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 そんなこんなでこの日、俺たち三人はある美少女の下校を尾行した。

 彼女の名は山中聡子。俺と同じクラスで、中々の巨乳と美貌の持ち主。髪は黒髪のロング。制服はきちんと着るタイプ。

 そんな彼女を、どうして俺が二学期になるまで放っておいたかというと、委員長帆風や女神西城なんかと比べて圧倒的に無個性、普通、影が薄いという、胸など非凡なものを持ちながら与える印象は平凡という存在だったからだ。彼女を形容する言葉は巨乳美少女、ただそれだけで十分なのだ。だったら後回しになるのも仕方が無いというもの。なお、見逃す手もあり得ないが。

 でもって今回の作戦『白馬の王子様作戦』を何故彼女に使おうと考えたかというと、あまりに彼女が普通なので作戦も普通にしようと、まあそういうわけである。


 長い黒髪を揺らしながら歩く彼女の後ろを気付かれない様につけ、人通りが少ない通りに出るまで待つ。彼女の下校ルートは事前の調査で把握済みだ。

 襲うポイントにまではまだある。俺たちはそこに着くまで歩きながら雑談する。


「ところで永井、良かったのか? せっかく西城達と旅行に行ったのに、また狙いを変えてさ」


 水島のそんな質問に俺は返す。


「俺は歴史にも造詣が深くてね、そこから学ぶこともたくさんある。かつて旧日本軍は、一つの島に固執して多大なる損失を出した。そこで俺は、如何なる時も柔軟性のある思考で合理的判断を下すことにしているのさ」


「お前、この間のドキュメンタリー見ただろ。夏休みにありがちな」


「あ、それ我輩も見たぞ」


「そ、そんなわけな――しーっ! おしゃべりはここまでだ水島、中野。もう着くぜ」


 そしていよいよ、襲うふりをするのにもってこいの通りが、もう目の前という所まで来ると、俺は水島と中野を山中にけしかけた。まだ夕方だというのに、この通りは表から外れた所にあるので俺たち以外に人は居ない。

 山中は突如現れた男二人に戸惑いを隠せない――ってよく見たら水島しか居ねえ! 中野はどこに行った!?


「ここだ」

「わぁっ!」


 俺のすぐ横からぬるりと中野が顔を出す。予想外の登場に幽霊でも出たかと思わず驚いてしまう。


「なんでお前残ってるんだ? ちゃんと仕事してくれよ」


「いやそれがだな。水島が『人を襲うのに九歳児が混じっていたのでは緊張感が無くなる』と失礼なことを言いおってな」


「確かにそれは一理あるな」


「なんだと!」


「まあ、楽できたと思ってくれや」


 さて、そんなやり取りをしている内に、水島はさらに細い横道に山中を引っ張り込むんだ。それを確認した俺は、中野をなだめるのをやめて横道目指して走り出す。ヒーローの到着ってのは早すぎても遅すぎてもダメだ。俺はベストタイミングを逃さない様に、横道の入り口近くまで駆け寄って機会をうかがう。この身のこなしはまるでスパイ映画さながら。


 そしてやっとベストタイミングがやって来た。水島が山中の胸ぐらを掴んだのだ。

 そのシーンは直接見たわけではないが、強化人間の空間認識能力によってそれは簡単に把握出来た。

 俺は駆けだし、横道に侵入する。


「待て!」


 俺は叫んだ。その声に水島は「畜生!」と捨て台詞を吐いて逃げ去っていく。


「もう大丈夫だからね」


 俺は山中に微笑みと共に、そう優しく語り掛ける。よし、作戦は滞りなく上手く行ったな。後はこのままお茶にでも誘おうか。すると――。


「待って!」


 山中は去っていく水島の背中を追いかけ走っていく。――あれ!?


「おい、どこに行くんだ」


 俺は山中を追いかけ、すぐさま彼女を捕まえる。


「どうしたってんだよ。君はあいつに襲われていて、そこを俺が助けた。何か言う事とか、する事があるんじゃないのか?」


 例えば大好きとか愛してるとか。あるいはお礼のキスとか、お礼のキッスとかさ。


「ええそうね。じゃあ言うけど――余計なことしやがって!」


「はあ!?」


「私はたったさっき、あの瞬間! 水島君に惚れたのよ!」


「何で!?」


「今の今まで私自身も気付かなかったけど、どうやら私マゾヒストだったみたい。乱暴にされないと駄目みたい」


「そんな馬鹿な嘘だろお前ぇ!」


「いえ本当よ。永井君のハンサムな顔を見てもなんとも思わないもの。じゃあ、私水島君を追いかけるから」


 そう言って走り去っていく山中の背を、俺は力なく見送るしかなかった。


 そんな馬鹿な! 山中は普通の女の子だから、絶対普通な作戦が一番だってそう信じてたのに、あいつそんな隠れた趣味があったってのか!

 俺がとぼとぼ横道から出てくると、中野が不思議そうな顔をして出迎えた。


「? 上手くいかなかったのか?」


「そうだ……」


 こんな馬鹿な話があるか? 彼女を救おうとしたらこの仕打ち! 水島も水島だ、こんなの重大な裏切り行為だろ! ちぃ! まるで寝取られたみたいだぜ!


「オラッ!」


「ぐらぉ! な、何故殴った!」


「むしゃくしゃしたからだ!」


 ――いやちょっと待て。そうか、俺も山中を殴らんばかりの勢いで乱暴に扱えば、ひょっとすれば俺を好きになるかもしれん。そうかそうか、分かったぞ!


「ありがとう中野。はははは!」


「こ、こいつ、仲間を殴って笑いよった……」


 悪いが水島、山中は俺が頂くぜ。そもそもそういう順番だって話だったし、俺が目を付けた女の子なんだからな。恨んでくれるなよ。もしも別の女の子だったら、応援もしたし素直に喜んで祝いもしたさ。だから許せ。お前に別の彼女が出来た時には盛大に祝ってやるからよ。

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