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 明日から夏休みと聞くと大概の高校生は喜ぶものだろうが、かくいう俺はそうでもなかった。もちろんある程度は嬉しいのだが、出来れば彼女を作ってから迎えたかったと思うと、喜んでばかりも居られなかった。


 この夏休みはフルに彼女との思い出作りに使いたかった。

 しかも、夏休みに入れば自由な時間は増え、イベントも多いが、女子と接触する機会を大幅に失ってしまう。それだけ作戦が限定され、彼女作りにも大きな影響を及ぼしてしまう。

 だから俺は夏休み中という条件を踏まえた上で、大量の作戦を用意しなければならなかった。そうそう夏休みを喜んでいられないはずである。

 だが、不幸中の幸いとも言えるのは、すでに夏休み中の作戦を一つ準備してあったことだった。




 終業式が終わり教室に戻ると、優子先生の手によって通知表が配られた。

 受け取った生徒たちは、喜んだり、悔しがったり、皆それぞれ違った様々な反応を示す。

 俺も渡された通知表をパラリと開いてみると、並び連なる5の数字。体育の4を除けばオール5の成績だった。

 もっとも、こんなことは確認するまでもないことであるが。

 全員の通知表を配り終えると、優子先生は言った。


「各教科、成績の悪かった人は、夏休み中でも補習を受けてもらうからね」


 それを聞いた生徒連中はぶーぶー文句を言った。自業自得のくせに、よく言うぜ。

 だが、そういう奴に限って彼女を作ってたりするんだから、頭に来るぜ。


「はいはい、静かに。補習がある人は皆分かってると思うけど、体育だけ伝え忘れがあったみたいなので、ここで伝るね」


「はい! 体育の補習ってなんですか?」


 頭の悪そうな男子生徒(未だに名前を覚えていない)が大きな声で質問した。


「水泳の補習よ」


 それを聞いた生徒たちは、

「そんな奴いるのかよ?」

「アンタなんじゃないの?」

 などと、後ろや横の生徒とおしゃべりを始める。


「だから、静かに。他のクラスでは結構居るみたいだけど、うちは一人だけだね。永井君」


 俺の名前を聞いて、皆驚きの表情を隠せないでいる中、俺一人がニヤリと笑っていた。こいつが俺の前もって準備していた作戦だった。




 ホームルームが終わり、解散という時に西城加恋が話しかけてきた。

 夏でもやっぱり開けている胸元の三つのボタン。寧ろ夏だから開けるべきでしょ。

 覗く谷間は夏限定、滴る汗のトッピングでよりエロさを増しています。


「えー、メッチャ意外なんだけど。泳ぎ苦手なの?」


 俺は前髪をかき上げ、言った。


「まあ、天は二物を与えずってところかな」


 本当は嘘で、俺は泳ぎも得意で作戦のためわざと授業中は泳げないふりをしていただけなのだが、俺は黙っていることにした。


「えー、なにそれ」


 西城は笑ったが、しかし「残念だなぁ」と続けた。


「何が残念なんだ?」


「海に誘おうと思ってたんだけど、泳げないんじゃ楽しくないよね」


 なに!? 女子の方から誘ってもらう、そういうのもあるのか。完全に計算外だった! いかん、なんとしても俺も同行しなくては! 泳ぎが苦手というのはあくまで演技、この機会を逃してはいけない!


「いや、俺海眺めるの好きなんだよねぇ。あと、泳げなくても水着着るの好きなんだ、ファッションとして。それに最悪浮き輪があれば海に入れるし!」


「なんか運動会の日の晩御飯の焼き肉をがっつく男の子みたいに食いつくね……」


 む、さすがに必死過ぎて引かれてしまったか?

 だが、大事なのは一緒に海に行く機会の方だ。機会があれば後程リカバリーも可能というもの。


「まあいいや。じゃあ、またあとで連絡するね」


 西城は「バイバイ」と言ってこちらに手を振った。

 俺が振り返すと、近くに居た女友達と一緒に帰っていった。


「おいおい、寂しいねえ。俺の名前を出してくれても、良かったんじゃないか?」


 そこに入れ替わるようにして水島が登場した。


「馬鹿野郎ぅ、忘れてるわけないだろうぉう? 後でお前のOKも貰うに決まってんだろうが」


 すまん。完全に忘れてた。俺さえ海に行ければ良いと思ってた。


「それを聞いて安心したぜ。ところで、お前そこまで泳ぎが下手だったか? 確かに上手くはなかったが、一応泳げていたじゃないか」


「水泳テストの時にわざと溺れてみせたのさ。ちなみに、普段のそんなに上手くない泳ぎも演技だ。本当はもっと上手い」


 それを聞いて水島は不思議そうな顔をした。


「なんでそんな面倒なことしたんだ。おかげで夏休みが短くなっちまうぜ。西城の事だって」


「確かに西城のことは誤算だった。かなり危なかった。だが、これは作戦なんだよ」


「……ほう、お前のいつものアレか。今回は一体どんな作戦なんだ?」


 水島は興味深そうな顔で俺に質問する。

 そういう顔してくれると、語り甲斐があるってもんだ。

 俺は意気揚々と、今回の作戦の説明を開始した。


「まず理解して欲しいのが、夏休みに入ると女子と会う機会が一気に減ってしまうということだ」


 俺は何故この作戦を敢行するに至ったか、から説明した。


「しかし、補習に参加すれば定期的に女子と会うことが出来る。しかも水着姿まで見られる」


「お前、女子と会うためだけに成績を落としたのか……」


 水島は引いているが、構わず説明を続ける。


「まあ確かに、お前の気持ちも分かる。見合ってないんじゃないかと言うんだろ? だが安心しろ、作戦はこれだけじゃない」


 俺が自信満々に言うと、引いていた水島も態度を改める。


「確かに、補習終わりに一緒に帰る程度では見合わない。だから俺は――――補習も一緒に受けることにした!」


「真面目に聞こうと思って損したぜ。お前、水泳だって覚えてるか? 数学とかならまだしも、男女別れるだろ。どうやって一緒に補習を受けるってんだよ」


 そこがこの作戦のミソ。女子のために補習を受けるという発想は誰でも出来るが、ここからが俺にしかできない発想。


「だがもし、俺以外に男子の補習対象者が居なかったら?」


「確かにうちのクラスで男子の補習はお前だけだ。だが、他のクラスには居るだろ」


「だからそいつをゼロにするんだよ」


「どうやって? お前の手で泳げるようにするのか?」


「逆だよ。俺の手で泳げなくする」


 俺は指をポキポキと鳴らした。

 そう、この腕っぷしで出席不可能にしてやるのだ。男共に水泳を教えてやるほど、俺は優しくないのでね。


「……まあ、仮に男子がお前一人になったとしても、お前一人だけで補習を受けることになるんじゃないのか普通」


 確かにその可能性はある。いくら教師が面倒くさがりで、他人に仕事を押し付けるような人種でも、男女一緒は避けたがるだろう。

 だが、そこのところも織り込み済み。ちゃんと手は考えてある。


「だから男性教員も全員泳げなくする」


「……今回は随分とスケールの大きい作戦だなあ」


「ついでに、女性教員も好みの優子先生に教えて欲しいから、他の女性教員も泳げなくする」


「……徹底してるなあ」


「まあでも、女性を殴るのは忍びないから、水着を片端から破るとかにするかな」


「俺も作戦に参加しよう」


 水島は急にやる気になった。さすが自称硬派さんはやる気の出し所が違うぜ。


「おお、そいつは助かるぜ。今回はぶちのめさないといけない男共が多いんでね。人手があった方が良い。補習参加は自分で優子先生に伝えておいてくれよ」


 まあ飛び入り参加でも大丈夫だろう。基本的に学校は学習意欲のある生徒を拒否出来ない。


「その話、聞かせてもらったぞ。我輩も協力しよう」


 俺と水島が作戦会議をしていると、どこからともなく中野が現れた。


「別に良いが、なんでお前がうちのクラスに居るんだ?」


「一緒に帰ろうと思ったのだが、いかんのかね?」


 水島の問いに、中野はそう答えた。

 中野は、以前のラブコメ次郎の件からかなり俺たちに協力的になってくれて、もう仲間と呼べるくらいだった。


「そうじゃなくて、どうやって現れたのかって話だ」


「まあいいじゃないか水島、そんなことは。それより中野、助かるぜ。俺たち三人で水着女子たちを独占しようぜ!」


 俺は中野と水島を引き寄せ、肩を組んだ。

 最高の強化人間の俺、天才の中野、水島の三人が集まれば向かうところ敵なし、約束された勝利、不可能は無い。


「熱いから離したまえ!」

「離せ!」

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