67_真里姉とカルディアの中の人(後編)
関東では明日雪となるらしく。
他にもコロナ等、状況はだいぶ不安定ではありますが、
ご自愛頂きながら、のんびりとお読み頂ければ幸いです。
「貴様、面白い事を申しておったな? 卑しい平民に金を恵んでやるのも、貴族の務めと。実に、実に良い心掛けではないか」
洗練された所作で、レオンJrの父親に近付く王様。
「では即刻貴様の資産を没収した上、平民に恵んでやるとしよう。なに、案ずるには及ばぬ。貴様のように、民の血税を懐に入れるような行い、余はせぬからな。第一、懐に入れたところで使う暇すらないのだ。全く、何とも難儀な定めを負ったものよ」
まだ青年にしか見えないその外見に似合わず、出てくる言葉は上に立つ人独特の迫力があり、後半は強い実感が込められていた。
特に後半の言葉に、私は昔の事を思い出していた。
それはまだバイトをしていた頃、本社に異動した社員さんが、時折やって来て溢していた言葉。
『偉くなる程、自分でいられる時間は消えていく』と。
その後会っていないけれど、元気にしているかな?
「しっ、資産没収!?」
「ああ、それと貴族の身分も剥奪だ。貴様のような者が貴族として余の国にのさばっているなど、虫唾が走るどころではないのでな」
「そんなっ! いくら王といえど、それは余りにも横暴が過ぎますぞ!!」
レオンJrの父親が、なおも王様に食い下がる。
それは良くないんじゃないかな……ああ、やっぱり。
「黙れ貴族ごときがっ」
王様の纏う空気が、一気に10度くらい冷えた。
「今し方の貴様の行い、省みて物申せよ? 民を守り、余の意向を民の実情に沿った形で実現する事が、貴族の務め。ならば、民のためにならぬ貴族を罰するのは、王たる余の務め」
気が付けば、ギルド内の全員が王様の言葉に耳を傾けていた。
それはマレウスさん達も例外ではなく、呆気に取られるというより、感心したような面持ちで聴き入っていた。
「余の決定に不服あらば、貴族ではなく、貴様が蔑んだ民の声を集めるが良い。民が余を不要と断ずるならば、その先にこの国の繁栄あらば、玉座など喜んで退いてやろう。……いや、それでは生温いな。いっそ断頭台の露と消えるのも一興か。その方が、後腐れもないであろうからな」
王様の覚悟をまざまざと見せつけられ、レオンJrの父親は、もはや何も言葉が出ないようだった。
「随分貴族に拘っていたようだが、たわいのない……後の処理はお前達に任せる」
王様がそう言うと、王様の真紅のドレスシャツと同じ色をした甲冑に身を包んだ騎士達が現れ、レオンJrの父親達を冒険者ギルドから連れ出していった。
「場を騒がせた詫びだ。今から日暮れまで、ここ一帯の酒場の代金は余が持とう。せいぜい存分に飲み、食い、使い道のない余の金を都に還元させてくれよ?」
その言葉に、爆発的な歓声が沸き起こった。
この世界の冒険者の人達だけでなく、受付のお姉さん達も歓声をあげていた。
こちらの歓声は、かなり黄色かったけれど。
「素敵よ王様! ワタシと結婚して!!」
「カンナさん……」
感情が昂っているせいか、いつもの高く引き上げた声ではなく、完全な地声になっていた。
見た目が完全な女性だけに、相変わらずそのギャップは凄まじく、免疫の無いカルディアの人達はドン引きしていた。
王様の残してくれた、為政者の威風堂々とした空気が台無しなんだけれど。
まあこれで一件落着かな、と思っていると……あれ、なんで王様がこっちに来るの?
カンナさんが『まさか届いたの、ワタシの気持ち!?』って叫び大変なことになっているじゃない!!
「白き獣に、蒼き衣……お主、名は何という?」
「ワタシはっ!」
勢い良く答えようとするカンナさんの口を、ルレットさんが塞ぐ。
カンナさん、髪は青いけれど服の色は違うよね?
ルレットさんの素早い対応で余計な混乱は防げたけれど、カンナさんの口だけでなく鼻まで塞いでいるので、注視してあげてくださいね。
というか、その2つの条件に当て嵌まるのって……。
私が自分を指差すと、王様に頷かれてしまった。
神託とかさっきの表現とか、不穏な言葉の連続に全力でこの場から逃げ出したいけれど、とても逃げ出せるような空気ではなく。
私は諦めて、名前を告げた。
「マリアです」
「マリアか……ふむ、マリアよ。余に少し時間を貰えぬか? 2人だけで話したい事があるのでな」
王様と2人だけで会話……なんだろう、胃の辺りが痛むのは、気のせいかな?
そして2人だけってところに反応しないでいいですからね、カンナさん。
あまり暴れると、ルレットさんが眼鏡外しますよ?
こうして王様に連れられた私は、冒険者ギルドの3階にある、ギルドマスターと呼ばれる偉い人の部屋に案内されるのだった……。
「急にすまんな。あまり時間は取らせぬ故、許せ」
「いえ、お気遣いなく……」
立派な革張りのソファーに座って、私は今、王様と1対1で話をしている。
ギルドマスターは部屋の中で仕事をしていた様子だったけれど、王様が何かを伝えると、『しばらくここには誰も近付かせないように致します』と言って出ていった。
「色々と聞きたい事はあるだろうが、まず神託について話すとしよう。何故余がお主を知っていたか、それにも絡むでな」
それは気になっていたので、一度に教えてもらえるのは助かるね。
「あれは数日前。災いにより住む場所を失った民の扱いをどうするか、思案していた時だ。余に神託が降り、とうの昔に採り尽くされ放棄された廃鉱の、その奥に新たな鉱脈が眠っていると告げられたのだ」
「あの、そもそも神託とは何なのですか?」
失礼に当たるかもしれないけれど、気になって尋ねてみた。
「神託とは、各国の王、もしくはそれに準ずる者にのみ告げられる天の声。アルビオンの連中が煩く言うのでな、敢えて神託と表現しておる」
苦笑混じりに言うその表情は、青年のような外見に似合わぬ重さが付き纏っているように見えた。
「神託が告げる内容は国の吉凶へと繋がる物も多いが、此度は吉だな。調査の結果、国庫を潤すに値する程の鉱石が、既に確認されておる。尤も、肝心の災いについての神託は無かった故、少々業腹ではあるがな」
災いというのがイベントと第2の街の事とすると、天の声は運営からのメッセージかな、それともザグレウスさんかな?
「神託はこうも告げた。『遠き遠き彼方の地にて、災いを憂い舞う者あり。その無垢なる願い、天恵となって顕れん。努々、災いに苦しむ無辜の民を差し置き用いてはならぬ』と」
ん? なんだか雲行きが怪しいぞ。
これはひょっとして、あれかな?
カドゥケウス社の結城さんに検討を依頼し、ザグレウスさんから受理されたと言われた件。
それは私が貰える事になっていた金額分を、第2の街の人達のために役立ててもらえないかというものだった。
そう考えると、遠き遠き彼方の地というのは、現実の世界。
災いを憂い、というのは私だとして……舞うというのは、ひょっとしてプロモーションの事かな?
舞うという表現にはだいぶ無理がある気がするけれど、じゃあ他に何かと言われると、う〜ん。
「余は借りが嫌いでな。それが天の声であろうともだ。その舞う者とやらに報いるにはどうすれば良いかと尋ねると、こう告げられた。『そのもの蒼き衣をまといて、白き獣と共に兵集う赤き地に降り立つべし。失われし絆を結び、この世と彼地をありし姿へと導かん』。後半は良く分からぬが、前半はその通りであったよ」
神託の内容よりも、このどこかで聞いたようなフレーズが気になって仕方がない。
確か昔作られたアニメのシーンの、一つだったかな?
ラストの方でお婆さんが呟くやつ。
タイトルは、なんだっかな。
風の……滝?
「借りを返す……その思いであったが、お主を見て気が変わった。これは借りとは呼べぬ、呼んではならぬ類のものであった。故に、アレイス・ロア・カルディアとして、礼を尽くしたい。マリアよ、余に出来る範囲で、お主の望みを叶えよう。爵位が欲しいというのなら、先程の男から剥奪した分を与えるが?」
「いえいえ、そういうのは間に合っていますから!」
ただでさえ教祖なんて望んでもいない呼び方をしてくる人がいるのに、貴族になんてなったら、どんな事になるか分かったものじゃない。
あと、爵位を断るついでにレオンJrの今後についてもちょっと検討してもらった。
親から離れれば、あの様子ならまだ遣り直せると思うからね。
「ならば住まいはどうだ? これから王都を拠点とするならば、仲間と過ごすのに何かと便利だぞ。特に生産を生業にする者達ならば、尚更な」
仲間と過ごせる、生産も出来る拠点かあ……。
ルレットさん達と同じ建物で過ごし、生産して……あっ、ネロや空牙も自由に過ごさせてあげられるね。
うん、良いかもしれない。
けれど私が勝手に判断して良いのかな?
王様に断りを入れて、パーティーチャットでルレットさん達に提案された内容を伝えたところ、一瞬の迷いも無く『『『受けなさい!!!』』』と言われてしまった。
そして送られてくる住まいへの要望の数々……って多過ぎですってば!
チャット画面に映された文字があっという間に画面外、スクロールしないと見えない位置へと追い遣られていく。
なんとか落ち着いてもらおうとしたけれど、無理でした。
生産トップの拘りというのかな? それが3人合わさったものだから、発散し収拾がつかなくなってしまった。
それでもなんとか把握しようとした私は、頑張ったと思う。
まあ、途中で諦めたんだけれどね。
専門用語も入ってくるし、こんなの纏められますか!
ということで、私は開き直り、要望の数々をそのまま王様に見てもらうことにした。
「なるほど、熟達した者ならではの望みではないか……相分かった!」
えっ? まさかあれだけあった要望、全部把握したの!?
さすが王様、処理能力が私とは桁が違うのかもしれない。
「用意が出来次第、知らせよう。なに、それ程待たせぬよ。では、余はそろそろ城に戻らねばならん。家臣達が騒ぐでな」
そう言うと、王様は颯爽とその場から去って行った。
こうして王都に入って初日にして、私は貴族に会って、王様に会って、そして住まいを貰える事になってしまった。
後半については、私が蒔いた種なところはあるけれど、それにしても王様に会う事になるなんて、想像出来る訳がないよ……。
溜息を一つ吐いて、私はルレットさん達と合流すべく、ギルドマスターの部屋を後にした。
いつもお読み頂いている皆様、お読み頂きどうもありがとうございます。
前話にてさらに大きなフラグが建ちましたが、無事に回収することができました。
ふぅ……そしてちゃんと? 後編で終わらせる事ができました。
(前・中ときてもし4話になっていたら、なんて入れるのでしょう……)
今回、新たに2人の方からありがたいご感想を、4人の方から素晴らしい評価を頂き、13人の方からお気に入りに登録頂けました。
本当に、どうもありがとうございます。
王都編、続いては王様からもらった拠点での一コマを描く、原動力になっています。
もしよろしければ、感想、レビュー、ブクマ、評価お待ちしております。
ご支援頂けると、これからも3章を続けていく活力になります。
外出自粛も続く週末の夜ですが、夜の時間に楽しさを添える一助になれば幸いです。
引き続きのんびりと、どうぞお付き合いくださいませ。




