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一生ポーターするつもり?

 

 雨でも降ったら大変だったが、何事もなく夜は開けた。

 重りを着けた糸から朝露が顔に滴り落ち僕は浅い眠りから覚める。

 

 ジェシカはまだ寝ている。生意気な口調とは裏腹に寝顔はあどけない子供の様だった。

 僕はそっとテントから荷物を取り朝食の準備を始める。

 燻っていた焚き火に薪をくべ、火を大きくする。

 朝ごはんは、パンと干し肉、鍋で卵を茹でパンの上に干し肉と共に乗せて完成。

 僕は再びテントを開け、まだ寝ているジェシカを起こした。


「はよ~~」


「おはよう、ご飯出来てるよ」


「はーーい」

 寝起きなのか子供の様に返事をするジェシカ、年は一体いくつなんだろうか? 見た目は子供と大人の中間あたり、少女といった所なんだけど。


 僕と同じ年くらいかなぁ……。

 裾が少し汚れたピンクのドレス姿のジェシカは焚き火を挟んで僕の正面に腰を下ろし、パンを上品に手でちぎり口に運んでいる。


「じろじろ何見てるのよ……」


「いえ……」


「ふん」

 目が覚めて来たのか子供から昨日のジェシカに戻った……。

 名前以外何も知らない女の子と一晩過ごすなんて……まあテントの外なんだけど……。

 でも自分の秘密を握る、この少女とこれからどうする?

 僕はポーター、出来る事は荷物を運ぶ事だけ……彼女を守る事は出来ない。


「それで、あんたこれからどうするの?」

 僕の思考を読んだ様なタイミングでジェシカはそう聞いてきた。


「……またギルドに行ってポーターを探している人を見つけるつもりだけど……」


「ふーーん、あんたさ、一生ポーターやるつもり?」


「え?」


「ポーターの地位向上って言ってた村は無くなったのよ、ポーターを専門職としてやってる若者なんて今は殆んどいない、ポーターはあくまでもパーティーの見習いとして皆やっているのよ」


「そんな……事」

 わかってはいた、専門職のポーターなんて今や殆んどいない。道案内に長けている者、薬草、薬の調合に精通している者、簡単な治癒魔法の使える者、戦闘のレベルが低い者等が見習いとして一時的に行っている職業。


 それにたとえ荷物を軽く出来る魔法を使えても、重さをかなりの割合で軽減する事が出来ない限り、身体に負担がかかる。ポーターが荷物を持つという事に関して、技術ではどうにもならない事が多い。年を取れば体力は落ちMPの体内量も減る。

 つまり運べる荷物も減りポーターとしての価値は激減する。

 体力が落ちるのは戦闘職も同じだが、単純作業が多いポーターの寿命はそれよりも遥かに短い。

 

 なのでポーターを一生やる者なんて今や殆んど存在しない。

 

「だから僕は……村を再興しようって、ポーターの村を……そうすれば、グラーブ村がまた出来れば、村にいた人達が戻って来るかも知れない、ポーターをやる人が増えるかも知れない……他にもポーターの仕事を教えたり、そこで物を売ったり……そうすれば……」


「……村を作るって、どれだけ(ゴールド)が必要かわかってる? まともな土地も無くて……、そんな金ポーターじゃ……パーティーを追放されている様なあんたじゃ、一生掛かっても出来ないでしょ?」

 

「──でも……でも僕にはそれしか……」

 わかっている……今、どんどんポーターの地位が下がっている。また同じ目に会う可能性も……次は命さえも……。


「……そっか……でも……村か……村作り…………ふーーん、成る程……良いかも……ね──面白そう」


「……え?」


「うん! いいわね村作り、あんたやりなさいよ」


「え?」

 

「そうね、土地は私がなんとかしてあげる、スポンサーになってあげるわ」


「え? えええええええ!」


「ふふふ、面白くなってきた」

 ジェシカは笑いながらパンの上の干し肉を囓り出す。

 まるで悪魔が、堕天使が食事を取るかのように凄惨に笑ってそれを食べていた。

 

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