18_真里姉と捕縛スキルの価値
相当に痛かったのか、涙目になった2人が席に着くことができたのは、それから5分後のこと。
「改めて自己紹介しますねぇ。私は裁縫連盟の長のルレットですぅ」
何事もなかったかのように、ルレットさんが自己紹介を始める。
マイペースな感じは崩れることを知らないらしい。
「あの、連盟って何ですか?」
「裁縫スキルを主に楽しんでいるぅ、有志による集まりのようなものですよぉ」
学校の同好会、みたいなものかな?
そんな集まりの長ってことは、ルレットさんはやっぱり凄い人だったんだね。
1人納得していると、青い髪の女性? が立ち上がった。
「ワタシは木工連盟の長のカンナよ。どうぞよろしくね?」
ぱちりと片目を瞑る仕草は、どこから見ても女性だけれど、声との違和感が半端じゃない。
色んな意味で緊張を覚えた私は、ぎこちなく会釈を返すので精一杯だった。
カンナさんが着席すると、ぶすっとした様子の髭の男性が同じく立ち上がった。
「俺は鍛冶連盟の長のマレウスだ。ちなみにさっきこいつが言ったことは忘れろ、いいな?」
さっきのことって、ああ、告白云々のことか。
別に覚えているつもりもなかったので、頷いておく。
と、残りは私だね。
立ち上がるとテーブルの下にだいぶ隠れてしまいそうだから、座ったままで。
……自分で言って悲しいなんてことは、ないからね?
「マリアです。ジョブは道化師です」
名前だけでは簡素過ぎると思って、とりあえずジョブを言ってみる。
料理スキルは、別に誇れる程ではないと思うし。
「道化師だぁ? そんな地雷ジョブ、お前よく選んだな」
マレウスさんの口調は、馬鹿にするというか、呆れるような感じだ。
地雷ジョブ? 周囲に被害を及ぼすような、そんな危険なジョブではないと思うんだけれど。
すると、テーブルの上に乗せられたルレットさんの拳に再び力が籠められた。
「まぁ〜れぇ〜うぅ〜すぅ〜?」
朗らかな笑みとは裏腹に、ミシッと不吉な音が静かな部屋に響いた。
マレウスさんの額に粘度の高そうな汗が浮かぶ。
「いやっ、あれだ……何のジョブを選ぼうが自由だよな、うん」
3人とも連盟の長だと言ったけれど、この場での長が誰なのかは良く分かるね。
「それで【捕縛】スキルについて相談とのことですけれど」
話が進まなそうなので切り出すと、カンナさんが頷いた。
「【捕縛】スキルの重要性については、ルレットちゃんが話してくれた通りよ。ワタシ達2人も見解は同じ。それで正式に、マリアちゃんに【捕縛】スキルの取得条件の情報を売ってもらいたいの。このスキルが広まれば、ワタシ達生産職の活性化にも繋がるわ」
「情報を売るのは構いませんが、本当にそれ程重要なスキルなんですか?」
「料理するなら少しは分かるんじゃねえか? でかいモンスター倒しても得られるのが肉一切れ。それがまるっと一頭分手に入ると思えばお得だろう? こっちも同じなのさ。特に今は色々と問題があるからな」
「問題?」
「まあ、それは後で話す。で、情報の対価だが1Mでどうだ」
「1M?」
「1Mはですねぇ、100万の意味なんですよぉ」
「は?」
思わず間の抜けた声が出た。
頭の中で100万という単語がループするけれど、一向に脳の処理が追い付く様子がない。
だって100万だよ?
私が頑張ってブラックウルフを倒して得たお金と、手持ちと合わせても2万Gだったのに、その50倍だよ!?
くらくらしていると、ルレットさんからさらに衝撃的な発言が。
「生産していたらぁ、1Mなんて稼ぐのも使うのもあっという間なんですよぉ。私達3人だけで数十Mあるくらいですからねぇ」
数十Mって、ボアの肉何枚分だろう。
貧乏性からつい食材の単価で計算した私は、算出された数の多さに途方に暮れてしまった。
凄い世界なんだね、生産って。
あ、でもよく考えれば、現実では真希も同じようなことやっているのか。
尤も、あっちはさらに桁が大変なことになっているけれど。
「マリアちゃんの得た情報はそれだけの価値があるわ。それでいいかしら?」
「……はい」
もうどうにでもしてという感じで、私はスキルの詳細を3人に見せた。
【捕縛】
対象のHPを1割以下まで減らすと使用でき、成功すると対象を捕縛状態で取得可能となる。成功率はスキルレベルと武具に依存し、対象の強さに反比例する。
対象と戦闘し互いのHPが1割を切った上で、対象を捕らえた状態を10分以上継続することで取得できる。なお取得には対象と1対1で向き合う必要があり、他者からの支援を受けた場合、スキルの取得は失敗する。
共通スキルの説明はちゃんと読んだことがなかったけれど、スキル説明の下に取得条件が書かれていた。
なるほど、こんな条件だったんだね。
ブラッディボアとの戦いは無我夢中だったから、スキルを取得できたのはただの運だったんだと、良く分かる。
「こいつは……どうりで誰も取得できねえわけだ」
「ほんとよね。1対1で捕らえた状態を10分以上継続というなら難しくないけど、そこに互いのHPが1割以下でという条件が入ると途端に難しくなるわ」
「自分のHPが1割を切っていたらぁ、回復するか倒すかを優先しますからねぇ」
3人はそれぞれどこかに連絡を取った様子を見せたあと、代表してルレットさんが私に取引を申請してきた。
許可すると、本当に100万Gを得てしまった。
本当に、今日はもうお腹いっぱいだよ。
もう帰っていいかな?
「さて、それじゃスキルの精算も済んだことだし、イベントについての相談に移るか」
まだまだ解放してはくれないようです、そうですか。
いつもお読み頂いている方、どうもありがとうございます。
新規にお読み頂いた方も、楽しんで頂けたら幸いです。
なんとか早めにあがれたので、アップすることができました。
のんびり楽しんで頂けたら、嬉しいです。
またここ最近ブックマーク・評価を多く頂き、本当に感謝です。
とても励みになっています。
これからもよろしくお願い致します。