7(終)
俺と中野は城ケ崎を連れて、学校を出た。横道に着くまでの間逃げられない様に、ドラマとかのスパイや敵兵連行に倣って、俺は銃口を常に城ケ崎の巨乳にぐりぐりと押し付けて歩いた。
道中俺はそんな気持ちを漏らした。
「いやあ、こうしてると戦争ものとかスパイものとかの、連行シーンみたいだよな」
これに城ケ崎が反応した。
「そういう時って普通頭か背中でしょう。胸に突き付ける下品なのは三下が――冷たっ! ああ! 撃った! 勝手に撃った! しかも胸に! ちょっとヤバいって! ブラも溶けてるんだけど! しかも液体だから染みてきて、被害範囲が広がって来てるんだけど!」
「うるせえ! 誰が三下だ誰が!」
俺はもう一度引き金を引いた。
「ち、ちょっと謝るからもうやめて! このままだと大事なところも見えちゃうから……っ!」
城ケ崎は赤面して恥ずかしそうに言った。ほうほう、大事なところって何なのか、ちょいと本人の口から聞きたいところでありますなあ? いや、これはさっきまでの話の流れを汲むと、スパイに対する尋問みたいなもんでありますよ。
「永井、我輩としても誠に残念ではあるが、もう目的地に着いてしまったぞ」
「あらそう?」
夢中になっていて気が付かなかったが、いつの間にか例の横道の入り口に到着していた。
さておふざけはここまでだ。ここからは作戦の特に大事な段階、気を引き締めてかかるとしよう。
さあ、気を引き締めて城ケ崎と中野共々横道に入ると、奇妙な光景を目にした。山中が泣きながら水島の腰辺りに抱き着いていた。
「ねえ、いい加減私を叩いたり殴ったり蹴ったりしてよ!」
その山中の縋る場面というのを実際に見たのはこれが初めてだったが、水島が疲弊するのも一発で頷けた。実際何度も断っているのに、こんな泣きながら抱き着いてしつこく頼み込んでくるなんて気が滅入るぜこの俺でも。
ま、ここで城ケ崎の出番ってわけだ。上手く行けばこの恐ろしい山中が城ケ崎に憑りつくわけだが、城ケ崎ならその後も上手くやってくれるだろう。
「……それで私をこんな所に連れてきて、何をさせようというの?」
城ケ崎はここで当然の疑問を口にした。そういえばここに連れてきた理由を、まだ説明していなかったことを思い出した。
「あの話覚えてるか? お前にはここで山中を殴って欲しい」
「その話まだ生きてたの!? そ、そんなの嫌に決まっ――分かった分かった、やりますやります! だからその水鉄砲をこっちに向けないでっ!」
「そうかそうか、協力してくれるか。感謝するぜ。いや、こんな方法を取るのは悪いと思ってるんだ。だが、何分こっちも後が無くてな、どんな手でも使わにゃならんのさ」
「……回りくどくない? どんな手でも使うんだったら、直接山中さんを排除すれば良いんじゃないの?」
「あ」
た、確かに……。Sでレズな女の子の当てが城ケ崎しかいなかったもんで、つい城ケ崎をどんな手を使っても味方にするという方向で考えてしまったが、どんな手でも使えるんだったらその必要もないのか……。
「あ、それは我輩も思ってた」
いや、気付いてたなら言えよ。
「いやあ参った参った、盲点だったぜ。で、でも、やっぱり女の子に暴力ってのは気が引けるからな。まあ、手段は選ばない(割と選ぶ)ってことよな! ははははは!」
「……ねえ、私に対するアレは暴力じゃないなら何だったのかしら……?」
城ケ崎の声には確かに怒りが込められていた。そうだな、何か言い訳を考えようか。暴力じゃなかったらセクハラ? いや言い訳になってないな。
「まあ良いじゃねえか。それより早く頼む。水島から山中引きはがすのは俺がやるからさ」
そう言って俺は城ケ崎の返事も待たず、山中に近づく。そして十分近づくと、後ろから彼女を水島からひっぺがした。
「助かったぜ永井」
「礼はまだ早いぜ水島。さあ、城ケ崎後は頼むぜ」
俺は城ケ崎と山中を交互に見た。山中は俺に水島から引き離された後、まだ立ち上がれず座り込んでいた。彼女は周りを確認するようにきょろきょろしていた。
「城ケ崎さんに永井君、それと中野君!? いつの間に!? ……ていうか城ケ崎さん、どうしたのその服?」
どうやら山中は俺に引きはがされて、初めて俺たちの到着に気付いたらしかった。周囲に全く気が向かないなんて、どんだけ水島に殴って欲しかったんだよ。
しかし引いてばかりも居られない。俺は物事を進める。
「驚かせて悪かったな山中。今日はお前に、新しい恋人を紹介しようと思ってな。きっと水島よりずっと良いぞぉ? 何せそいつはお前を殴ってくれるんだからな」
すると山中は苛立たしげに答えた。
「もういい加減にしてくれる? フィーリングが大事って言ったでしょ? それに永井君も中野君も合わないって前に言ったじゃない!」
「いや違うんだ。俺たちじゃない。今回はこの子、城ケ崎だよ。じゃじゃーん!」
俺はここで今までずっと露出していた城ケ崎を、たった今出したかのように披露した。
「いよいよ出番だ城ケ崎、さあ思う存分殴ってくれ!」
俺が言うと城ケ崎は観念したかのようにため息をついた。ついに俺の思いが通じたか!
「分かったわ。望み通りにしてあげる」
「いやあ、助かる助か――ごおぉろぐあッッッ!!! ま、待て! 殴るのは俺じゃない!」
「えー? 何ぃ? 聞こえなーい」
そう言いながら城ケ崎は殴る手をやめない。さらには完全な不意打ちだったため倒れてしまった俺に、馬乗りになりマウントポジションを取った。それでもなお殴る手を緩めない。う、うらみを買い過ぎたか!?
ちい、これじゃ作戦失敗だ! 山中を殴らないんじゃ城ケ崎の暴力には何の意味もない。
――だがな、いい気になるなよ! おっぱいと尻がデカいことを除けば城ケ崎は普通の女子高生。そんな奴のパンチをいくら喰らおうが、強化人間の俺にダメージなんて入らない。ここから起き上がって逆にマウントポジションを取り返してやる!
そう思った俺が体に力を入れようとした矢先――。
「待つんだ永井!」
水島が俺を止める。
「な、何故、ぐふっ、止める! ごえっ! こ、このまま俺が殴られ続けても、がはっ、い、良いのか!? ぼえっ!」
「山中の顔をよく見ろ!」
そう言われて、俺は首を横に傾け山中の表情を確認する。
な、なんだ山中の恍惚とした顔はっ! 恍惚としていた! ときめいていた! 瞳が潤んで頬は紅潮していた! アレはまさしく恋する乙女の顔に他ならなかった!
俺が驚いたのもつかの間、山中は城ケ崎に抱き着いた。
「な、なんなの!?」
突然のことに城ケ崎は狼狽え、拳を止めた。そんな城ケ崎に山中は甘える様に甘ったるい声で話しかける。
「ねえ城ケ崎さん……私あなたに惚れちゃった」
「ちょっと、冗談はやめて!」
「冗談じゃないわ。私、実はドMなの。今の城ケ崎さんの鬼気迫る表情を見て、私ときめいちゃった。その顔で思いっきり殴られたら、きっと気持ち良いだろうなあって……」
山中は至って真剣な眼差しで言ったが、城ケ崎の表情はどんどん青ざめていった。
「勘弁してよぉー!」
城ケ崎はこれに悲鳴を上げ、山中の腕を振りほどいて全力疾走を始めた。逃走だ。
「待ってー! 城ケ崎さん、私を殴ってぇ!」
そして山中も、それを追いかけて走り去っていった。
そしてここ、俺たち男三人には嵐が過ぎ去ったかのような静寂がもたらされたのだった。
さすがの俺たちもこの展開には少しばかり呆けていた。
な、なーんだ、これでも作戦成功か。城ケ崎が俺を殴り始めた時にはもう諦めかけたが、まあ結果オーライってことだな……!
それから少しして、我に返った俺たちは帰ることにした。その帰り道に俺たちは今回のことを振り返った。
まず俺は水島に謝った。
「山中……まったくとんでもない女だったぜ。……今回はすまなかったな水島。山中がああなるとは予想出来なかった」
「まあ別にいいさ、最後には何とかなったんだからな。……一応、女子に抱き着かれてそこはいい思いが出来たわけだしな」
「なんだ水島、あんなにげっそりしておきながら、結局は君も男というわけか」
俺たち三人は肩を組んで笑った。夕日が真っ赤に燃えていた。
俺はひとしきり笑った後、言った。
「あーあ、しっかしながら『白馬の王子様作戦』もすっかり名折れだな。今どきこの手は通用しないってこった。お姫様山中は助けられる側じゃないし、水島を助けたのは俺たち王子様じゃなくて城ケ崎だった」
すると水島が、良い事が思い付いたような顔で付け足した。
「するってえと、城ケ崎は差し詰め女王様ってところかな」
「何故女王様なのかね?」
中野が水島に質問する。
「残りの配役。それとSMの女王様さ。……つうことは、今回の作戦は『白馬の王子様作戦』ならぬ『三角木馬の女王様作戦』だったってわけだ」
なるほどそいつは確かに、馬鹿馬鹿しいが言い得て妙だ。
「ちげえねえ」
俺たち三人はまた笑った。
俺たちは困難を打ち破ったおかげで、すっかり何か大きなことを成し遂げた後のような達成感と清々しさに包まれたが、その後肝心の彼女が出来なかったことを思い出すのにそう時間はかからなかったのだった。
そして、よくよく考えてみれば三角木馬に跨るのは女王様ではなく、お姫様だと気付いたのだった。
第十一話を最後まで読んでいただきありがとうございます。
実は今回は一学期中のどこかに挿入するつもりだったのですが、オチを考え付くのに時間がかかってこんなタイミングになりました。
そして今回は反省の多い回でした。ネタのインパクトと目新しさが欠けていると私は思います。(その分細かいギャグを増やしてバランスを取ろうとしたつもりですが)
要は「女が実はMで襲ってきた方に惚れちゃう」ってネタとして弱くないですかという話です。しかし、私としては食パン同様、こういう古典的な手をネタとして扱いたかったんです。
次回ですが、体育祭を扱います。多分目新しさはあると思います。




