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 少しして、誰が呼んだか警備員までやって来て、これはもう覗きが出来る状況ではないと判断した俺は、女風呂を後にし男風呂に移動した。

 男風呂の脱衣所に移動した俺は透明マントを脱いで、風呂場に移った。

 それから少しして体を洗っていると、俺の右隣りに水島、左に中野が座った。


「二人の内どっちだ?」


 俺が怒り混じりに言うと、水島と中野も怒り混じりに俺とまったく同じことを言った。


「「二人の内どっちだ?」」


「おいおい、そりゃおかしな話だろ。だったら誰のせいでバレたってんだよ」


 俺は絶対に俺のせいじゃない自信がある。女は誰も俺を見ていなかったという証拠もある。さては二人の内、どっちがか嘘をついていやがるな。


 俺たち三人の間に一触即発の空気が漂っていると、空気の読めない二階が傍までやって来た。


「どうしたんだい? 随分雰囲気が悪いじゃないか?」


「お前には関係ねえよ」


 水島が苛立った声で答える。


「まあそう言うなよ。これを聞いてくれ」


 そう言って、二階はごほごほと咳をした。まるで、マイク前で喉の調節をする演説家のように。それから二階は甲高い声で叫んだ。


「キャー! 覗きよー!」


 さっき聞いたばかりのあの忌々しい叫びを、声も内容も全く同じものを俺たちは再び聞いた。なんとも心臓に悪い。思わずビクリとしてしまう。

 だが俺たち三人の反応はそれだけではなかった。もっと別のことで驚いていた。今の叫びは、どう考えても二階が発したものだった。


「どうだね僕の女声は? 中々のもんだろ?」


「さっきのも君が犯人ということかね?」


「そうだとも」


 中野の問いに二階は誇らしげに答えた。


「てめえ……!」


 水島は怒りのあまり眉をピクつかせ、拳を振り上げる。目の前に覗きの邪魔をした犯人がいやがるのだから無理もない反応だ。俺だって、こいつをぶん殴ってやりたい気分だ。

 すると、二階は「ちょっと待った」と両手を前に出し、水島を静止させつつ距離を取る。


「ここで僕を殴るのは簡単だ。だが、せっかくの旅行を台無しにするかもしれないだろう?」


 まあ確かに、旅行中にケガ人が出るとテンション下がるし、気を使ったりするし面倒臭い。無論俺たちは気にしないが、女子たちはそうはいかないだろうからなあ。それも、仲間内の喧嘩で殴られたとあってはムード最悪……。


「よせ水島」


 俺は水島の肩を叩いてなだめる。水島は舌打ちをして拳をひっこめた。その時の水島は苦虫をかみしめたような顔で、いかにも渋々という感じだった。

 すまないな水島、旅行から帰ったら一緒にぶん殴ろうぜ。今は事を穏便に運びつつ、分からない点を明かしていくことが大事だ。


「それで二階、なぜ俺たちが覗きをしていると分かった?」


 俺たちは透明マントで姿を隠していたし、こいつは男風呂に居た、少なくとも女風呂には入っていないはずだ。だったらどうやって、俺たちが覗きをしていると気付いたんだ。


「それは実に簡単なことだ。君らみたいなドスケベ性欲エロ集団なら、きっとやると思ったのさ。幼稚園児でも予想出来るな」


 だ、誰がドスケベ性欲エロ集団だぁ!? ひ、否定できん……。

 ま、まあ、なぜ覗きをしていることがバレてしまったのかは分かったが、じゃあなんで俺たちの邪魔をする必要があった?


「じゃあもう一つ。何故邪魔をした? 何が狙いだ? 俺たちを警察に突き出すか? それとも俺たちの撮った、あいつらの裸ビデオが欲しいのか?」


「そうだな……って、覗きだけじゃなく盗撮もしたのか!? 予想外だったが、そんなつまらないことではないさ」


「だったら何が狙いなんだ。とっとと言えよ」


 すると二階は不敵な笑みを浮かべた。


「君たちの邪魔をしたのは、このあと催されるゲームで本気になって欲しかったからだ」


「「「ゲーム?」」」 


 俺たち三人は口をそろえ、それに二階は答えた。


「せっかく大人数の旅行だ。僕は夕飯が終わった後、皆でゲームをやろうと思っている。大富豪かポーカーか――まあ何でもいい。

 だが、せっかくやるなら本気の永井一とやってみたくてね。クラス成績一位の永井、君と戦ってみたいと勝負師の血が騒ぐのさ。

 僕は永井、君と戦うためにこの旅行に参加したのだ!」


 なるほど、こいつは驚きだ。そんな理由があったから、こいつは賄賂を受け取らなかったのか。金より勝負を取る、こいつは金になびかない本物の勝負師だ。


「俺を怒らせたら本気になると思ったってか」


「そういうことだ」


 全くなんて迷惑な話だ。本気でやりたいっていうならそう言えばいいのに、なんで他人の覗きを邪魔するかね。他人の嫌がることしちゃいけないって、教わらなかったのかよ。


「――分かった。勝負は本気で受けて立つ。で、何をやるんだ?」


「それは君が決めて構わない。相手が挑んできた勝負に勝つのが最高の勝ち方だ。……ところで冷えてきたので僕はこれで」


 そう言って二階は、洗い場から脱衣所に歩いて行った。

 二階が去ると水島は言った。


「やはり何かあると思ってたが、まさかこんなことだったとはな。お前、絶対勝てよ」


「我輩も、出来ることがあれば協力しよう」


 中野までそんなことを言う。


「お前誰に物言ってんだ? 俺を信じなさいって」


 俺は不敵な笑みを浮かべた。何であろうと、俺がただの人間に負けるわけないだろうが。

 待ってろ二階。特に何か賭けるという話は出なかったが、俺が勝った暁には覗きの邪魔をした落とし前を、きっちり払ってもらうからな。

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