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85_真里姉と望まぬ邂逅


 現れた帝国の兵は私達とは反対側、つまり女帝(じょてい)の背後に回り込むように進み、逆に冒険者は私達の背後に迫ってきた。


 湖面(こめん)に造られた石舞台(いしぶたい)の上、女帝と私達は二つの集団に挟まれた形になる。


 控え目(ひかえめ)に言って、これは窮地(きゅうち)に追い込まれたと言っていいんじゃないかな。


「王様……確かこの洞窟(どうくつ)、相手の国の人に危害(きがい)を加えることは出来ないんですよね?」


「その通りだが……逆を言えば、自国には適用されぬことも意味しておる」


「それってつまり」


「あ奴等(やつら)の狙いは帝位(ていい)簒奪(さんだつ)か……お(ぬし)、本当に何を考えておる? これだけあからさまな行動、何故事前に止めなかったのだ」


 王様の問い掛けに、女帝(じょてい)は動じた様子もなく淡々(たんたん)と答えた。


(われ)の国は実力主義を(かか)げる軍事国家、止める理由など無い。刃向(はむ)かうならば……(つぶ)す」


 自国の兵を相手にしてなお、その言葉に感情らしき物は一切(いっさい)含まれていなかった。


 潰すといった相手の中に、女帝の弟が含まれているにも(かか)わらず……。


「我に用があるのは、我の弟……だが冒険者の用向(ようむ)きは、我ではない」


「なんだと? それはどういうっ!」


「王様!」


 王様が(いぶか)しむような声をあげると、その言葉を(さえぎ)るように冒険者から矢が放たれた。


 幸い寸前(すんぜん)で気付き(かわ)してくれたから良かったけれど、気付けなければ確実に当たっていた。


「何故冒険者の攻撃が許される? 冒険者といえど帝国の民であることに変わりは……まさかヴィルヘルミナ、お主!!」


「我では無い。しかし我にしか出来ないことでもない。弟なら可能。民として認めることも、認めないことも」


「それを知っていてなお、()とマリアをここに呼んだか……この代償(だいしょう)、高くつくぞヴィルヘルミナ・フォン・レギオス」


「ならその代償、生きて我に払わせてみるがいい、アレイス・ロア・カルディア」


 言うなり、女帝は迫り来る自国の兵へ、王様は冒険者へと向かって行った。


 またも置いてけぼりな私は、状況がまだ良く飲み込めていない。


 つまり、もう帝国所属の冒険者ではないから、彼等は洞窟の制約(せいやく)に縛られず、私達カルディアへの攻撃が可能になっているということかな?


 冒険者の数はざっと見て100人を超えていそうだけれど、こちらは私と王様の二人だけ。


 あっ、ネロと空牙(クーガー)と彼がいるから合わせて五人か。


 これで見掛(みか)け上の戦力比は50から20に減った訳だけれど、だからどうしたという話だね……。


 幸い石舞台へと続く細い道は、まだ数人の冒険者しか渡り切っていなかった。


 そんな彼等を一瞬で倒し、王様が立ち(ふさ)がるようにして後続(こうぞく)を食い止めてくれたおかげで、乱戦(らんせん)になることは()けられていた。


 王様が手にしているのは、剣と盾。


 剣の刀身(とうしん)波打(なみう)ち炎を(まと)い、防御などお構いなしに相手に手酷(てひど)火傷(やけど)()わせているようだった。


 盾は攻撃を防ぐと、その威力(いりょく)に応じた大きさの火の玉を返し、攻撃してきた者を焼く。


 防ぎようのない攻撃と、反撃と(つい)になっている防御。


 攻防一体(こうぼういったい)というのかな?


 王様一人に、帝国の冒険者は圧倒(あっとう)されていた。


 決して帝国の冒険者が弱い訳ではなく、むしろ私の眼では追えない攻撃が繰り返されているあたり、かなり強いのだと思う。


 ただ、それ以上に王様が強いのだ。


 武具と防具の性能が高いことは分かるけれど、それを扱う王様自身のレベルやステータスも高いのだろうね。


 私達が王様の後ろで時々支援をしているけれど、無くても問題ないくらいだった。


 やがて幾度(いくたび)攻防(こうぼう)()て、冒険者が私達から距離を取り始めた。


 いや、取らざるを得なかったという感じだね。


「たわい無い。帝国を捨てここへ来た貴様らの覚悟と力は、こんなものか?」


 ここで挑発(ちょうはつ)出来る王様は、さすがと言ったらいいのかな。


 けれど不気味(ぶきみ)な程、冒険者達に反応は無かった。


 気になって注意深く観察してみると、ある共通点が見つかった。


 それは、表情の欠如(けつじょ)


 全員ではないけれど、多くの冒険者の目はどこか(うつ)ろで、女帝とは違った意味で感情が見えなかった。


「さすがはカルディア国王、アレイス・ロア・カルディア様。大変見事な腕前(うでまえ)にございます」


 パチパチと、場違いな拍手(はくしゅ)の音が鳴り響く。


 相手を()めながら、その(じつ)どこか馬鹿にしたような態度……物凄く既視感(きしかん)を覚えるのだけれど。


 最前列にいた冒険者の()()()()()き上がるように現れたのは、あのヴェールで顔を(おお)った女性。


 その現れ方が、もう正体を隠す気がないことを物語っていた。


「貴方にも出来れば会いたくなかったんですけれどね? メフィストフェレスさん」


 ヴェールで見えないはずなのに、口が三日月(みかづき)のように笑っている気がした。


「さすがは厄災(やくさい)退(しりぞ)けし英雄(えいゆう)、マリア様。よくぞ私の正体にお気付きになられた」


 女性の口調が途中から男性のものに、容姿(ようし)が一瞬にして変わる。


 ヴェールは仮面に、喪服(もふく)のような服は包帯(ほうたい)へと変わり、頭の上にシルクハットが現れる。


 それら全てが黒で染められており、双眸(そうぼう)だけが変身前の唇と同じく血のように赤かった。


「メフィストフェレス……その名、聞いておるぞ。いつぞやは、随分(ずいぶん)余の民が世話になったようだの」


「礼には及びませんよ、アレイス・ロア・カルディア様。私はただっ」


 目にも()まらぬ速さで王様がメフィストフェレスに肉薄(にくはく)し、剣を振るう。


「くっ!」

 

 けれどのその剣はメフィストフェレスを覆う包帯によって防がれ、逆に王様は体ごと(から)()られてしまった。


「王様!」


「心配には及びません、マリア様。私にアレイス・ロア・カルディア様に危害を加えることは、許されておりません。ただ……彼等の凶行(きょうこう)を止めることもまた、許されてはおりませんが」


 ちらりと、メフィストフェレスの目が冒険者に向けられる。


「……目的は何ですか?」


聡明(そうめい)な女性ですね、マリア様。ここに一つ、扉を用意致しました」

 

 指をパチンッと鳴らすと、突然黒い扉が現れた。


「この扉の先は、ただ広いだけの空間へと繋がっております。マリア様が扉を開けそちらに(おもむ)いたならば、彼等もまたそれに続きましょう。しかし扉を開けずこの場に(とど)まる場合、彼等もまたこの場に留まることでしょう」


 つまり、この場に留まれば王様の命の保証は無いってことだね。


 そして私に、これだけの冒険者を相手に王様を守るだけの力は無い。


「……全員、なんですね? 私が行けば、ここにいる全ての冒険者が続くんですね?」


「ええ、全員でございます。そしてその場合、その後如何(いか)なることがあろうとも、彼等がアレイス・ロア・カルディア様に危害を加えることは無いと、お約束致します」


「よすのだ、マリアっ!」


 王様が叫ぶけれど、どちらを選んでも()()()()は変わらないと思うんだ。


 それなら、私が選ぶ選択肢は一つしかないよね?


 ネロと空牙を見れば既について来る気満々(まんまん)で、勢い良く振られている尻尾(しっぽ)は『みなまで言うな』と言っているかのようだった。


 彼は……困惑(こんわく)していた。


 まあ、無理もないよね。


「戻っていても、良いんだよ?」


 私がそう言うと、彼は何かを伝えようと口を開き、けれど言葉には出せずといった感じで、顔を(うつむ)けた。


 それでも顔を上げた彼は、黙って私の隣に立ってくれた。


「ありがとう……じゃあみんな、行こうか」


 出来る限りの準備を終えた後、私は三人と一緒に扉の中へと足を踏み入れた。

 

 途中、すれ違いざまにメフィストフェレスが短く()げた。


 それはこれから起こることを示唆(しさ)した、演目(えんもく)の名前。


 その名は不吉(ふきつ)にもこう聞こえた。


 ”死の舞踏(しのぶとう)”と。


 いつもお読み頂いている皆様、どうもありがとうございます。

 今話にていくつかの思惑や、フラグやらが明らかになりました。

 ただあまり隠しているつもりもないので『やっぱりなあ』くらいに生暖かく見守って頂ければ幸いです。

 今回、新たに6件の温かい感想を、177人の方から有り難い評価を、371人の方から嬉しくもお気に入りに登録頂けました。

 本当にありがとうございます。のんびりとした展開ながらご評価頂けたこと、とても嬉しく思います。

 また頂いたご感想は、全てお返事させて頂いております。


 そして今回も、誤字脱字についてご指摘頂けました。どうもありがとうございます。

 特にある方からは、「これは下読みレベルの指摘では?」というくらい、熱く、そして多くのご指摘を頂けました。改めて、本当にありがとうございます。

 これからも気になった点がありましたら、ご指摘の程、よろしくお願い致します。


 よろしければブクマ、感想、レビューお待ちしています。

 また評価につきましては、

「小説家になろう 勝手にランキング。〜 のんびりお楽しみ頂けたら幸いです。」の↑に出ている☆をクリックして頂き、★に変えて頂けると嬉しいです!


ステイホーム週間と呼ばれているようですが、皆様の周りはいかがでしょうか?

外出自粛が延長される見込みの中、この物語がそんな現実を忘れる一助となったなら幸いです。


今後とものんびりと、どうぞお付き合い下さいませ。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] そう言えば王様達何でフルネームで呼びあっているのだろうか?(しきたりだったりじゃなければ個人名か国名で王で良いのではと思った。ジュゲムジュゲムな名前の人が王様になったら大変では)
[気になる点] >後書きの「評価は真摯に受け止めるので今後とも宜しく」的なお話に関して それが正論であれば、口舌を以て人を斬って良し。みたいな日本の常識って如何な物かなぁ。と、個人的には思うも、最良は…
[良い点] やめて!例のブツを装備した彼の無双で、帝国に死に戻りさせられたら、 マリアへの逆恨みで繋がってる攻略組の精神まで燃え尽きちゃう! お願い、死なないで攻略組!あんた達が今ここで倒れたら、カ…
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