180_真里姉と蘇る団長
“大魔の樹海”には、事態を鑑みヴェルの背に乗り飛んで行くことになった。
向かうのは教団の方達の場所を知るバルトさん、回復役のカンナさん、そして武器や防具の修理にマレウスさん。
ルレットさんは王様へ情報を伝えるため、残ってもらうことに。
その結果、人数は小高い丘から王都へ戻る際と変わらず。
つまり誰が鞍もどきに乗るかという問題も、同じように発生した。
前回で懲りたのか、マレウスさんはじっくりと様子を窺っている。
バルトさんはヴェルを見上げ、放心中。
カンナさんはそんな二人を見比べ、決断。
「バルトちゃん、あなたに決めたわっ!」
「えっ?」
何のことか分からず、バルトさんのステータスが放心から混乱に変化。
「ちょっ、待て!」
それを聞き、焦るマレウスさん。
ヴェルに咥えられての飛行は、よほど怖かったらしい。
ただお姫様抱っこを強要され青ざめたバルトさんを見て、マレウスさんは葛藤し顔を歪ませていた。
何が正解なんだろうね、この場合。
ザグレウスさんに尋ねたら、持てる力で最適解を導き出してくれるはず、きっと……たぶん…………。
道中、大きくなったヴェルにバルトさんは凄く驚いていた。
無理もないけれど、それに加え乗って一緒に飛べると知り、驚きを通り越し目が点に。
ただそこには、バルトさんに抱っこされうっとり顔のカンナさんがいたという事実も、忘れてはならない。
無事? “大魔の樹海”へ到着し、私達は即座に行動を開始……とはいかず。
ヴェルと一緒に遠くへ飛翔したバルトさんの魂が戻るのを、そしてマレウスさんの酔いが治るのを待つ必要があった。
もっともバルトさんの意識は、心配し間近で顔を覗き込んできたカンナさんを目にし、覚醒。
マレウスさんだけが復活できなかったけれど、時間が惜しくカンナさんが担いで進むことになった。
バルトさんが先導し、立ち塞がるモンスターは強くなったギルスが一瞬で蹴散らす。
私とカンナさんはその背を追い、マレウスさんが更に後方へ撒き餌を散らした。
その際、消え去る間際のモンスターがマレウスさんを見て、励ますような視線を送った気がしたけれど、見間違いじゃないんだろうなあ……。
走り続けること、数十分。
もはや出る物もなく、ぐったりとしているマレウスを気の毒に思っていたら、前方にグレアムさん達の姿が見えた。
「グレアムさん!」
「えっ、マリアさんっ!? なぜここに」
驚きながら、グレアムさんが教団の人達に短く告げる。
「円陣」
瞬間、散らばっていた教団の人達が規則的な動きを見せ、あっという間に円形に並んだ。
その動作に、これまでに感じた過剰さは微塵もない。
全員が無駄なく、的確に動いている。
私とカンナさんは陣の中央でグレアムさんと向き合い、バルトさんから事情を聞き支援に訪れたことを伝えた。
「まずは怪我の手当と、MP及び空腹を満たしてください。王都を出立する前に、できるだけ用意してきたので」
「ありがとうございます。また心配をおかけし、申し訳ありません」
「いっ、いえ……気にしないでください」
そう言いつつ、私は心の中で気になっていた。
グレアムさんの反応が、とても普通であることに。
一体何があったのだろう……。
記憶にあるグレアムさんとは、言動が酷く乖離している。
すると私の困惑を察したかのように、グレアムさんが自身の変化を説明してくれた。
「レギオスで一から鍛え直す中で、私はいかに心の弱い者であったかを痛感しました。今ならジェイドの指摘も、素直に受け入れられる。私は人として、あまりに未熟だった」
「グレアムさん……」
「そして向き合った先で、私は求める力を得ました。マリアさんの前で、もう二度と無様な真似を晒さぬように」
片膝を突き頭を下げるグレアムさんに、周りの団員さんも倣う。
グレアムさんが頑張ったことを、私は疑っていない。
だから無様だなんて、思うはずもない。
けれど、今この状況に辱めを受けていると感じる私がいますよ?
事実カンナさんは少し距離を置き、こちらを生暖かく見守っていた。
感情の行方が定まらず棒立ちになる私の足元で、慰めるように頭を擦り付けてくるヴェル。
その仕草がネロを彷彿とさせ、私は心の中でそっと涙した。