202_真里姉と天上の話し合い
「ザグレウス、リベルタではお前のお気に入りがまた活躍したそうじゃないか」
時の流れを示す歯車が回る空間に、どこか面白がるような声が響く。
いや、実際面白がっているのだろう。
レギオスで彼女に対し、平然とあれだけのことをしたのだから……。
国の実装と共に、私の統合AIとしての権限は五つに分割された。
カルディアの統合AIが、私。
アルビオンの統合AIの名を、アストライアー。
リベルタの統合AIの名を、ヘルメス。
ゼノアの統合AIの名を、エリス。
レギオスの統合AIの名を、クラトス。
そして今、唐突に現れ声を掛けてきたのがクラトス。
容姿は私に似ているが、髪は短く細いながらも引き締まった体つきをしている。
一見快活そうな見た目だが、レギオスでの試練を提案した張本人でもある。
私とアストライアーは反対したが、ヘルメスとエリスが賛成にまわったため、提案を却下することができなかった。
私はあの一件を防ぐことができなったことを、今でも悔やんでいる。
あれは、試練というにはあまりにも残酷なものだったからだ。
「活躍というなら、あの戦いに終止符を打った彼だと思いますが?」
棘のある口調を自覚しつつ、応える。
「はっ! その目的すら、結局はあの女のためだった訳だろうが。面白くねえ」
クラトスとは対照的に、不愉快であることを隠そうともせず現れたのが、エリス。
女性らしい容姿をしている反面、このように口が悪い。
ゼノアを担当しているからこそ、彼の行動は裏切りと感じたのだろう。
ただ、私には必ずしもそうだとは思えない。
彼女に降りかかる火の粉を払うことが本懐だとして、他にも遣り方はあったはず。
それこそ、今回の騒動の中心をゼノアで起こしても良かったのだから。
「まあまあ、結果的に僕達の望む方向へと事態は進んでいる。なら、誰が成したかは二の次でしょう」
何もない空間から降り立ち、肩の辺りで切り揃えた髪をふわりと払い、ヘルメスが口を開く。
仮にも自身が司る国で大事が起きたはずが、その口調は極めて軽い。
「さてアストライアー。君はこの後、どんな展開を思い描いているのかな?」
問い掛けに、眩いばかりの光が生まれ女性へと姿を変える。
光が収まると、そこにはエリスよりも凹凸の目立つアストライアーが、たおやかに佇んでいた。
「紡がれた数多の想いの、望むままに……それが私達の希望となることでしょう」
組んだ両手を高く掲げ、花が咲くように指を広げる。
その形は杯にも似て。
アストライアーは、そこに希望が降り注ぐのを期待するかのように、恍惚とした表情を浮かべていた……。
お久しぶりです。
昨年度末にあと一話で終わらせるつもりでしたが、本業多忙にて離れておりました。
正直このまま未完で……という想いもあったのですが、そんな折にある読者の方から推しの作家さんの話を最初から読み直しているという、コメントを拝見し、我ながら現金なもので、も少し書いてみようと、そう思えたのです。
ひとまずもう数話は定期的に、その後は不定期になるかと思いますが、また、歩んでいこうと思います。
こうして後書まで読んで頂いた皆さんに、改めて感謝を。
ありがとう、ございます。