68_真里姉とクランと名前の行方
王様との対話を終えた私は、戻るなりカンナさんに取っ捕まった。
そして王様とどんな会話をしたのか、王様の口にした言葉を『一言一句思い出してっ!』と、なかなか無茶な要求をされた。
神託の内容とか恥ずかしくて濁したかったのだけれど、ルレットさんとは違った意味で何かのモードに入ったカンナさんを止めるのは難しく、ルレットさんとマレウスさんに目で助けを求めたけれど、すっと逸らされた。
……ふふふ、どうです王様、素敵な仲間でしょう?
結局カンナさんが満足して私を解放してくれたのは、それから30分も後の事だった。
カンナさんの追い討ちでぐったりした私を気遣ってくれたのか、ルレットさんが喫茶店のような店を探してくれて、そこで今後の事について話をする事になった。
王様の奢り発言でごった返しているかと危惧したけれど、酒場や食事処に殺到しているらしく、喫茶店のような店はむしろ閑散としている。
陽が差し込む窓辺の席に案内され、少しはしたないけれど、私はぐでっとテーブルの上に上半身を投げ出した。
あっ、頬に当たるテーブルのひんやりとした心地が気持ち良い……。
そのまま目を閉じていると、コトリと硬い物が置かれる音がした。
「ごめんなさいマリアちゃん、ワタシったら年甲斐もなくはしゃいでしまって。これで機嫌直してちょうだい?」
いつの間に頼んでいたのか、お店の人がお茶とお菓子を持って来てくれていた。
「このお店のお勧めらしいですよぉ?」
すんすんと匂いを嗅ぐと、お茶からは柑橘系の香りの他に、ミントのような爽やかな香りがした。
これはハーブティーかな?
エデンとは違い、陶器のカップで出されるところに、王都の豊かさが垣間見えるね。
むくりと起き上がった私の前に、カンナさんがお菓子の乗ったお皿を置いてくれた。
それは所々茶色く焼き付けられ、黄色くふわふわっとした感じのするお菓子で……こっ、これは!
「パン・ペルデュっていうお菓子みたいよ。ワタシ達で言うところの、フレンチトーストね」
「フレンチトースト」
勿論名前は知っているし、弟妹のために作った事もあるけれど、こうして誰かが作ってくれたフレンチトーストを食べるのは、初めてだよ。
私が密かな感動に浸っていると、3人が微笑ましそうにこちらを見ていた。
「こっ、これで機嫌を直したりなんて…………美味しい」
卵と牛乳、甘さは蜂蜜かな?
それらを時間をかけて染み込ませたのか、外はふわふわなのに、食べると中はとろっと。
バターを使って焼いているおかげでコクと塩気も加わり、もうね、口の中が幸せだよ。
合間にお茶を飲むとさっぱりするから、どんどん食べられる。
はむはむと食べ続け……はっ!
「……なっ、なんですか」
機嫌の事なんてすっかり忘れていたとは、なんだか悔しくて言えないので、ちょっとぶっきらぼうな声になっていた。
「いや別に。なあ?」
「ええ、見た目相応で可愛らしいなんて、思ってないわよ?」
「幾つになっても女の子は甘いものが好きな生き物ですからねぇ」
「女の子ってお前等女の子っていえるような年」
「「ふんっ!!」」
「あゔぇしっ」
右からルレットさんの右ストレートが、左からカンナさんの左ストレートが綺麗に決まり、挟まれたマレウスさんは顔がひしゃげて、とてもお見せ出来ない状態になった。
子連れの母親がいたら、『見ちゃいけません』って子供の目を覆うんじゃないかな。
今のはフォローの余地がないので、放置。
というか、実年齢で言えば私も怒っていいところなんじゃ?
でも2人のように殴ったりは出来ないし……以前ゴブリンと交換してもらった【毒薬】でもお茶に混ぜてしまおうか。
ほんの少しなら、きっと大丈夫じゃない?
いざとなったら、カンナさんが癒してくれるだろうし。
そっと私がアイテムボックスを漁っていると、ルレットさんが手を叩き、何かを思い出したかのように口を開いた。
「予定が前後してしまいましたがぁ、ホームが手に入ったので私達のクランを作りませんかぁ?」
「クラン?」
私が良く使ってるやつ? あれは【クラウン】か。
「クランは、仲間同士で作るチームみたいなもんだな。クランとして資産や素材の管理と共有もできる上に、情報も連携しやすい。あとクラン単位での参加が条件になるようなイベントにも出られる」
マレウスさん、復活が早いですね。
生産メインでも、さすが騎士系ジョブなだけはあるのかな。
「なるほど。あれ、でもみなさんは連盟の人とクランを作ったりはしないんですか?」
「連盟はあくまでも横の緩い繋がりで、一緒に何かするかっていうと微妙だな」
「癖の強い子が多くて大変なのよね」
マレウスさんのは分かるとして、カンナさん、貴女がそれを言いますか……。
「私はマリアさんとこれからも一緒に楽しみたいのでぇ、他は考えられませんねぇ」
「ルレットさん……」
そんなストレートに言って貰えたら、答えなんて一つじゃないですか。
「私も、3人と一緒だと嬉しいです」
最初に動いたのは、マレウスさん。
その後にカンナさんが、そしてルレットさんと私が続いた。
私達4人の拳が、テーブルの中央でコツンと合わさる。
クラン結成が決まった瞬間だった。
「ところで、クランの名前はどうする?」
これからギルドで『さあクラン登録!』という場面で、マレウスさんから待ったがかかった。
「クランの名前ですか。名前なら」
「「「考えなくていいぞ(いいですよぉ)(いいわよ)」」」
「なんでですか!?」
こんな時に3人揃うのは酷いと思う……でも実績があるから何も言えない。
でもね? 私だって、いつまでも昔の私のままじゃないんだよ!
「私が言いたいのは、名前の付け方です。みなさんの名前から幾つか取って、クランの名前にするのはどうでしょう」
「なるほど、ある意味定番っちゃ定番だが」
「マリアさんらしいですねぇ」
「良いと思うわ。けどマレウス、ルレット 、カンナ、マリア。文字数は多くないけど、組み合わせはそれなりね」
「それぞれ被らない文字で響きの良いものですとぉ、私とカンナで『ルナ』はいかがですぅ?」
「『ルナ』……いいわね。ワタシ達にぴったりだわ」
「他に何か繋げるにしろ、なんか女っぽくねえか?」
「あら、3対1で女が多いクランなのよ。おかしくないでしょう?」
「いやお前、そこは2対2」
「ふんふんふんっ!」
「ぅわらばっ」
カンナさんの無数の拳がマレウスさんに降り注ぐ。
なんで無数かというと、私には速すぎて見えなかったから。
カンナさん、ジョブ偽っていませんか?
もしくはルレットさんと入れ替わっているんじゃ……。
「ふぅ……さあ、マレウスちゃんの事は無視して、決めてしまいましょう」
「そうですねぇ、考えたのですけれどぉ、マレウスを多く残すと語呂も悪くなりそうなのでぇ、いっそ『マ』だけ取るのはどうですかぁ?」
「『マ』だけって、どういう意味ですか?」
「つまりですねぇ、『ルナ・マ・リア』という感じですねぇ」
「あら素敵じゃない」
「待ってください、それ普通に私の名前になるじゃないですか」
そういう風に名付ける人がいるのは知っているけれど、私は嫌ですよ?
クラン名を呼ばれる度に、自分の名前が呼ばれている気がするなんて、どんな罰ゲームですか。
「でもこのままだとリアの響きが悪いから、『ルナ・マ・リ・ア』でどうかしら?」
「良いと思いますよぉ、では決まりということでぇ」
「だから待って下さい! 聞いてます? ねえってば!?」
私は最後まで抵抗したけれど、盛り上がったルレットさんとカンナさんの前に敵うはずもなく。
私達のクラン名は、『ルナ・マ・リ・ア』に決まってしまった。
いつもお読み頂いている皆様、お読み頂き、どうもありがとうございます。
前話にて、拠点確保となりました。
そしていよいよ生産開始! と思って描こうとした直前、
ふと、大事なことを忘れていた事に気付いて描かれたのが、この一幕です。
今回、新たに3人の方からありがたいご感想を、7人の方から素晴らしい評価を頂き、24人の方からお気に入りに登録頂けました。
本当に、どうもありがとうございます。
これから本格的に生産で忙しくなる場面を描く、原動力になっています。
もしよろしければ、感想、レビュー、ブクマ、評価お待ちしております。
ご支援頂けると、これからも3章を続けていくエネルギーになります。
明日からまた平日がやってきますが、週末の夜、ふっとその事を忘れて頂けたなら幸いです。
引き続きのんびりと、どうぞお付き合いくださいませ。




