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「ということで水島、協力してくれ」
俺は昼休み、学食でうどんを食いながら、今回のターゲットのことを話した。
しかし、水島の反応は悪かった。どうやら乗り気ではないらしかった。
もしかして、前回失敗したから物怖じしてるのか?
「どうしたんだよ水島?」
「どうしたもなにも、頼子先生は一人、俺たちは二人だ。今回ばかりは、手を組んでも良いことは無いだろう」
「なんだそんなことか、安心しろ」
「お前は良くても、俺は三人なんて嫌だぜ」
「馬鹿野郎俺も三人はやだよ。そうじゃなくて、お前には帆風をやるよ」
「うちの学級委員か。一体どうやって?」
「それは教室に戻りながら説明する」
俺は教室に帰る道中、水島に今回の作戦の解説をした。
まずは俺と水島が喧嘩をする。
すると俺と水島は怪我をする。
怪我をすれば、保健室に行く口実が出来る。
また、クラスメイトの怪我は当然、学級委員帆風の心配するところであり、彼女は俺たちが気になって仕方が無くなる。
そして――。
『あれ……? なんでこんなに心配するの……? ――そうか! 私は二人のことが好きだったんだ!』
と、こういうわけ。頼子先生の方は、やっぱり大人の女性(それも養護教諭)は、やんちゃな年下ボーイを放っては置けないだろうから、特に考える必要なし。
「名付けて、不良に女は弱い作戦」
「普通作戦名は、内容が他人にバレない様に付けるもんだぜ」
水島は呆れたように言った。
「いや、この作戦名で内容が分かる天才が、俺以外に居るか?」
「……いや」
水島は首を横に振った。ほら、作戦名に問題は無いだろう?
「で、一応聞いておくが、お前、帆風のことは嫌いじゃないよな?」
「ああ、そこのところは心配しないでくれ。知っての通り、俺は硬派がウリなんで、当然彼女も同じく硬派が希望だ」
なるほど、こいつ硬派をウリにしているつもりだったのか。
どおりで時折おかしくなるわけだよ。完全に間違いだ。
靴のサイズが、片方大きいみたいなもんだ。
まあ、本人がそれで良いってんなら、黙っておくか。
それが男の友情というもんだろう。
「どうかしたか?」
俺が何も言わないで、考え込む素振りを見せたので水島は俺に問いかけた。
「い、いや、何でもない。それよりこの後のことを考えようぜ。ああ、ついに年上の彼女か……っ」
「いやお前、前回の失敗を忘れたのか? 上手くいった後のことより、まずは目先の事が大事なんじゃないのか?」
ぐっ……。嫌なところを突いてくるな。
「そういう嫌なことばかり考えていても気が滅入るでしょう? だから楽しいことを考えようぜ。帆風と付き合ったら、まずは何したい? 俺は頼子先生と保健室、同じベッドで寝てだな」
「……そうだな。まずはデートだよな」
よし、話に乗って来た。
「いいねいいね。どこ行きたい? どこ行きたい?」
「やっぱり遊園地か。お化け屋敷なんか『俺が付いてるよ』なんて言ったりして、夜はパレードを、手を繋ぎながら――――ロマンティック……っ」
やっぱり、こいつ言うほど硬派じゃないよな。
いやいや、そんなことより俺もせっかくだから楽しいことを考えましょう。
以下妄想。
◇
「あらどうしたの?」
「ちょっと怪我しちゃって」
「どこ怪我したの?」
「股間を怪我しちゃって」
「まあ! 大変。ズボンの上からでも、こんなに腫れて、膨らんでるわ」
「痛いんで撫でてもらえますか」
「もちろんよ、なでなで」
「あー、だいぶ良くなってきました」
「でも全然腫れが引かないわぁ」
「いえ、大丈夫です。後は唾つけとけば治りますんで、先生、唾よろしくおねがいします」
と、ここで俺はパンツを下し――――なーんちゃって。
◇
以上妄想。
「で、水島、続きは」
「そうだな。俺は硬派だから、いきなりは手を出さない。だがいずれは、ヤることをヤっちまうときが来るわけだよな」
以下、水島の妄想。
◆
「本当はいけないわ、こんなこと。私、学級委員だし……」
「気にするなよ」
「でもあなた、放っておいたら何するか分からないし、私が責任持たなくちゃいけない。――だから、こんなことして良いのは私だけなんだから……っ。他の子にしちゃダメよ……」
そう言って帆風は制服のボタンを外し――――なんてな。
◆
以上、水島の妄想。
俺たちはそんな妄想をし、にやけながら歩いていると、教室にたどり着いた。
「じゃあ、早速作戦開始と行きますか」
「おう」
俺たちは教室に入るなり、お互いを殴り始めた。
それに気づいたクラスメイトの女子が悲鳴を上げる。
「キャーッ! 水島と永井が、笑いながら殴り合ってる! 気持ち悪いっ」
俺たちは妄想が抜けきらない、どころか妄想を続けたままお互いを殴り合っていた。
次から次へと湧いてくる妄想に、顔のにやけが止まらない。
「あはははははっ」
ボコッ!
「あはははははっ」
ドカッ! バキッ!
「こいつら頭おかしい! 帆風委員長、なんとかして!」
女子クラスメイトは帆風を呼ぶと、一目散にこの場を去った。
呼ばれた帆風は、自分の席で読書をしていたのを取りやめ、こちらに向かってきた。そして俺たちを見るなり、
「あなた達、やめなさ――え、なにこれ、気持ち悪い」
おっと、これではマズい。
俺は水島に強烈なビンタをかまして、正気に戻させた。
そして帆風が見ていることを耳打ちした。
水島もさすが、にやけながら殴り合うという状況の異常さに即座に気付き、キリリと引き締まった表情を、咄嗟に作り上げた。
よし、これで何とかなったな。続きといこう。
「危ない所だったな。ところで、水島。俺の股間を蹴ってくれ」
怪我をする所は、極めて重要である。
保健室で、頼子先生に怪我の具合を診てもらうとき、しょーもない所を怪我していたのでは、シチュエーションを最大限に楽しみ尽くすこと、そして頼子先生に俺を意識させることが出来ない。
だから股間の怪我はマストだ。
「分かった」
さすが水島は、二つ返事で快諾してくれた。
「だが、あまり強く蹴りすぎるなよ。あくまで後で、気持ち良くなるためなんだから」
「お前の考えることなんて、お見通しさ」
「あなた達、そういう仲だったの……」
「じゃあ蹴るぞ――オラッ!」
水島の蹴りが、俺の股間にヒットする。
「――うっ…………」
だが、水島の蹴りは十二分に強かった。少なくとも俺の想像よりは。
内臓が冷えるような気持ち。どこを怪我したときとも違う、あの独特な嫌な痛みが股間を襲う。
こんなことなら、股間を強化しておいてもらうべきだった。
俺は股間を抑えてうずくまった。
「……も、もう少し優しく、出来なかったのか……」
「確実に怪我しないと診てもらえないだろ? これくらいは必要だよ。俺はお前のためを思って、いわば愛だよ」
「愛っ!? 水島君……永井君のことを……」
くそ、テキトーなことを言いやがって。
いつかお前の股間を蹴る機会があったら、その時は思いっきり蹴り上げてやるからな。
「よし、委員長。永井を保健室まで運ぶの、手伝ってくれ。俺一人じゃ運びにくい」
うずくまる俺を尻目に、水島は帆風との関係を進展させるため、上手いことやろうとする。
帆風は一瞬反応が遅れたものの、俺に肩を貸した。
水島はその反対側から俺を支え、三人で保健室に向かった。
保健室前で来ると、俺はお二人にご退場願った。
頼子先生と二人きりの状況を作り出すためだ。
人目がない方が、事は上手く行くだろう。
去り際、帆風は意味深なことを言い残した。
「不純異性交遊は駄目よ!」
まさか、これから俺がやろうとしていることが、バレたというのか?
いやしかし、これからすることは不純でも遊びでもなく、あくまで治療でございますから、ええ、それには当たらない訳であります。
と思っていたら、帆風は少し考える素振りを見せる。
「……いえ、不純同性交遊? 今は多様性の世の中かもしれないけど……とにかく、この歳では早いわ! 学生の本分は勉強よ!」
帆風はそう言って、水島と去っていった。
帆風は心なしか、水島と距離を取って歩いている様だった。
よく分からんことを言うなあ。
いくら俺でも、状況を全く飲み込めなかった。
ひょっとして、アレは自問自答だったのだろうか。
ということは、帆風は誰か好きな女が居るが、諦めようとしているって訳か。
なるほど、そのケがあったのか。不謹慎だがエッチだ……。
しかし、水島残念だったな。いきなり帆風を諦めないといけなくなるなんて。
いや、帆風は女同士を諦めたわけだから、寧ろチャンスなのか?
そんなことを考えながら、俺は保健室のドアを開けた。




