75_真里姉とレイティア無双
累計PVが64万を超えました。
ここ2日は1日のPVが10万超えという……本当に皆様のおかげです。
そしてあまりのことに、私の頭の処理と感情が追いついておりません。
レイティアさんとライルを伴い、私はカスレを作るための食材を買いに訪れた、都街の市場に再び足を運んでいた。
最初に向かったのは、カスレ用の食材を扱っているお店を教えてくれた、主に葉物野菜を売っていたおじさんのお店。
「こんにちは」
「おや、この前うちで香草を沢山買ってくれたお嬢ちゃんじゃないか。またお使いかな?」
「お使いではないんですけれど、また香草を買いに来ました。カスレ用に、前と同じ香草を出来るだけ多く欲しいんです」
「なんだ、そんな事ならお安い御用……」
なんだろう、言いかけたおじさんの顔に緊張が走っていた。
大きく見開かれた目が向かう先、そこにはレイティアさんが立っていた。
ん? どうかしたのかな?
レイティアさんは穏やかな雰囲気のまま、表情もにこやか。
それなのに、おじさんはまるでこれから戦いでも始まるかのような、尋常ではない様子だった。
言葉を震わせながら、絞り出すようにおじさんが言う。
「あっ、あんた、どうしてここに……」
「マリアさんの買い物の、お手伝いです。私の事は気にせず、どうぞ続けて下さいね?」
にこやかなレイティアさんと、じっとりと掌に浮かんだ汗を必死に拭おうとするおじさんとのギャップが激し過ぎる。
私は、今度は何に巻き込まれようとしているのだろう……。
これはあれかな、また不穏が顔を覗かせ始めたかな?
一瞬頭の中に、擬人化された不穏が『呼んだ?』と声をかけてくる映像が浮かんだけれど、私は秒で追い払った。
擬人化された姿がどんな者だったかは、思い出したくもない……。
よし、こんな時こそ切り替えの出番だね!
頼んだよ、切り替え! 任されたよ私!!
脳内で一人芝居をして心を鼓舞した私は、おじさんから香草を見せてもらい、前回と特に品質も変わらなそうだったので、おじさんの提示した値段で買おうとしたのだけれど。
「あら、本当に香りが良い物ばかりですね。でもこちらのパセリ、少し葉の緑色が薄い物が混ざっていますね。それにローリエも、他のお店で扱っている物より葉が小さいように思います。ローリエの葉は、大きい物の方が香りが強く出ることは、当然知っていますよね?」
「いや……」
「鮮度が落ち易く、生育に差が出易い葉物を扱っていて、品質を揃えるのが難しい事は、私も分かっているつもりです。けれどこれだけ沢山買うマリアさんに、あなたが胸を張ってお勧めできない食材を、ご自慢の値段で一括りにして売るなんて事、ありませんよね?」
「それは……」
「それに私がここで皆さんに伺った話からすると、葉物はここ数年需要より供給の方が多く、値段は少しずつ下がっているようですよ? その時に聞いた値段と比べると、あなたの提示した値段は」
「値段はもっと勉強する! だからもう勘弁してくれっ!!」
ついにおじさんが白旗をあげた。
そしてそれを眺めていた私は呆然と、ライルは平然としていた。
「……レイティアさんって、買い物する時はいつもあんな感じなの?」
「いつもあんなだぞ! でも、あれはまだマシな方かな?」
「そ、そうなんだ。あれで、マシ……」
現実では値札の付いた物を買うのが殆どだった私は、こういう値段交渉というのをした事がない。
そしてライルが言った事は正しく、おじさんが勉強する、つまり値下げすると言ってからが凄かった。
レイティアさんは今度は一転して、おじさんの扱っている葉物が都民の方に高く評価されていると褒め、そのためにおじさんが頑張っている事を、まるで苦楽を共にし一緒に売っている人であるかのような親密さで語りかけた。
あれだけ警戒していたおじさんも、客観的な情報による指摘と自尊心の擽り、おまけに苦労の共感というトリプルアタックの前に、理性と感情の両方を激しく揺さぶられ、敢えなく陥落。
気が付けば、おじさんはレイティアさんと固い握手を交わし、当初の値段より大幅に下げられた値段で食材を私に売ってくれる事になった。
しかもレイティアさん、
「そこまで値引きされたら申し訳ないです」
と言いながら、替わりに買う量を増やす事を、恩着せがましくならない絶妙な感じで提案し、おじさんを感激させ、おじさんに更なる値引きを行わせたのだった。
その結果、買う量は増えたけれど単価としては当初の3分の1にまで落ちていた。
「良い買い物が出来ましたね。では次のお店に行きましょう、マリアさん」
「あっ、はい……」
去りゆく私達を、おじさんは手を振って見送ってくれた。
ありがとう、おじさん。
でも後で、ちゃんと収支は確認してね?
そしてその時は、心を強く保ってね?
今度、他の野菜も買いに来るからさ……。
あ、でもその時にまたレイティアさんが一緒だったらどうしよう……うん、切り替えの出番だ!
その後、私達はカスレに必要な食材を次々と買い叩……買っていった。
その時のレイティアさんの様子を一言で言うならば、
『レイティアさん無双』
その言葉に尽きるんじゃないかな。
でもこれだけやらかして、お店の人から悪い印象を持たれないのが凄い。
レイティアさん、酒場の給仕をしていたと言ったけれど、選ぶ職業、間違えていませんか?
なんだろう、商人って言葉が合っていそうなんだけれど、それにしては相手が気分良く損をし過ぎているというか。
言葉巧みに相手に損をさせる人、もしくはお金を騙し取る、そんな人。
あっ、詐欺……いや、これ以上考えるのは危なそうだから止めておこう。
……ふふっ、私はどんどん成長するなあ。
今遠い目をしたら、私は一体どこまで見通せてしまうのかな?
そんなどうでもいい事を考えつつ、私達は最後に市場の外れにあるお店でリンゴを大量に買った。
そのまま食べてもいいし、蜂蜜と香辛料を加えて一緒に煮て、アップルパイに使ってもいい。
例の如く、レイティアさんの無双によって下げられた値段を支払い、リンゴをアイテムボックスに入れていく。
と、そのうちの一つが手から滑り落ちてしまった。
都街の方が外街より高い位置に造られているせいか、落ちたリンゴは外街の方へと転がっていった。
思わず追いかけてしまったけれど、転がるリンゴの勢いは弱まらず。
ようやくリンゴが止まったと思ったら、そこは都街と外街を分ける壁、その門の向こう側だった。
そしてリンゴが、小さな手によって持ち上げられる。
そこには以前のライルが着ていたような、至る所に繕いの跡が見える服を着た、小さな姉弟の姿があった。
いつもお読み頂いている皆様、どうもありがとうございます。
ここ数日、本当に多くの方にお読み頂いて、なんとお礼を言ったらいいか分かりません。
色々と感謝の言葉は浮かぶのですが、やはり私としては、
「本当にありがとう」
その言葉に尽きてしまうのです。
皆様のおかげで、この物語は続けていく事が出来ます、頂いた感想から、新たな物語へと繋がっています。
さて、今話は前話にて登場したレイティアの戦慄する一面が露になりました。
本当はこの先まで含めて1話になる予定だったのですが、気が付けばレイティア無双で1話占拠されておりました。
次、次話こそ、もっとほっこりした話になるはずです……きっと。
今回、新たに6人の方から温かいご感想を、81人の方から有り難い評価を頂き、621人の方から嬉しくもお気に入りに登録頂けました。
頂いた感想は、全て読ませて頂いています。これからお返事書かせて頂きますので、もう少々、お時間下さいませ。
また誤字報告も多く頂けて、本当に嬉しいです。
ただ、いくつは今から統一をとる難しさ、そして子供ならではの平仮名表現といったものもあり、誤字としては修正を見送らせて頂いたものもございます。
ですが、それはそれだけ細かに読んで頂いた証だと思っています。
なので指摘は本当に嬉しく、とても有難いと思っています。
今後ともぜひ、気になる点がありましたら、ご指摘の程、よろしくお願い致します。
よろしければブクマ、感想、レビューお待ちしています。
また評価につきましては、
「小説家になろう 勝手にランキング。〜 のんびりお楽しみ頂けたら幸いです。」の↑に出ている
☆をクリックして頂き、★に変えて頂けると嬉しいです!
まだまだ情勢不安は落ち着かず、むしろ悪化しているような状況ですが、
皆様にとってそんな不穏な現実を、一時でも忘れられる時間をご提供出来たなら幸いです。
あまりに辛い時は、マリアと一緒に遠い目をして、やり過ごしてみてください。
きっとマリアも隣で、一緒に遠い目をしてくれるはずです。
今後とものんびりと、どうぞお付き合いくださいませ。




