喧嘩
「何考えてるの! 馬鹿なの? 呆れて物も言えないわ!」
サーベルタイガーが雑木林の中に消えていった途端ジェシカは凄い剣幕で僕に食ってかかった。
「いや、物言ってるし」
「うるさい! 揚げ足取ってる場合じゃない! あんたモンスターを取り逃がすどころか、怪我まで治すって、馬鹿なの? アホなの? 死ぬの? てか死ね!
今すぐ死んじゃえ!」
「あんまし死ぬとか言っちゃ駄目だって」
コンプライアンスに関わるし……。
「うるさいうるさいうるさい!」
「いや、うるさいのはどっちかって言うと、ジェシカの方だし」
「あんたね! わかってるの? あんたの魔法はとんでもないのよ! あんなモンスター簡単に殺れるのよ!」
「いや……そんなには……」
僕の魔法は無詠唱とはいえ、実戦で使える様なスピードは無いし範囲も狭い。
ちょっとでも素早い敵なら苦もなく避けれる僕の魔法にそんな価値はない。
これはポーターとして今までずっと後ろからパーティーの戦闘を見てきた経験から冷静に自己分析した結果だ。
「──そうね……戦闘員は非情であれ、でも……それが、その言葉が、あんたがパーティーを追い出された理由でもあるのよ、わかってるの?」
「……うん」
基本的にパーティー追放は一般的に認められている行為、役立たずがパーティーに居れば全員の命に関わるという理由だ。
「いつまでそうやって……好い人でいるつもり?」
「……」
「あんたはね、私を助けるべきじゃ無かった……非情にならなければ、死ねの、ここはそういう世界なの!」
「分かってる……分かってるさ! でも……僕は非戦闘員なんだ……だから僕は非戦闘員なんだ、だから僕はポーターなんだ」
「そんな事まだ……」
「何が悪いんだ! なんで戦わなくちゃならないんだ! 逃げる事だって重要だろ? 命を大事にしないジェシカに何が!」
僕がそういったい瞬間、ジェシカの顔が歪む……ジェシカの目が潤む。
「……ご、ごめん」
「……うっさい……もういい……死ね……」
ジェシカはそう言うと、とぼとぼとテントの中に入って行った。
何か言わなくちゃ……謝らなければ……そう思ったが……何を言っていいか、僕にはわからなかった。
「あのお……」
「うわ!!」
その時背後から突然声をかけられる。
「あのお……お取り込み中すいませんです」
「──びっくりした!」
「すいませんです……」
振り向くとどこかで見た事がある赤い髪の少年が僕の前に立っていた。
赤い髪で僕よりも、ジェシカよりも小さな身体の少年……。
「えっと……何か?」
周囲の罠は人間には分かる様にしてある。糸は既にサーベルタイガーに切られて地面に落ちている為、彼の村(予定地)への侵入は全くわからなかった。
「あのお、あのですね……お願いします! ここで僕に……道具屋をやらせて貰えませんか?」
「はい?」
まだ村も家も出来ていないテントだけの土地に……道具屋が出来てしまった。




