35_真里姉と第1回公式イベント開始
この度総PVが20,000を超えました。
ひとえにいつも読んで下さっている皆様のおかげです。
どうもありがとうございます。
いよいよ迎えた、第1回公式イベント当日。
MWOにログインした私は、教会の前でルレットさん達3人と合流しパーティーを組み、イベントが開始されるのを待っていた。
イベントが開始されれば、参加を表明した冒険者は自動的にイベント会場へ転移されると通達されている。
具体的な場所は明記されていなかったけれど、【エデンの街に降り掛かる厄災を防げ】というイベントタイトルから、場所がエデン周辺なのは間違いないと思う。
私の後ろでは、エステルさんと子供達が不安そうな面持ちでこちらを見詰めていた。
私達にとってはイベントでも、エステルさん達にとっては違う。
それを私は、ルレットさん達から聞いていた。
私達はイベントがクリア出来なくても、明日は来る。
けれどエステルさん達には、明日が来ないかもしれないのだ。
住人の方の死は、冒険者の死と違い、絶対。
復活することは、ない。
漠然とした死の恐怖は、時に明確なそれよりも恐ろしい。
先の見えない未来に押し潰されそうになっていた私には、そう思える。
私の場合はその先に必ずしも死が訪れるわけではないから、共感できると言うには烏滸がましいのだろうけれどね。
それでも私は、MWOで動ける体を得て、エステルさん達と知り合ったおかげで、私は私で在ることを少しだけ、自分に許せるようになったと思う。
だから今度は、私の番。
私はエステルさんに近付くと、震えるその手を、両手で包み込んだ。
「行ってきます。子供達と一緒に、待っていてください」
「……どうかご無事で、マリアさん」
その場で跪いたエステルさんが、静かに祈りの言葉を紡いでくれた。
やがて祈りの言葉が終わると、まるで示し合わせたかのようにイベントが開始され、私達は戦いの舞台へと転移していた。
目を開くと、そこには見慣れた平原が広がっていた。
「……ここって、”始まりの平原”?」
いつもと違うのは、グレーラットやホーンラビットの姿が見えないことと、その広さ。
背後にあるエデンの街と比較して、平原の横の長さも奥行きも、倍以上に拡がっていた。
「参加プレイヤー全員を1箇所に集めるには通常の広さじゃ足りなかったのかもな。しかし凄えな、これ何人くらいいるんだ?」
マレウスさんが驚くくらい、周囲を見渡すと無数の冒険者で溢れていた。
「公式の発表はまだだけど、掲示板の情報だと5000人は参加していそうね」
5000人!?
そんなに多くの人が集まるイベントなんて、テレビで見た事しかないよ。
これが、イベント。
熱気と騒めきが渾然一体となり、辺りは既に混沌とし始めていた。
「それはまた随分と集まりましたねぇ」
「何しろ初めての公式イベントだもの、無理ないわ。ただ分かっていた事だけど、この規模でレイドが組めないとなると、統率の取れた動きはまず無理ね」
カンナさんが言う通り、興奮しているのか、みんな表情に落ち着きがない。
そして何が理由かは分からないけれど、既にあちこちで諍いも起きていた。
『肩がぶつかった』『足踏みやがった』『ちょっとお尻触ったでしょ!』とか、まあ大した理由ではなさそうだけれど……最後のはセクハラでアウトだろうけれど。
「だな。むしろ足の引っ張り合いになりそうで怖え。見ろ、攻略組の連中が早くも先頭を陣取り始めたぞ」
私達が転移した場所は、平原の端の方でまだ人混みは少ない方だった。
けれど中央付近、ちょうどエデンの西の門から出た辺りには多くの冒険者がひしめいているのが見えた。
その人数は時間と共に増していき、平原全体を見下ろせば、弧を描くような感じになっているんじゃないかな。
そして弧の最も厚みある部分の、その先頭。
そこには煌びやかな衣装や、厳めしい鎧を身に付けた冒険者達の姿があった。
周囲と比較できるから、尚更分かってしまう。
装備の質が明らかに他とは違っている。
素人の私でも分かる程だから、3人から見たらその強さも大体想像できちゃうんだろうな。
「先頭にいるのは、戦士系トップと噂されてるレオンか」
「左隣にいるのは魔道系トップと自分で喧伝している痛いミストね、実力は本当らしいけど」
「右隣にいるのは騎士系トップと評判のギランですねぇ。他にも名前が知られている連中がゴロゴロいますねぇ」
正式サービス開始時に供給されたソフトの数が3万本。
最大3万人もいる中で、トップとして名前を覚えられるって事はとんでもないことなんだろうね。
あれ? でもこの3人もそれぞれの連盟の長か。
そう考えると、私は凄い人達と友達になったのかもしれない。
そんな事を考えていたら、さっきまで明るかった太陽が姿を消し、周囲が暗闇で覆われた。
一瞬騒然となったけれど、普段の月の3倍はありそうな巨大な満月が天上に浮かび地上を明るく照らしてからは、徐々に落ち着いていった。
薄暗いけれど、【暗視】のスキルが無くてもギリギリ見えるくらいの明るさだね。
イベント開始の予感を感じたのか、冒険者達は急に静かになっている。
月の光は、最初平原全体に向けられていたけれど、やがてある1点に収束していった。
そこは何の変哲もない平原の一角。
が、月の明るさで闇が払われているにも拘らず、それを侵すように暗闇が忍び寄り、月明かりの中で集まり融合すると、人形へと姿を変えていった。
シルクハットをかぶり、真っ黒な包帯のような物で全身を包んだその体。
そして顔には同じ黒い仮面と血のように赤い双眸。
間違いない、ライルを助けた際に遭遇した相手だ。
丁寧に腰を折って一礼すると、大袈裟な身振り手振りで話し始めた。
「ようこそ、血湧き肉躍る狂乱の舞台へ。皆様にお越し頂き、感謝の念に絶えません」
仮面の下、口も見えないのにまるで耳元で発せられているかのように、その声ははっきりと聞こえた。
「今宵の舞台、私の力ではせいぜい2時間維持するのが精一杯ではありますが、その分趣向については凝らせて頂きました」
「申し遅れましたが、私の名前はメフィストフェレスと申します。今宵の舞台の黒幕、というのも無粋ですね。演出家とでも思って頂ければ幸いです。なお、私は舞台外の者、演者ではありません。よって、私を攻撃することは皆様の貴重な力を消費するだけですので、お勧め致しません」
その言葉に、びくっとして攻撃の動作を止める人が結構いた。
「時間も有限。それでは皆様、準備はよろしいですか?」
辺りを見渡し、たっぷり間を置き、開始の合図は告げられた。
「どうぞ “最後まで” お楽しみ下さい」
メフィストフェレスの姿が消えた瞬間、折り重なった髑髏で作られた、巨大で禍々しい門が出現した。
そしてその門の扉が開いた瞬間、中から大量のモンスターが飛び出してきたのだった。
いつもお読みになって頂いてる皆様、どうもありがとうございます。
前書きでも書きましたが、PVが20,000を超えました。
本当にありがとうございます。
新規に読んで頂いた皆様、のんびりした展開ですが、楽しんで頂けたら幸いです。
今も新たに複数の方からブックマーク・評価を頂くことができました。
とても励みになっております。
ありがとうございます。
これからものんびり続けていきますので、のんびりお付き合い頂けたら幸いです。