194_真里姉と防衛戦(終編)
乱れ飛ぶ、白と黒の羽。
眼下の視界を覆う程のそれは、地上へ近付くにつれ変化を見せる。
レイドを組んでいるルレットさん達には白い羽が、ユダスさんやモンスター達には黒い羽が付着した。
ただその羽は、ギルスの【業禍】のように光るでも、爆発もしない。
一体どんなスキルなのか疑問に思っていると、効果は直ぐに顕在化した。
皆の動きが良くなり、逆にユダスさん達の動きが悪くなっている。
しかも個々の特性に合わせているのか、力の強い人はより強く、動きの速い人はより速くといった具合に。
ユダスさん達はその逆で、俯瞰する私にはその変化をはっきりと捉えることができた。
間近で戦っている皆であれば、ヴェルのスキルの効果を更に実感できると思う。
「凄いよ、ヴェル!」
「ピヨッ! ピヨヨッッ!!」
自慢げな、ヴェルの鳴き声。
鳴き声へ呼応するかのように、ルレットさんや教団の人達の勢いが増す。
ジェイドさんが言っていた、あと五分。
「これなら」
そう安堵しかけたけれど、私は忘れていた。
今の発言は、いわゆるフラグになるということを。
『あっ』と思ったのも束の間、ユダスさん達と一体化したモンスターだけが、黒いオーラのようなものを発し始める。
何事かと様子を窺う皆の前で、ユダスさん達が雄叫を上げた。
「「「ギィシャラアァッ!!!」」」
そこに、もはや人としての言葉はなかった。
私の印象が正しいことを証明するかのように、一転しユダスさん達が勢いを取り戻す。
「ぐっ、ここでまた強くなるかよ」
大盾で攻撃を受けたマレウスさんが、忌々しそうに口にする。
「最後の力を振り絞っているのでしょう、恐らく命懸けで」
カンナさんの言葉を裏付けるように、ユダスさんの仲間の何人かは、戦っている最中に急に倒れ、そのまま動かなくなった。
「死兵かよ、厄介だな」
その時、猛攻を受け乱れた連携の隙を突き、ユダスさんが抜け出してきた。
全員で戦線を支えている状況下、ジェイドさんとの間に割って入れる人はいない。
私が糸で防ぐにも、力で押し切られる可能性が高い。
危険だけれど、ヴェルを戻しギルスを喚び空中から?
【龍糸】ならなんと間に合うかもしれない。
そう考えた時、私は気付いてしまった。
変貌しているとはいえ、相手はこの世界に住んでいる人で、【龍糸】を使えばその命を奪いかねないことに。
以前のような、冒険者相手とは違う。
この世界の人達は、生き返ることができない。
躊躇していると、ジェイドさんがこちらを見上げ首を横に振った。
「そういう汚れ役は、大人がやるもんだ」
眼前に迫る脅威を気にもせず、その口調はいつものように軽い。
そこへユダスさんが斧を振り下ろし、ジェイドさんの体を深々と斬る。
「がはっ」
「ジェイドさんっ!!」
思わず悲鳴を上げる私の前で、ジェイドさんが血を吐き倒れかかる。
ただ地面にぶつかる直前、その言葉は紡がれた。
「呪双」
言葉が発せられた瞬間、周囲に赤い閃光が走る。
その変化は劇的。
ユダスさんだけでなく、皆に襲いかかっていたモンスター達が突然倒れ動かなくなった。
再び動き出す気配は、ない。
皆が唖然とする中、満足げな顔をしたジェイドさんの体が光の粒子に包まれ、消えていく。
一瞬遅れ、状況を理解した皆から歓声が上がる。
けれど私はジェイドさんのことが気掛かりで、一緒に声を上げることができなかった……。
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