175_真里姉といつかの再現
善は急げと言わんばかりに、カンナさんの提案で私達は早速王都へ戻ることになった。
その時少しでも早く着くために検討された手段が、ヴェルに乗っての移動。
確かに空を飛んで行けば早いけれど、ヴェルは四人も乗って大丈夫なのかな?
確認すれば、ヴェルが問題ないとその場で力強く羽撃いた。
なおも心配する私へ、ギルスも太鼓判を押してきたのでそれ以上は口にせず。
私はヴェルの背中に乗ると、空牙の時と同様に鞍もどきを一つ作った。
……ええ、一つです。
レベルやスキルも上がったけれど、ヴェルを大きくしたまま他の糸を操るには、ギルスを戻してなおこれが限界だった。
ただ、本当ならそれでも二本は操れる。
しかしヴェルに乗り慣れない私を固定する必要があり、結果残されたのは一本のみ。
「「「……」」」
向かい合い、無言で圧を掛け合う三人。
どこかで見たような光景だけれど、最初に動いたのは意外にもマレウスさんだった。
「今度こそ、俺は乗る!」
海賊をテーマにし広く愛されたという漫画の主人公のような、力強い宣言。
しかしそこへ、カンナさんが盛大に冷や水を浴びせる。
「堂々と抜け駆けなんて……格好悪い男ね」
容赦のない言葉にたじろぐマレウスさんへ、
「だからモテないんですねぇ」
止めとばかりに、ルレットさんが容赦のない一言を放つ。
頽れるマレウスさんを尻目に、二人だけで検討が進む。
前回のことを踏まえれば、そこまで責められることじゃないと思うのだけれど……。
フォローすべきか悩んでいる間に、結論が出された。
「マリアさん、私がカンナを抱っこして乗るのはいかがですかぁ?」
「えっ、ルレットさんが!?」
逆なのでは……と続けようとした瞬間、すかさずカンナさんから鋭い視線が飛んできた。
「……イエ、ナンデモナイデス」
「なら良かったわ。さあ、そうと決まれば急いで帰りましょう!」
カンナさんに促され、私は糸を使いヴェルの背に移動した後、後ろに鞍もどきを作った。
「では失礼してぇ」
断りを入れ、ルレットさんがカンナさんを抱え軽やかに跳ぶ。
見た目の違和感は全くないのだけれど……うん、これ以上は危険だね。
カンナさんの視線を意識し、マレウスさんをどうするか悩んでいたら。
「ピヨッ」
まるで気遣うように、ヴェルがマレウスさんへ近付いた。
「ヴェル……」
自ら考えての行動に、驚きと共に感動を覚える。
優しい子に育ってくれて、嬉しいよ。
マレウスさんなら仕方がないと諦めつつあった私は、反省しないとね。
密かに涙を拭う、その刹那。
ヴェルは嘴をマレウスさんに伸ばし……開いてぱくりと咥えた。
「「ヴェル!?」」
図らずも、私はマレウスさんと同時に声を上げた。
解放させようとしたけれど、ヴェルは嘴を開かず。
ヴェルの意図を確認すると、『乗る場所がなければ咥えたらいいじゃないですか?』というものだった。
おかしい、優しい子だと思った途端なぜこんなことに……。
一人頭を抱えていると、背後から肩を叩かれた。
そこには問題ないと言わんばかりに、親指を上げるルレットさんとカンナさんの姿が。
結局、私は一刻も早く帰ることがマレウスさんのためだと信じ、ヴェルに飛び立ってもらうことにした。
目の前から聞こえる、マレウスさんの悲鳴に耳を塞ぎつつ……。