179_真里姉と思わぬ報せ
隠し扉から王様が城へ戻るのを見送った後、私達は自分の成長を確かめるべく、試しにモンスターと戦うことになった。
ただどこへ行くかは未定で、近場にする方向で決まりかけた……その時。
「マリアさん、マリアさんっ!!」
激しいノックと共に、名前を呼ばれた。
只事ではなさそうな声は男性のもので、私の聞き間違いでなければ……。
念のため三人に確認を取ってから扉を開くと、そこには予想通り、教団所属のバルトさんが居た。
「慌てた様子で一体どうし……っ!?」
尋ねるつもりが、バルトさんを見て言葉を失った。
装備の至る所に傷があり、バルトさん自身もあちこち怪我を負っている。
「先ずは話の前に回復ね!」
マレウスさんがバルトさんを椅子に座らせ、カンナさんが回復魔法をかける。
ルレットさんはMPポーションを飲ませ、私も照り焼きサンドを手渡した。
怪我は魔法で直ぐに治ったけれど、食べるのには時間が必要で、私達はしばし待つことに。
余程気が急いているのか、咀嚼した照り焼きサンドを、清涼感のあるMPポーションで流し込んでいる。
正直、味の組み合わせは悪いと思う。
ただそれにも増して、時間が惜しいらしい。
その様子に、私達まで落ち着かなくなる。
「すまない、突然押し掛けた上に助けてもらって」
食べ終えるなり、バルトさんは謝罪の言葉を口にした。
「それはいいんですけれど、何があったんです?」
バルトさんがこんな状態になるなんて、余程のことだと思う。
レギオスとの戦いでも素早い動きで相手を翻弄し、攻撃の殆どを避けていたしね。
バルトさんの発言を固唾を飲んで待っていると、思いもよらぬ言葉が飛び出した。
「“大魔の樹海”の奥地から、大型モンスターの姿が消えたんだ」
“大型モンスター”という単語に身構え、続く“姿が消えた”に困惑。
いや、何か異常が起きているんだとは思うよ?
ただ怪我を負った状態から、てっきり沢山の大型モンスターが現れたんだと思った。
けれど実際は逆で、姿が見えないという。
だとしたら、その怪我はどこで負ったのだろうか。
疑問に思ったのは私だけではないらしく、ルレットさん達も首を捻っている。
その点を尋ねると、またも予想だにしない答えが返された。
「これはレギオスから雪中行軍している時に負ったもので、今回のこととは無関係だ」
どうしよう、ツッコみどころが多過ぎてどこから指摘していいのか分からない。
「レギオスからの雪中行軍って、あなた何でそんなことをしたのよ」
戸惑う私をよそに、ズバッと切り込むカンナさん。
こうい時は実に頼もしい……暴走する場合もあるけれど。
「団長の提案で、教団はカルディアに戻った後レギオスで鍛え直すことになった。国王が根回ししてくれたおかげで、俺達はすんなり受け入れられたものの訓練は地獄のようで……」
遠〜〜〜〜くを見詰めるバルトさんにその過酷さが窺え、皆無言。
「…………そして最後の訓練が、雪中行軍。具体的には雪山を踏破し樹海に抜け、王都へ帰還すること。雪山には樹海に劣らぬ凶悪なモンスターが出没し、俺達は何度も死に掛けたが、なんとか全員辿り着いた。ただ吹雪を避けたせいで、予定よりも樹海の奥へ出てしまったんだ。さすがに全員ボロボロで、ここまでかと思った矢先」
「大型モンスターの姿が見えないことに気付いたのね?」
「ああ。慎重に周囲を探ったが、影も形もない。それで俺だけ王都へ報告に戻り、残りの団員は引き続き調査することになったんだ」
「状況は大体理解したわ。まずは急いで支援に向かった方が良さそうね。バルトちゃんでこの様子なら、他も似たようなものでしょうし」
「正直助かる。アイテム含め、余力は殆どなかったから」
「では手分けしましょうかぁ。ポーション類は私達で集めますのでぇ、料理はマリアさんにお願いしてもぉ?」
「ええ、任せてください」
私は胸をぽんと叩いて、請け負った。
食堂で出す明日分の料理を減らせば、直ぐに対応できる。
減った分は、戻ってから作ればいいしね。
慌ただしい展開の元、こうして私達は“大魔の樹海”を目指すことになった。