89_真里姉と演目の終わりに残るモノ
お読み頂いている皆様のおかげで、累計PV260万超え、総合ポイント3万超え間近、ブックマーク数7000超え間近という状況です。本当にありがとうございます。
私が投稿を始めて早3ヶ月になりますが、初期からお付き合い頂いている方で、ここまで読まれるようになると思われた方、どれくらいいるのでしょう? そんな方に支えられたおかげで、私は今、書き続けることが出来ています。
レオン達との戦いが終わった瞬間、私は堪らずギルスの元へと駆け出していた。
膝を突いて倒れかけるギルスをなんとか抱き留めることは出来たけれど、その体は酷い状態で。
左腕は肘から先が失われ、お腹は大きく穴があいており、右手に至っては原型を留めているのが不思議なくらいあちこち折れ、そして歪んでしまっていた。
余りにもボロボロなその状態に、私はまた家族を失うのかと怖くなったくらいだ。
けれどそんな私を、ギルスは辛うじて動かせるくらいの右手で、優しく撫でてくれた。
その手が『どこにも行かない』と言ってくれているようで、私は抱き留めたギルスの胸に顔を埋め、密かに泣いた……。
ようやく落ち着いた私が改めてギルスを見ると、その瞳に色が宿っていることに気がついた。
その色は、私がこれまで何度も目にした色で。
「その瞳は……そっか、ネロと空牙はそこにいるんだね?」
「ああ。オレの中で、今までと変わらずマリアの側にいると、そう言っている」
「そう、なんだ……そうなんだね……」
いけない、そんなことを言われたらまた泣いちゃうじゃない。
と、抱き留めたギルスの体が何かを警戒するように強張った。
ギルスが視線を向ける先、そこにはこちらへ近付いてくるメフィストフェレスの姿が。
「あの外道っ」
「ダメっ!」
立ち上がろうとするギルスを、なんとか押し止める。
力では本来ギルスに敵わないはずなのに、それが出来たのは私の意思を優先してくれたからだね。
そういった些細なところに、私を家族だと認めてくれたことが表れているように思えて、私は嬉しくなった。
尤も、ギルスを止めたのは他にも理由があるのだけれどね。
それは近付いてくるメフィストフェレスに、私達を害するような感じがどこにもなかったから。
仮面の奥に見える赤い双眸。
私達が戦っている時は楽しそうに細められていたのに、今は小さな点になり、どこか呆然としているようにも感じられた。
3m程の距離を置いて立ち止まったメフィストフェレスは、顔を俯けては持ち上げるといった動作を、何度も繰り返していた。
それは話したいことがあるけれど、本当に言っていいのか迷っているようにも見えて……。
声となって発せられたのは、しばらく経ってからだった。
「どうして、マリア様はこれ程のことがあってなお、憎しみに囚われないのですか? 家族を失ったのですよ? 怒りを、怨みを覚えるはず! それが、それが人間というものではないのですかっ!?」
言葉だけを捉えれば、そういう状態に陥る私を見たかったとも聞こえるね。
けれど気付いているのかな? その言葉とは裏腹に、メフィストフェレスの眼の色は、まるで安堵したかのように赤みが和らいでいるんだよ?
「マリアをあんな奴らと一緒にするのか、貴様っ!」
私はギルスの右手を握って、首を横に振った。
ここはギルスにも、ちゃんと聞いて欲しい。
「私だって悲しくて、悔しいですよ。何故こんなことになったのか……理由も分からないままですし、家族を奪った彼等を許せない気持ちも、確かにあります。でもそんな感情に身を任せてしまったら、私がギルスに託した想いを、私が裏切ることになります」
「マリア……」
ギルスの体から力が抜けていくのを感じ、私は続けた。
「そんなことは、家族の長として示しがつきません。私、これでもお姉ちゃんですから」
「……」
メフィストフェレスは、黙って聞いてくれていた。
やがて溢すように話してくれたのは、この戦いの背景、その一端。
「全貌をお伝えするのは、ヴィルヘルミナ・フォン・レギオス様のお役目でございましょう。私から申し上げられることは、帝国の冒険者様が何を思い、ここに赴いたかでございます」
どちらかというとそっちの方が気になるから、私としてはありがたい。
「脇役である、冒険者様同士での殺しを楽しむ方々がここにいらしたのは、偏に前回のイベントで有名になられたマリア様を倒すことで、名声を得ようとしたためです」
PKに狙われているから注意しろと言われていたから、これはまあ、予想通りといったところかな。
分からないのは、妙に感情の見えなかった冒険者達のことと、後はレオン達か。
「助役の方々は、主に攻略組の方々。攻略組という面子を潰されたと感じ、国を変え再出発しながらも、帝国という猛者が集う国において実力の壁にぶつかり、鬱積した想いを抱えた方々なのです。私がその方々に囁いたのですよ。マリア様を倒し、アレイス・ロア・カルディア様を倒せば再び輝かしい日々を取り戻せるのでは、と」
「そんなことで……」
「そんなことで人が動くはずがないと、思われますか? 多くの冒険者様は見たい物を見て、聞きたいことを聞くのですよ、マリア様。そして燻っている方ほど、縋ることが出来る何かを欲しておられる。たとえそれが夢幻だと分かっていても、縋らずにはいられないのです。実際に助役の方々がここに赴かれたことからも、それは明らかです」
そう言われてしまうと、反論が出来ない。
メフィストフェレスの言う弱さは、多かれ少なかれ、みんな持っているものだと思うんだ、勿論私も含めてね。
「レオン様のパーティーに関しましては、事情が複雑なため一言では申せません。ただレオン様とミスト様を除いた三人の方が赴いた理由、それは義務といえるものではないかと推察します」
その言葉に、何か納得した様子なのは他ならぬギルスだった。
直接戦ったからこそ、分かる何かがあるのかな?
「演目は終わり、主役を残し他の演者は去りました。私の思い描いていた結末とは異なりましたが、これほど見事に演じ切られた主役には、相応の対価が支払われるべきでございましょう」
メフィストフェレスがパチッと指を鳴らすと、ギルスの体が淡い光に包まれた。
その光に害意は感じられず、むしろ温かみがあって、光が消えるとギルスの傷は全て癒えていた。
「ギルス様の健闘に敬意を表して……ただ忠告させて頂けるならば、【業禍】というスキル。出来るだけ使わないことをお勧め致します。あのスキルは今後のマリア様の活躍により、さらに威力を増すことでしょう。今回は二度の使用によるダメージを私でも癒すことが出来ましたが、次は分かりません。そしてもし三度使っていたならば、体ではなく魂に傷を負っていたかもしれません。そうなれば、癒す手段はないのです。努々、お忘れなきよう」
そんな危ないスキルを使っていたなんて……。
思わず、どうしてそこまで! と言おうとしたけれど、止めた。
同じ立場だったなら、きっと私も同じことをしただろうから。
だから代わりに、私はギルスをぎゅっと抱き締めてあげた。
瞳に色が宿ったおかげで、ギルスが慌てるというか、恥ずかしがっているのが良く分かり、ちょっと可笑しい。
……本当に、ありがとうね。
「そして、マリア様への対価ですが……」
言いかけたメフィストフェレスの前に、魔法陣が現れる。
そこから出てきたのは、ネロと空牙の亡骸だった。
胸に手を当て深く一礼したメフィストフェレスが、二人の亡骸から残っていた魔石を取り出すと、それを両手の上に乗せ、何事か呟き始めた。
呟きの内容は聞き取れないほど早く、何の言語かも分からなかったけれど、どこかで聞いたことがあるような……ああ、エステルさんが歌った鎮魂歌に似ているんだ。
祈るような、願うような、そんな響きが……。
やがてメフィストフェレスの声が止むと、二つの魔石を包むように亡骸が集まり始め、それを黒い包帯が包み込んでいき、一抱えはありそうな黒い卵に姿を変えた。
「……これはネロ様と、空牙様の魂が宿る物に、ございます……武具や防具を与えることで成長し、やがて、マリア様の新たな力となる、ことでしょう……」
そう言って私に黒い卵を渡したメフィストフェレスの体の色は、黒から灰色に変わっていた。
憔悴した感じといい、普通じゃない。
「メフィストフェレス、あなたは……」
「マリア様、それ以上はどうか口になさらず。しかし演出家ではなく演者となることも、たまには良いものですね」
そう言って、メフィストフェレスは寂しそうに目だけで笑った。
「これからも私は、マリア様にとって試練という形で現れることでしょう。その時は、ただ敵と見做して下さい。決して、躊躇ってはなりません」
真摯に語りかけられる、その言葉。
でも、そんなことを言われたら……。
「無論だ。マリアの敵に容赦など不要!」
「ギルス!?」
そこはもうちょっと、空気を読もうよ。
「くふふっ……流石はギルス様。ええ、情けも容赦も不要にございます。さて、名残惜しくはありますが、舞台の幕も降りる頃合い。お二人は元の場所へとお送り致します。この続きは、ヴィルヘルミナ・フォン・レギオス様の口から語られることでしょう……」
メフィストフェレスが最後に慇懃な一礼を見せると、私達の足元に魔法陣が現れ、その場から転移させられた。
そして舞台は、再び王様や女帝のいる”ラクス・ラクリマ”、”涙の湖”に戻るのだった。
いつもお読み頂いている皆様、どうもありがとうございます。
これにて三章におけるマリア達の戦いはひとまず幕となります。あとは女帝による全貌と、結末を数話残すのみでございます。
今回、新たに18件の感想を、70人の方から有り難い評価を、155人の方から嬉しくもお気に入りに登録頂けました。そしてcan@赤ペン職人さんから非常に個性的? なレビューを頂き感謝感激なのです。
また1件、メッセージでも応援頂き、とても嬉しいです。
本当にありがとうございます。三章の結末に向けて、引き続き頑張って書こうという気力につながっています。
今回、新たに誤字脱字のご指摘を頂くことが出来ました。ありがとうございます。
頂いた指摘を元に、修正させて頂きました。今後も気になる点がありましたらご指摘の程、
よろしくお願い致します。
また新しい試みとして、昨今の情勢を鑑み、ノベルアップの「心と身体フェア」に短編を投稿しました。
nemさんによる表紙のイラストだけでも一見の価値ありです。よければご覧ください。(まだ1話ですが……)
https://novelup.plus/story/423172347
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自粛が延長される中、この物語が一時、感情に届く何かをお届け出来たなら幸いです。
今後とものんびりと、どうぞお付き合い下さいませ。




