28_真里姉とゴブリンの後始末
いつも読んで下さる皆様のおかげで、PVが10,000を超えました。
感謝以外の言葉が見つかりません。
のんびり寄り道しながら物語は続いていきますが、これからものんびりお付き合い頂けると嬉しいです。
昨夜、深夜にも拘らずあまりにも煩かった真人に渾々とお説教してしまった私は、最後は体力の限界を迎え、お説教の最中に意識を失ったらしい。
目覚めた時、珍しく真人ではなく真希が来てくれたので変に思っていたら、その事を聞かされ、私は悶絶した。
さらに追い討ちをかけたのが、意識を失った私をベッドまで運んでくれたのが真人で、心配し朝まで付きっ切りで側にいてくれたということだ。
正直、穴があったら入って塞いで、しばらく閉じ籠もっていたい……。
結果、その日の朝はいつもより遅めの朝食となったのだけれど、リビングに移動するため私を抱きかかえる真人の様子は、いつもと変わらなかった。
むしろ文句の1つでも言ってくれた方が、私としては気持ちに区切りがつけられるのに…と思いかけて、反省した。
それは私が楽になりたいだけだから、そういうのを期待するのは良くないね。
ここは素直に謝ろう、そう私は心に決めたのだけれど、朝食を囲む真人の表情は、むしろ明るい?
えっ、真希も??
おかしいな、お姉ちゃんらしくないところを見せたのに、どうして2人の表情が明るくなってしまうのか。
その雰囲気に流されるように、私は謝る機会を完全に逸してしまっていた。
朝食の後は食休みを挟み、日課のリハビリをこなした。
リハビリの後は真希に汗を拭いてもらい、昼食をとってしばらくは自由時間。
私はMWOにログインすると、こちらでも満腹度が減っていたので、煮込みハンバーグを取り出し食べた。
その時確認した煮込みハンバーグの数は4つ。
携帯食として食べたり、ルレットさんやライルに渡したせいか、減りが思っていたよりも早い。
「そろそろ補充しないといけないな。次は何を作ろう」
煮込みハンバーグは作り慣れた料理だったから、次は現実で作ったことがない料理に挑戦してみたい。
できるだけ遊び心がありそうな料理だとなお良いね。
と、考えながらアイテムボックスを見ていたら、ある物を見つけ渋い顔になってしまった。
そこにあったのは大量の【ゴブリンの耳】。
1つの枠の中に重ねられているから、アイテムボックスが【ゴブリンの耳】であふれ返る事はないのだけれど、アイコンが妙にリアルで気持ち悪い。
やっぱりこれ、嫌がらせだよね?
「入れっぱなしにしておくのも嫌だし、冒険者ギルドで引き取ってもらおう」
私は部屋を出て、寝台の藁を毛皮に替えておいてくれたエステルさんにお礼を言ってから、真っ直ぐ冒険者ギルドに向かった。
冒険者ギルドに入ると、右側のカウンターにはアレンさんが復活していて、良い笑顔で冒険者に対応していた。
どうやら狙い通り、”エステルさん”と子供達で作った料理が効いたみたいだね。
目の前の冒険者の対応が終わったのを見計らい、アレンさんに挨拶する。
「こんにちは、アレンさん」
「こん…」
反射的に挨拶を返しながら、私の方を見た瞬間、アレンさんの口から続きの言葉が止まった。
そしてさっきまでの笑顔が驚愕と、恐怖に塗り潰されていく。
さすがにその反応は傷つくよ?
「アレンさん、こんにちは」
再度、逆にこちらは笑顔で挨拶する。
「マっ、マリアちゃん!? その笑顔、今度は何! 何を獲ってきたんだっ!!」
むしろ警戒されてしまった。
「失敬な。何も獲ってきてなんか……ないですよ?」
「ほら! 絶対怪しいやつじゃないか!!」
いつの間に取り出したのか、冒険者用の丸い大きな盾を構え、その裏からこちらの一挙手一投足に注目していた。
そんなことしなくても、以前やらかしたので【ゴブリンの耳】をここで大量に出したりしないのに。
私は1つだけ取り出して、アレンさんに見せた。
「これが大量にあるんですけど、素材として買い取ってもらうことって出来ますか?」
「それ、ただのゴブリンの耳だよね?」
「疑り深いですね。至って普通の、”試しの森”の先の山に出るゴブリン達の耳ですよ」
「……それなら討伐証明品だから、中央カウンターに提出してくれ」
「素材にはならないんですか?」
「ゴブリンの耳は素材にならない。食えないのは勿論、薬にも毒にもならない、ただ汚くて臭いだけの塵。ただ人を襲うから、冒険者ギルドとしては討伐しないわけにはいかない。その証拠がゴブリンの耳で、それ以外の価値はないんだよ」
そこまで存在ごと酷評される存在も、なかなかいないのでは。
あっ、昔住んでいた家に良く現れた、黒光するゴキと一緒か。
そう考えたら、アレンさんの反応も納得だね。
するとほんの出来心で獲ってしまったこれは、どうしたものか。
試しにカウンターに出したのは、捕縛状態のゴブリンソルジャー。
アレンさんが物凄く嫌そうな顔をしている……ですよね。
そのまま解体や引き取りをお願いしたらアレンさんが発狂しそうだったので、私はそっとアイテムボックスに戻し、中央カウンターに移動した。
中央のカウンターは相変わらず混雑しており、複数の受付嬢の前に多くの男性冒険者が列をなしていた。
列の長さには明らかな偏りがあり、ぱっと見、受付嬢の容姿に比例しているように思える。
受付嬢の中には、アレンさんのような男性も数人混じっており、そちらには女性冒険者が並んでいた。
どうせ接客されるなら、かっこいい男性や、綺麗な女性に相手してもらいたいと思うのは、自然だろうね。
それもタダだし。
私? 私は仕事が丁寧で早い人なら誰でも。
ということで、1番並んでいる人が少ない列の後ろに行くと、大して待つ事なく私の番になった。
カウンターには、他の受付嬢より若そうな、焦げ茶色の髪に、頬にそばかすのある吊り目気味の女性が立っていた。
胸元のネームプレートには「レジーナ」と書かれていた。
「討伐報告なら証拠物出して」
開口一番、飛んできたのは挨拶ではなく要求。
しかも接客業とは思えない言葉遣い。
見た目も相俟って、学校で極少数いた不良と呼ばれていた子を思い出す。
「これお願いします」
言われた通り、一気に”証拠物”を出した。
積み上がる【ゴブリンの耳】の山。
隣のカウンターのお姉さんが、短く「ひっ!」と悲鳴をあげたけれど気にしない。
一方、目の前のレジーナさんは欠片の動揺も見せず、たんたんと処理し始めた。
【ゴブリンの耳】は見た目も酷ければ匂いも酷いのに、忌避する感じは見られない。
そこに彼女の仕事に対する姿勢が感じられ、私は良い印象を持った。
物の五分で確認作業は終了し、カウンターと手を清め、査定結果を弾き出す。
「ゴブリンの耳124個。1個500Gで、報酬は62000G」
計算も早くて正確だね。
「ありがとうございました」
私は報酬を受け取り次の人に譲ろうとしたら、レジーナさんに声を掛けられた。
「冒険者ギルドを出て大通りを東に歩いて10分。”魔女の道具屋”って店をやってる婆さんなら、”生のゴブリン”買うかもね」
振り返ると既に次の冒険者の接客に入っていて、視線が合うことは無かった。
私の顔、きっと今にやけているんだろうな。
あれだね、悪ぶっている子が捨てられた子猫に優しくしているシーンを見たような気持ちだよ。
気持ちがほっこりした私は、報酬も貰って気分良く冒険者ギルドを後にした。
ちなみに教えてもらった”魔女の道具屋”では、これぞ怪しい魔女! って感じのお婆さんが出てきて、あっさり捕縛状態のゴブリンソルジャーを引き取ってくれた。
引き取る際、「これでどく…くすりの人体実……効能を確かめられる」と呟いていた。
うん、隠す気があるならちゃんと隠しましょう。
何より報酬としてもらったのがGではなく、【毒薬】って。
お婆さんが店の奥に戻る際、見開かれたゴブリンソルジャーの目が『タスケテ』と訴えていた気がするけれど、私はそっと視線を逸らし、彼? の行く末にちょっとだけ同情した。
いつも読んで下さっている方、いつものことではありますが、どうもありがとうございます。
また新たに読んで頂いた方、物語としてお楽しみ頂けたら嬉しいです。
前回の投稿にて、お1人の方に文章・ストーリーに高い評価を頂くことができました。
本当にありがとうございます、とても励みになりました。
そして感想も頂くことができました。お返事返させて頂きましたが、あらためてこの場にて御礼を。
また誤字報告をしていた頂いた方にも、この場にてお礼を述べさせてください。
それだけよく見て貰えていると、嬉しく思います。
最後に、前回よりブックマーク・評価頂いた皆様。
どうもありがとうございます。
大変ありがたく、モチベーションに繋がっています。
今後とものんびりと、お付き合いくださいませ。