177_真里姉と紡がれた想い
足を組み、優雅にお茶を飲んでいる王様。
テーブル上の焼き菓子は器の大きさに比べ少ししかなく、今しがた来たのではないこと伝えていた。
「なぜこのタイミングで王様が……」
呟き、はっとした。
ひょっとしてクラスチェンジの時のように、また神託の無駄遣い!?
私の心を読んだかのように、王様が真面目な口調で話し始める。
「察しの通り再び神託が降りた……という訳ではないため、安心してよいぞ」
一転、茶目っ気たっぷりに笑う。
肩透かしをくらった感じだけれど、大事じゃないと分かり胸を撫で下ろす。
ただ王様? 前触れもなく来られるのは、安心できることじゃないですよ??
一度認識を合わせる必要性を感じながら、私は皆に問い掛けた。
「それで、これはどういうことでしょう?」
若干レイティアさんのお・は・な・しモード入りながら尋ねる私に、カンナさんが答える。
「ワタシ達が出てきたことで察しているかもしれないけど、マリアちゃんの新しい装備が出来たわ。ただそのお披露目をするなら、協力者にも同席して欲しかったのよ」
協力者……この状況でそれに該当するのは、一人しかいない。
カンナさんから視線を戻すと、王様がカップを静かにテーブルの上へ戻した。
「風の便りで、お主の装備が一新されると聞いた。しかも作るのはこの三人……並みの素材ではその技術に応えられん。そのため、足りない素材を余が提供したのだ」
「“大魔の樹海”で私達も素材を集めましたがぁ、更に上をいく物が少なくありませんでしたねぇ」
「入手方法の見当すら付かねえのも、混じっていたな」
「さすがワタシの王様ね!」
ルレットさんの驚きをマレウスさんが補足し、カンナさんが強引に纏める。
「お主等を驚かせられたのなら、城の宝物庫から見繕った甲斐があるというもの」
「宝物庫!?」
「マリアよ、お主はカルディアの英雄なのだ。この程度の助力、王として当然」
未だ英雄扱いされることに抵抗を感じる私には、当然とは思えないんですが……。
そんな私の心情を他所に、更なる衝撃の事実が追加される。
「なお交渉で来ていたレギオス外交官に漏らしたところ、即刻女帝へ知らされたようでな。数日と空けずに、余も知識でしか知らぬような素材が送られてきた」
王様は女帝の反応を予想していたらしく、悪い顔をしてくつくつ笑っている。
未知の素材を扱えたからか、ルレットさん達の顔は晴々と。
対する私は、表情を無くし呆然と。
私の装備を新しくするだけなのに、なぜこれ程話が大きくなったのだろう。
まだ見ぬ装備への期待より、大事になったことへ頭痛を覚える。
「全てお主が紡いできた結果よ。それを誇りと思うてくれるなら、余や女帝も報われる」
いつになく真剣な表情で、王様が語る。
ずるいなあ、そんな台詞を口にするなんて。
これじゃ申し訳なく思う方が、失礼になってしまう。
私は一つ息を吐き、微笑みと共に応えた。
「ありがとうございます」
余分な言葉は添えず、感謝だけを。
王様は満足そうに頷くと、ルレットさん達へ目を向けた。
「さて、そろそろ前座は退くとしよう。ここからの主役はお主等だ」
王様に促されカンナさんとマレウスさんが並び、その間からルレットさんが進み出る。
ルレットさんとは、一緒に旅をしたせいか前より距離が近くなったように思う。
だからこうして改まって向き合うと、少し気恥ずかしさを覚える。
でもそれは私だけじゃないらしく、ルレットさんもはにかんだ笑みを浮かべていた。
互いに小さく笑った後、ルレットさんが口を開いた。
「ただひたすらにぃ、想いを籠めて作りましたぁ。気に入って頂けたら嬉しいですぅ」
言い終えると、その手に紺と白を基調とした装備一式が現れた。
今までは白いふわっとしたシャツに、紺のロングスカートと同色のブーツ。
対して目の前にあるのは、袖がすっきりとした紺のオフショルダーのブラウスに、くるぶし丈の白いフレアスカート、そして白から黒のグラデーションが美しいショートブーツ。
全体的により大人っぽいデザインとなり、加えてブラウスには黄色いボタンが、スカートのプリーツは一部緑が入っていた。
色の意味するところは、明白。
私の家族を象徴する色が、そこに溢れていた。
込み上がある感情が堰を切り、雫となって溢れ落ちる。
「ありがとうっ、ございますっっ!!」
こんなにも、私達を想ってくれて。
こんなにも、心を温めてくれて。
霞む視界の中、気付くと私はルレットさんの胸に抱かれていた。
まるで慈しむかのように、抱かれていた……。