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 それから時間が経ってつまらない授業が始まると、頭も冷えてきて次の作戦を考える余裕が出てきた。

 フィーリングが合わないんじゃ、もう俺にはどうしようもないじゃないか。だが、だからと言って諦めると水島がお陀仏。そこで至った結論は、次は中野をぶつけてみるということだった。


 昼休みになると、俺は中野を呼び山中と会わせた。そして早速、中野に山中の胸ぐらを掴ませ殴るふりをしてもらう。

 しかし中野九歳児の身長では、いくら女子であっても相手は十六歳、格好がつかなかった。


「この子も駄目」


 まあ当然と言えば当然かもしれなかった。


「『この子』だとぉ!?」


 ただ中野を怒らせただけだった。




 この結果には俺も参ってしまった。正直なところ、そこまで期待していた作戦ではなかったのだが、これで本当に打つ手なしとなってしまったからだ。いや、実の所あるにはあるのだが、それらは無いに等しい案ばかりだ。

 例えば俺たちの仲間じゃない誰か他の男を、山中のお眼鏡にかなう奴が現れるまでぶつけ続けるという手もあるかもしれない。だが、仲間でもない他の男に巨乳美少女を取られるのは癪だから、これはやりたくない。

 他には山中を動けない体にするとか、薬物で記憶を消すとか洗脳するとかいろいろあるのだが、人道的観点からこれらは行えない。

 完全な手詰まりだ。まさかこの俺の頭脳をもってしても、解決できない問題にぶち当たる日が来ようとは夢にも思わなかった。まあ実は、水島の方に薬物を使って記憶を消すとか洗脳するとかして、暴力を振るえる男にする手も有ったりするのだが、まさか仲間にそんなことは出来まい。


 そうして有効な手が浮かばぬまま一週間が過ぎていった。水島は日に日にやつれていき、見るに堪えられない顔へと変わっていった。その顔はまるで貧乏神か何かだ。

 聞いたところによると、学校の外に居る時は山中は水島から片時も離れないらしい。登下校はもちろん、家に帰った後も休日もずーっと一緒に居て「殴ってくれ」とせがんでくるらしい。

 くそ、山中、なんて恐ろしい女だ。彼氏がこんなになっても未だ叩けだの、ぶてだの、殴れだの言い続けるとは、奴は本当にMなのか? 実はSだったりしないのか? 今の水島を見るとそっちの方がしっくりくるぜ……。

 ちくしょー! どうして俺は次の手が思い浮かばないんだ! 水島はよく耐えてくれている。だがこのままじゃ持たないかもしれん。


 それと、俺が次の作戦を考えなくちゃならんのは、単にあいつの体を心配しているからってだけじゃない。

 もしもあいつが山中の殴ってくれ攻撃に耐えかねて、ポリシーを曲げて女の子を殴る真似をすればそれをさせたのは俺だ。俺が原因でこんなことになったのだから。

 男はプライドとポリシーに生きる生き物。男がそれらを捨てる時、それは死んだも同義だ。だからあいつがそんなことをすれば、俺があいつを殺したことになる。俺が原因で、あいつにそんな真似は絶対させんぞ。なんとしても助けるぜ水島。

 俺だってポリシーを、――放課後夕方の教室でイチャイチャラブラブエッチというポリシーは出来る限り捨てないつもりだからな!



 だがある日の昼休み、転機が訪れる。

 俺、水島、中野の三人は今日もいつものように食堂で昼飯を食っていた。山中は居ない。

 不幸中の幸いとでもいうべきは、山中は学校にいる間は水島に付きまとわないことだった。さすがに自分の趣味が公に出来ないものだという自覚があるらしい。どこかの川上さんにも、是非とも見習ってもらいたいところである。


「別に俺は、他の男に取られても良いと思ってるんだが――」


 水島が力なく言う。だが、俺はそれに断固として反対した。


「駄目だ駄目だ駄目だ! そもそも俺たちの彼女を作ろうって作戦だったのが、どうして他人の彼女作りの手助けみたいなことを、俺たちがやらなくちゃならねえんだ!?」


 これに中野は諭すように言う。


「しかし、君でも我輩でも彼女は心を動かさなかったではないか。水島を助けるには他人の力が必要ではないか?」


 確かに中野の言う通りなのかもしれない。今の手づまりな状況を打破するには、そこを妥協するのが一番手っ取り早い。それで水島が助かるなら俺も望むところだ。

 だが、やっぱり水島が助かった後で、巨乳美少女が気に入らねえ男と宜しくやっている場面を、俺は見たくねえんだ。これは、どっちが大事とかそういう次元の話じゃねえ。


「じゃあ中野は、巨乳美少女が気に入らねえ男と一緒に居る所を見ても耐えられるって言うんだな!? 俺は無理だね! 水島のことは助けたいが、山中は絶対他の男にはやれん!」


 俺は人目を気にせず叫んだ。すると、これを聞いた中野はハッとした後、何か閃いたかのようにニヤリと笑った。


「何か思いついたなら、勿体ぶらずに早く言えってんだよ」


「永井、君は今『男にはやれん』と言ったな?」


「ああ言ったが、それがどうかした――――そうか!」


 もはや説明不要だった。それだけで俺はピンときた。

 なるほどな中野、お前の思い付いたことが俺にも分かったぜ。他の奴に明け渡したくないという事ばかりに目が行って、ちょいと視野が狭まっていたようだぜ。


「女だ! 女の子に譲れば良いんだ! 当たり前だが女は男じゃねえ。ということは山中を取られても気が狂わずに済む!」


「気が狂うほどなのかね、君の嫉妬は……」


 中野が呆れたように言う。しかし、俺の言ったことについて否定も補足も無かったので、やっぱり俺と中野の考えている事は同じらしい。

 だが水島は不安げに言った。


「女の子って上手く行くのか? 山中は確かにドMだが、そこにレズまで属性があるとは限らねえぞ」


 おいおい、彼女と一番が長く居るお前が忘れてどうするよ。

 俺はチッチッチと舌を鳴らしながら指を横に振った。


「お前、よーく思い出してみろ。山中はフィーリングを大切にすると言っていた。だからイケメンの俺よりもお前を選んだ。つまり見た目は問題じゃないってことだ。性別も見た目の問題みたいなもんだし、フィーリングさえ合えば性別なんてきっとどうでもいいだろ」


「果たしてそう上手く行くかな……」


「なんでもやってみない事には分からないだろ?」


「そりゃそうだが、それで山中にぶつける女の子は、一体誰にするんだ? その子は勿論レズじゃないといけないんだぜ?」


「あ」


 そこをまだ考えていなかった。

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