88_真里姉と彼と彼女の強さ
最後に現れた、レオン達五人。
【魂の継承】によりマリアから流れ込んでくる記憶の断片が、かつて奴らがマリアにしたことを教えてくれる。
それだけで今すぐ八つ裂きにしてやりたいところだが……どうにも様子がおかしい。
戦士系の男であるレオンは、他の冒険者と同様に表情が怒りと憎しみに染まっている。
だが他の四人、いや三人はレオンとは違った意味でおかしい。
まず魔道士系の女、ミスト。
こいつの様子はPK共に近い。
明確な敵意を自らの意思でこちらに向けている。
問題は他の三人だ。
騎士系と盗賊系の男が、それぞれギランとアークス、聖職者系の女がロータスといったか。
こいつらは感情に支配されていない。
その眼を見れば、理性的な色が残っていることくらい一目で分かる。
にも拘わらず、こうしてレオンやミストと行動を共にしている。
全く理解出来ないが、マリアを傷付けるというのなら、容赦するつもりはない。
【龍糸】を操り、目障りなミストから片付けようとしたオレは、しかしその攻撃は意図せずギランへと引き寄せられた。
「むっ!」
【クラウン】と同じ、攻撃を誘導するスキルか。
だがこの糸の前に、防御など無意味。
盾を構えるギランを両断すべく、糸が絡み付く。
しかし糸はギランに触れる寸前、金色の膜のようなものに阻まれ静止させられた。
力を込めてもびくともせず、膜が破れる気配もない。
これは、スキルか?
こちらに防御力無視という【龍糸】の特性があるのだから、攻撃無効や絶対防御といったスキルが存在しても不思議ではないが……。
舌打ちしそうになるのを堪えながら、糸を戻そうとしたオレの左腕。
いつの間にか、肘の部分に刃が突き立てられていた。
「人形なら、人体の構造的な弱点も同じだよな」
肘の裏側、動きを阻害しないために、部分的に薄く鞣された翼竜の革で出来た皮膚を、精確に突いてきたか。
右手で攻撃するが、アークスは難なく躱してみせた。
さらに離れ際、抉るように動かされた短剣によって筋が切断され、オレの左手は辛うじて肘にぶら下がっているような有様になった。
人体を模している故の弱さか。
「ならば、人形であるが故の強さを見せてやろう」
奴らに一瞬だけ無防備な背中を晒し、その裏で右手で左腕を引き千切る。
そして足元から上半身に至る全ての動作を振り返る、言い換えれば捻る動作に変え、オレは最も加速した瞬間にアークス目掛け左腕を投擲した。
咄嗟に防御の姿勢を取ったのは褒めてやるが、盗賊の防御力で耐えられると思うか?
交差させた腕を砕いてなお、オレの投擲した左腕は止まらずアークスの体に風穴をあけた。
「速さで勝てないなら、力で補ってやればいい」
まずは一人。
次の相手に向かう前に、幾つもの炎が飛んできた。
多くは糸で捌いたが、片腕になっては全てを処理することは出来ず、躱すことを余儀無くされる。
ミストは何やらマリアへの罵詈雑言を吐いているようだが、聞くに堪えないな。
一刻も早くその口を閉ざしてやりたいが、放たれる魔法が無駄に強く、そして隙がない。
さらに厄介なのが。
「くっ!」
合間を縫うように攻撃してくる、レオン。
剣による攻撃は鋭く、何度となく右手で防ぐがその都度ダメージを負わせられる。
アダマンタイトと翼竜の革で出来たこの体、アークスのように弱点を狙われた訳でもないのに、ただの物理攻撃でダメージを負うとは考え難い。
何らかの方法で、魔法的な威力を上乗せしているな?
オレの体は、魔法に対する防御力が必ずしも高くはない。
これは早急にあの三人に改善させなければ……。
と、そんなことを考えている間にも攻撃は続く。
オレは攻撃の隙を突いて糸を振るうが、尽くギランによって防がれた。
忌々しい限りだが、しかしこれで疑問が解けた。
何らかのスキルであろうと、一人で何度も【龍糸】の攻撃を防ぐことは不可能だ。
それを可能にしているのが、おそらくギランの背後にいるロータスの支援。
そして強力な支援程、支払う対価もまた大きいはず。
つまり時間をかけることで突破口は見えてきそうなのだが、こちらにも余裕がない。
この場所で戦い始めてから、既に数十分が経過している。
マリアのMPが限界を迎えつつあることは、想像に難くない。
「ならば」
オレは即座に思考を切り替え、ギランへ突撃した。
最も脅威と見做されているであろう【龍糸】の攻撃を防いでなお、ギランは油断無くこちらの動きを目で追ってくる。
スキルや装備だけではない、この男自身の持つ強さが、盾を構える姿に現れていた。
敵ながら大したものだ。
仮にスキルが無くとも、この男、ギランを崩すことは容易ではなかっただろう。
外からの攻撃に対する堅さは、さながら要塞といったところだが……この一撃、防げると思うなっ!
糸を握りしめたまま、右手に全身のオーラを収束、圧縮。
その色が黒から白へと昇華された瞬間、ギランとの間に広がる虚空へ向け、オレは右手を打ち込んだ。
何も起きないことを訝しむギランだったが、体の内側から目が眩む程の光が溢れ出し、爆散。
そして何が起きたかも分からず呆然とするロータスを、オレは糸を飛ばし両断した。
これで三人。
次なる相手に向かおうと足を踏み出し、体が揺れた。
「ぐっ」
さすがに負担が大きいか……。
なんとか踏ん張り、上体を支える。
まだだ、まだ倒れる訳にはいかない。
瞬く間に守りの要である二人を倒され、ミストは戦意を喪失したのか、その場に座り込んでいた。
「なっ、なんなのよ今の! なんでギランが、それにロータスまで、えっ? あり得ないんだけど!!」
オレは近付くと、その首を掴み持ち上げた。
「くるしっ……やめっ、いだっ……」
止めて、痛い、か……どの口がそれを言うっ!
オレは今、純粋にオレとして怒りを覚えている、覚えているぞっ!!
「貴様はそれだけの人間らしい感情と痛みを持っていながら、なぜマリア達の声なき悲痛な叫びを、痛みを想像することが出来ない。貴様は本当に、マリアと同じ冒険者なのか?」
オレの問いに、しかしこミストが応えることは無く、ただ泣き叫ぶだけだった。
……応えを求めるだけ、無駄か。
ならばオレは、オレの家族を、家族が守りたい者を守るだけだ。
「おねがっ、ゆるっ」
最早言葉を発することすら許せなくなり、オレはミストの首を握り潰した。
こんなやつのために、マリアから託された糸を汚してたまるか。
さて、これで四人。
最後に立ち塞がるのは、マリアの記憶にある顔とは似ても似つかない、醜悪な顔をしたレオン。
「なぜだ、なぜ僕より劣るあんな奴が評価される! そんなこと許されない、許されていいはずがないっ!!」
感情に支配されていながらも、剣を扱う技術は流石といったところか。
右手一本で対処するが、全てを凌ぐことは出来ず、蓄積するダメージによりオレの動きは鈍くなりつつあった。
それが更なるダメージに繋がり、右手を弾いたレオンが、無防備になったオレの腹に剣を突き立てた。
「かはっ」
剣に備わった魔法の影響か、凄まじい痛みが腹部から全身へと駆け抜けた。
だがこれしき、マリアの受けた痛みに比べれば、どうということはないっ!!
「っ!」
剣を刺されたままの状態で、オレは自分の体ごと糸でレオンの体を縛り付けた。
「くそっ、離せ!」
ダメージを負った今のオレでは、このまま貴様を切断するだけの力を発揮することは出来ない。
だがこうして、動きを封じることは可能だ。
そしてこれだけ密着していれば、今のオレでも貴様に一撃をくらわせることは難しくない。
オレの右手に、再び黒いオーラが集まり始める。
「こんなチートみたいな道具まで使って、卑怯だぞ!」
こいつは本当に救いようがないな。
ならば貴様が劣ると言った、マリアの強さ知るがいい。
「冥土の土産だ。これから放つスキルの名は【業禍】。オレに備わる二つ目のスキル」
黒いオーラが、徐々に白へと変わっていく。
「このスキルはレベルやステータスはおろか、手にした武具さえも、スキルの威力に一切影響を与えない。故に、常人が使えば雑魚モンスターすら倒せないだろう」
「そっ、そんな塵スキルがなんだと言うんだ!」
ああ、貴様にとっては間違い無く塵スキルだろう。
だがマリアが使う場合、マリアに託された俺が使う場合、その価値は一変するぞ。
「このスキルの威力を決定するもの、それはただ一つ。スキルを放つ者が持つカルマ。そして対象とのカルマの差が大きい程に、威力は増す」
オレの右手は、今や眩い程の白い光を纏っていた。
「マリアの持つカルマは14万。貴様のカルディアにおけるカルマは0以下。貴様が劣るといったマリアの強さ、耐えられるものなら耐えてみろっ!!」
限界まで高められた白い拳を、オレはレオンの腹に打ち込んだ。
拳の衝撃により、拘束していた糸が防具に食い込んでいくが、糸が切断するより早く、ギランと同様に光の爆発が起こり、その光に呑み込まれレオンの体は消滅した。
「これで、五人」
冒険者共は、これで全て片付いたか……。
マリアの元へ向かおうとしたが、ダメージと【業禍】の反動により、ボロボロになった体は限界を迎え、オレは膝から崩れ落ちた。
膝を突き、上体が地面にぶつかる……と思ったのだが、そうはならなかった。
「ギルス、ギルス!!」
いつの間に近付いていたのか、マリアがオレを抱き留めてくれていた。
その体から伝わる温もりが、ただオレの身を案じていることを教えてくれる。
自分も深く傷付きながら、それでもなお、マリアはオレを心配してくれるのか……。
軋む右手を持ち上げ、オレはマリアの頭を撫でた。
大丈夫だ、マリア。
オレは、オレ達はマリアを置いてどこにもいかない。
そしてああ、なんということだ。
色を映さぬ眼では分からなかったが、マリアの黒い髪はこんなにも美しく、そして瞳はまるで青空を写し取ったかのように、深く澄んだ色をしていたのだな。
オレに宿る長兄ネロ、次兄空牙よ。
見ているか?
オレ達が守ったマリアは、ここにいるぞ。
オレ達と共に、ここにいるぞ。
いつもお読み頂いている皆様、どうもありがとうございます。
彼の戦い、第二幕となりました。
これで三章における、マリア達の戦う場面としては、一区切りとなります。
次話はもう一人? との対決ですが、こちらは戦いとは異なる展開となります。
今回、新たに12件の温かい感想を、74人の方から有り難い評価を、375人の方から嬉しくもお気に入りに登録頂けました。
本当にありがとうございます。三章の結末に向けて、引き続き書いていく原動力になっています。
また頂いたご感想は、全てお返事させて頂いており、そちらの感想もまた楽しいことになっていますので、
よければご一読下さいませ。なおアルファでは、カオスになっています(圧倒的物量に敗北している私がいます)
今回、新たに誤字脱字のご指摘を頂くことが出来ました。ありがとうございます。
頂いた指摘を元に、修正させて頂きました。今後も気になる点がありましたらご指摘の程、
よろしくお願い致します。
よろしければブクマ、感想、レビューお待ちしています。
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GWも終わりましたが、皆様の周りはいかがでしょうか?
5末まで自粛が確定しましたが、この物語が一時、感情に届く何かをお届け出来たなら幸いです。
今後とものんびりと、どうぞお付き合い下さいませ。




