191_真里姉と防衛戦(前編)
方針が定まると、マレウスさん指示の下即座にパーティーが組まれ、更にそれを纏めレイドが構築された。
カンナさんとグレアムさんはパーティーの配置を調整し、ルレットさんは先頭に立ち、力強くも艶やかな容姿で皆を鼓舞している。
皆に守られ、ジェイドさんは自らの血を用いて手早く地面に何かを描き始めていた。
先ず目についたのは、直径二メートル程の円。
その中心から細かな円や線に加え、隙間に梵字のようなものがびっしりと描かれている。
魔法陣よりも描写が細かく、どちらかといえば曼荼羅に近いかな。
もっとも実物は極彩色なのに対し、こちらは単色で動物や仏神の姿がない。
そのため、神聖な物というより不気味な印象を抱かされる。
「三十分、それだけ持ち堪えてくれ」
手を止めずに、ジェイドさんが目安となる時間を示す。
「こんだけのモンスターを相手に、無茶言いやがる」
げんなりとした顔で、マレウスさんが毒づく。
「無茶は承知でしょ。けど、マレウスちゃんに代案があるなら聞くわよ?」
「あったら既に言っている」
「なら決めたことに文句を言わないの。男の子なら腹を括りどっしり構えなさい」
「お前みたいにか?」
「フンッ!」
「あゔぇしっ」
低い位置から上半身を捻り打ち出されたアッパーが、マレウスさんの顎を正確に捉える。
ただその威力は頭を弾くだけでは収まらず、体ごと高〜〜く宙に浮かせていた。
カンナさんのジョブに対する疑惑は膨らむばかりだけれど、その後ちゃんと回復していたので払拭……されているのかなあ。
少なくとも、教団の人達がカンナさんへ畏怖の籠った視線を向けていたことは、付け加えておくね。
「そろそろ戦闘開始ですよぉ」
その一言で場の空気が引き締まり、ルレットさんを中心に教団の人達がずらりと左右へ展開する。
私もギルスとヴェルと一緒に、中央へ。
ギルスには最初から【龍糸】を使ってもらい、私は援護のために【金虹糸】を手にした。
攻守の役割を明確にしたところで、ふと、隣に白い人影が立った。
「約束通り、一緒に戦わせてくれますね? マリア姉様」
「エステルさん……」
できれば離れた所で見守っていて欲しかったけれど、笑みの奥に凄みを潜ませるエステルさんを止める術はなく。
まあ、この状況ではどこに居ても危険なことに変わりはないか。
それなら一緒に居た方が、まだ安心できる。
頷く私に、花が咲くような笑みを見せるエステルさん。
「私がマリア姉様を、皆さんを守ります!」
決意の言葉と共に、エステルさんが歌う。
イベントの時に聴いた鎮魂歌とは違い、優しく包みこんでくるような、その歌声。
「これは、讃美歌?」
広がる歌はレイドを組んでいる皆へ届くと、淡い光の膜で包んだ。
ステータス画面を見れば、状態異常無効のバフが付与されていた。
以前アルゴスの厄介な能力を聞いていただけに、これは凄く助かる。
グレアムさん達も『これで懸念事項が一つ減った』と喜んでいた。
準備が整ったのに合わせるかのように、樹海のモンスターが私達へ襲い掛かる。
どのモンスターも体が大きく、腕の一振り、角の一刺しで私のHPならあっという間に消し飛びそう。
そんな攻撃を、教団の盾役の人達が文字通り一歩も引かずに受け止めた。
「凄い」
思わず漏れる、感嘆の声。
先頭のモンスター達の足が止まったことで、攻撃の手が一瞬弱まる。
そこへ近接攻撃を得意とする人達が殺到。
手足を集中的に狙い、確実に相手の脅威度を下げていく。
「無理に倒さなくていい、ある程度力を削いだら後続のモンスターへの壁にするんだっ!」
「「「了解!!!」」」
グレアムさんの指示が飛び、それに応える教団の皆。
以前に比べ、集団としての動きが格段に洗練されている。
レギオスで鍛え直したというのは、伊達じゃない。
「私達も負けていられませんねぇ」
ニヤリと笑い、ルレットさんが巨狼の顎を下から蹴り上げ、上体を浮かす。
「ふんっ、強くなったのはオレ達も同じだ」
そこへ相手の四肢に【龍糸】を絡ませ、ギルスがぐっと引き切断する。
鮮やかな連携だけれど、さすがは樹海のモンスター。
まだ終わらないと言わんばかりに、口から何かを吐こうとしている。
「させないっ!」
【金虹糸】を巻き付け巨狼の口を閉ざした瞬間、口内で炎が爆発した。
行き場を失った炎が体の内部を焼いたらしく、巨狼は身悶えしながら息絶えた。
その後も支え合うことを意識しながら戦い続け、十五分が過ぎた頃。
唐突にモンスターの圧力が強まった。
カンナさんやエステルさんの必死の支援で持ち堪える中、その原因が明らかに。
モンスターの後方、異常を察知したユダスさんが、レオン達を引き連れこちらへ向かっていた。