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 俺が考えていると、はしゃいでいた水島はふと疑問を呈した。


「……なあ永井。なんだってお前は俺にこんなヒントをくれたんだ?」


 ぎくり。確かに、俺たちは推理バトルで競っているってのに、敵に塩を送る真似をするなんて俺らしくなかったかもしれん。俺は咄嗟に言い訳を考え、水島に耳打ちした。


「……実のところ、俺にもこれ以上のことは分からなくてな。こっから先は実際に検証してみるつもりなんだ。だが、実際に検証するとなるとお前に隠せないだろ? だから先に教えといたのさ」


「なるほど、そういう訳か」


 水島は納得してくれた。なっとまあちょろいこと。

 さて、これから先の展開は俺が検証なんて言っちまったせいで、塩沢に色々やってもらうことになるだろう。まあ、俺の口からそんなこと言わなくても同じ流れになったかもしれんが。

 ただ、ここで一つ問題なのが、その検証をあまりやりすぎてはいけないということだ。ただただセクハラがしたいんだったら、欲望に身を任せるのも悪くはない。

 だが、俺は彼女と恋人になりたいのだ。いくら彼女を救うためだったという大義名分があっても、やりすぎると彼女は許してくれないだろう。

 実際、前回のおっぱい演説は西城を助けたが、アレのせいで西城は彼女になってくれなかった。そういう苦い経験がある。ここは慎重に、バランスを見極めないといかんところだ。


 そしてその調整が早速必要になった。

 水島はウキウキした表情で言った。


「それじゃあ、まずは脱いでもらおうか」


 こ、こいつ、いきなりぶち込んできやがって……っ。


「待て、水島。塩沢も脱ぐ必要はない」


「何故?」


 俺が止めると、水島は不服そうな顔で言った。俺はもっともらしい理由を説明する。もちろんそれはでっちあげだ。


「塩沢の制服をよく見てみろ。脱いでからまた着たにしては整い過ぎている。犯行は俺が図書室を離れてから、ここに来るまでの間の短時間に完遂された。もし、裸によって細田に鼻血を出させたとしたら、その後、相当急いで服を着なくちゃならない。当然服も乱れる。だがそんな形跡は無いぜ?」


 俺の説明に、水島と貧乳女三人衆は神妙な面持ちで耳を傾けた。俺の説明が終わると水島は口を開いた。


「それならこういうことだろう。完全に脱がなくとも胸の谷間くらいは見せられる。ボタンを一つか二つはずだけだからな。それに、もう一つあるぜ――」


 水島は一度振り上げた腕を振り下ろして、塩沢の腰辺りをビシッと指さした。


「パンツだ! スカートをたくし上げてスカートを見せたんだ! これなら着崩れることもない」


 これに貧乳女三人衆は「おー」と感心する声を出したり、納得したようにうなずいた入りした。この反応に満足したらしい水島は、にんまり笑ってさらに続ける。


「それに、たくし上げじゃなくても、あるいは落とした物を足を曲げすに、腰を曲げて拾ったとかな。そうすれば後ろから尻が丸見えだぜ」


「へえ、中々やるじゃねえか」


 俺は推理を連発する水島に拍手を送った。

 この連発に関しては、素直に感心するところだろう。『パンツを見せ鼻血を出させ気絶させた』という内容でなければもっと良かったがな。

 しかし、俺は「だが――」と続けた。全裸ほどじゃ無くとも、パンツを見せろというのはれっきとしたセクハラだ。止めておきたい。


「水島、一つ見落としちゃいけない大事なことがある。それは細田が写真部部長だということだ。写真部といえば盗撮で有名、そんな奴が女子の生パンツを見たくらいで鼻血を出して気絶するかな?」


 しかし、俺の問いに水島は「チッチッチ」と舌を鳴らしながら、人差し指を左右に振った。


「へっ、永井お前らしくねえ愚問だな。確かに、そんなウブな野郎じゃ盗撮写真は撮れねえ。だが、塩沢の下着が普通じゃないとしたら? ――いや、あるいは、はいてなかったとしたら?」


 ちっ、今日の水島はやけに鋭いぜ。俺のもっともらしい引っ掛けにかからないとは。


「それに、例えはいているパンツが客観的に見てエロくなくとも、細田の好みドストライクだったら、細田は鼻血の出し過ぎで気絶することもあり得る。確認する価値は十分すぎるほどあるぜ。さあ、パンツを見せてもらおうか塩沢!」


「ちょっと、だからそういうのは――」


「いいや、ここで見せてハッキリさせた方が良い」


 堪らず小川が止めに入るが、虚しくもそれは水島を止めるには至らなかった。

 塩沢はため息をついた。


「……良いわ。見せてあげる。でもあんたが期待するようにはならない。ただ私の無罪が証明されるだけ」


 そう言って塩沢はスカートをたくし上げた。水島は、そして俺も食い入るように彼女の股間を見る。

 ついに、彼女のパンツが露わになった。それはごく普通の形状で、色はグレーだった。

 全然エロくなくて、俺は内心がっかりした。イメージ的には青系の紫でレースとかが付いていて欲しかった。


 そして塩沢は冷たく言った。


「これで分かった? 写真部部長ともあろう人が、これで鼻血を出すことはないでしょう?」


 確かに形状も色もありふれている。仮に、これが細田の好みドストライクだったとしたら、あいつは毎日保健室通いになっちまうが、そんなうわさは聞いたことが無い。

 だが、水島は諦めない。


「だったら今度は、後ろを向いて足を曲げずに床に落ちている物を拾おうとするんだ! ひょっとしたら食い込んだりするかもしれんし、前からでは分からないがTバックだったりOバックだったりするかもしれん!」


 この指示に、塩沢はまたもため息をついて渋々従った。だが、そのありふれたパンツは後ろの形状も至って普通で、また塩沢が落ちている物を拾うために屈んでも食い込むことは一切なかった。


「な、なんだと……。おい永井、これじゃやっぱり凶器をどっかに隠し持ってる方が現実的じゃねえか? いったいどうやって塩沢は細田に鼻血を吹かせたんだよ!?」


 水島は取り乱した。このままでは、せっかく話を色気の方に逸らしたのに、また凶器探しに逆戻りしちまうかもしれん。何とかして繋ぎ止めなくては。

 俺は落ち着けと言わんばかりに水島の肩を叩いた。そして、またもや大層な理屈をこねくり回す。


「いや待て水島。ちと考えてみたんだが、確かにあのパンツでは、ただ見せただけでは鼻血は出ねえ。だが、パンツってのはただ見せるだけじゃねえ。見せながら塩沢は、何かさらに別の仕草を加えてエロスを増していたかもしれねえぜ……。

 例えば、ただスカートをたくし上げてパンツを見せるにしても、それが恥ずかしがっているか恥ずかしがっていないかでエロさは天地の差だ。他には嫌な顔をしながらとか、逆に笑顔とかも考えられるが、とにかくそういうフェチ要素があったに違いねえぜ」


「な、なるほど、その手があったか……っ! 例えば、ミニスカの女がしゃがんでパンツが前から見える時、女が足を閉じているか開いているかでも感じ方が変わってくる――そういうのもあり得るよな……っ!」


「ズバリだ」


 こいつ、なんでこれで納得しちまうんだ。


「それにこいつはパンツだけに限らねえな。一番最初に出てきた、谷間の話にも適用できるぜ。ただ谷間を見せるんじゃなく、例えば谷間に挟まったものを取ってくれと頼むとか」


「おお、よく分かってるじゃねえか! その調子だぜ水島!」 


 このままだとこれは推理じゃなくて最早ただのエロ談義、自分のフェティシズム披露大会になっちまいそうだが、やむを得ないな。

 第一、エロ過ぎて鼻血を出して倒れたなんてホラを信じる水島が悪いのだ。フェチ要素の話だって、本当にそれで人が倒れるんじゃこの世界はお花畑過ぎるぜ。


 水島は俺に乗せられて、ヒントを得られたと喜び顔になったが、少ししてその表情は冷静なものになった。


「……だが永井、浮かれてばかりも居られねえな。俺たちは細田の好みを知らねえ。細田がどんな仕草に興奮するのか分からなくっちゃ、当てずっぽうになっちまうぜ」


「それは確かにお前の言う通りだが、それでもできる限りのことはしなくちゃあ。その分からない事を推理するのが、探偵の仕事だぜ?」


「まったくだな」


 水島は小さく笑ってから、顎に手を当て考え事を始めた。細田が何に興奮するのか推し量ろうというのだろう。

 ご苦労なことだ。自分で推理するのが探偵の仕事と言っておいてなんだが、他人の好みなんて何のヒントも無しに当てることは不可能だろう。考えるだけ無駄なことだ。

 まあ、俺は俺でこの時間を利用して次なる嘘――いいや、もう話をどうやって締めに持っていくか考えちまおう。早いところ、この茶番劇を終わらせたい。

 このまま嘘を考え続けるのもいつまでもつか分からんし、何故か皆気付いていないが細田の目が覚めたら推理も糞もねえからな。真実が明るみになり、塩沢を守れなくなっちまう。つまり塩沢の好感度も得られなくなっちまう。


 それから五分ほどして、水島は口を開いた。おそらくだが、これ以上何もしゃべらない時間が続いたら貧乳女三人衆がうるさかっただろう。


「……俺はやはり、食い込みだったと思う」


 なるほど、パンツの食い込みと来たか。それが水島の導き出したフェチ要素、細田の好みだというわけか。

 そういえば、水島はこのフェチ要素の話が出る前から、食い込みには言及していた。水島自身食い込みが好きで、食い込みのエロさに自信があるから、きっと細田も食い込みが好きだと考えたのだろう。

 しかし、それに反論する者が居た。


「で、でも、さっき見た時、美玖ちゃんのパンツは食い込みませんでしたよ?」


 意外にも水島に反論したのは小川だった。

 確かに、小川の言い分はもっともだ。だが、一つだけ食い込みを可能とする方法がある。俺はそれにすぐに気付いた。その方法は水島の口から明かされた。


「確かに塩沢が屈んでもパンツは食い込まなかった。だがな、俺の出した答えはこうだ。――パンツはあらかじめ食い込ませてあった! そして後で証拠隠滅のために食い込みを直したんだ!」


「そ、そんな……っ! ち、違うよね……? 違うって言ってっ!」


 水島の答えを聞いた小川は塩沢の顔を見た。

 塩沢はため息をつき、そして答えた。


「違うけど」


「……良かったぁ」


 小川は塩沢の返答にホッと胸を撫でおろした。いや、小川なんでそんなマジになってるわけ? 水島の推理に一理あるって感じちまったのか?

 しかし、水島は塩沢の返答に異を唱えた。


「いや、それはきっと嘘に――」


「――もうよせ水島。証拠がねえ」


 俺は水島を止めた。しかし、


「だから、証拠が無いのはあいつが証拠隠滅したからで――」


 水島はそう簡単に下がらなかった。

 どうやらもう潮時、俺の推理(でっち上げ)を披露する時が来たらしい。

 散々証拠がねえなんて水島の推理に言っておきながら、俺の推理も証拠は何一つねえ。そりゃでっち上げだからな。皆が信じてくれるかちょっと怖いが、やるしかねえ!


「だがな水島、お前一つ忘れてねえか? 細田が写真部部長だってことをよ。盗撮してたら、パンツの食い込みくらい見慣れてるだろ。仮に細田が個人的に食い込み好きだったとしても、慣れてるもんを見て鼻血を出すかな? 実際、お前だって食い込みを見て鼻血を出すか? ぶっ倒れる程だぞ?」


「た、確かに……」


 ようやく水島も引き下がってくれたか。俺は水島が「しかし」なんて言い出さないうちに、自分の推理の披露を始めた。

 これでこの茶番を終わらせてやるぜ。結構頑張って考えたんだから、皆納得してくれよ。


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