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71_真里姉とカスレと大きな子供達

いつも読んで頂いている皆様のおかげで、この度累計PVが20万を突破致しました。

総合評価も2200を超えております。

10日ちょっと前に累計PV10万、総合評価1000を超えたばかりなのですが、本当にありがたい限りです。

改めて、お読み頂いている皆様、どうもありがとうございます。



 ホームに戻った私は、日当たりの良い方のカウンターで、携帯生産キットを展開した。


 さすがにピザ(がま)みたいな特殊な物はないけれど、料理をするには十分な設備がずらりと並ぶ。


 料理漬けの時に散々(さんざん)使わされたので、使い方はもうバッチリ。


 元々料理する道具にマレウスさん達程の(こだわ)りがある訳ではないので、なんの不足もない。


 ただ()いて言うなら、すこーーーしだけ設備の位置が高いかな?


 私が他の人よりきもーーーち、小さいからね。


 でも大丈夫、私にはカンナさんに作ってもらった踏み台がある。


 ちなみに踏み台を使って料理をしている私の姿を見て、マレウスさんが笑いルレットさんにぶっ飛ばされていた。


 ね、何の問題もないでしょう?


 だから私の料理する姿を想像して、何か言いたい事なんて、あるはずないよね?


「と、せっかくホームの中だし、2人も()ぼう」


 私は【モイラの加護糸(かごいと)】でネロと空牙(クーガー)を喚ぶと、嬉しそうに(じゃ)れてきた。


 そういえば前に喚んでから、結構久しぶりかなと思ったけれど、冒険者ギルドで喚んだばかりだね。


 色々あり過ぎて時間の感覚がおかしくなっていたよ。


 モフモフを堪能させてもらいながら、ひとしきり()でて癒される。


「これから料理をするんだけれど、2人にも手伝ってもらっていい?」


「ニャッ」


「グオゥッ」


 2人(そろ)って手をあげるところが微笑(ほほえ)ましいね。


 私はまず【下拵(したごしら)え(中級)】で野菜を(まと)めて処理し、糸で包丁を複数操り、ニンジン、タマネギをみじん切りにした。


 現実ならそれなりに時間のかかる作業も、スキルのおかげであっという間。


 次に白インゲン豆をたっぷりの水に()け、【促進(そくしん)(中級)】を用いて水分を含ませる。


 大鍋を空牙に持ち上げてもらってから、羊肉(ようにく)脂身(あぶらみ)を炒め油を出し、それでみじん切りにした野菜を炒める。


 炒めるのはネロが器用に両手でヘラを持ち、担当してくれた。


 大鍋に対し足りない高さは、他の鍋を逆さにして踏み台とすることで(おぎな)った。


 おっと、換気(かんき)のために窓は開けないとね。


 空牙には両手を綺麗な布で覆ってから、大きなボウルに入れたトマトを、パンチをするようにして潰してもらった。


 刻んでもいいんだけれど、こっちの方がよりピューレっぽくなって美味しくなりそうな気がするんだ。


「……でも、ちょっと失敗だったかも」


 そこには潰れたトマトの汁を浴び、早くも体を赤く染め始めた空牙の姿があった。


 これ、もし山で遭遇(そうぐう)したら人食い熊さんと思われるレベルだね。


 私は脂身を()ぎ落とした羊肉と、鶏肉を一口大に切ってネロが炒めてくれている大鍋に入れた。


 少し炒めてから水に浸けた白インゲン豆と、良い感じにピューレ状になったトマトを空牙に投入してもらい、おじさんから買った香草(こうそう)(たば)ねてブーケガルニを作り、同じく鍋の中へ。


 ネロと空牙に鍋を見てもらいながら、私は鶏肉を買った際に一緒に貰った鶏ガラを別の鍋に入れて、水とショウガを入れ、【促進(中級)】で調整して灰汁(あく)を取りつつ、一気に数時間分煮込んだ。


 それで出来上がったのが、白湯(パイタン)スープ。


 これをさっきの大鍋に、水の代わりに加える。


 塩で味を整えるけれど、隠し味のためにちょっと(ひか)えめに。


 あとは蓋をして、【促進(中級)】の出番。


 本当に便利なスキルだね。


 あっという間に煮込み終えたところで、ポイント交換で貰った調味料、隠し味の白味噌(しろみそ)を多めに加える。


 これで塩気の他に、甘さとコクが増すはず。


 味見をしてみると……うん、いいんじゃないかな。


 完成したのはフランスの家庭料理、カスレ。


 本当はソーセージとか保存肉も沢山使った、もっと脂っ気の多い料理なのだけれど、私は意図(いと)して脂は控えめに。


 作ったカスレをアイテムとして見てみると、料理バフとしてVITに補正(ほせい)がかかっていた。

 

 なんだろう、豆主体だから体を丈夫にって感じかな?


「これでルレットさん達の夕飯は大丈夫だとして、空牙を洗ってあげないとね」

 

 真っ赤に濡れた布を空牙の両手から外していると、その時、ホームの扉が開いた。


薬師(くすし)の旦那が戻って来たのかと思ったんだが、なんじゃその生き物は!?」


 あっ、早くも勘違(かんちが)いさせてしまう事態に。


 私は慌てながらもネロと空牙が家族で、人を襲ったりしない事、料理の最中(さいちゅう)だった事を20分かけて説明し、ようやく納得してもらえた。


 つ、疲れた……。


「急に(たず)ねた挙句(あげく)、騒いだりしてすまんかった」


 そう言って頭を下げてくれたのは、少し背中の丸まったおじいさん。


「いえいえ。あれはまあ……仕方ないと思いますから」


 そう答える私は、しょんぼりする空牙を(なぐさ)めながら。


 うんうん、空牙は悪くないし、怖くないからね?


「わしは昔から、薬師の旦那に世話になっていたんじゃ。だから王都を離れると知った時は、寂しかったよ。この家の前を通る度に、明かりのつかない家を見て、何とも言えない気持ちになってな。しかし今日通りかかったら、窓が開いているじゃないか。だから、もしや戻って来たのかと思ってしまったんじゃよ」


「みんなに(した)われる、良い人だったんですね」


 私がそう続けると、おじいさんの口から思い出話が次々と、とても楽しそうに語られた。


 おじいさんの話し方が上手(じょうず)なのか、まるで目の前に薬師の方がいて、実際に()り取りしている姿が目に浮かぶかのようだった。


 と、話に区切りがついた頃。


「年寄りの長話に付き合わせてしまって、申し訳ない。それにしても、さっきからいい匂いがしとるね?」


「カスレを作っていたんです。えっと、白インゲン豆とトマト、お肉と野菜をじっくり煮込んだ物ですね」


「なるほど、カスレか。ここではどこの家でも作られる、いわばお袋の味じゃな」


 お袋の味かあ。


 私は料理を作る方だったから、いまいちピンとこないけれど、いつか薬師の方と、その娘さんにも食べてもらえたらいいな。


 その時は現実で良く作っていた、肉じゃがとか、カレーを出すのも良いかもしれない。


 そんな事を思いながらおじいさんを見ると、その顔は鍋の方を向いたままだった。


「……よければ食べますか?」


「おおっ、いいんかね?」


 疑問形で言っているけれど、近くにあった長椅子に、おじいさんは既に座っていた。


 うん、食べる気満々(まんまん)ですね。


 言動と行動のちぐはぐさに苦笑しながら、私はカスレを木製の深皿に(よそ)い、スプーンと一緒におじいさんに手渡した。


 陶器製(とうきせい)の食器も買ってあるけれど、テーブルがまだ無いから、火傷(やけど)しないよう今回は使うのを見送った。


「良く煮込まれていて、実に美味(うま)そうじゃな。どれ……」


「いかがですか?」


 目を閉じ、味わうように食べているおじいさんに声をかけると、やがて目を開けて感想を口にしてくれた。


「……美味い。普段食べている物とは違った味で、脂の旨さは控えめじゃが、なんとも言えぬ優しい味わいじゃ。わしは王都のあちこちで色んなカスレを食べてきたが、こんなカスレは食べた事が無い」


「あら、本当に美味しいわね。そしてワタシ達にはちょっと懐かしいこの感じ」


「味噌、いや白味噌か? 意外と合うもんだな」


「これは私達にとってのお袋の味になりそうですねぇ」

 

 良かった、おじいさんに満足してもらえた……って、どっから湧いて出てきたんですかカンナさん、マレウスさん、ルレットさん!


「いつの間に来ていたんですか……しかもしっかり自分の分を装って」


「ちょうどお腹が空いてきたところに、良い匂いが漂っているんだもの。体が勝手に動いていたわ。はふはふ、美味しい料理って、罪よね」


 いえ、罪なのは料理ではなくて、無断で食べる方だと思いますよ?


 食事担当なので、良いですけれど。


 それにしてもマレウスさん、隠し味を一発で見抜くなんて凄い。

 

 羊の匂いに(まぎ)れ、味噌の匂いは(ほとん)どしていないはずなんだけれど。


「ご馳走様(ちそうさま)。本当に、美味かった。そういえば名前を聞いておらんかったの。わしはシモンじゃ」


「お粗末様(そまつさま)でした。私はマリアといいます。こちらは私の仲間で、カンナさん、マレウスさん、ルレットさんです」


 3人は会釈(えしゃく)だけして、食べるのに夢中になっていた。


 全くこの3人は……。


「ありがとう。懐かしい思い出に(ひた)らせてもらった上に、美味しいカスレまで。料理はこれからも、ここで続けるつもりかの?」


「そうですね。この人達の食事もありますし、売る分も作らないといけないので」


 取引掲示板でどれくらい売れるのか分からないけれど、また地獄を味わう前に作り溜めしておきたいところだ。


「なるほど、()()()か……分かった、後はこの老骨(ろうこつ)に任せてくれたらええ」


「え? 任せるって一体」


「ではまた、近いうちにの」


 私の疑問に答える事なく、おじいさんはホームから出て行ってしまった。


 その背中は、最初に見た時よりも幾分(いくぶん)真っ直ぐ伸びていたような?


 気持ちが晴々(はればれ)として、それが姿勢にも表れた、とかかな。


 まあそう理解する事にして、私は残っていたカスレを食べた。


 私が食べ終えた頃、既に3人の姿はなく、食器だけがカウンターに置かれていた。


 当然のように、食器は洗われていない。


「なんだろう。大きな子供を3人持ったような、この気持ちは……」


 ネロと空牙に(はげ)まされながら私は一人で食器を洗い、その日はログアウトし、眠りについた。


いつもお読み頂いている皆様、どうもありがとうございます。


今回はかなり穏やかなお話となりました。

まあおじいさんが少しだけ不穏な気配を残しておりますが、大丈夫でしょう、たぶん。


今回、新たに2人の方からありがたい感想を、9人の方から嬉しい評価を頂き、29人の方からお気に入りに登録頂けました。

どうもありがとうございます。

おかげさまで引き続き、3章を描いていこうと思えます。


よろしければブクマ、感想、レビューお待ちしています。

また評価につきましては、

「小説家になろう 勝手にランキング。〜 のんびりお楽しみ頂けたら幸いです。」の↑に出ている

☆をクリックして頂き、★に変えて頂けると嬉しいです!


週末の外出自粛が続きますが、そんな鬱屈した一時を忘れる一助となったら幸いです。


引き続きのんびりと、どうぞお付き合いくださいませ。


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― 新着の感想 ―
[良い点] どこからどう見ても(ちょっと背伸びする)可愛いお姉ちゃんです!
[一言] カスレという料理を存じませんので何とも言えないのですが。 マトンの匂いがダメで「ジンギスカンは勘弁して〜」な私としては、羊肉の匂いを抑える為に味噌を用いるような気がします?
[良い点] おねーたんからおかーたんに進化する日も近いですね 少女M(一心不乱のBボタン連打)
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