209_真里姉と流れ行く雲
その日の夜、私はMebiusにログインし皆が集まるのを待ってから、弟妹と一緒に考えたことを話した。
行動に移すのであれば、皆の協力が必要になるからだ。
ただ、正直不安だった。
物を売るわけじゃないので、利益は見込めない。
けれど作る数は多いし、調整も多岐に渡る。
私の思い付き、というより我儘に付き合わせて本当にいいのかな……。
そんな懸念を抱いたものの、話を聞き終えた皆の様子を目にし、杞憂だったと思い知らされた。
「オリジナルの形状がシンプルですからぁ、手を加えるなら金具の部分ですねぇ。男女問わないデザインにしようと思いますがぁ、マレウスは対応できますぅ?」
「舐めんなっ! 俺が作る物は意匠も凝ってんだぞ」
「気遣いはアレだけど、中身は意外と繊細だものね、マレウスちゃん」
「アレってなんだよ、いつも気遣っているだろうが」
「ふふっ、そう言うことにしといてあげるわ」
「知らぬは本人ばかりなりですねぇ」
「てめえらっ!」
激昂するマレウスさんの言葉を途中でぶった斬り、カンナさんがまとめに入る。
「石の加工はワタシがなんとかしてみるわ。全く扱えないわけじゃないから。後は人手だけど、教会の裏で学んでいる子供達の手を借りましょう。今来ている人数なら、足りるはずよ」
盛り上がる皆とは対照的に、展開の速さに付いていけない私。
「あの、言い出した私が言うのもなんですが、そんな大事にしなくても」
細く長く続けられれば、くらいに思っていたんだけれどなあ。
その言葉に、皆が揃って首を横に振った。
「どう考えてもこの話、事が大きくなるわ。賭けてもいい」
「同意ですねぇ。むしろ大きくしない方が大変だと思いますよぉ」
「えっ? 繰り返しますが、売り物として作るわけじゃないんですよ??」
「甘い、甘過ぎる。砂糖をたっぷり使ったケーキを、蜂蜜と黒蜜に浸して食うくらいにだ」
それは甘いを通り越し、体に悪そう。
「お前が主体となってやることが大事にならないと思うか? いや、なる」
反語まで使い強調しますか、マレウスさん……。
引き攣る顔をなんとか堪えていると、カンナさんが真面目なトーンで口を開いた。
「ところで、肝心な物の用意はワタシ達じゃどうにもならないわよ。マリアちゃん、そこはどうするの?」
「王様を経由して、ヘレルさんにお願いしようと思います。事を進めるにあたり、お二人に話を通しておく必要がありますし」
「それがいいですねぇ、内容が内容ですしぃ」
ルレットさんの同意に勇気をもらいながら、ふと気になることができ辺りを見渡す。
その様子を訝しんだのか、カンナさんが尋ねてくる。
「どうしたの? マリアちゃん」
「いつもだとここでタイミングよく王様が現れていたなあ、と思って」
「そういえば、お前が戻ってきてからずっと不気味なほど静かだな」
マレウスさんが小部屋に目を向け、呟く。
「不気味って……」
「王様ですからねぇ。忙しいだけかもしれませんよぉ? ……自分で言っておきながら違いそうですけどぉ」
「ルレットさん……」
なぜそこでフラグになりそうな言葉を言いますか。
不穏な言葉に警戒していると、“キィッ”と音を立てて正面入り口の扉が開いた。
恐る恐る窺うと、そこに現れたのは……。
「ピヨッ!」
ヴェルだった。
深く息を吐き出した途端、体の強張りが解ける。
知らぬ間にかなり緊張していたらしい。
何か悪いことをしたのかと狼狽するヴェルに、申し訳なく思いながら近付き優しく抱き上げる。
「んっ?」
その時、ヴェルへ触れた手に柔らかな羽毛とは異なる感触があった。
探ってみると、ヴェルの足に小さな筒状の物が括り付けられている。
まさかね……。
心の中で自分の予想を否定してみるものの、二重否定する過去の自分がいる。
筒を外せば、示し合わせたかのように蓋が開き、中から紙片が現れた。
紙片には短く、こう書かれていた。
“任せるがいい”
「「「……」」」
それを見て無言になる、ルレットさんとマレウスさんと私。
「手紙で伝えくるなんて、王様ったら粋ね!」
ツッコむべきはそこじゃないですよ、カンナさん!
えっ、なんで知られているの? どこから、いつから!?
ひょっとして、ホームに盗聴器でも仕掛けられているのだろうか。
私達に無断で、地下道をホームの小部屋に繋げるくらいだし。
極めて遠い目をしている先、雲は青い空の上を平穏そのものといった様子で、ゆっくり流れていた……。
いつもお読みいただき、ありがとうございます!
私生活がバタバタしており、更新が滞っておりました。
しばらく、落ち着かない日が続きそうです。
のんびりと、お付き合いいただけたら幸いです。