2-11 目標とフェリアの事情
GWの休日は終わりましたが、どうせなので2章終了まで、今日明日は3話投稿したいと思います。
1/3 今日も16:00と20:00に投稿予定です。
「カイト、貴方はこれからどうしたいの?」
カトレアがそんなことを聞いてくる。
「どうしたい・・とは?」
「貴方は【職業体験】を得て、希少職であることを隠せるようになりました。もちろん喜ばしいことです。まさかこんな結果になるとは思っていませんでした。ですが・・・。」
カトレアはここで言葉を切り、一息ついてから続ける。
「例えば、このままこの町で、管理局に登録して恙なく暮らして行くのもいいでしょう。他にも、もっと強くなればより大きなダンジョンがある街に行くのもいいかもしれませんね。いずれにせよ、貴方の力は非常に大きなもの・・・となるかも知れません。それなのに何も考えずに行動するのは良くないことでしょう?」
耳が痛かった。
「確かに・・・そうですよね。俺の力が大きいものになるってのは正直言ってよく分かりませんが。」
「はぁ・・・カイト、いい?よく考えてみてください。貴方は、捨てられたフェリアを助け、さらには成長を促したのよ?これが大きくないとでも思ってるの?非常に大きくなるかはこれからですが、すでに大きいことは成しているの。」
「カイト、貴方にとっては大きくないことだったかも知れないけど、私は貴方に命を救われているの。貴方は命の恩人なの。大きいことだと受け取ってほしいわけではないけど、小さいものだとは思ってほしくないわ。」
カトレアに続き、フェリアもそんなことを言う。
カイトにしてみれば、同病相憐れむような感覚で手を差し出したに過ぎないのだ。
「でもそれは俺が希少職で、偶然その力が有っただけ・・・。」
「それでも貴方にはその力が有ったのです。と、趣旨はそこではありません。フェリアさん、貴女だからこそ聞きますが、力を得た今・・・、復讐したいとは思いますか?」
カイトはそれを聞いてドキッとした。
自分は希少職となっても、不便はあっても不幸ではなかった。
しかしフェリアは違う。
家族の絆は断ち切られ、暗い森の中に置き去りにされ、命の危険さえもあったのだ。
「私は・・・。全くないと言えば嘘になります。ですが、カイトに与えられたこの力を『復讐』なんていう感情に向けて使いたくはありません。」
「そんな大げさなものじゃないって。偶然が重なっただけでそれはフェリアの力だよ。」
「貴方にとってはそうかも知れないけど、私にとっては違うの!私一人では例え生きていたとしてもこんなに希望は持てなかったわ!」
「フェリアさん、ありがとう。よく分かりました。カイト、貴方なら私が何を言いたいか分かりましたよね?」
カトレアがカイトに向けてそんなことを言う。
「・・・俺の力は・・・。社会の構造を変える恐れがある。今まで虐げられていた人たちの希望に成り得るけど、それが必ずしも正しい方向に向くとは限らない。何も考えずに生きていけば、きっと問題が起きる・・・・。そういう事ですよね?」
「やっぱり貴方は賢い子だわ。そうです。貴方に助けられた人が復讐を実行するかも知れない。貴方が助けなかった人が貴方を恨むかも知れない。この後もまだまだ成長して、そう言ったことすらも解決してしまう可能性はあるけど、目立ってしまえば多かれ少なかれ恨みを買うわ。ただでさえ貴方たちの成長は異常なのよ?」
カイトは7ヶ月半、フェリアに至っては2週間で中級職のマスターが見えている。明らかに早すぎる。
さらにスライムダンジョンで謎の高効率を叩き出しているのだ。
これが露見すれば大騒ぎになるだろう。
「そうですね・・・。確かに闇雲に動かず色々考えるべきかも知れません。」
「少なくとも慌てて管理局に登録する必要はないわ。ドロップは腐ることもないし、少なくとも今は生活費はかからないでしょう?貴方達は心苦しいかも知れませんが、無理をして、というか、慌てて行動して、貴方達が不幸になるのを見たくはありません。」
「ありがとうございます。・・・ちょっと考えてみます。」
「今順調なんですから。貴方達の成長を傍で見ていられるのは嬉しいことだわ。」
カトレアは本当にカイト達のことを考えてくれている。
そう実感できたカイトは本当に嬉しかった。
「あ、あの・・・。」
そこへフェリアの言葉が響き渡る。
「私・・・やっぱり『復讐』したいです。いや、普通の復讐とは違う形ですけど。」
「フェリアさん?」
「フェリア、どういうこと?」
カイトとカトレアの言葉が重なる。
「えっと・・・、『復讐』以外の言葉が見つからないんですけど、家族・・・いえ元家族を殺したいとかそういうわけじゃないんです。ただ・・・、私とカイト、他にも仲間が必要かも知れませんけど、とにかく私達が【ランク5ダンジョン】の最深層までたどり着けば、あの人達に一泡吹かせられるんじゃないかな・・・って。」
「なるほど、見返してやりたいってことですね?」
「あ、それです!私は役立たずじゃなかったんだって見せつけてやりたいんです!」
「『幸福に暮らすことが最高の復讐である』・・・か。」
「カイト?何の言葉?」
「どっかで見た物語のセリフだよ。」
本当は前世の地球、どこかの国の諺だ。
「ええ、そんな感じ。少なくとも不幸にならなかったって見せつけたい。」
「フェリアさん、貴女は『フォレストリア』ですよね?」
「っ!知っていらしたんですか?」
「ええ・・。これでも一応各都市との伝手はありますから。噂話程度ですが。」
「噂話?」
カトレアはカイトの知らないフェリアを知っているようだった。
「フェリアさん、お話してはいかがです?カイトなら大丈夫ですよ。」
「そう・・・ですね。」
フェリアはカイトに向き直り話し出す。
「私は・・・『フォレストリア』の娘なの。」
「ってことは領主の娘ってこと?」
「ええ、捨てさせられた名前はフェリア・フォレストリア。北都の管理者の娘よ。」
パーソナルカードの名前表示部分の家名は本人の心持ちや周りの認識で変化する。
フェリアは森に置き去りにされたことで、フォレストリアを捨てたのだろう。
「いいところの子だとは思ってたけど・・・。思ったより大物だった・・・。」
「元貴族って気づいてたの?」
「ん-まぁ?最初に見た服も綺麗だったし、知識とか話し方とかもそれっぽいし。」
「むしろ孤児なのにそこまで知識があるカイトがおかしいんだけど・・・。」
「カイトは昔から優秀でしたからね。【商人】の【算術】を習得してるかと思うくらい算術もできますし。」
「本当ですよね・・・。カイトは不思議なことばかり。」
「あーもう、それはいいから話の続きしてくれよ!」
「そうだったわね。それで・・・、私は、フォレストリアは建国の祖である初代国王、ハルト・シルファリアのパーティメンバーで【魔導】と呼ばれていたセリナ・フォレストリアの末裔なの。【魔導】の力は凄まじく、どんな敵でも薙ぎ払ったと言われているわ。」
カイトの住むシルファリア王国の建国王はパーティでランク6ダンジョン、【シルファリアダンジョン】を攻略し、建国したと言われている。
そのパーティは、【剣聖】ハルト・シルファリア、【聖女】マリア・シルファリア、【魔導】セリナ・フォレストリア、【戦神】アルフレッド・ドラゴリア、【堅牢】フリード・アースリアの5人で、恐るべき力を持った集団だったと伝えられている。
ちなみに、シルファリア王国の住民はこの5人に肖って、男児は『ト』か『ド』で終わる名前を、女児には『ア』か『ナ』で終わる名前を付けるのが慣習である。
カイトからしてみれば『ハルト』『マリア』『セリナ』は日本名であっても不思議ではない。転生であれば名前は変わるため、転移者か?と疑っている。
カイトの名前も日本名っぽくはあるのだが、そもそも前世の名前は覚えていないし、名付けをしたのはカトレアである。
「先祖であるセリナ・フォレストリアは、鮮やかな緑色の髪を持つ美しい女性だったと言われているわ。それで、その髪を持つフォレストリアの子供は優秀な魔法士になることが多かった。もちろん中には私みたいに【感応士】を持つ子供もいたみたいだけど。」
フェリアは先祖返りということだろうか。
『鮮やかな緑色の髪を持つ』ということが、【感応士】の転職条件にある『素質を持つ』ということかも知れない。
ちなみにカイトは【職業体験】で当然【感応士】を試している。
スキルは表示されたものの、【感応】はグレーアウトで使用できず、【エレメンタルリンク】は使えなくないものの、フェリアに精霊の場所を聞いても何の反応も示さなかった。
「フォレストリアは長い歴史の中では【感応士】を育て上げることも試していたみたいだけど、結果は出なかった。近年ではあまりいないみたいで、私が久しぶりの【感応士】だと思うわ。それで・・・、持て余したお父様は私を捨てることにしたの・・。災厄を齎すとも言われているしね・・・。」
恐らくセリナ・フォレストリアは【感応士】系統の5次職以上だったのだろう。5次職があるかは未だ不明だが、ダンジョンのルールからすると2ランク上にはダメージが与えられないため、ランク6をクリアするならば少なくとも5次職である必要がある。
その魔法がどれくらい強かったのか。
現在の最上位が3次職であることを考えるとそれは凄まじいものだったのではないだろうか。
しかも精霊の力を借りてである。
2次職のフェリアですらかなりの火力を有しているのだ。
「だからこそ、カイトが導いてくれた【感応士】の先の力を持って、復讐、というより見返してやりたいなって。・・・だめかな?」
「だめじゃないさ。どちらにせよダンジョン攻略を続けて行けるところまで行かないと俺自身納得できないだろうし。」
【遊び人】は【賢者】になれる。
今はもうそこまで強く願っているわけではないが、夢に見るくらいはいいだろう。
こうしてカイトたちの目標がランク5ダンジョンの攻略に決まったのだった。




