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 私はそのまままっすぐ帰宅したが、普通に歩いたつもりでいつもより帰るのに時間がかかってしまった。もう夜だ。作戦行動中は極度に緊張していたため、その影響が今頃出てきたのだろう。……私もまだまだ未熟だな。


 アパートの階段を上り自分の部屋の前まで来た時、私はなんとなく違和感を覚えた。そしてドアノブに手をかけた時、それは確かなものになった。


 ――鍵が開いている……っ!?

 確かに私は閉めて家を出たはずだ。実は忘れていたなど、強化人間である私がそんな勘違いをするはずがない。……まさか誰か中に居るのか?


 私は恐る恐るドアを開けた。そして、ごく短い廊下を通り部屋に入って明かりをつけた。すると。


「なんだこれは――っ!?」


 部屋の中央に、黒こげの何かが横たわっていた。よく見たら人の形に見えなくもないが、これが人なら腕の部分が欠損している。

 これが何かは分からない。元が人だったとして、顔の部分は焼けただれているため誰なのか分からない。

 ……だが、今日を振り返ってみれば心当たりがあるのじゃないか?


「まさか、これは永井の死体か……?」


「――ご明察。それは俺の死体だ。凄いだろ? あの爆発を受けてもまだ人の形を保ってるんだからな、自分でも驚きだぜ」


「――そ、その声はっ!?」


 突如背中から聞こえた声に、私は振り向いた。


「よお、随分驚いた顔してるな。そんなに俺が生きてるのがおかしいのか?」


 永井だった。振り向いたらそこには永井が居た。

 奴はいつも通り、私と茶番を演じていたあの時と同じ様に、相も変わらず全く問題なしにピンピンしていた。


「ば、馬鹿な……っ。お前は、し、死んだんだぞ……っ?」


「まあ確かにな」


「だが、お前は生きている……。確かにあの時、私と共に居たのは正真正銘本物の永井だったはずだ。強化人間の私が見間違えるはずはない……。だが、それでも現実はお前が目の前にいる……。わ、私が殺したのはに、偽物だったのか……っ!?」


「馬鹿言え。お前の言う通り、死んだのも本物だ」


「だ、だったら今目の前にいるお前と、この死体の説明は――」


「クローンだよ」


「……く、クローン?」


「聞いたことあるだろ? 髪の毛一本でもあればそいつのそっくりさんを作り出せるアレだ」


 ば、馬鹿な、そんなことが!? こいつ、いつの間にか自分のクローンを作り影武者にしていただと!? しかも学校からここまで死体を運んでくるとは、警察に見つかったら終わりだぞ!? いやそんなことより、これは……。


「……私たちの計画に気付いていたのか」


 でなければクローンなど作るはずはない。一体いつ、どのようにしてバレたのだ。今まで気づいたような素振りは、まったく見せなかったではないか。

 ……いや待て、思い返してみればあいつが居た。クソっ、やはりあの時始末しておくべきだった……っ!


「……川上から話を聞いたのか」


「ああ、あいつか。家に来たけど、そん時はあいつの自作自演だと思った。あいつ独占欲強いからな」


 ――どれだけ信用が無いんだ川上……っ!?


「そうじゃなくて気まぐれってやつか? 水島と中野があまりにうるさいもんでね。あのまま絶交って雰囲気のまま卒業しちまうのも後味悪いし、ちょいと聞いてみることにしたのよ。だからこの間の定期健診の時に、親父についでにやってもらったのさ」


 ……待て、定期健診の時だと? 定期健診といえば、委員会から情報の提供があった――。手術費用が相場の二倍かかったというのも、実際には男性器の手術ではないから、より費用がかかったのか――っ。してやられた!


「……ま、まさか、男性器の手術はカモフラージュで、実際にはクローン手術を――」


「いいや、ちんこの手術は手術で受けた。クローンが居る分、費用が二倍かかっちまったが」


 二倍かかったのはそういう理由か――っ!?


「しっかし、クローン作っといて本当に良かったぜ。ま、水島と中野には感謝するがそれでも、最終的に二人の意見を聞いてあげた俺様の度量のデカさが生き残らせたっていうか?」


 チッ、こいつ踏ん反り返って偉そうに。得意でいられるのも今の内だっ!


「……だが、クローンはそこの死体だけなのだろう? 男性器の手術は二人分しか払っていないのだから」


 そうだ、もう他にクローンは居ない。いや、クローンが何体居ようと変わりはない。私の使命は永井一を殺すこと。ならば今、目の前にいる本物の永井一をまた改めて殺そう。例え実力が劣っていようとも、私は成すべきことを成すだけだ――っ!


「……ちょいと待ちな」


「ふ……、今更命乞いか?」


「訂正させてもらうぜ。死んだのはクローンじゃない。オリジナルの方だッ!」


「…………は?」


「いくら水島と中野の言うことを聞いたからって、二人の言ってることが勘違いかもしれないということを忘れたわけじゃない。だから俺は、本当に香木原が俺に惚れていた場合のことを考えて、デートはオリジナルが臨んだのさ。『オリジナルより先にクローンがエッチするなんて許せねえッ!』とオリジナルは言っていたぜ」


「――じゃあ、お前はすでに死んでるじゃないかっ!?」


 クローンに任せず、嫉妬とエッチしたいという気持ちでオリジナルが命を落とすなど正真正銘の馬鹿だっ! 命よりエッチが大事かっ! そんなに私とエッチがしたかったのかっ!


「いいや、俺自身も『オリジナル』とかこんな言葉を使っちゃいるが、オリジナルとかなんとかいうのはコピー元の理屈だ。クローンの俺から言えば、記憶も能力も価値観もまったくの生き写しである二人を、どっちが本物とか偽物とかいうのはナンセンスだね。全く同じなら、全く同じ存在が二つあるというだけの話だろう?」


 ……くっ、なんだか哲学的な重めの話も、永井の選択が馬鹿すぎてイマイチ頭に入ってこない……っ!


「まあ、そんなことはいいんだ。それより、お前は貧乳なのに巨乳と偽り俺の命を狙った」


「だから?」


「巨乳と偽った罪は重い。そして俺は貧乳には甘くない」


 ――そっちかっ!


「だったらどうすると言うんだ? 私を殺そうとでも?」


「いいや、お前には巨乳化薬を投薬し巨乳になってもらう。そして罰としてメイド服で、一生俺にご奉仕するんだ」


「――メ、メイド服だと……っ!?」


「いや、あえての割烹着もアリかぁ……?」


「――あ、あえての割烹着だと……っ!?」


 くっ、この数週間共に過ごすだけでも苦痛だったというのに、そんな真似死んだ方がマシだっ! 絶対に、そんなこと許して堪るかっ!

 私は次の瞬間、永井に飛びかかった。

 永井は私のメイド姿などを妄想していたため、防御を取れずに倒れた。さらに私は永井に馬乗りになり、思いっきり首を絞めた。


「がはぁっ――」


 しかし、次の瞬間私は腹部に鈍い痛みを感じた。


「へへ、甘いな。お前はどうか知らねえが、俺ほどになると首を閉められようがビクともしないんだわ」


 永井は涼しい顔でそう言い、また一撃私に食らわせた。


 ……そ、そんな――。


 意識が段々と遠のいていく中、悔しさだけは最後まではっきりしていた。

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