87_真里姉と託された彼の戦い
今回、幕間を除けば実に久しぶりのマリア以外の視点によるお話となります。
予めご承知おきのほど、よろしくお願い致します。
オレの持つ感情は、オレの中に宿るモノ、つまり【厄災の荒御魂】から流れ込んでくる想いが全てだった。
それは冒険者共への憎しみと怒りと、殺意。
奴らのせいで家族や友人を失った慟哭が、オレという体を突き動かす。
そこに疑問はなく、オレという存在はそういう物だと、そう思っていた。
しかしあいつは……マリアは、そんなオレをまるで子供でもあやすかのように接してきた。
最初はそれに苛立ちを覚え、思うままに言葉をぶつけたのだが、マリアは困ったような、どこか悲しそうな目をするだけで何も言うことはなく……。
それが妙にオレの感情を泡立たせた。
何故そんな風に感じてしまうのか……オレの眼は色を映さぬはずなのに、その表情は酷く鮮明に脳裏へと焼き付いた。
そんなオレと魂の持つ感情に決定的なズレを感じたのは、マリアが外街の男達から石を投げられた時だ。
あの時、俺は間違い無く怒りを覚えていた。
あれだけ憎んでいたはずの冒険者であるマリアのために、湧き上がる怒りを抑えることが出来なかった……。
それから時が過ぎ、戦いを前にしたオレへの名付け。
マリアはこの名に託した想いを、こう語った。
『君は、君の想うままに生きなさい。君には君の、価値があるのだから。その願いを、我思う故に我在りの言葉から取って、君に贈ろうと思うんだ。その名は……』
ああ、そうだ。
あの瞬間に、オレはギルスの名と共に、新たな生を受けたのだ。
だが魂はそれでもなお、マリアを認めなかった。
認めるための条件は直ぐに分かったが……それを、マリアに求めるのか……。
オレが葛藤している間に、しかし事態は急転し、望まぬ形でマリアはその条件を満たしてしまった。
もし、あの慟哭を聞いても魂が応えなければ、オレは自らの手で魂をこの体から抜き出していたことだろう。
ここまで追い込まれてなお応えない魂に、力に、一体何の意味があるというのか。
そんなモノなら、オレは要らない。
しかし、魂は応えた。
それはオレの中に宿る魂、一つではない。
この手に持つ魂を合わせ、三つだ。
オレは躊躇うこと無く、両目を抉り出した。
「あの三人は言っていたな。生半可な魔石ではオレに釣り合わないと」
ならばマリアを守り、託し、散っていった二人の魂が宿るこの魔石なら……これ以上、オレに相応しい魔石があるはずもない。
オレは抉り出した左目にネロの魔石を、右目に空牙の魔石を嵌め込んだ。
流れ込んでくる二人の想いと共に、オレの視界に色が宿った。
今度はオレが……いや、オレ達がマリアを守ろう……あらゆる悪意から、脅威から。
そうだろう? 長兄ネロ、次兄空牙。
目を開くと、そこにはオレへと殺到する冒険者達の姿があった。
戦いが始まる直前、オレはマリアに【モイラの加護糸】から【纏操】と【供儡】に切り替えさせた。
これでオレはマリアの持つ力と合わせ、十全に能力を発揮できる。
腰を落とし待ち構えていると、冒険者達の一団から盗賊風の男が一人抜け出し、スキルか何かで一瞬でオレの背後に回り込むと、短剣を振るってきた。
「道化師の人形風情が、一人でイキがってんじゃねえ!」
必殺を確信していたらしいその攻撃を、オレは素手で受け止めた。
「はあっ!? なんで気付ける、ってかなんで素手で止められるんだよ!!」
長兄ネロは元々気配を探ることや、危機を察知することにも長けていたからな。
まあ、そんなことを教えてやる義理はないが。
そしてオレの骨格は高い硬度を誇るアダマンタイト、皮膚は防刃性に優れた翼竜の革から出来ている。
仮に直撃したところで、傷一つ付くものか。
「こんなのチー」
最後まで言わせず、オレは握り締めた拳をその頭に叩き込んだ。
マリアから渡された物を扱える程の膂力が、今のオレにはある。
その結果、一撃でこの男は死に戻った。
他にも何人か挑んで来たが、残らず叩き潰した。
無論、傷を負うことなど無い。
そんなオレの戦いぶりを見て、PKと呼ばれる連中が揃って声をあげた。
「チート過ぎんだろ!」
「ゲームバランスぶっ壊れてんじゃねえか」
「運営ふざけんなっ」
随分と好き勝手なことを言ってくれる……だが。
「貴様らは馬鹿か? オレは貴様らが言う生産職トップ三人が、報酬で得られた希少素材を惜しみ無く注ぎ込み、長い時間をかけ造られたのだぞ」
声をあげたPK共を撲殺しながら、オレは続けた。
「そして実質、一人であの厄災を鎮めたマリアに、マリアだけに託されたモノ……それがオレの中に宿っている。それがどれ程の強さか……貴様らからマリアを守るために散った二人の想いものったその強さ、その身をもって知れっ!!」
オレの怒声にPK共が怯んだが、奴らはオレに敵わないと見て、一度距離を取った。
そして奴らが見せた次の行動は……なるほど、そうきたか。
定石なのだろうが、貴様らはここでマリアを狙うのだな?
くくっ……くははっ! いっそ笑えてくる。
人とは、ここまで堕ちることが出来るものなのか……。
いいだろう、ならばオレもあれを使うことにもはや躊躇いはないぞ。
恨むなら、自分の行いを恨め!
あれを両手から垂らし、オレは横薙ぎに腕を振るった。
刹那、オレを迂回してマリアに接近しようとしていた奴らが細切れになった。
「なっ!」
「一体何がおこっ、ぎゃあっ」
「離れろ、とにかく離れぶらぁっ」
距離など意味をなすものか。
オレに備わる二つのスキルの内の一つ、【魂の継承】。
このスキルにより、マリアの持つスキルの一部をオレも使うことが出来、ステータスの一部も書き換えられる。
マリアの【操糸】のレベルの高さと空間の広さを考えれば、奴らに逃げ場など無い。
そして託された【龍糸】の装備特性、防御力無視を前に耐え切れる者など皆無。
オレは縦横無尽に【龍糸】を走らせ、目に付く冒険者を片っ端から屠っていった。
本音を言えば手足を切り飛ばし、時間をかけて殺してやりたかったが、そういうことをマリアは望まないだろう。
今は速やかに奴らを殲滅し、マリアと兄達を安全で静かな場所に移さねば。
一方的な戦いを続けること、数十分。
あらかた片付け終わったところに、今までにない大規模な魔法が飛んできた。
オレは勿論、マリア達すら巻き込む勢いで大量の氷の槍が降り注ぐ。
「舐めるなっ!」
マリアの高いDEXが、オレが【龍糸】を操る精度を高めてくれる。
それがオレに抗えるだけの力を与え、襲い来る無数の氷の槍を一つ残らず撃墜させることを可能にした。
攻撃が止んだ時、オレとマリア達の周りには砕けた氷により、荒れた氷原のような有様になっていた。
「そうか、最後に立ちはだかるのは貴様らか……」
色を覚えたオレの瞳が見る先、そこにはレオン達五人が立っていた。
いつもお読み頂いている皆様、どうもありがとうございます。
前話からの重い流れを引き継いでおりますが、託された想いを込めた、彼の戦いとなりました。
さて、皆様にはどのように映ったでしょう。
今回、新たに14件の温かい感想を、56人の方から有り難い評価を、129人の方から嬉しくもお気に入りに登録頂けました。
本当にありがとうございます。三章の起承転結、その転も佳境、続けていく原動力になっています。
また頂いたご感想は、全てお返事させて頂いており、そちらの感想もまた楽しいことになっていますので、
よければご一読下さいませ。なおアルファでは、カオスになっています。
今回、新たに誤字脱字のご指摘を頂くことが出来ました。ありがとうございます。
頂いた指摘を元に、修正させて頂きました。今後も気になる点がありましたらご指摘の程、
よろしくお願い致します。
よろしければブクマ、感想、レビューお待ちしています。
また評価につきましては、
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GW、気がつけばもう後半なのですね。皆様の周りはいかがでしょうか?
お休みの取れない方もいらっしゃるかと思いますので、そんな方には、精一杯の言葉を。本当に、ご苦労様です。
5末まで自粛が確定しそうな昨今、この物語が一時、感情を動かす何かになったなら幸いです。
今後とものんびりと、どうぞお付き合い下さいませ。




