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急に予定が無くなって暇になった俺は、そこらへんをぶらつきながらイイ女を探した。イケない事を出来なかった俺は完全に欲求不満で、今日はこのままでは帰れないという気持ちだった。
そんなとき、俺は見覚えのある清楚なお姉さんを見かけた。当然声をかける。
「お姉さん、昨日会いましたよね?」
「あなた……永井一君!?」
やはりこの清楚なお姉さんは、昨日イイ事をしようと誘ってきたあの清楚系のお姉さんだった。
「それで、何か用かしら?」
お姉さんの問いに、これはチャンスだと思った。
「いや、もし良かったらお姉さんとイイ事しようかなと思いまして……駄目ですか?」
俺はなんて虫のいい野郎なんだ。だが、格好付けていられる余裕はない。こいつは渡りに船。挽回のチャンスは活かさなくっちゃ。
お姉さんは、少しだけ考える素振りを見せてから答えた。
「良いわよ」
やった! 夏子さんとイケない事は出来なかったが、これで清楚なお姉さんとイイ事が出来る! 俺はまだ天に見放されちゃいない! 俺は今日こそ卒業できるんだ!
「そういえば自己紹介がまだだったわね。私は佐藤春子よ。よろしく」
「――いい名前、ですね」
俺は顎に手を当て、決め声でそう言った。
自己紹介が済んだところで、俺は春子さんにイイ事が出来るという場所に案内され、着いた所は見覚えのある場所。
俺は言葉を失った。そこは夏子さんにイケない事をしようと連れられた、あのバーだったのだ。さらには、何故かバーの周囲にはパトカーが数台止まっており、警官が何人もいた。
いや、何故警察が居るかは予想が付くのだが、何故春子さんの案内した先に警察が居るのか、いや何故春子さんはここに案内したのか?
「……まさか、イイ事ってのは……?」
俺は恐怖をこらえながら、春子さんに質問した。
頼む、違っていてくれ! そんな俺の心中を知らない春子さんは笑顔で答えた。
「悪いヤツを逮捕することよ」
………………。
ホントにイイ事だったぁぁぁッッッ!!!
イイ事と言って、本当に倫理的にイイ事に誘う人がこの世に居る!?
嵌められたぁ!? ハメたかったのに!? 気持ちいいって言ってたから付いてきたのに……いや、待て。
「気持ちいいって言ってたじゃないですか!?」
そうだ、アレはどうなる!? 嘘ついたのか!?
人、逮捕してどうやって気持ち良くなるんだよ!? 変態か!?
「良い事すると、気持ちが良いでしょ?」
確かに清々しく気持ち良いかもしれないけど、言い方ァッ!
なっんでどいつもこいつも含みがある言い方するんだ! 俺の期待を返せ!
クソっ、これで緊張も敬意もなくなったぜ、敬語なんてやめてやる! いや、ていうか帰ろう。
「ちょっと、どこ行くの?」
「いや、なんか馬鹿らしくなってきて」
俺は歩みを止めず去ろうとした。
「手伝ってくれたら、ちゃんと報酬払うつもりだったのに……」
しかし、その一言に俺の足は止まった。
金、そういえばそのために俺は実家に帰ったんじゃないか。思ってたイイ事とは違うが、こっちは合法的な仕事だし、ここで金を稼いでおけば後の夏休み、女の子を好きな所に誘い放題だ。
「分かった。やっぱり手を貸すよ」
「恩に着るわ」
俺は春子と握手した。
それから少しして突入の時間になった。ここには警官は大勢居るが、突入するのは俺と春子の二人だけだ。
実は俺は報酬額を上げるために事前に交渉し、突入するのは俺だけになるようにしようとしていた。交渉は概ね上手くいったが、俺が前に一度夏子側に居たことがあり、監督として春子が突入に同行することとなったのだ。
一度建物の中に入ったことのある俺が先行する。
地下へ降り、一時間前夏子に案内されたあの部屋の前まで来た。ドアは閉まっている。
「春子は危ないから下がっていてくれ」
「ちょ、呼び捨て――」
俺はそう言うと、春子が何か言おうとするのを無視し、鍵のかかったドアをぶち破って部屋に突入した。
部屋の中に居るメンツは、一時間前と何も変わっていなかった。俺は瞬く間に六人の男たちをノックアウトした! 残るは夏子、ただ一人だ。
そして俺の後に遅れて、春子が部屋の中に入った。
「麻薬密売、その他諸々、現行犯で逮捕します!」
「げ、あんたは研究所に居た……」
「あ、あなたこそ、なんでここに」
春子と夏子は互いに互いの存在に驚いた様子だった。
まさか麻薬密売人と、それを取り締まる人間がすでに会っていたとは、何たる運命の巡り合わせ。俺はもっと早くから知ってたわけだが、この事実を今初めて知った二人には大きな衝撃だろう。
と、腕組みして俺だけ高いところに居る気分でいると、逆に俺だけが知らなかった衝撃の真実が明らかになった。
「まさか、犯罪者になり下がっていたとはね、夏子」
「春子姉さんこそ、よくもまあ、ご立派な職業ね」
な、なんと二人は姉妹だった! そういえば確かに苗字は同じ佐藤だ。しかも名前もシリーズものっぽい。きょうだいがあと二人くらい居そう。
だが、今までそれらしい反応していなかったじゃないか。どうして研究所で会ったときから、今まで一度も姉妹っぽい会話をしなかったんだ。
その疑問にはテレパシーで通じたかのように、春子と夏子が答えてくれた。ありがとう。
「去年のある日、夏子は私と喧嘩して以来、帰ってきてないの」
「口もききたくないくらい嫌いよ!」
ああ、道理でそこらへんに言及しなかったわけですね、納得。
うんうんと俺が頷いていると、春子は話を打ち切り、拳銃を夏子に向けて構えた。
「さあ、言い争いはここまで、早く投降しなさい」
春子の呼びかけに夏子は舌打ちで返し、俺の方を向いて睨んだ。
「永井君、どうして姉さんに付いたの? そうでなければ今頃!」
その叫びに少しばかり同情もするが、しかし恨まれるいわれはない。イケない事と言って期待だけさせて、裏切ったのは向こうだって同じなのだ。それを一方的に言われてなるものか。俺は言い返した。
「先に裏切ったのはアンタの方だぜ。お姉さんの言うイケない事と言ったら、普通エッチなことだろうが!」
俺は夏子を指さし、言い切ってやったというスカッとした気持ちになったが、夏子と春子は何故かきょとんとしている。
いやなんで? 先に裏切った方が悪いって話だろ、なんで申し訳なさそうな顔一つしないんだ?
だったらもういい。美女は殴らない主義だが、傷が残らない様に気絶させれば済むことだ。こんな茶番、とっとと終わらせて女の子を口説きに行きたいぜ。
覚悟を決めた俺は、夏子にじりじりと近づいていく。厳しい状況の夏子は懐中に潜ませた武器を取ろうとするが、
「動くと撃つわ」
と、春子に拳銃を突きつけられ身動きが取れなくなってしまった。
もう袋の鼠だ、夏子に打つ手はない。これで俺の仕事も終わり、警察から報酬を頂いてその金で夏休みは豪遊だ。
もう拳が届く距離にまで近づいた。
いよいよチェックメイトかと思われたその時――。
「ねえ永井君、私とイケない事しよ?」
夏子は突如自分の胸元のボタンを開けて胸を寄せ、前かがみになって俺に胸の谷間を見せつけてきた。
「もうその手は食わないぜ。覚悟しな!」
「違うの! 今度こそ、永井君の期待するイケない事をするつもりよ!」
……今更そんなこと言ったって信用出来ないぜ。どうせまた同じ手を使ってくるに決まってる。
……だが、もしも彼女の言う事が今度こそ本当だったら……?
どうしようもなく俺の心は揺らいだ。俺が最も優先すべきことはなんだ?
「夏子の言う事に耳を貸しては駄目!」
考える素振りを見せる俺に、春子は焦った声で叫ぶ。
「……なあ、誤解があったらいけねえ。そのイケない事ってのは何なのか、ハッキリアンタの口から聞きたいね」
「ちょっと、永井君、本気なの? 状況分かってる? 犯罪者は捕まえなく――」
「アンタは黙ってろっ! 俺は夏子に聞いてるんだ!」
さあ答えろ夏子。俺の行動はアンタの返答次第で決まる……!
夏子は俺の問いにハッキリと、俺の目を見て答えた。
「もちろん、エッチよ」
「――その言葉が聞きたかった!」
俺はすぐさま身を翻し、夏子さんの側に付いた。
「そう言うわけだ春子。悪いが俺は夏子さんの側に付くぜ」
「そ、そんな馬鹿な……」
春子は膝から崩れ落ちた。
悪いな春子、俺の最も優先すべきこと、それは夕暮れ放課後の教室で、彼女とイチャイチャラブラブ私服エッチなんだ。夏子さんは今度学校に招待して制服を着てもらおう。




