198_真里姉と言伝
伝えられた内容は簡潔で、私と話がしたいというものだった。
結城さんとはこれまでも何度か遣り取りしているし、話すのは問題ない。
ただ真希が話の詳細を尋ねても、直接私に伝えるの一点張りだという。
そんな言い方をすれば真希に不審がられ、断られる可能性が高まることを結城さんなら分かっているはず。
にも拘わらず引かない様子に、真希も唯ならぬ様子を感じとったらしい。
「一応、お姉ちゃんに対し悪意のあることではない、という言質は取ってあるけど」
私に関することでは毅然とした態度を崩さない真希が、これ程困惑するのも珍しい。
それだけ、結城さんも真剣なんだね。
僅かに悩んだ後、私は結城さんと話すことにした……。
真希とは通話を保留にしていたらしく、真人にリビングに運んでもらいソファへ座ると同時に、壁のディスプレイに結城さんが映し出された。
「突然の連絡にも拘わらず、お話する機会を頂き、ありがとうございます」
画面の向こう側で、結城さんが椅子から立ち腰を折って頭を下げる。
「気にしないでください。真希がたじろぐくらいの申し出からして、余程のことだと思いますし」
座ってもらうよう促すと、結城さんは席に着き姿勢を正してから話しを続けた。
「そうですね。正直、本件については真里さんにお伝えすべきか否か、社内でも意見が割れました。通常であれば議論にすらならない事柄なのですが、内容が非常にデリケートなものであったため、最終的に真里さんにご判断頂くことにしたのです」
「議論にならないようなこと、ですか?」
問い掛けに、結城さんが頷く。
「運営の方針として、ゲーム外でプレイヤー同士を繋ぐことは致しません。しかしそれに則り本件について対処した場合、真里さんへの不義理になる可能性を我々は捨てきれなかったのです」
思い掛けない話に面食らっていると、隣から真人が口を開いた。
「穏やかじゃないな。しかもそれは、俺や真希には話せないんだろう?」
「我々では、どこまでならお二人に話してよいのかも分からなかったのです。ただ、お二人は真里さんにとって掛け替えないの家族。ですから今回の件は、少々遠回しにお伝えしようと思います。もし真里さんがお二人に聞かれることに抵抗を感じた場合、会話は即座に止めます」
真人へ答えながら、その実私へ向けられた言葉。
正直、そこまで物々しい言い方をされると聞くのが怖くなる。
ただ、聞かないと後悔しそうな気もして。
「お気遣い、ありがとうございます。けれど真人と真希になら、私はどんなことを聞かれても大丈夫です」
左右に座る二人の手に触れると、ぎゅっと握り返してくれた。
それだけで、とても心強い。
「……分かりました。ただ、くれぐれも無理はなさりませんよう」
念押し、一呼吸置いた後に結城さんが口を開く。
「真里さんは、ジェイドという名前のプレイヤーをご存知でしょうか」
「っ!」
気掛かりだった名前を、まさか現実で聞くことになるとは思わず、答えに詰まる。
「我々に依頼されたのは、その方から真里さんへのビデオメッセージを届けること。準備がよろしければ再生を始めますが……いかがでしょう?」
無意識に浅くなっていた呼吸を整え、頷く。
結城さんは真人と真希を一瞥してから、徐に映像を切り替えた。
そこに映し出されたのはジェイドさん……ではなく、四十に届くかという見知らぬ女性だった。