94_真里姉ととある母親の過去語り(前編)
三章完結に伴い、表紙絵を変更致しました。絵師nemさんに描いて頂いた珠玉の一枚。
変更した表紙絵はプロローグの前書きにそっと挿入していますが、今話の後書きでも掲載致します。
こちらもお楽しみ頂けると幸いです。
幼聖食堂で雇って頂いてから、数日経ったある日のこと。
当日分のカスレは開店と同時に次々と売れていき、お昼を前にして食事処としては閉めてしまうという状態が、ここ数日続いています。
といいますか、売り切れる時間がどんどん早まっているのは気のせいではないはず。
給仕と食器洗いを手伝ってくれているライルが、日に日に忙しくなっている姿からもそれは明らかですし。
本来なら値段を上げて利益を増やすところなのですが、マリアさんの意向でお値段は変わらず。
人気を思えば私なら……と、いけませんね。
つい昔の癖で、どうしたらもっと稼げるか考えてしまいます。
それではマリアさんの想いを蔑ろにしてしまいますからね。
美味しく体に良い物を、いつも通りに。
さて、食器の片付けはライルに任せ、私は武具防具を見に来られるお客さんの対応を。
最近はこちらも大分売れるようになったのですが、少々困ったことが一つ。
それは……。
「あ、あのレイティアさん! 新しい剣が欲しいんだけど、どれが良いか迷っていて」
「俺も俺も! 革鎧新しくしようと思うんだけど、なかなかピッタリのが見つからなくてさ」
「一緒に弓を選んでもらいたいのだが。いや、忙しいのなら無理にとは」
一見するとただ買い物に来たお客さんなのですが、この方達、実はここのところ毎日来ているのです。
そして皆さん良い物を探していると言いながら、私が時間をかけて接客しても、結局買うのは店で一番安い武具防具ばかり。
私も初心な娘ではありませんから、目的が買い物に無いことくらい直ぐに分かりました。
一度や二度ならにこやかに対応しますが、さすがに連日ともなると、私も我慢の限界というものがあります。
ですので、今身に着けていらっしゃる武具防具が本人に比べ見劣りすることをさりげなく指摘し、店でも高めの物がいかに相応しいかを、あくまで私の感想としてお伝えしました。
すると皆さん、喜んで私のお勧めした物を買ってくれます。
何か特別なことをしたのか、ですって?
いえいえ、何も特別なことはしていません。
ただお試しになった際、私は片手を自分の頬に当て、少し首を傾けて吐息を溢してからにこりと微笑んだ、それだけです。
それと、『やはり持ち主を選ぶ物があるのですね』という言葉を添えたような気もします。
これで皆さんは強くなられ、店は利益が増え、私も私を本当に必要とされている方のために時間を使うことが出来ます。
ほら、良いこと尽くめですね?
そして武具や防具を新調された皆さんは、当分の間お金が無くてここへは来ないことでしょう。
これまでの会話から所持金がどの程度あるか、しっかり見極めていましたから。
いえいえ、さすがにお財布が空になるような物は売っていませんよ?
数日分の食事と宿に泊まれるだけのお金は、残るよう調整しています。
いずれお金を貯めて、また来て頂きたいものですからね。
お客さんを見送ってから戻ると、ライルが私のところに駆け寄ってきました。
「母さん、片付け終わったよ」
「ありがとう、ライル」
そんな一言は、まるで誰かを探すかのように、辺りに忙しなく目を向けながら。
あらあら、まあまあ。
これも息子の一つの成長といえるのでしょうか。
微笑ましいですし、母として応援したい気持ちはありますが、高嶺の花過ぎる方ですよ?
何しろ国王陛下が直々にお会いに来られ、今や英雄と呼ばれる方なのですから。
そういえば、しばらく前に隣の空き地から楽しそうな声が聞こえていたような気が……けど、今は静かですね。
少しだけ考えた私は、ライルに離れへおやつを持っていくよう伝えました。
少し不満げな様子でしたが、皆がいるかもしれないと伝えると急にやる気を出すのですから、男の子は単純ですね。
ライルが離れに向かうのを見届けた後、私は一人隣の空き地へ。
ぱっと見誰もいないようでしたが、野晒しにされた資材の裏を覗き込むと、そこには思わず目を細めてしまう光景が広がっていました。
それは日溜まりの中、絨毯のように広がる白詰草の上に横たわる空牙さんに包まれ、ネロさんを抱いてお昼寝しているマリアさんの姿。
私が近付くと空牙さんとネロさんが目を開けこちらに顔を向けてきましたが、私が人差し指を口元に当てると、察してくれたのか何事もなかったかのように再び眠りについてくれました。
日溜まりの中とはいえ、時折吹く風にはいくぶん冷たさも混ざっています。
「けど、お二人がいれば毛布は必要なさそうですね」
私はマリアさんの側で膝を折り、その艶やかな黒髪を撫でました。
起こしてしまうかと少し不安でしたが、心地良さそうな表情をされたのでほっとします。
その穏やかな寝顔を見ていると、英雄と呼ばれているのが嘘のようです。
「こんなにも愛らしいのに……」
けど、この小さな体でエデンの街を救ったのは紛れもない事実。
そして私もマリアさんに一度……いいえ、二度助けられています。
初めはそう、以前住んでいた街がまだカルディアの地図上に存在していた頃の話……。
いつもお読み頂いている皆様、どうもありがとうございます。
三章完結後もこうしてお付き合い頂き、本当にありがたく、そしてとても嬉しいです。
さて、今話からしばらく幕間となります。そしてのっけからの二話構成。
幕間、今回は何話になるでしょうね……。
三章完結前から数えて、新たに21件の感想を、157人の方から有り難い評価を、373人の方から嬉しくもお気に入りに登録頂けました。本当にありがとうございます。
おかげさまで、こうしてまた新たなお話をお届けるする、そのエネルギーとなっています。
また今回も誤字脱字のご指摘を頂くことが出来ました。ありがとうございます。
頂いた指摘を元に、修正させて頂きました。今後も気になる点がありましたらご指摘の程、よろしくお願い致します。
よろしければブクマ、感想、レビューお待ちしています。
また評価につきましては、
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しばらく週1ペースが続くと思いますが、今後とものんびりと、どうぞお付き合い下さいませ。
そして以下、新たな表紙絵になります。絵師nemさんに描いて頂いた一枚。
物語全体の雰囲気、テーマ。絵として伝えるならという形が、そこにあります。よろしければご覧くださいませ。




