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 二週間ほど前のある日、その日の強化人間用訓練を終えた私は、機関の最高委員会の方々に呼び出され、彼らの会議に出席した。

 会議と言っても、私はすでに決定されたことを伝えられただけだったが、私はそこで使命を帯びた。

 私はそこでためらいなく「はい」と答えたのだが、内心少なからず動揺していた。 


「永井一を暗殺せよ」


 それが私に課せられた使命だった。


 私は、少しの間の後「しかし、何故ですか?」と質問を返してしまった。

 これは私がまだ暗殺者として未熟である証とも言えるかもしれない。しかし、殺す理由がいかなるものであろうと、この時の私は揺らぐことなく必ず永井を殺すつもりだった。

 ただ純粋に、同じ組織が生み出した、言わば仲間であり商売道具でもある強化人間の最高傑作を、何故殺す必要が生まれたのか疑問に思ったのだ。まあ、言い訳をしても、指令に衝撃を受けたということは変わらないのだが。


「……いいだろう」


「ありがとうございます」


 私は頭を深く下げた。数秒の後、私が顔を上げると委員会の方々はおもむろに口を開いた。


 さあ、聞かせてもらおうか、お前が何をしでかしたのか……っ!


「彼の素行には前々から問題があった。しかし、彼が我々の作り出した中で最高の傑作であるため、多少は大目に見てきた。学校に通うことも許した。だが、彼が任務もせずに学校で何をしているかと思えば――」


「何をしているんですか?」


「巨乳美少女のナンパばかりをする」


「は?」


 あの強化人間の最高傑作が、か……?


「それも『不良に女は弱い作戦』や『白馬の王子様作戦』などの、到底実現不可能な作戦ばかり繰り返している」


「頭おかしいんじゃないですか?」


「そう! 我々もそう思ったんだよねぇっ」


 委員会の方は、私と意見が一致したのが嬉しいという感じに手を打った。


 ……中々お茶目だな、中年男性の割に。


「しかも、そのために機関の財産や武器を勝手に使ったり、引き受けた仕事を『巨乳美人だから殺せない』などと言って機関の信用を落としたり、いい加減目に余る」


「なるほど」


 今まで永井一について私が知っていたことは、彼が強化人間の最高傑作であるということだけだったが、どうやら評価を改めなければならないらしい。


「それに君も知っての通り、機関も一枚岩ではない。君の様に、永井研究所以外の出身の強化人間も今ではかなり増えてきた。それらは、性能的に永井一と遜色ないと我々は確信している。ならば、手に余る不良品を一つ失う程度の事、最早痛くも痒くもないというわけだ」


 さらに別の一人が言う。


「さらにはこれは君の実施テストでもあり、また香木原研究所が永井研究所を上回ったのかの確認でもある」


「なるほど、承知しました」


 これは負けられない。なんとしても永井を殺してやる。あいつが巨乳美少女好きとかはどうでもいい。これが永井研究所と香木原研究所の対立だというのならば、私は香木原お父様のために絶対に負けるわけにはいかないのだ。




「――この話はこれくらいで良いだろう。では、暗殺の詳しい計画を伝える」


「はい。御話しいただき、ありがとうございました」


「それでその内容だが、永井の巨乳美少女好きとあの突飛な発想を利用する。君には、永井が君に惚れるように働いてもらう」


「……と、いいますと? 私は、見ての通り貧乳ですが……」


「確かにそうだが、君ほどの美少女は機関には居ない」


「……光栄です」


 容姿をお偉方に褒められるのは、正直嬉しい。しかし、私ではやはり今回の計画には半分適当だが半分不適当なのでは?


「なに、案ずることは無い。解決策は用意してある」


「そうですか」


「それより最後まで聞き給え。永井を惚れさせたあと、君には永井を爆殺してもらう」


 殺害方法まで指定されるのには理由がある。

 永井ほどの強化人間ともなると、普通のやり方では死なない。特別な武器か殺害方法を要する。それが無ければ、たとえ同じ強化人間といえど、私には永井を殺せない。


「爆弾は小型だが、永井を殺すほどの威力のある高性能なものを開発済みだ。製造もすでに開始されている。しかし、いくら高性能と言っても至近距離で爆発させなければ、確実に殺害することは難しいだろう。そこで、永井の油断を誘い、君が彼に接近する方法を伝える」


 一体何だというのだ。私は唾を飲み込んだ。

 永井の頭がいくらおかしいと言っても、能力自体は本物だ。彼を油断させ接近するなど、どんな方法があるというのか。


「これを見給え」


 その声と同時に、別室から女がキュルキュルとワゴンを押してきた。ワゴンの上には、口で言うには憚られるものが載っていた。

 かなり大きいが、こんなものを使うのか……っ!?


「……あのー、これ、おっぱいですよね……?」


「如何にも。それは付けおっぱいだ」


「……あの、本当ですか? 本当に、これで大丈夫なんですか?」


「疑っているのか。なに、案ずることは無い。君も永井と同じく、認識能力を使った鑑定ができるはずだ。この付けおっぱいを能力を使って見てみ給え」


 何を言うのだこの中年は……。

 しかし、私は立場上、上には逆らえない。私は半信半疑ながら、能力を使いワゴンの上に横たわる付けおっぱいを凝視した。すると。


「――な、なんだと、こ、これは本物のおっぱいだ……っ!」


 ば、馬鹿なっ!? 本物のおっぱいを切除したのかっ!? だが、それでどうやって保存を!? 今ワゴンの上に横たわるおっぱいは剥き出しなんだぞ……っ!?


「くくく……。その表情、驚いているようだね。やはり、上手く作れたようだな」


「作れた……?」


「これは、強化人間でさえ見間違えるほど精巧に作られた、特殊素材性の付けおっぱいなのだよ。そこら辺のシリコンやラバー製の、粗悪品と一緒にしてもらっては困る。無論、揉んでも本物そっくりの揉み心地だ。むしろ本物以上の吸いつくような極上の揉み心地を味わえる」


「お、恐れ入りました……。と、いうことは、このおっぱいを付けて巨乳と偽装し、永井の油断を誘うということでしょうか?」


「その通りだ。だが、一つ訂正させてもらおう」


 私は何か間違っていたのか?


「巨乳ではなく爆乳だ」


「は、はあ……」


 どうでもいいーっ!


「今『どうでもいい』と思っただろう。だが、これは重要なことなのだ。この付けおっぱいは、永井の油断を誘うためだけに作ったのではない。この付けおっぱいには空洞部分があり、そこに先ほど言った高性能爆弾を詰めるのだ。つまり爆弾と爆乳の『爆』が掛かっているというわけだ。がははははっ!」


 この中年、これで機関の最高委員会なのか……っ!? いや、今はそれよりも……。


「……今の仰り方の感じですと、そのきょに――っば、爆乳おっぱいに爆弾を詰めたまま爆発させるのでしょうか?」


 とすると、私もろとも吹き飛ばしてしまうのではないか。別に死ぬのは怖くない。強化人間となった以上、いつかは凄惨な死を迎えることは覚悟していた。しかし、まさか最初の仕事でいきなりとは……。


「案ずるな。さすがに強化人間を一度に二体も失うわけにはいかん。この爆乳おっぱいはワンタッチで着脱可能だ。永井が爆乳おっぱいを揉んできたら切り離して、君は安全圏まで逃げるがいい」


 なるほど、私の命に問題は無いらしい。だが。


「しかし、お言葉を返すようですが、それには問題があります。私が逃げ切れるまで爆発に猶予があれば、永井は揉んでいる爆乳おっぱいを捨てるでしょうし、捨てる前に爆発させれば私が逃げる時間はありません」


 これに、委員会の方々はお見通しと言わんばかりに笑った。


「それに関しても案ずることは無い。爆乳おっぱいには強力な磁石も内蔵されている。この磁石が永井の腕に仕込まれているナノマシンと強力に反応して、彼の手から決して離れなくなる」


「……そういうことなら安心です」


 私は少し複雑な気持ちになった。

 というのも、私の体にはナノマシンは搭載されておらず、そのせいで能力的に他の強化人間より劣るところがある。しかし、永井はそのナノマシンのせいで今回、死――爆乳おっぱいから逃れられなくなったのだ。


「――よし、これで殺害方法について大まかな説明はできたな。では次に、如何にして永井の油断を誘うか、これもこちらから細かく指定させてもらう」


「作戦の成功の確実性を上げるため、分かっています」


「宜しい。だが、これはその都度その都度状況を見て指示を出すので、今は最初に君が取るべき行動のみを伝える」


「はい。お願いします」


 それは何なんだろうか。まあ、付けおっぱいとか出てきたし、次もどうせ碌でもない指示だろう。


「君には食パン咥えながら『遅刻、遅刻』と言いながら曲がり角を飛び出してもらう」


「フっ、どうせ、そんなことだろうと思ったよ」


 なるほど、その意図とはなんでしょうか?


「我らが機関のスーパーコンピュータがはじき出した未来予測によると、永井は君に『少女漫画のような出会い作戦』を展開するとの結果が出たのだ。だから、それを逆手に取ろうというわけだ。……ところで、君、セリフと思ってることが逆になっていないか……?」


「ちっ、うっかりしていた」


 も、申し訳ありませんっ! どうかお許しくださいっ!


「……まあ、良いだろう。だが、改めて言っておくが、これはあくまで永井の特性を逆手に取るために講じたのであって、我々が本気でこのような価値観を持っているわけではないということを、誤解しないように」


「はい。心得ています」


 そ、そうだよな……。機関のトップの頭がこんなに飛んでるはずはないな……。


「本当に本当だぞ? 本当だからな?」


「は、はいっ」


 どれだけ体面を気にするんだ……。


「この作戦によって永井は君に惚れるだろうし、さらに君が永井に惚れたふりをすることによって、永井の気が緩み最大の隙が生まれるのだ! この作戦の意義は、内容からは想像できないほど大きいのだよ!?」


「はい、それはもう分かりました」


 しつこいな……。


「それでは、現時点で伝えるべきことは全て伝えた。戻って宜しい」


「はっ、それでは」


 私は敬礼した。


「君の行動開始は二週間後だ。成功を祈っているよ、No.7香木原七菜。必ずやNo.1永井一を殺すのだ」


 私は退室した。

 自分の部屋に戻る途中思った。

 私の初めての仕事がこんなみょうちくりんで良いのかとも思えたが、仕事は仕事だ。そこに何も違いはない。

 私は気を引き締め、必ず永井を殺すと心に決めた。


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