表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
179/210

178_真里姉と新装備のお披露目


 感情の波が落ち着いた頃、カンナさんが一つ手を鳴らし明るく声を上げた。


「マリアちゃんが気に入ってくれた新しい装備、よければ着替えた姿も見せてくれないかしら」


「私も見たいですねぇ。マリアさん、いかがですかぁ?」


 とても素敵な装備を作ってもらったのだから、お披露目するのに(いな)やはない。


 早速着替えようとしたら、カンナさんに止められた。


「待ってちょうだい、着替えは一度部屋を出てからよ。せっかくだし、魅せ方にもこだわりましょう」


「それならギルスとヴェルも()んでやれ。家族だろ」


 マレウスさんの指摘はもっともだね。


 私は二人を喚び、ルレットさんから手渡された装備を持ち一人部屋を出た。


 着替え自体は一瞬で済むけれど、()()()()()装備への愛着が容易にそれをさせない。


 逡巡(しゅんじゅん)の後、意を決し新たな装備に替える。


「これまでお疲れ様……」


 役目を終えた装備を抱きしめ、そっと仕舞い込む。


 そしてこれ以上皆を待たせないよう、確認もそこそこに部屋へと戻る。


「あらっ!」


 扉を開けた瞬間、カンナさんが感嘆の声を上げた。


「良く似合っているわ。もう立派なレディーね!!」


「より甘さを抑えてみましたがぁ、品の中に(つや)があってぇ、とても素敵ですよぉ」


「ピヨッ!」


「俺達が作ったから当然とはいえ、なんだ……悪くねえな」


「マレウスよ、こんな時くらい素直に褒めたら良かろう」


 苦笑する王様に、そっぽを向くマレウスさん。


 王様相手でも変わらない態度に、思わず苦笑を漏らす。


 その時になり、私はギルスの姿が見えないことに気付いた。


「あの、ギルスはどこへ行ったんでしょう」


 問いかけに、カンナさんが視線を部屋の隅へと向ける。


 そこは王様が作った、この部屋へ通じる隠し扉のある場所だ。


「ギルスちゃん、もう出てきていいわよ」


 カンナさんの言葉で絨毯(じゅうたん)が持ち上がり、下にあった扉が開く。


 そしてギルスが暗がりから現れ、驚いた。


 さっきまでと印象がかなり違う。


 後ろで束ねた長い銀髪は肩の辺りでざっくりと、しかしよく見れば繊細に切られている。

 

 黒いジャケットは色こそ変わらないものの、立襟で打ち合わせ部分が深い逆台形。


 見慣れないデザインだけれど、髪を切り凛々(りり)しさを増したギルスには合っていた。


 ただそう思いつつ、このデザインに引っ掛かる記憶が微かにあるような……。


 感じたままを伝えてみたら、ルレットさんが嬉しそうに教えてくれた。


「さすがですねぇ。これは十九世紀のぉ、イギリス槍騎兵の制服を元にしているんですよぉ」


「教科書の挿絵とかで、見たのかもしれないわね」


 カンナさんの言葉に、教室の机で教科書を広げている自分の姿が脳裏に浮かぶ。

 

 バイトの疲れで居眠りしているところも浮かんだけれど、そっちは無視で。


「どうだ、マリア」


 新しい装備に身を包んだギルスが、両手を広げ訴える。


 見た目に反しどこか子供っぽい仕草が微笑ましく、自然と笑みが溢れた。


「格好良いよ、とても」


 そう口にした瞬間、ギルスが嬉しそうに目を細めた。


「変わったのは見た目だけじゃねえ。体自体も素材を一から厳選し、新たに作り上げている。以前より格段に強くなっているはずだ」


 装備だけでも驚いたのに、まさかギルスの体も生み直していたなんて……。


 感謝の言葉を重ねる私に、ルレットさん達が黙って親指を突き上げる。


 それに対し、なぜかギルスとヴェルも同じ仕草をしていた。


 仲間同士の合図、みたいに思ったのかな?


 ちなみに、ヴェルは翼の代わりに必死に足を持ち上げていた。


 おかげで体がふらふらと揺れ、なんとも危なっかしい。


 微笑ましい様子にくすりと笑い、私も皆に続いた。


 王様が私達を眺め、羨望の混じった声を漏らす。


「お主達の縁、しかと()せてもらった。礼として、余から縁の繋ぎ手たるマリアへこれを贈ろう」


 そう告げて王様がテーブルの上に置いたのは、虹色に輝く糸だった。


「希少な金虹石(こんごうせき)を精錬し作られた、金属の糸。極めて強靭(きょうじん)で、これを編んで作られたコートは、分厚い金属の鎧より防御力で勝る程だ」


 差し出されたそれを、マレウスさんが食い入るように見詰めている。


 その反応だけで、これがどれくらい価値を持つのかなんとなく想像できた。


「そんな貴重な物、いいんですか?」


「お主のために仕立てたのだ。貰ってもらわねば、余の面目丸潰れよ」


 からからと笑う王様だけれど、引くつもりはないらしい。


 既に貰い過ぎている気がするんだよね……。


 逡巡していたら、ギルスがひょいと受け取ってしまった。


「ギルス!?」


「貰っておけ。そして()()王が危機に陥った時は、これで助けてやればいい」


「言ってくれるではないか」


 ギルスの言葉に、顔を引き攣らせる王様。


 うん、そこで煽る必要はないと思うよ?


 またという一言は、暗に“誓約(せいやく)の洞窟”で起きたことを指しているのだろう。


 あの時王様は、メフィストフェレスに為す術もなく捕らえられたからね。


 もっとも、あれは誰であれ逃れられなかったと思うけれど。


 こうして微妙な空気を残し、新たな装備のお披露目は幕を閉じた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 更新有り難う御座います。 ……で、新装備で[また]ヤラカスのですね? 真里「私、そんなにヤラカシて無いもん!」 周囲「……お前の罪(コレまでの行動)を数えよ!」
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ