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10(終)

 ――いや、一生逃げ続けて堪るかっ!


 俺は二か月間も逃げ続けた。川上の魔の手から逃れるため家を捨て影に潜み、時には国外逃亡、時には地下生活を送った。しかしどこまで逃げても川上は、俺の目の前に現れやがった。

 このままじゃ埒が明かねえ。大体こんなのは不愉快だ。なんで強化人間の最高傑作であるこの俺が、逃げ回らなくちゃならねえんだ?

 それにこの二か月間ずーっと逃げ回ってたせいで、新しい彼女を作れなかったじゃねえか! こ、このままじゃ、卒業するまでに放課後夕方の教室で彼女とイチャイチャラブラブエッチができない……っ!

 チクショウッ、川上めどうしてくれるっ! お前さえ居なければ、今頃きっと俺はエッチができていたぜ! こうなったらあいつを始末して――駄目だ……。俺は巨乳美少女に手は出せねえ……。


 ともあれ、二か月に及ぶ逃亡生活に疲れた俺は、ある秘策を引っ提げてこの町に舞い戻り、中野の家を訪ねた。

 俺はこの二か月間、中野のあのセリフを忘れなかった。アレを使えば、川上問題も彼女問題も全て一挙に解決だ。

 俺は一週間前にその秘策を中野に電話で伝えた。中野は二つ返事で俺の策に乗り、水島にも声をかけると奴も俺の策に乗った。




「おお、来たか。入りたまえ」


 中野の家は、意外と普通の一軒家と変わらない外観をしていた。玄関のチャイムを鳴らすと中野本人の声がして、玄関のドアが勝手に開いた。玄関には誰の姿も見えない。


「それじゃ、おじゃましま――」


 玄関に足を踏み入れた瞬間、床に大きな穴が開いて俺はその穴に落ちた。そして二十メートルほど落下し、スタっと着地した。

 落ちた先は、殺風景な車庫みたいな部屋だった。部屋の中央には、布が掛かって姿の見えないデカいものがあった。デカさからして、それは乗り物かもしれない。それ以外には机と棚くらいしか物がなかった。天井にはさっき俺が落ちてきた穴があった。


「ようこそ、我輩のラボ……の隣の部屋に」

「よお、遅かったじゃねえか」


 部屋の観察をしていると、デカいもの影から中野と水島が出てきた。


「そうか? これでも走って来たんだがな」


「まあいいや、そんなことより川上にバレる前に早く乗り込もうぜ」


 水島はそう言いながら、布のかかったデカいものを親指で指した。ということはつまり……。


「こいつがタイムマシンか」


「左様」


 中野は答えた。


 そうだ、このタイムマシンこそが俺の秘策だ。俺はこいつを使って過去に行く。

 この俺の決意は固い。誰に何と言われようともだ。そして過去の俺に、現在の俺の記憶を移植する。過去の時点の俺はその記憶を頼りに、リム子とぶつからない様にし、川上相手に『ドアインザフェイス作戦』を仕掛けないようにし、そして高校卒業までに彼女を作ってイチャイチャラブラブエッチする。


 俺の選択は正しい、それしかないっ。過去を変えるんだっ!

 このまま川上に追われ続ける人生も、高校卒業までに彼女とエッチできなかった人生も、この先続いていく意味はない。そんな人生は不要だっ、死んだ方がマシだっ! だがッ! 彼女とエッチせずに死ぬことなど、死んでもできねえ……っ! だったら俺に残された道はただ一つ! 過去改変しかないッ!


 この俺の熱い思いに、水島と中野は共鳴してくれた。

 これぞ熱い男の友情だ。ただ単に、あいつらも彼女の居る高校生活を送りたかっただけ、などでは無いだろう多分。うん、多分そうだろう。


「では、お披露目といこう」


 中野がポケットからスイッチを取り出しボタンを押すと、タイムマシンにかかっていた布が吹き飛びどこかへ飛んでいった。タイムマシンの全貌が露わになる。俺はその姿を見た時、思わず声を出して驚いた。


「リ、リム子!?」


「その声は一!?」


 目の前に現れたのはまさしくリムジンカーのリム子だった。


「なんだ、君たちは知り合いだったか」


「い、一体どこでこいつを?」


「あー、確かちょうど一年前くらいにスクラップ工場で見かけてな。月に何度か発明品に使う材料を安く仕入れているのだが、喋るリムジンカーなど珍しいではないか? だから持ち帰ると即決したのだよ。いやあ、しかしまさか知り合いであったとは」


「知り合いなんてもんじゃない! 私たち、愛し合ったのよ!」


「おお、それは真かね?」


「……昔の話さ」


 俺にとっちゃ忘れちまいたい黒歴史。あの時、何であんな風になっちまったのか自分でも分からねえ。ただ言えるのは、あの時のせいで前科持ちになっちまったことを死ぬほど後悔しているってだけさ……。


「――まあ、それはさて置き、彼女をタイムマシンに改造したのは、材料が圧倒的に不足していたので彼女をベースにするしかなかったからだ。正直、勿体ないとも思ったが、君が死んだと知らされて居ても立っても居られなくなってな」


「そいつは泣かせてくれる話だねえ」


 ……そういえば葬式の時『この後タイムマシンで過去に行く』って言ってたよな。ってことは俺が死んだと知らされてから、たったの一晩でタイムマシンを完成させたって訳か。中野、凄すぎるぜ……っ。


「それは良いのだ。ささ、早く乗り込もうではないか」


「車型のタイムマシンってことは、やっぱり加速して何キロメートルに達したらタイムスリップ――とか?」


「いや、普通にボタン一つでその場で過去に飛ぶぞ?」


「なんだよ紛らわしいな!」


 むしろそこは走らせてほしかったぜ。ロマンって言うかさ?

 俺は内心駄目出しし、ため息をついた。まあ、確かに過去に行ければなんでもいいのかもしれないが……。

 と思っているその時だった。


「待ってくださいっ!」


 突如天井の一部が崩れ、残骸と共に川上が落下してきた。こ、こいつ、ここまで追ってきやがった――っ!

 俺たち三人は慌ててリム子に乗り込む。


「ああん、こんなにいっぱい、入らないよぉ!」


「うるせえ! 入ってるだろうが!」


 俺は力強くバタンッとドアを閉めた。


「あんっ、もっと優しくしてっ」


「お前の下ネタにはなぁ、飽き飽きしてんだよ!」


 リム子の下らない下ネタにツッコミを入れながらシートベルトを締める。


「急げ中野!」


「分かっておる。そう急かすでない」


 とはいえ、川上はタイムマシンと目と鼻の先の距離まで来ている。

 川上のことだ、ドアを閉めていようが、窓を割るくらいのことはして侵入してくるだろう。焦りもするぜ……っ!


「待って――」


 間一髪、川上の握りこぶしが窓ガラスに触れる直前に、タイムマシンは時間旅行を始めた。

 周りが目を開けていられないほど眩い光に包まれ、タイムマシンは激しく振動する。俺はしっかりシートに掴まって振動に耐えた。

 しばらくして光と揺れが収まったので俺は目を開けた。




 そこはまさしくあの十字路だった。

 俺が転校初日に『少女漫画のような運命の出会い作戦』で城ケ崎にぶつかろうとしてリム子に轢かれた、あの十字路だった。


「どうだ永井、場所は合っているかね?」


「ああ、大丈夫だ」


「ではあとは時間だな。メーターは、過去の君がここに来る五分前の時刻を指している。五分後に過去の君が来ればタイムスリップは成功したと判明する」


「大丈夫だろ、中野の発明なんだから」


 そう言いながら俺は、水島と中野に記憶転移装置を一台ずつ手渡した。


「これがクローンに記憶を移す時に使ったっていうやつか」と水島。


「ああそうだ」


「……どう見ても、二つの金属ボウルを鍵盤ハーモニカのチューブで繋げたようにしか見えぬのだが……」と中野。


「おいよく見ろぉ、ボタンも付いてるだろぉ?」


「……一個だけだがな」と水島。


「まあ細か良い事は気にしない気にしない! 使い方はこの前説明したとおりだ。さあ、早くお前らも自分たちとこ行けよ」


 俺が言うと二人はそれもそうだと、記憶転移装置を手に過去の自分が居るであろう場所へと向かった。俺も、そろそろここに過去の俺が来るのでタイムマシンから降りた。

 その時だった。俺がドアを閉めると同時に、トランクの開く音が聞こえた。


「久しぶりだな、永井一」


「はー、お前さんもしつこいねえ」


 トランクから出てきたのは香木原七菜だった。

 川上からの逃亡生活中、香木原だって俺の命を狙っているのに一度も顔を見せなかったのはおかしいとは思っていたが、まさかこのタイミングで現れるとは。

 どうやってかは知らないが、俺が中野のラボを訪ねるという情報を掴んで中野のラボに忍び込み、タイムマシンの中に潜んでいやがったんだろう。


「しかし、お前ここまで付いて来て大丈夫か? ここは過去だぜ?」


「悪いが話は既に聞かせてもらった。それに、ここがいつだろうとどこだろうと、お前を殺せるのなら何だって良い」


「おーおー、そいつは怖いねえ」


「……だが、殺すのは今ではない。正面から戦ってお前に勝つことは難しい。機会を待たせてもらう。いつまでも」


「そうかいそうかい。だが、そんな機会が来ても無理だと思うがな。俺に襲い掛かった瞬間、脳波コントロールでお前の性感帯を刺激し――」


「う、うるさいっ! それでも私は――あんっ」


「待て! おしゃべりはここまでだ。俺が来た」


 ついに過去の俺がこの十字路へとやって来た。

 香木原に邪魔されちゃ敵わんので、俺は香木原の性感帯を刺激し行動不能にした。香木原は膝から崩れ尻をぺたんと地に付けた。

 俺は過去の自分の前に躍り出て言った。


「俺は未来から来たお前だ。今すぐ飛び出すのを止めろ。さもなければリムジンに轢かれ、リムジンと恋をし、犯罪者になるぞ」


「……それで信じると思うのか?」香木原がぼそり。


「信じよう」過去の俺はキッパリ。


「なんだって……っ!?」香木原はビックリ。


 話が早い! 香木原が何やら言ってきたが、過去の俺はさすがは俺と言いたくなるほど、すぐに俺の言うことを信じたのだった。

 過去の俺は言った。


「こんなイケメンは俺の他はこの世に居ねえ。しかし、このイケメンはまさしく俺とまったく同じ。こんな矛盾が起こるのは未来から来た自分だからに違いねえ」


「なんて合理的発想なんだっ!? さすがは俺!」


「私はもう付いていけない……」


「じゃあさ、信じてくれたなら俺の話を聞いてくれ」


 俺は過去の俺に、なぜ俺がこの時代に戻って来たのかを説明した。そしてそのために、やらなければいけない事を話した。


「ということで、俺の記憶をお前に授けたい。その記憶をもとに、お前は俺がやらかしてしまったミスを回避して欲しい」


「そういう事なら協力しよう。むしろこっちから頼みたいくらいさ」


「ありがとよ、俺の未来、お前に託したぜ。それじゃこっちを頭に被ってくれ。俺はもう片方を被る」


 俺は記憶転移装置の金属ボウルの片方を手渡した。


「ああ、未来の俺、俺に任せろ!」


 二人ともが金属ボウルを被り終えると、俺はボタンを押した。




 記憶の転移は一瞬で終わった。


 ――そして、俺の目の前でさっきまでの俺が倒れた。


「ひひ、ふふふ、あはははははっ!」


「な、なにが起きた? 未来から来た永井が倒れたぞ……? い、意識が無いようだ……」


 香木原は驚いた。


「それに何故、過去の永井が、未来から来た自分が倒れたのを見て笑う……?」


「いやあ、過去の俺には悪い嘘をついちまったな」


「どういうことだ……? 過去の永井にしては妙な口ぶりだな……。いや、なんとなく私にとってプラスな事のような気はするが……」


「記憶を移すってのは本当の話だ。だが、移すのは記憶だけじゃなく人格もだったのさ」


「……つまり、肉体を乗っ取ったと?」


「有り体に言えばな」


「お前、最低だな!?」


「馬鹿を言え。過去の俺ってのは他人のようで俺自身だ。俺が俺のことをどうするかなんて勝手だろうが! それに、この際手段なんて選んでられるかッ!」


「酷い倫理観の欠如だ……」


 とはいえ、実際本当のことを言ったら拒否されるだろうと想像がついたから騙したわけだが。しかし、こいつは仕方のない事情があるのだ!


「そうは言うが考えてくれよ、いくら過去の俺が未来の俺の記憶を頼りにミスを回避して彼女を作ったとしても、未来のこの俺に彼女ができる訳じゃない。つまり俺にはなんのメリットも無いんだぜ?

 それに『過去の俺にすべてを託した。任せたぜ。俺の戦いはこれからだ!』みたいなことやっても、未来から来た俺が過去に残って何すんのって問題ができちまうじゃねえか。そいつは未来に戻っても同じことだぜ? 夢破れた主人公が残り続けるって、お話として後味悪くね?」


「主人公が騙し討ちする方が後味悪いと思うがな」


「まあ、純粋に過去の自分にタイムリープしたと脳内補完してくれ」


 さて、こんなやり取りをしていると、十字路をリムジンカーが通過した。俺は一先ず、前科持ちになることは避けられた。


「さて、話は終わりだ。あんまりゆっくりしてると遅刻しちまうんでね。それじゃ――」


 と、ここで俺はある重大なことに気が付いた。

 あ、危ないところだった……っ! 直前で気付けて良かったぜ。このままだと俺は重大なミスを犯すところだった。


 俺は進路を変え、自分の家に向かった。俺の後を香木原が付いてくる。


「待て永井、どこへ行く? 学校へ行くんじゃないのか?」


「馬鹿野郎! このまま学校に行ったら『少女漫画のような運命の出会い作戦』ができねえだろうが! 誰ともぶつかってないんだから!」


「……だから?」


「今日は休む! 明日出直して、誰かにぶつかるわ!」


「そんな理由で学校を休むなっ!」


 かくして彼女とエッチできなかった俺の人生は終わり、新しい俺の人生が幕を開けた。

 今度こそ、今度こそは放課後夕方の教室で彼女とイチャイチャラブラブ制服エッチしてみせるぜ。そのためにまずは今日は、学校をサボって彼女選びだぜ!

第十六話を最後まで読んでいただき、ありがとうございます。



今回のあとがきは長いです。


以前にも言いました通り、今回が最終回ですが最終回をこの形にした理由を少しだけお話します。

最終回は最初から「俺たちの戦いはこれからだ」みたいにしたいと思っていました。彼女ができて終わりも、できない終わりも両方面白くないと思ったからです。

しかし、卒業という明確なタイムリミットがあるのにそれ以外の時点を最終回に据えるのは、相応しくないとも思っていました。だから卒業しつつも「俺たちの戦いはこれからだ」にする必要がありました。

まあ、それを解決する力技がタイムマシンというわけです。


ところで、なぜこのタイミングで最終回かと言いますと、もともとネタが尽きるまで書いて、尽きたら最終回を書こうと思っていたのですが、連載というのは予想していたよりも大変でした。

「もうこれは駄目だ!」ということで、当初考えていた話だけは書けたのでここで最終回と言うわけです。



十六話の話はこれで終わりにしますが、最終回なので今までのまとめもしましょう。


当作品は、書くこと自体は楽しくかけたのですが、自分で改めて読み返してみてもやはりもっと表現に凝ったり、ギャグを厳選すべきだったり反省点が山のように出てきます。最早読んでくださった皆様に申し訳なくなるくらいです。

初の連載だったので色々実験的な作品ではありましたが、あまりに実験的過ぎたかもしれません。(私個人、この連載で得られた経験はありましたがそれは読者の皆様には関係ない事でしょう)

これ以上の反省は私個人がすべきことなのでこれ以上は控えます。



では最後に改めて、ここまで読んでくださった皆様に感謝の言葉を送ります。特にブックマークをしてくださった方々には、より一層感謝を。その方々のおかげで、モチベーションを保つことができました。もし一人も居なかったら、三か月くらいで連載終了していたことでしょう。


最後に重ね重ねになりますが、当作品にお付き合いいただきありがとうございました。ギャグはしばらく書きたくないと思うくらいに書きましたが、またいつかリベンジしたいと思います。



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