは頑として受け取ってくれない。
せめても、とスライムゼリーは全て無償で提供しているが。
「ガルドさーん!!」
ガルドというのはこの武器屋を営む【工芸士】の男性だ。
カイトにとっては昔からの顔馴染みである。
さすがにカイトが希少職であるということは知らないが。
【工芸士】というのは物作りに特化した3次職で、大抵の【工芸士】は自分の工房を持って商売をしている。
ちなみにカイトたちは基本職・中級職・上級職という言い方を止めた。
希少職に対しては表現しにくいし、4次職の存在も明らかになったからだ。
もちろん人との会話の中では使用することもあるが。
「おう、カイト!どうした?」
「装備を揃えようかと思って。」
「お?とうとうカイトも武器を必要とする年になったか!」
「うん、それで何かお勧めはないかな?」
「見習いが持つもんなんて木剣か木槍かしかないに決まってるじゃねーか。」
「あー、実は・・・言いにくいんだけどもう見習いじゃないんだよね。」
見習いというのは【見習い戦士】と【見習い職人】のことである。
基本職以外にこういう表現をする場合もある。
「は?これまでどうしてたんだよ。それにパーティはその嬢ちゃんだけか?そっちも見習いだろ?」
「ちょっとここでは話せないから、人目のないところで話せないかな?」
カトレアから、ガルドに希少職であると話すことについては許可を得ている。
何よりガルドは説明しなければ、納得して装備を売ってくれない。
ちなみにこの言葉遣いはガルドから求められたものだ。
「なんか複雑そうだな?いいぜ、奥で話そう。」
そう言って3人はガルドの店の奥へと入っていった。
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「はぁ・・・希少職が2人ってだけでも信じられないのに、さらにその上級職だってぇ?」
「驚くのも分かるけど事実なんだ。パーソナルカードも見せただろ?」
「まぁ見た以上信じるしかないが・・・カイトの特異性を考えると確かに武器も考えないといけねーな。」
【職業体験】で一応はどんなジョブに就けるカイトだからこそ、多用な武器を使うこともできるのだ。
今のところ消費を考えると【アサシン】以外に有用なものはあまりないが。
ガルドは職人気質で口が堅く、カトレアからも信頼されている。
だからこそカトレアも、ガルドに秘密を打ち明けることを許可したのだ。
「カイト自身はどんな武器が使いたいとかあるのか?フェリアの嬢ちゃんは杖でいいと思うが。」
「魔法も使うし、剣も使う。出来れば剣で役割を持ちたいとこかな?」
「まぁフェリアの嬢ちゃんが後衛ならカイトは前衛をやるべきだわな。」
「うん、そうなんだよ。」
「というかこれからも二人でやっていくつもりなのか?」
「うーん・・・。俺たちの特異性だとなかなか人を入れるのも難しいんだよね。未だに管理局にも登録してないし。」
「あー、確かにそうだわな・・・。それで?お前ら次はどこのダンジョンに潜る予定なんだ?」
「次はマザーカトレアが勧めてくれた洞窟ダンジョンに向かう予定だよ。」
「ああ、あのゴブリンだらけの不人気ダンジョンか・・・。確かにあそこなら装備が整っていれば大ナメクジは上級職のレベル1でも楽勝だな。」
『大ナメクジ』は洞窟ダンジョンの4Fから出てくるランク2のモンスターで、水魔法【ウォーターボール】は使ってくるものの動きは遅い。
「うん、だから・・・大ナメクジと安全に戦えるくらいの装備だとありがたいかな?」
「その程度でよけりゃいくらでもあるが・・・。武器種はどうすんだ?」
「そこが悩むところなんだよね・・・。フェリアはどう思う?」
「え?私?そうね・・・。カイトの動きからしたら大型武器は合わないかも知れないわ。」
確かにカイトは回避主体のカウンターが持ち味だ。
「ベビースライム系しか倒してないから不安っちゃ不安なんだよな・・・。」
「大ナメクジならベビースライムとそこまで変わらねーよ。耐久力が違うくらいなもんさ。」
「そっか。ならまぁ回避主体になるのかな?一応盾も使うけど。」
「それならやっぱりスタンダードに片手剣じゃないか?洞窟なら長物も使いにくいしな。」
洞窟ダンジョンはその名の通り洞窟型のダンジョンである。フロア型のスライムダンジョンのように綺麗に整地されているわけでも、小部屋に分かれていてその間に通路があるわけでもない。
歩いていたら急にカーブした道があったり、小さな空間はあったりはするものの、それは整然と出てくるものでもない。
何より暗い。【生活魔法】の【ライト】かランタンが必要である。
「うーん、そうなると鋼・・・よりも鉄の片手剣かな。それで大ナメクジは問題ないよね?」
「まぁ鉄なら十分だわな。鋼にできるならそれが一番だろうが。」
「目立ちたくないからなぁ・・・。いくら不人気ダンジョンとは言え、街中で見られることもあるし。」
「確かに管理局にも登録してない地元の人間がいい武器持ってたら目立つわな。」
「じゃあとりあえず鉄製品でいいかな。防具も出来れば見繕ってくれると嬉しいんだけど。」
「おいおい、ウチは武器屋だぞ?まぁ仕方ないから何とかしてやるがな!」
そうしてカイトは鉄製品アイアンソードとバックラー、防具は見た目では分かりにくい高級品ランク3モンスター『オーク』の素材でできたオークレザーアーマー一式を、フェリアは銅素材に蔦をあしらったアイビーロッドとオークレザークロースを購入したのだった。
ちなみに総額40,000マナゴールドとかなりの額だった。
これで2章終了です。
閑話が1つだけ用意してありますので、20:00にはそちらを投稿します。




