表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
194/210

193_真里姉と防衛戦(後編)


 変貌(へんぼう)したユダスさん達の力は、凄まじかった。


 ただでさえ強かった樹海のモンスターに、人の経験と技術が加わり、多彩な攻めと連携を見せたからだ。


 おかげで、これまで保っていた均衡(きんこう)が一気に崩れる。


 負傷者は後方に下がり、傷が癒え次第戦線に復帰するものの、それでも徐々に押し込まれていく。


 しかも厄介ないことに、ジェイドさん本人を狙う攻撃も増えている。


 それが守り難さを助長し、このままでは防ぎ切れなくなるのも時間の問題だった。


「すまんな、この陣を描き始めると敵意がおれに集中し始めるんだわ」


 そんな重要なことを、なぜ先に言ってくれないのか……。


 心の声は皆にも届いたらしく、等しく拳を堅くに握り締めていた。


 正直、殴り掛かる人が出なかったのが不思議なくらい。


「いずれにしろ、ちょっと拙いわね」


 後方で支援していたはずのカンナさんの声が、これまでより近く聞こえる。


 私達は知らぬ間に、だいぶ後方へ下がっていたらしい。


 立て直そうにも、圧力が激しくその余裕すらなく。


 ジリ貧な状況に、焦りが募る。


 そんな中、毅然とした声が辺りに響いた。


「ここは私にお任せをっ!」


 一歩前に出ながらそう口にしたのは、グレアムさん。


 その手に構えるのは、全長二メートルはあろうかという大弓。


 形から、これまで見た洋弓より和弓に近い。


「レギオスで鍛え、己の在り方を見つめ直した先に得たスキル。それを使えば、一時的に時間を稼げます。ただ、そのためにはマリアさんの協力が必要なのですが……」


 言い淀むグレアムさんに、即答。

 

「構いません、お願いします!」


 少しでも状況を良くする手があるのなら、形振(なりふ)り構っている場合ではない。


「……分かりました。それでは失礼して」


「へっ?」

 

 近付いてきたグレアムさんが、唐突に私をおんぶし、紐で固定し始める。


 確かに協力すると言ったし、その言葉を違える気はないのだけれど、この状況(はずかしめ)は予想の斜め上過ぎた。


「グレアムさん、これは一体……」


「申し訳ありません。これから使うスキルは、心に定めた方の近くであればある程効果が増大するのです」


 急速に沸き起こる、不安。


 それを感じ取ったのか、ギルスが『ヤルか?』と 目で問うている。


 エステルさんに至っては、どこからか取り出したメイスを片手に、凄みのある微笑を覗かせていた。


 一瞬悩んだ私は、きっと悪くないはず。


 ただ“教祖”呼びが改善されていることを踏まえ、私はグレアムさんを信じることにした。


 グレアムさんが弓を引くと、弓自体が光を帯び始める。


 最初は淡い光だったものが、やがて直視するのも難しい程の輝きを放ち、弦の上に無数の矢が浮かんだ。


「【聖・魔離矢(せい・まりや)】っ!!」


  叫ばれたスキルの名前へツッコむ前に、一斉に矢が飛翔し狙い違わずユダスさん達に突き立った。


 矢は刺さるのと同時に、強烈なノックバックを生じさせている。


 思わず膝をついたユダスさん達は、予想外の攻撃に驚きながらも攻撃を再開しようとし、それができないことに驚いていた。


「ご安心を。この技は私のMPが続く限り、相手の動きを止めます」


 それが事実ならとても強力な技だけれど、制限もあるようだった。


 まずMPの消費が激しく、かつ回復もできず長く持つものではないこと。


 そして動きを止めた相手に対し、一切の攻撃が禁じられること。


「その制約があるからこその、破格な効果なのね」


 納得顔のカンナさんに、マレウスさんが客観的な現状を突き付ける。


「だがグレアムの言う通り、所詮時間稼ぎ。この間に打開策を見つけねえと」


「オジ様のそれ、まだ終わらないの?」


「あと五分は要る」


 短い返事に、ジェイドさんもまた必死なのが窺えた。


 グレアムさんを見れば、とてもそこまで持ちそうにない。


「ピヨッ! ピヨヨッ!!」


 その時、ギルスから私の肩へ移っていたヴェルが鳴き、仕切りに何かを訴えていた。


「どうしたの、ヴェル?」


「任せろと言っている」


 隣へ戻ってきたギルスが、ヴェルの言葉に耳を傾け、意志を伝えてくれる。


「残り五分、守り切る技がヴェルにはあるようだ」


 それが本当なら願ってもないけれど、いつの間にそんな技を覚えたのだろう?


 まあ、大きくなったのもいきなりだったし、今更かな。


「そのためにオレはマリアの側を離れざるを得んが、任せたぞヴェル」


「ピヨッ!!!」


 交わされるギルスの拳とヴェルの小さな翼。


 それを見て、私も覚悟を決めた。


 グレアムさんから離れ、ギルスを戻しヴェルに全力を注ぎ黒白鳥へと変化させる。


 ヴェルは即座に上空へ飛び立つと、眼下の私に目を向けてきた。


 初めて使う【転糸(てんし)】により、一瞬で地上から上空のヴェルの背中へと移動。


 羽ばたきながら、私からMPを吸い上げヴェルが力を溜める。


 MPを吸われるがままにしていると、ユダスさん達が動き出すのが見えた。


 グレアムさんのMPが切れ、スキルの効果が消えたらしい。


 逸る気持ちを抑えヴェルを信じ委ねていると、戦いが再開される直前、MPの消費が急に緩やかになった。


 長い首を曲げ、こちらを見詰めるヴェルに頷きを返し、戻し際ギルスから伝えられたヴェルの技の名を口にする。


「“昂禍(ごうか)!”」


 瞬間、ヴェルの体から無数の羽が地上へ放たれた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 更新有り難う御座います。 ??「……いい加減に聖矢(せいや)!」 グレアム「あふん!?」 マレウス「何故に!?」
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ