206_真里姉と続く出迎え
エステルさんから解放され足元をふらつかせながらホームへ戻ると、既にルレットさん達の姿はなかった。
おそらく離れに籠もってしまったのだろう。
そういえば、イベント後もこんな感じだったっけ。
変わらない職人気質なところに、くすりと笑う。
私を待ってくれていたギルスとヴェルの方へ向かい、一緒に食堂を開けるための準備をする。
やがて、いつもより遅い時間に現れたレイティアさんとライルが、私を見るなり驚いた様子で立ち尽くした。
二人にも何も伝えていなかったので、心配かけたに違いない。
「すいません、長く不在に!?」
続く言葉が駆け寄ってきたレイティアさんに抱きしめられ、途切れる。
「……っ」
何も言わず、ただ腕に籠められた力が増す。
まるで、私が居ることを確かめるかのように。
私からレイティアさんの表情は見えないけれど、両の腕から伝わる細かな振動、微かに漏れる嗚咽が全てを物語っていた。
そっと抱き返し、呟く。
「心配かけてごめんなさい……ただいま」
最後の一言は、震えてまともに発音できたか怪しい。
視界の端、ライルが私とレイティアさんから視線を外し目を上に向けているのが映った。
その手は込み上げる何かを堪えるように、ぎゅっと握られている。
頼れる男の子という感じがして、その姿はどこか小さい頃の真人に重なった……。
腕の力が弱まったのは、それから少し後のこと。
目元を拭ったレイティアさんの顔には、優しげな笑みが浮かんでいた。
鏡を見ていないけれど、私も同じような表情を浮かべていたに違いない。
ギルスの私達を見る目が、温かいものだったしね。
その後は皆で、開店の準備に取り掛かった。
協力して進めたおかげで、準備はテキパキと進む。
ただそんな中、一つ気になることが。
いつの間にか、ヴェルの姿が見えなくなっていた。
「どこへ行ったんだろう?」
レイティアさんやライルだけでなく、ギルスも知らないらしい。
ギルスが知らないなんて、珍しいね。
ヴェルが一人で出歩くこと、なかったし。
そうこうしているうちに準備が整い、あとは食堂を開けるだけ、となった頃。
ホームの外から、何やら騒めきが聞こえてきた。
「何事だ?」
皆が思っていることを代弁したかのような、ギルスの一言。
ギルスが入り口へ向かい扉を開けると、そこにはシモンさんを先頭に多くの住人の方が……。
カスレの匂いに釣られたとしても、早過ぎる。
疑問の答えは、シモンさんの足元に。
「ピヨッ!」
外へ出ていたらしいヴェルが、元気よく翼を広げ鳴いている。
得意げな仕草に『がんばりました!』という言葉が浮かんで見えた。
「通りを歩いとったら、珍しくヴェル坊の姿が見えたもんでな。もしやと思い来てみれば、マリア嬢ちゃん達が料理をしとったわけだ。しかも作っとるのはわし等のお袋の味、カスレ! 居ても立っても居られず、急いで周りに声を掛けて回ったんじゃ」
「そ、そうですか……」
本当なら『ありがとうございます』の一言でも伝えるべきなんだろうけれど、強過ぎる既視感にその想いはどこかへ飛んでいった。
ざっと見ただけで、集まっているのは数十人。
しかも後方ではさらに人を呼びに行っているらしく、止まる気配がない。
切っ掛けが家の子で、しかも善意から生まれた連鎖だけに、私の心は迷走し迷子になっている。
おかしい、どうしてこうなったのだろう……。
そこからは怒涛の給仕オンラインへ突入し、作り置きした分も途中で底をつき急遽追加で料理することに。
作った端から次々と消えていくカスレに、感情が無になり始めた頃。
人がまばらになり、私達はようやく一息つけるようになった。
カウンターに突っ伏し、レイティアさん達を労ったら休むんだ、と考えた矢先。
過去の私が、警鐘を鳴らしてきた。
“それはフラグだよ?”という嫌な言葉と共に。
「ははっ、そんなまさかね……」
疲れからフラグを重ねるような呟きをした私を、誰が責められるだろう。
いや、責められたところで全部自分に返ってくるだけか。
予感めいたものに導かれホームの入り口を見れば、見事にフラグ成立。
そこには滂沱する、グレアムさん達の姿があった。
(マリア:マリアネーター Lv50)
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ログアウト :何かが尽きるで
ちょっと!?
まだログアウトしていないのに、なんて不穏なメッセージを出すんですかザグレウスさん!!