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【永井視点】
「……くそッ。こんなことなら、這いつくばってでも止めるんだったぜっ」
「馬鹿を言うな。今更言っても仕方あるまい」
「おい、これはなんの集まりだ?」
香木原をとっちめ、委員会の連中を更迭し、日付が変わってさらには昼になって、ようやく愛しの我が家に帰って来たと思ったら、俺の家だってのに水島と中野が上がりこんでいやがる。
しかも、俺の映った白黒写真まである。これじゃまるで遺影じゃないの。
「ああ、これはお前の葬式だ――って永井!?」
「き、君、生き返ったのか!?」
「おいおい、今日がクリスマスだからってキリストじゃないんだから、そんなわけあるめえ」
……ていうかちょっと待て、俺の葬式に割には出席者が少なくはねえか? 水島と中野の二人しか居ねえ。巨乳美少女が誰も居ないじゃねえか!
「では、一体何だというのだね?」
……いや人数については今はどうでもいいや。
二人ともビックリたまげて、このままだと魂が抜けちまいそうだったんで、俺はこの際だからすべてを話すことにした。
「ああ、実はかくかくしかじかでな」
「「な、なにー!? お前と香木原は実は強化人間で、しかも実はお前は香木原に命を狙われていて、そしてそれはもう全部解決しただとー!?」」
「ああ、そうだ」
二人は心底驚いた様子だったが、俺の言うことを信じた。
中野は言った。
「いやあ驚きだが、まあなんにせよ君が無事でよかった。実を言うとこの後タイムマシンに乗って、君を助けに行こうとしていたところだったのだよ」
「へえ、そいつはありがとうな」
いや待て、サラっと言ってるがタイムマシンって凄くねえか?
俺が内心ビビっていると、水島はふと思い出したように言った。
「ところで香木原はどうした? その委員会とやらは更迭したらしいが、香木原はお咎めなしか?」
「ああ、それか。そんなわけねえだろ? 入って来いよ」
俺が呼びかけると、実はさっきから廊下に居た香木原が、とぼとぼ部屋に入ってきた。彼女は俺の選んだメイド服を着用し、おっぱいはすでに巨乳化薬で巨乳化済みだ。
「……何か用か?」
香木原は俺を睨んだ。
「メイドがそんな反抗的な態度で良いのかなぁ?」
「何がメイドだ……っ。お前などの言いな――あんっ」
「おい永井! こいつ、急に喘ぎだしたがどうなんてんだ?」
「からくりは簡単だ水島。巨乳化薬を投薬する際にな、ついでに性感帯にナノマシンを埋め込む手術をしたのよ。そのナノマシンは、俺の脳波で思うがままにコントロールできる代物。つまり、香木原はもう俺の意のままって訳よ」
「性感帯だって!? おい永井、そいつはどこなんだ!?」
「あ、そりゃもちろん――」
「わ、脇だ……っ! 脇に決まっているだろうっ!?」
水島の好奇心溢れる質問に答えようとしたところ、香木原は俺の声をかき消すように大声で自分の性感帯を暴露した。
「お前自分で、それも男の前で性感帯暴露とか、……変態か?」
「……な、なんだと!? お前の口から――あんっ」
俺は脳波を送って香木原の口を黙らせた。
ちなみに香木原の性感帯は脇以外にもあるが、今のところは黙っておいてやろう。いざという時「バラされたくなければ」なんて言って、あんなことやこんなことができるかもしれん。ぐへへ。
「ところで話は変わるが」
「なんだよ中野?」
「我輩と水島の言う通り香木原には裏があったわけだが、そこのところはどう思っているのかね?」
「ああ、それね。もちろんお前らには感謝してるさ。いやー、本当にいい友達を持ったもんだよ俺は」
香木原の前では調子に乗って俺の度量のおかげとは言ったが、やはりきっかけをくれたのは二人だし、中野に至ってはタイムマシンまで用意してくれたんだ。いくら俺だって感謝くらいするさ。
「……ふむ、なら良いだろう」
「ホントにな。だが、俺たちに飯くらいは奢ってくれよな?」
「まあ、うどんくらいなら」
「お前、本当に感謝してんのかぁ?」
水島は笑いながら俺の背中を叩いた。つられるように俺も中野も笑った。
ひとしきり笑った後、俺はある重大なことに気付いた。
「俺、結局今回も彼女を作れなかったじゃねえか……」
「それは、まあ、いつもの事じゃねえか」
水島は俺の肩に手をかけて言った。俺はその手を払いのける。
「馬鹿野郎! あと二か月もすりゃ卒業だぞ!? 後がねえんだよ! どうする!? どうやったら彼女を作れる!?」
「諦めるしかないのではないかね」
「そういうなよ中野ぉ。なんか便利な道具出してくれよぉ」
「残念ながら我輩の名前は達典。『えもん』は付かないのでな」
「そんなぁ~」
『諦めないでくださいっ!』
「おや? どこからか救いの声が! この声の感じはまさしく巨乳美少女の声!」
きっと日ごろの俺を見て不憫に思った神様が、俺に巨乳美少女をつかわせてくれたんだ。そうだ、きっとそうに違いない。
声は俺の後ろから聞こえた。俺は声のする方を振り向いた。
「私と真実の愛を育みましょうっ!」
「げぇっ、お前は川上っ!」
そこには、顔面以外包帯でグルグル巻きになった川上が立っていた。まるでミイラみたいな見た目だが、それでどうやってここまで来たんだ。
「永井君のお葬式だって言うから来たんですけど、生き返ったんですねっ! この奇跡っ! これはもう私と心中するために生き返ったに違いありませんっ! さあ、私と心中しましょう今すぐにっ!」
いつにも増して圧が凄いっ!
「せっかく死なずに済んだのに、命を投げ出して堪るかっ!」
見方によっちゃあ、川上も香木原と同じ暗殺者だ!
「あっ、待ってくださいっ!」
俺は走った。
必死に走った。
川上が見えなくなるまで、俺は足を止められない。
雨の日だろうと風の日だろうと。
しかし川上は、ずっと俺のあとを追いかけてくる。
いつまでたっても俺の後ろを走ってる。
ついに一生終わらない鬼ごっこが始まった。




