174_真里姉と今更の提案
ヴェルと一緒に空を堪能し地上へ戻ると、興奮を隠し切れぬ様子のマレウスさん達に迎えられた。
「見た目から飛べるだろうとは思ったが、想像以上だな!」
「ほんとよね。しかもすっごく優雅に飛ぶんだもの!」
「雲より高く飛んでいましたしねぇ!」
三人の言葉に、ヴェルが誇るように胸を張った。
その側で、ギルスがヴェルに向けすっと右手を持ち上げる。
「自分は役立たずだと嘆くことは、もうないな?」
口端を上げるギルスに、ヴェルが『ピヨッ!』と鳴いて嘴の先端をその手に合わせた。
以前聞いた、二人だけの秘密の会話。
ギルスはちゃんと、覚えていたんだね。
兄としてヴェルを見守り、信じながら。
そんな二人が家族で、私は誇らしいよ。
「ところでぇ、上空の寒さは平気でしたかぁ?」
盛り上がりが一段落し、ルレットさんが思い出したように尋ねてきた。
「寒さは感じなかったですね。付け加えると、風に煽られることもありませんでした」
「現実なら強風に晒されそうなもんだが……その姿になったヴェルの影響か?」
「空牙ちゃんが宿る風の魔石と、守るという強い意志を継いでいるんだもの、不思議じゃないわ」
「あとはぁ、マリアさんの元々の装備特性も効いているかもしれませんねぇ」
三人が考察を始め、途中から白熱した議論となる。
この辺はさすが生産トップの三人だなあと苦笑していたら、不意に議論が停止した。
そしてぐるんっという擬音が聞こえそうな勢いで、首を回し皆が私の方を向く。
妙に揃った動きにたじろいでいると、三人は瞬間移動したのかと見紛うばかりの速さで距離を詰めてきた。
まじまじと私の全身を見詰める目は瞬きすらせず、正直かなり怖い。
一頻り眺め終わった後、ボソっとマレウスさんが溢す。
「ありえねえ……」
「ギルスちゃんやヴェルちゃんに夢中になっていたとはいえ、これはないわ」
「猛省しないといけませんねぇ。日頃あんなに助けられていたのですからぁ」
三人の会話が、私の中で上手く繋がらない。
私を見ながらの言葉だけれど、実際はルレットさん達自身に向けられている感じだった。
「あの、何か問題でも?」
恐る恐る尋ねてみると、一斉に溜息を吐かれた。
「問題意識の無さが問題……と言いたいところだが、マリアだもんな」
「家族が強すぎる弊害ともいえるけど、マリアちゃんらしいわ」
「それも含めてマリアさんじゃないですかぁ」
言葉を交わし、三人が納得したように頷き合う。
私を一人、置いてきぼりにして。
問題とか弊害とか、語られる単語は不穏なものばかり。
ささくれ立つ心を抑えられず、私は尋ねた。
「何が言いたいんですか?」
問いに、マウレスさんが短く答える。
「装備だ」
「装備?」
予想だにしなかった答えに、そのまま問いを返す。
「特に防具の方。お前イベントの時から全く変わってねえだろ」
「それは……ルレットさんに作ってもらった今の防具がお気に入りで、替えたいと思いませんでしたから」
間ができたのは、言葉に偽りがあったせいではなく。
単に、全てを伝えるにはちょっと恥ずかしかったから。
自分へお金を掛ける意識が低いというか、貧乏性というか……。
実際王都に来てしばらくは、戦うこともなかったし。
ただ先日の過酷なレベル上げにおいて、さすがにまずいかな? と思ったりしたけれど。
「いや、そこはもっと危機意識を持て」
「心を読まれた!?」
「普通に心の声がだだ漏れよ、マリアちゃん」
「無茶させ過ぎたようでぇ、申し訳なかったですぅ」
「そんな、ルレットさんが謝るようなことじゃ……」
落ち込むルレットさんをフォローする間に、マレウスさんとカンナさんが話を進め、これを機に私の装備は一新されることになった。
レベル上げに始まり、ずっと流されっぱなしな気もするけれど、今更か……。
遠い目をする私にそっと寄り添う、ギルスとヴェル。
二人の優しさが、沁みた…………。