『番』という存在
楽しんでいただけたら嬉しいです。
ボルテ王国、ここはヒト族、獣人族、エルフ族、ドワーフ族など現在で確認されていないような種族が多数共存する世界にあるうちの一つの王国だ。種族間の中は良く、技術や知識、資源などのさまざまなものが取引され、そこから発展されている。
その世界には、『番』というヒト族以外が認識できる人生の伴侶という不思議な力があり、ヒト族以外の種族ではこの『番』を見つけるために人生を賭けることもよくある。また、ヒト族が『番』であった場合は、全力で外堀を埋め根回しをし、『番』を自分のものにするための行動を起こすことが当たり前となっている。
その結果、人生を幸せに暮らすことができたヒト族と他種族のカップルは多く、生まれる子供も親のどちらかの種族を受け継ぐ。
ヒト族以外の種族同士のカップルは、『番』というものを本能的に感じ取れるためそれが当たり前となり、束縛や嫉妬、浮気などの心配は少ないが、ヒト族と他種族のカップルでは他種族側が束縛し、溺愛し、あるいは閉じ込めることもあり得る。でも、ヒト族はそれがとても嬉しく、幸せだと感じるためまあ結果オーライという感じである。ここら辺は、ヒト族でも人それぞれ違うところもあるが少数派である。
*****
「今日も寒いな。」
寒すぎて凍える手に息をかけながら自分の部屋…といっても使用人部屋と同じくらいの部屋から出てきた私はまず今日の最初の仕事をこなすことにした。
「今日の最初の仕事は何かな〜…えっと…今日は水汲みをしてから、食堂の準備をして、洗濯をした後に掃除したら、午後は自由時間か。」
今日の作業が一人一人紙に書いてあるため、書いてあるとおりに仕事をすればいいから楽だ。紙に書いているのは、私だけなんだけどね。
「今日は水汲みからか。ちょっと大変だけど明日はお休みの日だからがんばろう!」
気合を入れながら、水汲みに取り掛かる。おいしょっと、と声をかけながら屋敷1日の使う分の大量の水を運び始めた。
「ふぅー。水汲み終わった。もう水汲みのプロになれるくらいのスピードだったわね。」
1人で自画自賛しながら、次の仕事に取り掛かろうとして食堂に向かった。
コンコン
「失礼します。」
一応、誰かがいるといけないからノックをするが、5秒くらい経っても返事がないため、ドアを開けた。
「あら、リアリーじゃない。朝から嫌なものを見たわ。朝早く起きたからいい気分だったのに気分が悪くなっちゃったじゃない。部屋に戻るわ。」
「申し訳ございません。アナスタシアお嬢様。」
「もういいわ、あ、そうだ。あなたにいい仕事をあげるわ。明日大事なお客様が来るから最高のドレスでお出迎えしたいの、だから明日着るドレスは誕生日会に来たドレスをリメイクしたのを着たいから、明日までにやって置いて。」
そう言い残して部屋に戻っていった。私はアナスタシアが食堂から出て行くまで頭を下げていたため表情が見えなかったが、絶対に性悪な顔をしていたに違いない。
「はぁ、今日の午後は昼寝でもしようと思っていたのに。でも、やっておかないと何されるかわかんないしやるしかないか。」
テンションだだ下がりだが、早くしないと奥様も来てしまうから早く終わらせないと。
その後、手早く食堂の準備を終わらせて、掃除もぱぱっと終わらせてご飯を食べ始めた。
アナスタシアの部屋に入る時にノックをしたが声が聞こえてこなかったため、そのまま部屋に入ったが今度は誰もいなかったため胸を撫で下ろした。
クローゼットの前に立ち扉をを開けると、とてもたくさんのドレスが出てきた。ふと、端っこの方を見ると懐かしいドレスが置いてあり嬉しくなり、寂しくもなった。
気を取り直して…これか。アナスタシアのお気に入りのドレスを取り出して自分の部屋で作業するために持ち出した。多分、アナスタシアは出かけているはずだから、帰ってくるまでに戻しておけば大丈夫。
自分の部屋に戻ってきたら、早速裁縫道具を取り出して付いている装飾を外し始めた。やるなら、きっちりやらないと手を抜いた時や気に入らないアレンジだった時は恐ろしく、持っている扇で手と顔を打たれて1週間くらい腫れが引かなかった。それを思い出して涙目になったが明るく気合を入れ直して、作業を開始した。
アナスタシアは、ドレスの布を着るようなことをされるのが嫌いで、ゴテゴテしたものが好きだから…
今回は等間隔についていた宝石を花に見立てて胸元や腰の位置にまとめて縫おう。あとは、裾についているレースを外して腰に巻き付けるようにして腰を細く見せる。あ、そのレースの上に宝石の花を一つ縫い付ければもっといいかも。
今は全然触ることができなくなったドレスをアレンジするという目的でしか触れないことに寂しさを感じながら、テキパキと終わらせていく。
「よし!完成。今回は綺麗にできたわ、やっぱり人は慣れで大体なんでもできるようになるのね。戻しにいかなくっちゃ。時間が少しかかりすぎてしまったかしら。」
慌てて、アナスタシアの部屋に戻ると、ちょうど奥様と鉢合わせをしてしまった。
「ちょっと、そこのメイド。アナスタシアの部屋で何をしているの。そのドレス…盗み出そうとしたのかい?」
「違います!奥様。私はアナスタシア様からこのドレスをアレンジしておくように言われたので、終わったものを持ってきたのです。」
「そうなの。なら早くしまいなさい、そのドレスにあなたが触れるなんて本来なら許されないのだからね。」
盗みの疑いをかけられそうになったが大丈夫なようだ。よかった。
ぽろっと、束ねて置いた髪の毛があわててきた時に解けていたようで解けてしまっていた。まずい。
「あなた、だらしないわよ。…その髪の色…リアリー、あなただったの。はっ!もしかして、本当にアナスタシアのものを盗みにきたのね。ちょっとこっちにきなさい!」
私だとわかった奥様が私の腕をひねり上げるように掴んで問いただした。
「やめてください、奥様。私は本当にドレスのアレンジを頼まれていて、それを戻しにきただけなんです。」
必死に抵抗するも、奥様は聞く耳を持ってくれない。しかも、腕がどんどんひねあげられていってとても痛い。このまま気が済むまで耐えよう、そう思った時に。
「奥様!ここにいましたか。明日のことでご相談がございましてよろしいですか?なにぶん大事なお客様ですので奥様の意見を参考にしたいのです。」
執事長がやってきたため、奥様が私の手を離した。
「あら、何かしら。リアリー、今日は明日の方が大事なので許してあげます。せいぜい、使用人らしくしていなさい。いくわよ、セバスチャン。」
「はい、奥様。君も早く仕事に戻りなさい。」
そういい残して、奥様と執事長は書斎の方に行ってしまった。
助かったわ、これ以上掴まれていたら折れていたかもしれないもの。でも、手を動かすと少し痛みがあるわね。明日は休みだからその間に治ればいいけど。
「早いうちに、部屋に戻らないと。」
部屋にもどって、ベッドにダイブしてお昼寝をしてから明日のお休みの予定を立てようとしてそのまま眠った。
ゴーンゴーン
「ん?もう朝?えっ!私あのまま寝ちゃったの!ご飯食べそびれたわ。今日の予定も決めてないし。とりあえず、着替えて市場にでも行こうかしら。」
着替えて部屋を出ると、サンドイッチと皮袋に入ったお金が置いてあった。料理長が置いてくれたのかしら、明日お礼を言わなくちゃね。
ありがたく、サンドイッチとお金を持って市場に向かった。
「いらっしゃい!お嬢ちゃん、うちの焼き串はどうだい?」
「いやいや、お嬢ちゃん。こっちの新鮮な海鮮串はどうだい?」
「ごめんなさーい!もう、ご飯は決まっているのー!」
そんな声を掛け合いながら、噴水のある広場に座って、サンドイッチを食べ始めた。
「う〜ん!美味しい!料理長また腕を上げたのね。私も料理長の新作料理を食べたいわ。さて、お腹もいっぱいになったし、ちょっと散策しようかな。」
色々見ていたらあっという間にお昼になり、通りすがりの人が話していたカフェに入ってみたが当たりだった。ご飯もとても美味しくてセットでつけられるデザートがまた格別だったのだ!
満足しながら店を出て、少し散策して日が傾いてきたので帰ろうかと思っていたら、誰かにぶつかってしまった。
「すみません!お怪我はありませんか…⁉︎」
「ええ、大丈夫です。私こそ申し訳ありませんでした。…どうかしましたか?」
「いえ、なんでもありません。お詫びに何か贈らせてください。」
「え、そんなのいいですよ。私も周りを見ていなかったのでおあいこです!」
「では、少し一緒に街を見て回りませんか?」
ぶつかってしまった人は、フードをかぶっていてよく顔がわからなかったが、声がとても優しくて思わず頷いてしまった。
「あ、でも少しでもいいですか?明日は朝早いので。」
「でしたら、そのまま送りますよ。ではいきましょうか。」
「えっちょっ、」
私の返事も聞かずに、手を握って歩き出してしまった。
思ったより大きい手だな、と少しときめいてしまったが、あわてて首を振って冷静になる。
その時、いつも可愛いなと思っている宝石屋を見つけて声が出てしまった。
「どうかしましたか?あぁ、宝石屋ですか。入ってみます?」
「いえ、いいです。わたしには手が届かないのでガラス越しに見るくらいがちょうどいいんです。」
「なおさら、入りましょう!わたしがいれば見るだけでも大丈夫ですよ。」
「えっ、それはどういう…」
その人はわたしの手を繋いだままお店に入ってしまう。いらっしゃいませ、と店主らしき人が声をかけたがこちらによって来ることなく見ていたので、少しくらいならと少しだけ見ることにした。
「わぁー!すごい綺麗。どれも可愛いな。あ。」
「どうしたの?あ、これ?」
「はい、とても綺麗だなと思って。いつかお金を貯めて買いたいです!」
「じゃあ、さっきぶつかったお礼にこれを送ることにしよう。店主、これをもらえるかい?」
そう言って、わたしが惹かれた指輪を買おうとしている。
「ちょっと待ってください。こんな高価なものはもらえませんよ。大丈夫ですから!」
「そうか、そしたらこれは他の誰かに渡さなきゃいけないな。でもこれ一点物だよね。なくなっちゃうけどいいの?君が素直にもらってくれると私も嬉しいのだけど。」
うーん、言われてみればこんなふうに綺麗に細工された模様に綺麗なダイヤモンドが絶妙にはまっているのはこれくらいしかないと思うが…でも…でも……
「わかりました、謹んでいただきます。」
「そんなに身構えないで、気楽にもらってよ。はい!」
その人は指輪を左手の薬指につけてくれた。とても綺麗で目を奪われる…
「本当にありがとうございます!大切にしますね。」
「うん、そう言ってもらえるのが1番嬉しい。その指輪とても似合っているよ。じゃあ、だいぶ日も暮れてきたから送っていくよ。」
「いえ、大丈夫です。ちょうどこちらの方角ですぐなので!あ!私もお詫びしないと、どうしよう。」
「大丈夫、今度会った時でいいよ。楽しみに待ってるね。」
ちゅっ。っとおでこにキスをして去っていった。フリーズしていた私が動き出した頃には彼の姿は見えなくなっていた。
屋敷に帰ると、部屋の前にアナスタシアが待っていた。
「やっと見つけたわ。あんたがアレンジしたドレスがみすぼらしいせいでカイル様に見向きもされなかったじゃないの!どうしてくれるの?」
ずんずんと近づいてきて、扇越しに睨んできた。よくわからないが機嫌がとても悪いみたいなので頭を下げてて謝って過ぎ去るのを待とう。
「申し訳ございませんでした。今後はもっと目を引くようなものにします。」
謝ってもアナスタシアの怒りは収まらないらしく、扇を振り上げて下げていた頭に振り下ろした。
「っつ。申し訳ございません。アナスタシアお嬢様。」
「その汚い口で私の名前を呼ばないでよ。顔を上げて。」
さらに怒りが増していき、逆らうことが出来ずに顔を上げた。
バシッと大きな音を立てて、頬に直撃した。とても痛くて涙目になったが、声を上げることもできず、何度か打たれた。
「はぁ、もういいわ。今日のところろはこれで許してあげるわ、感謝しなさいよ。ふふ、あんたにはその顔の方が顔のほうがお似合いよ。」
満足したように去っていくアナスタシアが見えなくなったところで自分の部屋に入り、ベッドに倒れ込んだ。痛くて、悲しくて、涙が出て来る。
「っふ、ふぇ、痛いよ…、うぇーん…」
枕に顔を沈めて声を押し殺して泣いた。
手を握って痛みを逃がそうとした時に、左手にはまっているあの人からもらった指輪を見て少し気持ちが落ち着いた。とても優しい人だったな。
お母様が亡くなってからもう5年、私を取り巻く環境はガラリと変わった。ドレスを着ることも許されず、お母様の形見も取り上げられどこにあるかわからず、今まで過ごした部屋も奪われて、こんなメイドの仕事をさせられている…
お父様に助けを求めようとしたけど、全然家に帰ってきてくれず事態は悪化するばかりだった。
最初の頃は、私付きのメイドが庇ってくれたりもしたけれど、アナスタシアのメイドにいじめられたり、辞めさせられたりしたら、次第に誰も私に近づかなくなっていた。執事長は、陰ながら支えてくれてるのはわかるけどあまり下手な行動をすると、奥様…お義母様に何されるかわからないからあまり表立って動けない。
私は死ぬまでこうなんだろうか、と思ったこともあったけど、やっと仕事にも慣れてきたから休みの日にお出かけしたり、ポジティブに考えられるようになってきたが、それでも今日みたいなことが起こるととても悲しく、悔しくなる。
でも、今日はそれ以外に楽しかったことも、嬉しかったこともあったから乗り越えていける。
指輪がアナスタシアに見つからなくてよかったわ。これどうしよう、見つからないように閉まっておく…よりは身に付けていた方が安全だわ。これまで取られたら今度こそ立ち直れなくなりそう。裁縫箱の中から良さそうな革紐を見つけたので指輪を通して目立たないように服の中に隠れる長いさにして首から下げた。
「これで大丈夫かな…もし見つかっても安物だと言おう。そうすればそんな安物には興味をなくすはずだ。」
気分が少し良くなったけど、顔の傷の手当てをして早めに寝ないと熱が出そう。
手早く手当をして明日に備えて寝ることにした。
それから、2、3日経ったが、頬の傷はあまり良くなっておらず体調もあまり良くない。だが、今日は客間のセットを完了させたら仕事が終わりだから頑張ろう!
だが、体がうまく動かず仕事が進まない。心なしか熱が上がってきた気がする。早く終わらせないとお客様が来てしまう。でも、終わると同時にあっこれは無理だ、この後すごく怒られるんだろうなと、思いながら意識が遠のいていった。
*** カイル視点***
「後日また来ます、今日はお時間をとっていただき感謝する。」
そう言って、屋敷を出た。あぁ、私の『番』今どこにいるんだい?やっと見つけたと思ったのに、いないなんて悲しい。ちょっと街でも見てから変えるか、ん?この匂いは…⁉︎いる!近くに、どこだ、私の唯一、早く姿を見せておくれ。
匂いをたどっていたら、誰かとぶつかってしまった。
あ、見つけた……私の『番』、私だけの唯一………
「すみません!お怪我はありませんか…⁉︎」
「ええ、大丈夫です。私こそ申し訳ありませんでした。…どうかしましたか?」
あぁ、とても心地いい声だ。ずっと聴いていたい。
「いえ、なんでもありません。お詫びに何か贈らせてください。」
理由は何でもいい。とりあえず彼女と近しい間柄にならなければ。
「え、そんなのいいですよ。私も周りを見ていなかったのでおあいこです!」
彼女は謙虚なんだな。そこもとても可愛い…。でも、こちらも譲れない。
「では、少し一緒に街を見て回りませんか?」
「あ、でも少しでもいいですか?明日は朝早いので。」
「でしたら、そのまま送りますよ。ではいきましょうか。」
「えっちょっ、」
彼女が戸惑っているが押しに弱いようで、手を繋いだままついてきてくれた。私の唯一と手を繋いでいる。なんて幸せなんだろう。
彼女を見てみると一件の店の前で少しゆっくりな歩調になった。
「どうかしましたか?あぁ、宝石屋ですか。入ってみます?」
「いえ、いいです。わたしには手が届かないのでガラス越しに見るくらいがちょうどいいんです。」
「なおさら、入りましょう!わたしがいれば見るだけでも大丈夫ですよ。」
「えっ、それはどういう…」
ちょうどいい。彼女は戸惑っているが、私に買えないものなどここにはないだろう。最悪、身分を明かせばどうとでもなる。それに彼女が指輪を選べばなお良い……。おっと、こんな顔を見せてはいけないな。紳士でいなければ。
「わぁー!すごい綺麗。どれも可愛いな。あ。」
「どうしたの?あ、これ?」
「はい、とても綺麗だなと思って。いつかお金を貯めて買いたいです!」
「じゃあ、さっきぶつかったお礼にこれを送ることにしよう。店主、これをもらえるかい?」
最高だよ!神に感謝したいくらいだ!
「ちょっと待ってください。こんな高価なものはもらえませんよ。大丈夫ですから!」
「そうか、そしたらこれは他の誰かに渡さなきゃいけないな。でもこれ一点物だよね。なくなっちゃうけどいいの?君が素直にもらってくれると私も嬉しいのだけど。」
「わかりました、謹んでいただきます。」
少しずるいかもしれないが何がなんでももらってもらわなければという思いを込めて説得したら、渋々だが頷いてくれた。
「そんなに身構えないで、気楽にもらってよ。はい!」
あぁ、神よ。こんなに感謝した日はないだろう。これで君は俺のものだ。もう誰にも渡さない…
「本当にありがとうございます!大切にしますね。」
「うん、そう言ってもらえるのが1番嬉しい。その指輪とても似合っているよ。じゃあ、だいぶ日も暮れてきたから送っていくよ。」
「いえ、大丈夫です。ちょうどこちらの方角ですぐなので!あ!私もお詫びしないと、どうしよう。」
「大丈夫、今度会った時でいいよ。楽しみに待ってるね。」
額にキスをして分かれた。マーキングを済ませたから、これでどこにいても君の居場所がわかるよ。あ、やってしまった。君の名前を聞いていない。今度会った時に聞かなければ。
彼女と会って、求婚まで済ませることが出来た。心が躍るような気分で城に戻った。そのまま父上のところに行って報告をしなければ。
「父上。入ってもよろしいですか?」
「あぁ、いいぞ。」
「失礼いたします。父上、私の唯一を見つけました。求婚も済ませました。」
「おぉ!そうか、やっと見つかったか。今日見つけたということは、王都にいたのか。なんであれ、見つかってよかった。で、その子はどんな子だったのだ。名前は、貴族か?庶民か?どちらでもいいが早く紹介してくれ。メッシーナも喜ぶぞ!」
父上は、興奮した様子で私に問い詰めてきた。
「父上、彼女はヒト族で、おそらく貴族のメイドをしているはずです。名前はまだわかりません。」
「そうか、ヒト族だったから今まで見つからなかったのか。カイン、名前を聞いてこなければダメだろう。後、ヒト族なら指輪を渡しただけではダメだがしっかり口で伝えたのか?お前はちょっとしたところで抜けているから心配だ。」
あぁ、まずい。求婚できたことが嬉しすぎて口で言うのを忘れていた。
ちょっと説教が始まりそうだったので、強引に話を進めた。
「今日訪問した貴族屋敷に彼女に匂いが残っていました。後日その屋敷に行って彼女の結婚を認めてもらうように、退職の日なども決めてきます。後、しっかり求婚もしてきます…」
「はぁ、やっぱりか。まぁ、しっかり囲い込めよ。絶対にに逃げられないように、ヒト族ならなおさら……」
「はい、けじめはしっかりとつけてきます。父上。では、失礼します。」
よし!父上の許可も得られたし、準備を整えなければ。後贈り物も…彼女にはどんなドレスが似合うかなー。俺の色は必ずどこかに入れなければ。庶民だったら、送るドレスも動きやすいものの方がいいか?いや、もういっそ俺の部屋に閉じ込めようか……
後日、あの貴族屋敷に行くと彼女の匂いがはっきりとわかった。
「ようこそ、カイル殿下。客間にご案内いたしますね。」
アナスタシアとかいう、香水くさい女が出迎えてきたが、本当に鼻が曲がりそうだ。あと、俺に気に入られようというのが見え見えすぎて気持ち悪い。おまけに性格も悪そうだ。
「あぁ、ありがとう。」
なるべく息をしないように、廊下を進んでいくと、彼女の匂いが強くなっていく。近くにいるのか?客間についたら、屋敷の女性をを全員呼んでもらおう。
一つのドアに着いたところで止まり、ドアが空いた、と同時にとても良い彼女の匂いがしてきた、この部屋の中にいるのか?早く私の腕の中に……
「こちらでお待ち…」
何故か、扉が閉められた。
「申し訳ありません。少しお待ちいただけますか。まだメイドがいたようで、すぐに退室させますので。」
「いや、このままでいい。入らせてもらう。」
アナなんとかを押しのけて扉を開けると、そこは『番』の匂いで充満していた。どこだ、どこだ。絶対ここにいる。部屋を探し回っていると、倒れているメイドを見つけた、彼女だ。慌てて駆け寄って、声をかける。
「おい!おい!大丈夫か?額を触らせてもらうぞ…熱い!早く休ませなければ。そこの御令嬢、彼女の部屋へ案内してくれ、あと医者を呼んでくれ、すごい熱が出ている。」
「彼女はメイドですので、人を呼びますから。うつってしまうといけませんので、殿下はこちらにどうぞ。」
こいつは何を言っているんだ。うつるから離れろ?誰がそんなことするか、私の『番』が熱を出しいるんだぞ?私は絶対に離れない。
「いや、私が連れて行く。案内してくれ。」
「ですが……」
「くどい!彼女は私の唯一である。早く案内しろ。」
「はい!ただいま。」
ようやく彼女の部屋についたが、顔を顰めるほどの部屋だった。だが、苦しそうにしていてこれ以上動かすこともよくないだろうから、仕方なくベッドに寝かせた。
「医者はまだか。早くしてくれ…」
祈るように待っているとメイドがきて、お医者様が到着されました。という声と同時に年配の男性が入っていきた。
「おや、これはカイル殿下、ご無沙汰しております。こちらのお嬢さんですね、見させていただきます。」
偶然にも、王宮に出入りしているローグ医師がきてくれた。よかった、この人なら信用できる。
「先生、よろしくお願いします。」
「ふむ、これは……殿下、こちらを見てください。顔にうっすらと青あざのようなものが見えるでしょう。治りかけているようですが、これは相当な力で打たれたものだと思います。熱の原因はおそらく、この傷が原因でしょう。一応、薬を処方しておきますので、目が覚めたら飲ませてやってください。」
「そうですか。ありがとうございました。」
診察を終えたローグ医師を玄関まで送っている途中に質問をされた。
「殿下、あのお嬢さんは殿下の『番』なのですか?」
「ええ、そうですよ。やっと見つけた私の唯一です。」
「そうですか。殿下にも…お幸せになってください。では失礼いたします。」
ローグ医師を送り、部屋に戻りながら彼女をあんな目に合わせた犯人を突き止めなければと決意した。
***
「うんー、はっ!私まだ仕事終わってない!今何時?」
何故か寝ていた私は起きて仕事の続きをしなければと思ったのだけれど、今ベッドに眠っている。なんでだろう。私を運んでくれる人なんてこの屋敷にはいないのに。
「大丈夫かい?どこか痛むところはないかい?」
声のする方を見てみると、とても綺麗なふさふさの耳をつけた獣人さんが私の顔を覗き込んでいた。
「はっはい!大丈夫です。…あなたが運んでくれたんですか?」
「よかった…そうだよ、客間で倒れていた君を見つけてここに運んだんだ。医者に診てもらって薬を飲めば大丈夫って言ってたから、この薬飲んでね。あぁ、心配しないで、客間での仕事は終わっていたみたいだから。」
「ありがとうございます。えっと、私はリアリーと言います。あなたの…お名前を教えていただけますか?」
「あぁ、私はカインだよ。見ての通り狼の獣人だ。リアリーか、やっと名前を聞けた。この前あった時は聞きそびれちゃったから。」
「えっ……あ!この間の指輪の方です…か?」
「そうだよ、覚えていてくれたんだね、リアリー。身につけていてくれてありがとう。」
「いえ、そんな。とても綺麗なものだから盗られないように、身につけているんです…」
「ここに盗人なんてこないと思うけど。あ、そうだご飯食べる?君が寝ている間に誰かが食事を置いてってくれたんだ。顔は見れなかったけど。」
執事長かな…今度あったらお礼を言わないと。いつ会えるかわかんないけど…でもそれよりもカインさんが客間で見つけてくれたってことは…しかもアナスタシアが言ってたカイン様って…
「カインさんって、今日来る予定だったお客様ですか?」
「うん、そうだよ。ある人に会いたくて、お邪魔したんだ。」
「申し訳ありません、カイン様。大切なお客様なのに私のようなものの世話をさせてしまって。」
「やめて、リアリー。そんなふうに自分のことを言わないで。私が探していたのはあなただよ、リアリー。あなたは、私の『番』なんだ。今日は、求婚と今後のことについて話に来たんだよ。」
えっ?私を探しに来た?カイン様が?なんで?番?どうゆうこと?
「あと、カイン様なんて他人行儀な呼び方しないで、せめてカインさんにして…。今日は、私の家に連れて帰ろうと思っていたけど、あなたの体調が良くないからまた来るね。」
そう言って、カイン…さんは帰っていった。そのあとはとりあえずご飯を食べて置いてあったら薬を飲んで寝た。明日の仕事がなくなるわけではない、早く寝て治さないと。
次の日の朝、全快した私は仕事をこなしていたが、そこにアナスタシアがやってきた。
「ちょっとリアリー、昨日はなんだったの?私の邪魔する気?使用人の分際でなんのつもり?」
「申し訳ございません。ただ介抱していただいただけでそんなつもりはありません。」
「そういうことじゃないのよ!使用人なのにカイン様に近づくことが分不相応だと言ってるのよ。」
「何?アナスタシア、何をしているの?」
「お母様、聞いてよ。この子が昨日来たカイン様に色目使ってるのよ。使用人のくせに。」
奥様まで加わって、この後、よくないことがあるとわかってしまう。
「やっぱり、血は争えないのかしらね。あなたの母親が死んでから私と結婚して旦那様が帰ってこないのってあなたの顔を見たくないからなのよ。あなたが母親に似ていないから、心のどこかで不貞を疑っていたんじゃないの?母親に似て色目を使うことを覚えているんじゃないの?」
「お母様の悪口言わないで。お母様は不貞なんかしてない!お父様も私の子を愛してくれていたもの!帰ってこないのは仕事が忙しいからです!」
「口答えしないでちょうだい。あんたを家に置いてあげているのは誰だと思っているの?」
バシッと、音がして頬を扇で打たれた。痛い。
「昨日、カイン様が帰る時にまた来ると言っていたけど、あなたは部屋にこもっていなさい。部屋の外へでるのは決して許しません、仕事もしなくていいわ。アナスタシアもわかったわね。」
「ええ、お母様。私のメイドに見張らせとくわ。」
奥様とアナスタシアは私を見て意地の悪い笑みを浮かべながら部屋に戻っていった。
そのまま部屋に戻って、ベッドに横になった。
「私は幸せになっちゃいけない運命なのかな…カインさんに会えて嬉しくてもっと一緒にいたくて、また会いに来るって言っていたのを期待しているのがそんなにダメなことなの?」
カインさんにもらった指輪を握りしめながらまた眠りについた。
部屋に閉じ込められたまま数日が過ぎて、ぶたれたところも元に戻って、早く日常に戻りたいと思っていたら、ドアがノックされた。
「入るわよ。」
奥様が入ってきて、この前の意地の悪い笑みを浮かべながら話しかけてきた。
「あなたをこの部屋から出してあげるわ。ついでにこの屋敷からも。」
「えっ?それはどういう…」
「物分かりも悪いのね。あんたの嫁ぎ先が決まったのよ、明日迎えに来るわ。それまでに準備しておきなさい。ちゃんと縁談に行けばあなたの母親の形見をあげるわ。逃げたら全部処分するわ、二度と誰の手にも触れられないように…」
そう言って、去っていった。
「えっ。嘘、こんなに早く?でもお母様の形見が……逃げたいけど、絶対に逃げられない。奥様はそれを見越して見張りをつけているはず。……執事長や料理長にお別れを言わなきゃ……」
ふらふらした足取りで2人にお礼を言って、また部屋に戻ってきてベッドに倒れ込んだ。
「…カインさん…会いたい…最後に一度でいいから会いたいよ…カインさん………」
指輪を握りしめながら呟いていた…。そうしているうちに朝になって、メイドがやってきて何年ぶりかと思うくらいに綺麗な化粧をされてドレスを着せられた。
あぁ、私はもうここには戻ってこれないんだ。カインさんにももう会えないんだ…
「馬車に乗ってください。」
「はい、でも少しだけいいですか。」
馬車に乗る前に後ろを振り向いて、一度だけ礼をして感謝を示した。
そこにアナスタシアと奥様がきて
「やっとあんたがいなくなるのね。清々しいわ。」
「私が嫁ぎ先を見つけてあげたんだから感謝しなさいよ。よかったわね行き遅れにならなくて。あ、これ、あの女のブローチよ。持って行くといいわ。」
アナスタシアがにやにやしながら、奥様がお母様のブローチを投げてきた。
あぁ、お母様、一緒にいてください。幸せにはなれないけれど精一杯生きます。
カインさん…最後に一度でいいから会いたかったな…まだ知り合ってそんなに経ってないのに会いたい気持ちでいっぱいになる…
指輪を握りしめながら目を閉じてカインさんの顔を思い浮かべた……
「カインさん…あなたに会いたい……」
目を開けて、馬車に乗り込もうとした時、
「ちょっと待った!リアリー!馬車に乗らないで!」
ずっと会いたかった人の声がする。幻聴かな……。足を動かして馬車のステップに足をかけたその時…
「だから待ってって言ってるじゃないか。よかった、間に合った。」
後ろから抱きしめられた。あぁ、この声は絶対にカインさんだ。…カインさんだ…体を捩ってカインさんを正面からだけ閉めた。
「カインさん、会いたかったです…数日前に知り合っただけなのに会いたくてたまらなかった。最後にあえてよかったです。…でも、私、行かなきゃ行けないんです。この指輪を返せないことは謝りますからこれだけは私に持たせてください。それだけでいいですから…さようなら、お元気で……」
あぁ、会えた…よかった。これで悔いなく行ける…。でもしばらくは忘れられないかもな…いつか良い思い出だったと言えるようになれるかな…
「だから、待てって言ってるでしょ。もう、俺のところにいて良いんだよ。どこにも行かなくて良いの。これからずっと一緒にいれるから、そんな顔しないで……おいでリアリー………」
カインさんがそんなふうに言いながら、優しい顔で手を広げているから……
「いいんですか?ずっと一緒にいれる?もう離れない?私は幸せになっても良いの?」
「うん、死ぬまでずっと一緒だよ。絶対に離れない。何も心配しなくて良い、俺が守ってあげるから。…一緒に幸せになろう、リアリー…」
「カインさんっ!…好き…。…好きなの…ずっと一緒にいて。」
「あぁ、リアリー。俺も好きだよ、愛している…ずっと一緒に生きよう。」
ほんとに幸せになれるんだ。この腕の中は安心する、私を絶対に置いていかないとわかる…あぁ、眠いな。寝てもいい……か……な……。
「おやすみ、リアリー。俺が守るから、安心してお休み…」
腕の中で眠りについたリアリーにキスをしながら絶対に離さないと抱きしめ直した。
***カイン視点***
〜数日前〜
リアリーと全然会えない。屋敷に行っても今日は体調が悪いとか、忙しいとかで会わせてもらえない。せめてもと思って、贈り物もしているし、手紙も書いているが一度も返事が返ってこない。
だが、いろいろ調べて行くと、リアリーは伯爵令嬢であることがわかった、彼女の本名はリアリー・リングドルク。何故そんな彼女が使用人のようなことをしているかというと、5年前に彼女の母上が亡くなっていることがわかった。しかも、そのあとすぐに再婚して、義母とアナスタシアという娘が屋敷に住んでいることがわかった。リングドルク伯爵は財務省の官僚であることがわかったため、急いで伯爵の元へ向かった。娘が虐げられていることを容認しているのなら伯爵家を潰そうと思うくらい目の前が怒りに染まっていた。
財務省の扉を乱暴に開けてリングドルク伯爵はいるかと聞いたら、普通に出てきた。こいつがリアリーの父親か?なんか匂いが違う。
「貴殿の御令嬢のことで話がしたいがいいか?」
「はい、大丈夫です。アナスタシアのことですよね。」
「いや、リアリー嬢の話だが。」
「おや?私の娘はアナスタシアだけですが…」
俺は戸惑った。これはおかしくないか?貴族名簿にもリアリーの名前はリングドルク伯爵家の長女として記載されていたはずだ。
「私が貴族名簿で見た御令嬢の名前はリアリー嬢でしたよ。アナスタシア嬢は再婚相手の連れ子だと記載されていましたよ?ちょっと調べさせてもらいますね。少しよろしいですか?」
「えぇ、それは大丈夫ですが…」
伯爵の身に付けているものを見てみると耳にピアスがされていた。だが…これは…数年前に禁止された魅了のピアスではないか?
「このピアスっていつ頃からつけている覚えているか?」
「これか?これは今の妻と会った時につけてほしいて言われてつけたんだ。いいデザインだろう?」
「これ取って見せてもらうことはできるか?このデザインで私も作らせようと思えるくらいいいデザインだ。」
そういうと、快くピアスを外して見せてくれた。ピアスが外れたら魅了は解けるはずだが…
「リングドルク伯爵、貴殿の御令嬢のことで話がしたいんだが…」
「えぇ、アナスタシアのこと…いえ、リアリーのこと…ですよね。おかしいな、アナスタシア?誰だそれは。」
「やっぱり、リングドルク伯爵。あなたは奥様を亡くした後のことを覚えていますか?何年経ったか覚えていますか?」
「えっと、妻が死んで街を彷徨っていた時に誰かに飲みに誘われて…飲んでいたらこのピアスをつけてと言われて怪しかったがどうでも良くなってつけた気がする…そのあとは…何も覚えていないな。今は妻が死んでまだひと月ほどだろう?」
「違います。あなたは魅了のピアスを使って操られていたようです。」
俺は、調べたこの5年間にあったことをかいつまんで教えて、今のリアリーの置かれている状況も教えた。
「なんてことだ。全然記憶にない。私はなんてことをしてしまったんだ。リアリーがそんな目に遭ってたなんて。」
「確実な証拠はありませんが、リアリーが使用人のようなことをさせられたり、暴力行為を受けているのはその母娘のせいだと思います。他のことも、今調べている途中で証拠集めをしている最中だから協力していただけませんか?彼女は、リアリーは私の『番』なんです。彼女を幸せにするために、危険なものは排除しなければならない…」
「わかりました。こちらこそ、よろしくお願い致します。カイン殿下。とりあえず、いつもの指示書に混ぜて屋敷内で行われている事や、行われているかもしれない犯罪行為について調べてみます。」
リングドルク伯爵との約束を取り付けて、証拠を集めて行くと、あの母娘が行っていた犯罪行為がわんさか出てきた。あと、使用人からの証言でリアリーへの暴力行為を行なっていたことも明らかになった。
「カイン殿下、失礼いたします!今朝、執事長からきた手紙によると突然あの女がリアリーの嫁ぎ先を決め、明日の朝出発するらしく、挨拶に来たとのことです。もう時間がありません。今すぐ向かいましょう。」
「ああ、ちょうど証拠も全て揃っていることだし、ついでに母娘共々牢屋にぶちこむとするか。騎士団への連絡は任せた。これを持っていけばすぐに騎士団を動かせる。」
「はい、今すぐに行ってきます。」
「私は一足先向かっている、準備が出来次第すぐに来てくれ!私の唯一に手を出したことを心の底から後悔させてやる。」
「ちょっと待ちなさいよ。この子は今から嫁ぎに行くのよ?いくら第3王子殿下といえども勝手な真似はご遠慮頂きたいものですわ。」
「ほう、それは伯爵の了承を得ているといことか?」
「えぇ、もちろん。旦那様にはいい縁だとお言葉をいただきましたわ。」
「私はそんな了承をした覚えはないけどね。あぁ、リアリー、やっと会えた。こんなに大きくなったんだね。」
突然の伯爵の登場で母娘は動揺している。
「何故、旦那様がここにいらっしゃるの?城でお仕事のはずでしょう。間違いなくそう命令したのに…」
「やはりな、これで言質が取れた。」
「んなっ!嵌めたのね!」
「嵌めたのはどちらだい?傷ついている私をたぶらかし、リアリーに寂しく、辛い思いをさせたお前たちを私は絶対に許せない。」
「そうだな。私の唯一であるリアリーへの暴力行為も万死に値する。それでなくとも、様々な犯罪行為の証拠が上がってきているからもう日の目を見ることはないだろうが。連れていけ!他の協力者も1人たりとも逃すことは許さん!」
「「「はっ!!!」」」
俺の命令で騎士たちが動き出し、あっという間に母娘は拘束された。
これで、俺たちが幸せに生きることができそうだな。腕の中で眠っているリアリーをもう一度強く抱きしめながらこれからの幸せな生活を思い浮かべていると。
「カイン……さん…すき……」
この世で1番愛しい俺の唯一が寝言でも俺への愛を囁いてくれた。
「俺も、世界で1番愛しているよリアリー。」
額にキスをしながらその寝顔を見つめていた。
***
私が目覚めた時には、全てが終わっていたようで、隣にはカインさんがいてくれた。
「リアリー、おはよう。」
カインさんの顔が近づいてきて唇にキスをしてくれた。とても嬉しいけど、同じくらい恥ずかしい。
「カインさん、おはようございます。」
布団に潜り込みながら挨拶をした。その時、部屋のドアが空いて、お父様が入ってきた。
「リアリー、久しぶりだね。元気にしてたかい?不甲斐ない父でごめんね…リアリーを守ってあげられなかった。」
「お父様、あの…私とお母様のこと愛していますか?嫌いになってしまいましたか?」
「っ、愛している。心の底から愛している。お前の母様もお前も心の底から愛している。5年間辛い思いをさせてすまなかった。」
お父様が涙を流しながら愛していると言ってくれた。とても嬉しい、私はちゃんと愛されていた。
「お父様、私好きな人ができました。こちらのカインさんです。ずっと一緒に幸せになりたいと思っています……認めてくださいますか?」
お父様は、また涙を流しながら
「もちろんだ。今までの分もこれからの分もたくさん幸せになりなさい。カイン殿下、娘のこと、どうかよろしくお願いします。」
「あぁ、もちろんだ。これ以上ないと言わせるほど幸せにして見せる。」
カインさんは、私の方に向き直って首飾りの指輪を手に取り。
「リアリー・リングドルク嬢、私、カイン・ボルテと結婚してください。どんな時でも一緒に幸せになろう。」
「はい、一緒に幸せになりましょう。」
カインさんは私の左手の薬指に指輪をはめてくれた。
「え?ボルテってまさか…でもさっきお父様も殿下って…え?それって…」
「うん、そうだよ。私はこのボルテ王国の第3王子だよ。でも、リングドルク伯爵家に降家する予定だから、リングドルク伯爵、それでいいよね?リアリーもリングドルク家でずっと暮らせるよ。」
「ええ、もちろんですとも。殿下に継いでいただけるなんて我が家は安泰ですね。」
「えっ、ちょっと待ってください。カイン…様は王子様で私は王家の仲間入り⁉︎」
「カイン様はダメだよ。これからはカインって呼んでね、敬語も禁止!確かにそうなるね。でも、大丈夫だよ。父上も母上も兄上達も賛成してくれてるから!もし何かあっても俺が全力で守るから大丈夫だよ、リアリー。」
とても綺麗な笑顔で優しく包み込むように言われ、カインとなら大丈夫だと思えた。
「ええ、あなたがいれば何も心配はないわね。大好きよ、カイン…」
私からキスをすれば、カインは、目をまんまるくして驚きながら私のことをぎゅうっと抱きしめてくれた。
「俺も大好き、愛してるよリアリー…」
最後まで読んでいただきありがとうございます。
自分的にはもっと溺愛感出したかったですが力及ばずです。
いつか、もっと番や、溺愛のシーンをリアリーとカインで描きたいなと思ってます!
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