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70_真里姉と知ってしまったアレ

いつもお読み頂いている皆様に、ご報告です。

この度、総合評価が早くも2,000を超え、累計PVも早ければ明日にで20万を超える見込みとなりました。

これも偏に、皆様のおかげです。

どうもありがとうございます。

そして節目だからということではないんのですが、皆さんにお読み頂いている物語が、客観的にどのように映るのか、現在とある方に有償にて下読みをお願いしております。

結果につきまして、早ければ明日届く予定ですが、次話で報告出来たらと思っています。

正直不安と恐怖8割、2割楽しみといったところです。はたして今夜寝れるでしょうか……。

皆様も楽しみ?にして頂けたらと思います。


 手渡された鍵でホームの扉を開けると、左手の奥には薬棚(くすりだな)があり、調合した薬を出したり、薬を買いに来たお客さんと話をするための長めのカウンターが目に入った。


 カウンターの前には待ち合い用の長椅子(ながいす)が幾つも並んでいて、特徴的な大きなガラスの窓から明るい光が差し込んでいる。


 自分の番が来るのを待っていた人は、日向(ひなた)ぼっこするような心地になれたんじゃないかな。


 今は薬の類は何もないけれど、()りし日の穏やかな時間が目に浮かぶようだった。


 カウンターの奥は診察が必要の人向けなのか、小部屋が用意されていた。


 扉の右手にもカウンターがあったけれど、こちらは幅広で、主に薬にする前の準備用の場所といったところかな。


 その右手奥には2階へ続く階段と、扉が一つ。


 2階はおそらく各自の部屋があるだろうという事で、扉を開けてみると(はな)れへと繋がっていた。


 離れは母屋(おもや)とは異なり、煉瓦(れんが)造りの建物で、火を扱っても大丈夫なようになっている。


 煙突もあるから、中で薬草を乾燥させたりしていたのかもしれない。


 分厚い木の扉をマレウスさんが開けると、中には生産用と思われる道具が所狭(ところせま)しと積まれていた。


 窓は母屋に比べるとずっと小さくて、部屋の広さは母屋の3分の1くらいかな?


 あれだけ多くの要望を出したのに、これで叶ったのだろうかと疑問に思う私を他所(よそ)に、3人は駆け寄るなり道具の確認をし始めた。


 その眼は真剣そのもので、生産職トップとしての顔を覗かせていた。


「注文通り、エデンでは手に入らなかった高品質の鍛冶道具が一式揃ってるな。これだけあれば、イベントの生産キットも併用(へいよう)して、ようやく()()に取り掛かれるぞ」


「さすがワタシの王様ね。それにこの離れ、建物としての強度も申し分ないわ。()()を作るのに多少無茶しても平気よ」


「作業で大きな音を出しても大丈夫そうですしねぇ。それに人目が少ないのもポイント高いですよぉ。()()を作る過程は秘匿(ひとく)しておきたいですしぃ」


「あの、アレって何なんですか?」


「アレか?……アレはその、なんだ。鍛冶の秘奥(ひおう)みたいなもんだから気にするな。ってか、これまでお前には料理作らせまくったからな。しばらく自由にしてていいぞ」


 マレウスさん、ちょっと良い感じに(まと)めようとしていますけれど、自覚があったなら止めて下さいよ。


「1階の日当たりの良い方のカウンターは、マリアちゃんの調理場として使ってくれて構わないわ。長椅子も配置を変えて、テーブル席みたいにしてもいいと思うの」


 前半は有難(ありがた)い話ですけれど、後半のそれってもう食堂ですよね、カンナさん?


「夕飯が楽しみですねぇ」


 ルレットさんは隠す気もなく私が作るのを当てにしてますね!?


 まあ、みんなの分は作るつもりだと言ったけれど……何だろう、みんなで私を離れから遠ざけたいのかな?


 拒絶(きょぜつ)という程強くはないのだけれど、どこか()(にく)そうな感じが伝わってくる。


 あれかな、生産職トップとして、作業する姿を私みたいな素人(しろうと)には見られたくないとか?


 さっきマレウスさんが秘奥とも言っていたし、隠しておきたい独自の技があるのかもしれない。


 昔見たドキュメンタリー番組で、刀を作る工程の多くがかつて門外不出(もんがいふしゅつ)とされていたらしいしね。


「分かりました。それでは食材の買い出しを兼ねて、ちょっと王都を散歩してきます」


 そう言って離れを出た私は、母屋に戻り王都の通りへと出た。


 ただ、出たは良いものの、王都のどこに何があるのか、まるで分かっていない。


「まあ、観光みたいに思えばいいかな?」


 知らない場所を気ままに歩くのも、きっと楽しいはず。


 それに、思えばここ数日一人きりになれる時間なんてなかったしね。

 

 料理漬けにされたり、出歩く時には必ずグレアムさん達の誰かが一緒だったり。


 久しぶりに一人で自由を満喫(まんきつ)できると思うと、ちょっとテンションが上がってくる。


 …………本当に一人だよね?


 後ろを振り返っても怪しい人(グレアムさん達)はおらず、都民(とみん)の方が行き交っているだけだった。


 あの怪しい指先の動きを見せたりもしていない。


 大丈夫そう、かな。

 

 ほっとした私は気を取り直し、足取りも軽く散歩に出掛けた。



 何人かに道を尋ねてやって来たのは、都民の方が良く利用するという市場。


 私は地面に布を敷いてその上に野菜を並べる、露天(ろてん)が幾つか集まっているのかなと思っていたのだけれど、さすが王都だね。


 開かれていたのは露天ではなく、屋台のように屋根のある店で(いとな)まれる、色取り取りの露店(ろてん)


 それが無数に集まっていて、私には市場というより何かのお祭りに思えた。


「凄いなあ。これが日常なんだよね」


 それぞれのお店が独自の品を扱っているけれど、これだけ店が多いと、品揃えが(かぶ)る物も出てくる。


 日本なら大声で客引きしたり、値引きを匂わせたりすると思う。


 けれど王都の市場ではそんな様子は無く、野菜を売っているお店が並んでいても、競う感じがまるでない。


 それどころか、煮込み料理で使うトマトを買いに来たお客さんに、『煮込みで使うトマトなら、うちのよりこっちの店で扱ってるトマトの方が合うよ』と言って、他の店を(すす)めていた。


 それはエデンの街でも見られなかった光景で、現実でも見た事がない、カルチャーショックを受ける程の光景だった。


 ふと見渡せば、市場に来る人の顔がみんな明るい。


「お客さんも分かっているんだ。ここに来れば、間違いの無い買い物が出来るって」


 市場といったけれど、ただ店が集まっているだけではなく、互いに助け合う一つの組織といった方が正しいのかもしれない。


 そしてその組織が目指すところは、来てくれたお客さんにより良い買い物をしてもらう事。


 お客様目線という言葉の本当の意味を、私は初めて知った気がした。


「おやお嬢ちゃん、お使いかな? ここの市場じゃ何でも揃うぞ! 特に食材の豊富さは王都でも指折りさ。欲しい物があったら、良い店を紹介するぜ」


 声を掛けてくれたのは、主に葉物(はもの)野菜を売っているおじさんだった。


 実は歩きながら、夕飯を何にするかは決めていたんだよね。


 それは(まかな)いで食べた事のある、フランスの代表的な家庭料理。


 私が作りたい料理を説明し、必要な食材を伝えると『それはこっち、これはあそこが一番』と、とても親切に教えてくれた。


 本当に良い人だ。


 せっかくなら何か買っていきたいところだけれど……あっ。


「おじさんのお店では、香草は扱っていますか? パセリ、タイム、ローリエ、エストラゴンが欲しいんですけれど」


 エデンの街ではリンゴやニンジンといった食材は通じたけれど、香草の細かな種類まではどうだろう。


 ちょっと緊張する私におじさんは、にかっと笑った。


「それならうちがお勧めだ。()れたばかりで、香りの良いやつがあるよ」


 良かった、通じたよ。

 

 そして試しにパセリの匂いを嗅がせてもらうと、あの独特の香りが強烈に鼻の奥に飛び込んできた。


 これはおじさんが勧めるだけあるね。


 他にも使えそうだから多めに買うと、おまけというには多過ぎる程のおまけをくれた。


 そしておじさんに教えてもらったお店を回り、お目当ての食材を買ったのだけれど、どこに行っても一言目(ひとことめ)が、


「お使いとは偉いね、お嬢ちゃん」

「親の手伝いなんて偉いね、お嬢ちゃん」

「小さいのに買い物なんて大したもんだ、お嬢ちゃん」


 と、誰も私が自分で料理するとは思ってくれないのは、なぜかな?


 そして必ず言われる、お嬢ちゃんという言葉。


 私これでも現実では一応、20歳(はたち)超えているんですけれど……。


 あと、買い物をするとみんながおまけしてくれたのは、きっとカルマの影響だろうね、うんそうに違いない。


 決して、私が小学生に見えるからだよとか、考えてはいけないんだよ?



 大量の食材を買った私は、ホームに戻る途中、グレアムさんを見掛けた。


 声を掛けようかと思っていると、向こう側から見知らぬ人が近くに寄って来て、すれ違いざま、何かを手渡したように見えた。


 地味にレベルの上がっている【視覚強化】のおかげだね。


 私はこっそり背後に忍び寄ると、少し大きな声で話し掛けた。


「こんにちはグレアムさん」


「ぬなぁっ! マっ、教祖様!!」


「あの、そこで言い直すならマリアの方にして欲しいんですけれ……ど?」


 驚いた拍子(ひょうし)に、グレアムさんの手から何かが落ちる。


 それは掌大(てのひらだい)に折り畳まれた羊皮紙(ようひし)だった。


 私は直感に従いグレアムさんより早く拾い上げると、制止する声にも耳を貸さず、それを広げた。



『聖マリア猊下(げいか)軌跡(きせき) 第24節


 国王陛下との会談でお疲れになりながらも、甘味処(かんみどころ)で癒されたご様子。


 クラン結成に伴い、クラン名は『ルナ・マ・リ・ア』へ決定。


 名前を決めた者達に、最大限の賞賛(しょうさん)を贈りたい。


 その後国王陛下からの使者に案内され、ホームへ。


 ホームが(たく)された理由を知らされ、心を痛めたご様子。


 くっ、なぜ猊下が心を痛めねばならないのか、そもそもの原因となったのは……。


 すまない、熱くなった。


 ホームに入られてからしばらく、王都を散策(さんさく)されるため、お一人で外に。


 秘密裏に警護を開始。


 市場にて大量の食材を購入。


 その際、お嬢ちゃんと声を掛けられる度に顔が微妙に引き()っていらっしゃられた。


 はっ、無知な者はこれだから困る。


 猊下は()()()()()ではない、()()()()()なのだ。


 その溢れ出る姉力(あねりょく)は、もはや聖なる力を宿していると言っても過言(かごん)ではあるまい。


 いずれにしろ、猊下の名が王都で(あまね)く知れ渡る日も遠くはないだろう。

 

 報告は以上。

 

   名も無き同士より、クラン『幼聖教団(ようせいきょうだん)』へ』


「…………」


 私は無言で空牙(クーガー)()ぶと、手にした()()を渡し、解読不能になる程念入りに刻ませた。


 グレアムさんが悲鳴をあげながら、


「なんて事を! 貴重な聖典(せいてん)の一節がっ!!」


 と叫んだけれど、うん、そんな聖典滅ぶといいよ。


 できればクランもね。


 というかこんな物が、最低でも他に23枚あるんだね……。


 崩れ落ちるグレアムさんを放置して私はホームへ戻ったけれど、その途中、あんなに軽かった足取りは、やたらと重く感じられた……。


いつもお読み頂いている皆様、どうもありがとうございます。


前話にて少ししんみりしたので、今話はこのような展開となりました。

そして知らされたアレ。

マリアの平穏はどこまで旅立ったのでしょうね。


今回、新たに2人の方から嬉しいご感想を、3人の方から素晴らしい評価を頂き、21人の方からお気に入りに登録頂けました。また誤字報告1件も頂いております。

本当に、ありがとうございます。

おかげさまで3章、描き続ける事ができています。


もしよろしければ、感想、レビュー、ブクマ、評価お待ちしております。

ご支援頂けると、これからも3章を続けていく源になります。


あと1日で平日も乗り越えられます。

この物語が、そんな平日最後の前の夜に、日常を忘れる一時となったら幸いです。


引き続きのんびりと、どうぞお付き合いくださいませ。


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― 新着の感想 ―
[一言] おねーたん
[気になる点] ここまで読んで気になること。ゲームからの良い影響で、今後リハビリの成果が出るかどうか。少しずつでも身体が動く様になって欲しい。
[良い点] とても読みやすく、面白く読ませていただいています。 [気になる点] 特にありません。 [一言] なろうで、初めて感想を書かせていただきました。 コミックを読んで面白かったので、こちらへ来ま…
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