84_真里姉と女帝
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本当にありがとうございます。
王様と一緒に向かったのは、”メメントモリ”から少し離れた山の麓にある、ぽっかりと大きく空いた穴だった。
「ここは”誓約の洞窟”。この中ではレギオスがカルディアに危害を加えること、またその逆も出来ぬようになっておる」
「それも古の技によるものなんですか?」
「おそらくの。というのも、この洞窟は”メメントモリ”よりも更に古くから存在しており、どのように造られたのか、記録が残っておらんのだ」
洞窟の前にはレギオスとカルディアの兵が並び、牽制するかのように睨み合っていた。
その二つの列の間を、先に着いていたらしい女帝を含む三人が進み、洞窟の中へと消えて行く。
最後尾を歩くのは、あの喪服のような服を着た女性だった。
その顔が、一瞬だけこちらを向く。
揺れたヴェールの隙間から真っ赤な唇が覗き、にたあっと笑っているように見えた。
「っ!」
それを見た瞬間、私は背筋が凍り思わず側にいた彼の袖を掴んでしまった。
私のことを心配するように、彼が視線を向けているのは分かる。
けれど、私はあの女性の姿が見えなくなるまで、どうしても目が離せなかった。
警戒とは違う。
多分これは、恐怖。
それも、どこかで感じたことのある…………。
女性の姿が洞窟の奥へと消え、王様も続いて歩き出す。
王様の後を追いながら、私はある物をこっそり彼に手渡した。
「これは……」
「君に持っておいて欲しいんだ。私では扱えないけれど、君ならもしかしたら、ね」
少なくとも、私より彼の方が扱える可能性は高いはずだし、何も無いよりはましだと思う。
御守りみたいなものかな?
いや、私がただ気休めを求めているだけなのかもしれない。
まあ、どっちでも構わないか。
何事もなければ、それで良いのだから……。
洞窟の中は私の予想と違い、岩を刳り貫いて造ったかのような、酷く人工的な感じのする場所だった。
ごつごつした岩肌が露出していたり、湿った地面が広がっている訳でもなく、ただ滑らかに削られた、石の空洞。
その表面に継ぎ目は一切なく、トンネルとも違い、まるで近未来の構造物か何かのように思えた。
中に明かりらしい物は何も無いのだけれど、どうやら石自体がうっすら緑色の光を発しているらしく、進むのに困ることはなかった。
ただ幾つも別れ道が存在し、目印になるような物もないため迷い易いように思う。
ちらっと後ろを振り返ると、それまで見ていた光景との違いのなさに愕然とし、私は慌てて王様の背中を追うことに専念した。
もしも王様とはぐれてしまったら、私一人では地上に戻れない自信がある。
最悪、空腹からの死に戻りでなんとかなるだろうけれど……。
「それにしても王様、よく迷わず進めますね?」
「これは王や、王に準ずる者に叩き込まれる知識の一つなのだ。そして国同士での決め事は、基本的にこのような場所の最奥で行われる。ここではモンスターこそ出ぬが、一度迷えばなかなか外に出ることは出来ぬ故、気を付けるのだぞ」
王様の忠告に、私は激しく首を縦に振った。
そして進み続けること、数十分。
幾度となく道を分岐し下って行くと、やがてこれまでとは違う青白い光が見えてきた。
それは近付く程に明るさを増し、眩しさを覚える頃には広い空間が現れていた。
「うわぁ……」
その不思議な光景に、私はそれまで抱いていた緊張感を一時忘れ、感嘆の声をあげていた。
空間の中央、そこには青く澄んだ水が湛えられており、その上に長い年月をかけて造られたと思われる、石灰岩のテーブルが広がっていた。
「ここが”誓約の洞窟”の最奥。湛えられた水の形から”ラクス・ラクリマ”、”涙の湖”とも言われておる」
「綺麗な場所ですね」
水面に目を向けると、石の発する光が透明度の高い水の中で無数に反射し、その結果、湖全体を青く輝かせていた。
石灰岩のテーブルへと続く細い道を進むと、地面に突き立てた剣の柄頭に両手を置き、目を閉じて微動だにしない女帝の姿があった。
王様と共に近付き、互いの距離が2m程になった時、その目がすっと開かれる。
間近で対面した女帝は、美女と表現したことが間違いに思えるほど、整った容姿をしていた。
少なくとも美女の前に、絶世のとか傾国のとか、そういう常人には付けられない言葉が必要だと思う。
アイスブルーの長い髪は後頭部の少し上で束ねられており、身長は170cmを超えているかな?
腰は驚く程細く、それなのに胸の豊かさときたら……。
思わず自分と見比べてしまい、私は内心大きなダメージを負った。
長い睫毛に覆われた切れ長の眼は艶と凛々しさを兼ね備え、同性の私でも思わず見惚れてしまう程だった。
「さて、そろそろ本当の狙いを聞かせて貰えるのであろうな、ヴィルヘルミナ・フォン・レギオス」
女帝の容姿に一切気を取られることなく、王様が尋ねた。
「我は英雄と呼ばれる者に会い、話をしたいと伝えたはずだ、アレイス・ロア・カルディア」
「戯れ言はよせ。徹底した合理主義者のお主が、冒険者一人に会うためにここまで事を大きくするものか」
「我は戯れ言を好まない。我の目的に偽りはなく、そしてもはや目的は果たされた」
「なんだと?」
ちらりと私に向けられた、女帝の視線。
その視線はゾッとする程冷たく、人に向けていいものとは思えなかった。
「我の強さと比較する価値も無い弱者。期待外れだ」
「ほお、余の国の英雄を弱者だと? 期待外れだと? 随分と面白いことを言うではないか、ヴィルヘルミナ・フォン・レギオス!」
「我は事実を口にした。そして我に面白さなど無い、アレイス・ロア・カルディア」
一触即発な二人と、置いてけぼりの私。
弱者と言われても私は別になんとも思わないから、喧嘩はしないで欲しいなあ。
私は自分を強いと思ったことはないし、相手は実力主義の国の頂点にいる人なのだから、私が弱く見えても仕方がない。
実際、大規模アップデートに伴いレベルの上限が30から引き上げられたにも拘わらず、私のレベルは20のままで、イベントが終わってから一つも上がっていないしね。
困り果てた私は、一つ気になっていたことを聞いてみることにした。
「そういえば、他のお二人はどこに行ったんですか? 洞窟に入る時は三人でしたよね」
私の言葉に王様も興味を持ったのか、女帝に向けられていた圧力が少し弱まる。
それを受け、女帝も圧力を抑えたようだった。
王様と私が答えを待っていると、告げられたのは意外な一言だった。
「我は知らない」
…………ん?
「でも一緒に入りましたよね、この洞窟に。知らないってことは……」
「我の後ろを歩くのは自由。我の弟と、弟の言う婚約者ならそれを止める道理もない」
いやいや、それで途中で姿を消すとか明らかに怪しいでしょう。
「お主それは……」
王様は何かを察したらしく、さっきまで抱いていた怒りも忘れ、女帝を呆れたような目で見ていた。
そして王様が察した何かは、直ぐに現実のものとなった。
最初に現れたのは、いや、聴こえてきたのは無数の足音。
それが入り口の方から響いてきて、やがて実体となり帝国の兵の姿になった。
先頭を歩くのは、私が櫓で遠くから見た男の人で、女帝の言葉を借りるなら彼女の弟。
そして彼が率いる兵とは別の集団が、後に続いてきた。
その集団は装備もバラバラなら、兵とは違い規律があるようにも見えなかった。
無理もないか、だって兵じゃないからね。
その正体は、帝国の冒険者。
そこには出来ればもう会いたくなかった、レオン達の姿もあった。
いつもお読み頂いている皆様、どうもありがとうございます。
予想されていた方もいらっしゃるかもしれませんが、望まぬ邂逅となった今話でございます。
ここから更に加速していくつもりなのですが、さてどうなるか……。
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GWに入ったことすら私は気付きませんでしたが、皆様の周りはいかがでしょうか?
外出自粛が続く中、この物語が息抜きとなるような時間となったなら、幸いです。
今後とものんびりと、どうぞお付き合い下さいませ。




